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【第53話】桃色の果実

~フォルティス魔法学院合宿所 ラウンジにて~


「―――ということで三刀屋、レット、カトレア、シズル、優勝おめでとう。 よくやった」


長い長いサバイバルゲームを終えた生徒たちは、表彰式のためラウンジに集められていた。



全5クラスの生徒が集合する中、セシルから優勝パーティーの発表がされると、ラウンジ内は一斉にザワつき始める。


『マジかよ、シルヴィア様のところが優勝じゃねえのかー』

『まぐれでも起きたんじゃない? さすがに無いでしょー』

『でも1-Aの三刀屋なら確かにやりそうな気はするよな、あいつ悪魔だし...』



やはり、シルヴィアのパーティーが優勝するだろうという、大方の予想を裏切る結果となったからだろう。


生徒達は皆、物珍しそうな目で光たちを見ていた。



(.....帰りたい)


そして、目立つのが嫌いな光は一刻も早くこの場から去りたいと、いつになく苦い顔をしていた。



そんなことには目もくれず、今度はセシルが満面の笑みを浮かべながら優勝賞品を手渡しで配り始める。


「喜べ、優勝賞品は学院特製のTシャツだ。 大事に着るんだぞ」


「ま、マジすか...」


「先生、頑張ったのにそりゃないよ...」


「ふえぇ...これはさすがに...」


受け取ったメンバーは、揃えて困惑と不満が入り交じった表情を浮かべ、セシルの顔を覗く。



「なんだ? 不満か? お前は嬉しいだろ三刀屋?」


セシルにそう言われ、光は何で俺に振るんだよと言わんばかりの嫌そうな顔をしながら、


「いや全く嬉しくな―――」


「.....嬉しいよな?」


担任教師から謎の圧を掛けられている。


ここで喜んでくれないと、何か彼女に不都合でもあるのだろうか。



「はい! ということで優勝は1-AのパーティーDだ! 皆、温かい拍手を送ってやってくれ!!」


光の答えを待たずに、セシルは全員の前でそう声を上げる。


(いや、俺まだ何も言ってないんだけど.....)


賞品の内容はともかく、全生徒・教師・スタッフからの拍手喝采が飛び交い、恥ずかしそうにしつつも素直に喜ぶレットたちの姿がそこにはあった。



この後は、10時から16時にかけてノンストップの講義が始まるらしい。


合宿所にしかない専用施設を使う為、多少無理してでも短期集中型の体制を取る必要があるだとか何だとか。


つい先程まで森でサバイバルをやっていた生徒たちには厳しいメニューにも思えるが、遊びに来ているわけではないので仕方ないだろう。


生徒達は文句をダラダラと垂れ流しつつも、重い腰を上げてそれぞれの講義室へ足を運んでいくのであった。




~6時間後~


『よっしゃ終わったああ!!!』

『私もう勉強したくない!! つらい!!』

『だが...ようやく"あの時間"がやってきたぜ.....』


「では予定通り、今から2時間は自由時間とする。 自習、仮眠、その他、海に遊びに行っても構わんが、夕食の時間までには戻って来いよ」


サバイバルの直後にやるとは思えない過酷な授業の先に生徒たちを待っていたのは、念願の休み時間。


思えば昨日の9時から今まで、頭も身体も使いっぱなしであった。


夜も森の中で過ごしたわけで、疲れもイマイチ取れていなかっただろう。


そんな多忙な日々を過ごしていた彼らには、是非ともこの時間を有意義に使って頂きたいところだ。



クラスの生徒達が嬉々としてこれからの予定を話し合う中、教室の隅っこで一人真剣な顔で腕を組み、思考する男がいた。


(軍のメンバーを集めるにはもってこいのタイミングだな.....まずはあいつから攻めてみるか)


その正体は無論、我らが主人公の三刀屋 光である。



この期に及んでも尚、彼の真面目さ(コミュ障)は全くブレない。


遊ぶことなどこれっぽっちも頭になく、考えているのは例の"末元対策軍"のことのみだった。


今くらいは羽目を外してもバチは当たらないと思うのだが。



(.....よし、早速1-Bの教室に行くとするか)


