【第51話】天才と王女の洗礼がヤバすぎた件
~ 特別合宿二日目 AM8:30 ~
長い夜が明け、生徒たちは一つ目の授業「対人訓練」のラストスパートに突入していた。
授業が始まる前に暫定順位が発表されており、光たちのバッジ獲得数は11枚で、単独首位。
また、二位はシルヴィアのパーティーで獲得数は9枚と、こちらが上回っている。
とはいえこのゲームのルール上、一度でも敗北すれば持ち分は全て奪われてしまうので最後まで油断は禁物。
初日同様、光たちは気を引き締めてゲームに臨んでいた。
~森林ステージ エリア8 にて~
「よっしゃバッジ二枚ゲットだぜ! これで俺たちの優勝はほぼ決まりだな!!」
「はぁ、あんたルール分かってないわけ? 何枚持ってようが一回負けたら即最下位なのよ?」
「あはは.....シズルちゃん手厳しいね。 でも、本当にあとちょっとで終わりだよ。」
二日目も光考案の囮作戦は問題なく通用している。
こうしてまた、初見のパーティーを一撃で仕留め、更にバッジの枚数を増やしていた。
一度敗北したパーティーがリベンジに来ることも勿論あったが、その際は別の作戦を行使し難なく処理。
このまま自分たちが堂々の優勝を頂くと、メンバーの誰もがそう思っていた。
――――そう、リーダーである光を除いて。
すっかり勝ちムードになっていて浮かれ気味の三人を余所に、光は早々に潜伏ポイントへと引き返す。
それを見たレットが不思議そうな顔をしながら、
「お、おい三刀屋! もうほとんど俺達の勝ちみたいなもんだし、そんなに急がなくても良くないか?」
声を掛けると光は足を止め、振り返る。
「まだ油断はするな、気を抜けばあっという間に足元をすくわれるぞ。 皆もすぐに持ち場に戻ってくれ。」
そうとだけ言って、光は再び歩き始めた。
残された三人はポカーンとしながら顔を見合わせ、しぶしぶといった様子で光の後を追う。
(残り時間は約30分.....確かにここままいけば俺達の優勝は濃厚だろう。 だが―――)
石垣に戻った光はあることを考えていた。
言わずもがな、シルヴィアのパーティーには"あの男"がいる。
イケメンで天才で人気者で.....胡散臭くてプライドが高くて負けず嫌いで異常なほどに鼻につく、昨晩部下になったあの男。
彼はおそらく、以前光に一対一の決闘で惨敗した挙句、命まで救って貰ったのを深く根に持っているはずだ。
日々の学院生活においても、ここぞとばかりに報復の機会を伺っていたことだろう。
その点、この対人訓練は屈辱を晴らす場として悪くないステージのはずだが、最終盤の今まで彼が光の前に現れることはなかった。
それは一体なぜか。
魔法に制限が掛けられている以上、ただ普通に勝利した所で何の面白みも無いからだ。
どんなに巧みな勝ち方をしても、「本気を出していないから」という言い訳が使える以上、結局大した復讐にはならない。
なら、勝敗とは別の部分を突いてやればいい。
例えば......
「序盤はあえて仕掛けず存分に泳がせておき、最後の最後にどん底に叩き落すことで、より強い敗北感を覚えさせる.....どうせそんなところだろ」
潜伏中の光が小声でそう呟いた、その時。
『焼却せよ.....フレイム・ランズ!!!』
突如森の中に響き渡る魔法の詠唱。
そして、身がすくむほどの速さと勢いで地面一帯に広がり始めた焦熱。
一歩足を止めれば靴は溶け、足の裏は火傷では済まされない。
フレイム・ランズ自体は下位魔法であり、威力は高くないはずだ。
しかし、いま目の前で起きている地獄の様な光景を見たら、とてもそうは思えなかった。
こんな馬鹿けた威力の下位魔法、それも火属性と来れば、誰の仕業か嫌でも分かってしまう。
光は目を細め、この山火事の出処となった箇所を見る。
するとそこには、憎たらしいほどのドヤ顔でこちらに視線を向けている男の姿があった。
「.....さて、ようやくお出ましか、レイリス。」
「申し訳ないけど、君たちのバッジはシルヴィア様に献上して貰うよ。」
現れた敵は他の誰でもない、レイリス、シルヴィア率いる最強パーティーであった。
「ちょっ...み、三刀屋、やべえって! 俺どうしたら...アチィィ!! 死ぬ死ぬ!!」
第一に標的にされた囮役のレットは、絶賛灼熱地獄中。
ひたすら走り回り、光の指示を待つことしか彼にはできない。
だが、光とて手は打ってある。
こんな状況下でも、作戦は今まで通りに進行中であり、既にシズルと共に遠距離射撃を放ったところであった。
(悪いなシルヴィア.....あとでいくらでも怒ってくれて構わない)
ターゲットはもちろん、鉄壁の守りを誇るシルヴィアただ一人。
彼女さえ落としてしまえば、あとは地力で上回るこちらが有利。