軽く背伸びをした後、教室から出ようとする光。


しかしそれを引き留めるかのように、騒がしい声の集団が彼の耳に波状攻撃を仕掛けてきた。


「おい三刀屋、ビーチバレーしにいこうぜ! 水着持ってきてるだろ?」


「.....レットか。 すまない、俺は大事な用事があ――」


「光くん、久しぶりに海いこうよ! そういえば私、昔よりも泳ぐの上手になったんだよ!」


「.....木乃葉か。 悪いな、俺は大事な――」


「光さん、少しお話しませんか? あ、せっかくなので海辺で潮風にでも当たりながら、どうです?」


「.....シルヴィアか。 ごめん、俺は――」


「三刀屋 光、あんな不意打ちで勝ったと思うなよ。 あと、シルヴィア様と二人きりで行動するのは断じて許さん」



自分がクラスメイト達から一斉に遊びに誘われるなんて話、昔の光が聞いても絶対に信じないだろう。


あまりにも温かく優しい、彼らの想い。


それに全力で応えようとした光が取った行動.....それは。


「.....ブラック・エヴァ―セント」


『き、きえたぁ!!??』



まさかの逃走。


約1名変な人が混じっていたが、それ以外は明らかに善意で誘っていたはずだ。


用事があるとはいえ、さすがというか、相変わらずコミュ力に関しては最低値の男である。


突然の出来事に、残されたシルヴィア達はただ唖然とするしかなかった。




~フォルティス魔法学院合宿所 B教室入口にて~


(さていくか....)


シルヴィアたちの誘いを断ってまで一目散に向かった先は、おてんば雷巫女娘のナギサのところだ。


その理由は他でもない、自らが率いる軍にスカウトするためである。



しかし、1-Bの教室の前に来た光は、ここである問題に気が付く。


(.....待てよ、他のクラスの教室に一人で入るのって中々厳しくないか?)


ナギサを見つけたのはいいが、光には少々難易度が高いミッションが発生。


おまけに彼女は、別の生徒たちと楽しく会話中だ。


おおかた、これからの予定を話し合っているのだろう。



ナギサは少し頭がおかしいところはあるものの、クラスの人気者であることに疑いの余地はない。


小動物的な愛くるしいルックスと明るい性格に加え、魔法まで優秀なのだから当然といえば当然である。


今の光は、入口の影からナギサを睨みつける不審者でしかなかった。



(....行くしかねえ)


とはいえ、さすがにこのまま覗き見しているわけにもいかず、深呼吸をしてから何とか教室へと足を運ぶ。


そして、女子数人で会話している中へ半ば強引に割り込んでいった。


「ナ、ナギサ.....ちょっと話いいか?」


「....え、三刀屋氏!? な、なに?」


自分のクラスの教室に光が来るなんて思ってもいなかったナギサは、驚いた様子でそう言う。



また、光としてもそんなリアクションをされるとは思ってなかったので、焦りが更に加速する。


ただでさえアウェイに乗り込んで緊張している所だというのに。


「い、いやなにっていうか、その...色々.....」


上手く用件を伝えられず、目を逸らして吃る光。



一方、ナギサもどこか様子がおかしく、光の顔をチラチラ横目で見たりと、挙動不審になっていた。



『.........』



しばらくお互いが向き合う形で黙り込んだ後、光は意を決した様にナギサの目を見る。



相変わらず歯切れは悪いものの、いよいよ本題に入ろうとして口を小さく開けた、その時だった。


「あのさ――――」


「ご、ごめん!! 僕これからみんなと海いくから、またあとで! じゃ、じゃあ皆いこ!!!!」


「え”」


ナギサはそう言った後、慌ただしく友人らの手を引くと、光の返答を待つことなく教室から出ていってしまったのだ。



決死の覚悟で声を掛けに行った結果は、まさかの撃沈。


詳しい理由は分からないが、「ナギサに正面から誘いを断られた」という事実だけが今、この場にはある。


思えば、彼女と最後に会話をしたのは森の中で起きた決闘の時だ。


最後の別れ方は確かに微妙な空気だった気はするものの、嫌われるような要素はなかったはず。


ショックでその場から動けず、数秒固まってしまう光。



次第に1-Bの生徒達は、自分達の教室に突然現れた男へ不審な目を向け始める。


『あの人どうしたんだろう? ナギサちゃんに振られたのかな?』

『ナギサちゃんを狙うとかマジウケるんだけど。 身の程をわきまえてほしいよね』

『てか悪魔の人じゃん。 こわ。 近寄らんとこ』


(クッ....仕方ない、ナギサは後回しだ)


コソコソと陰口を叩かれ、ようやく自分が置かれている立場を理解した光は、身を縮ませながら教室をあとにするのであった。




「あーーー......これは詰んだ」


ラウンジへ戻ってきた光は、ガックリと肩を落としていた。


というのも悲しいことに、誘おうとしていたメンバーが誰一人として合宿所に残っていなかったのだ。


おそらく全員海へ行っているのだろう。



一度断ってしまった以上ぬけぬけと顔を出しに行くのは気が引けるし、そもそも楽しく遊んでいる所に横やりを入れたくはない。


つまり光はあと二時間、一人で過ごすしかなくなったわけだ。



(別に一人なのはいつものことだからいいけど、時間が勿体ねえな.....)


またしても大きなため息をつき、ラウンジのソファーに仰向けで寝転がる。



そのまま豪華なシャンデリア風の電球をぼーっと眺めていると、突然視界にとんでもない美少女が入ってきた。


「こんなところにいたんですね、光さん」


「.....んあ?」


孤独で寂しい時間を過ごしていた男に、救いの手を差し伸べるかのように現れたのは天使....ではなく、シルヴィアだ。


仰向けで寝ている光の顔を上からのぞき込むような形で、そう声を掛けてくる。



(人間って普通は下から覗くとブサイクになって見えるものなんじゃねえの? 何なのこの人、もしかして人間じゃないのか?)


今思ったことはそっと心の中にしまい、光は仰向けのまま、ここに来た意図を彼女に尋ねた。


「シルヴィア、海に行ったんじゃなかったのか?」


「例のごとく魔力感知の力を使って居場所を探らせて頂きました」


シルヴィアはいつもの笑顔で、何故か少し嬉しそうにそんなことを言う。


嬉しそうというより、光に何かを期待している様な感じの顔だ。



彼女の考えていることがイマイチ分からない光は話を続けようとするが、その答えはすぐに明らかになった。


「そう言えばそんな能力あったな.....結局その能力って.....って水着?!!!」


呆けていたせいか、全く気付かなかった。


いまシルヴィアが身に纏っているのは学院の制服ではない。


まさかの水着だった。



予想外の光景に目を限界まで見開き、飛び上がるようにソファーから立つ光。


そして、今度は逆さではなく正しい角度から彼女の姿を一通り拝見させて頂いた。



(いやいやいや、シルヴィア、それはやりすぎだって.....いや海に行く場合はこれが普通なのか? 陰キャには分かんねえ....)



シルヴィアは水着の上に丈が長めのパーカーを羽織ってはいるが、肝心のファスナーが全開状態という何とも大胆な恰好していた。


ほどよく成長したバストと薄いピンク色の水着の組合せは、まるで完熟した桃の様にみずみずしく輝いており、目を奪われずにはいられない。


全体的に透き通るような色白肌に、傷一つ無い美脚と高めの身長は、水着との相性抜群。


そして何より、その完璧なまでに整った顔。


あまりの美しさに、スマホのカメラで撮影したら、スマホ本体が爆発してしまいそうだ。



動揺する光を余所にして、シルヴィアは目の前でくるりと一回転すると、ほんの少しドヤ顔で感想を求めてくる。


「じゃーん、仰る通り水着を着てみました! どうですか? 似合ってますかね?」


「へっ?! あ....うん、似合ってると思う、凄く.....」


年頃の男子高校生には少々刺激が強く、直視どころか顔さえまともに見れない。


スタイルはイメージしていた通り完璧で、もはや文句の付け所が無かった。



多分彼女自身も、自分が"可愛い"という自覚はそれなりにあるのだろう。


でなければ、こんなに堂々と他人に水着姿を見せびらかすことなんて出来ないはずだ。


変に謙遜しすぎると、むしろ嫌味に捉えられることもあるので、そのくらいが丁度いい。



光に褒められたシルヴィアは上機嫌になると、


「ふふっ、なら良かったです。 それよりこんなところで寝てないで、海で一緒に遊びませんか?」


と再び誘ってくる。



正直、今は遊ぶどころか目を合わせることすら出来ない状態だ。


本音を言えばもう少し彼女の水着を拝んでいたい所だが、光はやむなく断ることに。


「.....いや俺は遠慮しとく。 そういうのは苦手―――」


「いいから! ほら行きますよ!!!」


シルヴィアは光の言い訳を一切聞いてくれなかった。


それどころか、突然腕を掴んできて強引に連れていこうとする。



(ちょっ!! 近い近い近い!!! 近いって殿下!!)


この際海に行くこと自体は観念しても良いが、王女殿下との距離があまりにも近い。



その距離およそ25cm。


決して密着というわけではないものの、彼女の恰好も相まって色々とヤバい。


何故かフローラルな良い匂いまでしてきて、頭がぼんやりとしてくる。



ラウンジに居た生徒たちも、王女が満面の笑みで一般の男子を連れ回している姿を見てヒソヒソと話し始めた。



(なんだこれ.....ラブコメの世界にでも転生したのか俺は.....?)


もうどうにでもなってくれと、頭を空っぽにして大人しくシルヴィアに連行される光。



そんな彼を待つのは、美女の水着で彩られたビーチという名の天国なのか、あるいは―――

ブクマ100件ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。


もしまだ登録されていないという方がいらっしゃいましたら、ぜひ....

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