ダーク・スパイダー4匹と石塊が背後から襲い掛かる。
被弾までおよそ10メートル。
このまま何も起きなければシルヴィアを行動不能まで持って行けるだろう。
しかし、彼女は守りのスペシャリスト。
この程度の小癪な戦法が通用するわけもなかった。
シルヴィアはニッと軽く笑みをこぼすと、その美しい声色でハーモニー奏でるかの様に魔法を唱えた。
「ふふっ、バレバレですよ光さん......ルクス・リフレクション!!!」
シルヴィアの周囲に突如現れた、数百本にまで及ぶ神々しい光の小剣。
授業中に一度だけ披露したこともある、物理攻撃の衝撃を吸収し反射する中位魔法だ。
深緑の樹林をバックに、美少女とそれを取り囲む無数の聖剣...その姿は天使と錯覚してもおかしくないほどに美しい。
そして無論、ただの宴会用の魔法なんてことはない。
小剣の群れはまるで、一つ一つが意志を持っているかのように自動で高速回転を始めると、光たちの放った攻撃を瞬く間に粉砕。
立て続けに、今度は半分ほどの小剣が罪人を裁くかのような勢いで猛射される。
そのターゲットは勿論、愚かな罪を犯したパーティーの一員である彼だった。
「.....へ? ぎゃあああああ!!!!」
手始めに裁かれたのは、最も近くに居たレット。
逃げ回る彼の背中に数十本もの小剣が突き刺さる。
「シ、シルヴィア様.....さすがっす.....」
親指を立て、何故か敵の魔法を褒め称えながら地面に倒れ込むレット。
彼は一応防御強化魔法をかけていたはずなのだが、シルヴィアの放った小剣はそれをものともせず、まさかの一撃KO。
これを見ると、攻撃魔法は下位のものしか使えないのに反射は中位を使ってもいいというルールは、考え直した方がいい気もする。
ハッキリ言って、ただのバランスブレイカーだ。
もっとも、中位魔法を実戦で使える学生なんてほとんどいないので、来年の新入生の時はこんな状況は発生しないだろうが、にしても酷い火力差である。
「狙撃失敗しただけじゃなくて、レットもやられたの?! これちょっとやばくない?!」
「あわわわみみみ三刀屋くんどどどうしよう!!!」
遠くでその様子を見ていたシズルとカトレアは、あまりの衝撃に落ち着きを失っていた。
それもそのはず、今回の相手はいままでとは"格"が違うのだ。
レイリスは勿論のこと、シルヴィアは正真正銘防御のスペシャリスト。
彼女の鉄壁を真正面から崩すことが出来る人間はそう多くはない。
ハープの森やFODの襲撃事件の際に魔物よって突破された件については、正直ノーカンだ。
というのも、シルヴィアが今まで戦ってきた相手はSS級以上のモンスターで、しかもそのどれもが不意打ち気味であった。
万全の体制かつ、いつ攻撃が飛んで来るかある程度分かっている状況ともなれば、自慢の防御力を遺憾なく発揮できる。
そして、シルヴィアの逆襲はこれだけでは終わらない。
ルクス・リフレクションは受けた衝撃をそのまま反射する効果がある。
つまり、計5回の攻撃を吸収した今、あと4回もの裁きが残っているわけだ。
レットが為す術もなくやられた今、次にターゲットとなるのは.....
「きゃあああ!!? やばいこっちになんか飛んできてるって!!!」
「あ、あんなの私の防御魔法じゃ防げないよ!」
大量の小剣がシズルとカトレアを目掛けて飛んでくる姿が、本人達にも見えていた。
そのスピードは目を見張るものがあり、並大抵の人間ではガードすら間に合わないだろう。
一度まばたきを終える頃には、既に小剣は潜伏先の入口に到達する寸前まで来ていた。
『........!!!!』
女性陣二人は目をぐっと瞑り、自らの死を覚悟する。
しかしその刹那、彼女たちの前に一人の男.....いや、二人の男の影が現れた。
一人はおそらく光だろうが、もう一人が分からない。
レットは既に倒れてしまっており、このパーティーにはもう光しかいない。
別のパーティーの誰かが助っ人に来てくれたのか、あるいは.....
『.....フッ!!!』
男は慣れた手つきで自らの右腕を斜め上に振り払う。
すると、あれほどの威力を秘めた数十本もの小剣を、まるで紙飛行機の様に軽々と叩き落してしまったのだ。
地面に落下した小剣は力を使い果たしたかの様に、スッと姿を消す。
「い、一体誰がこんなこと.....」
シズルとカトレアは潜伏場所の入口まで駆け足で近付き、自分を守ってくれた人物が着地しているであろう、真下を覗く。
そして二人は、そこにいた人物の顔を見るやいなや、口を大きく開け、思わず声を漏らしてしまった。
「え.....マジ?」
「み、三刀屋くんが二人?!」
男の正体は光だった。
それも、二人の。
光とカトレアたちの潜伏位置は多少の距離があり、カオス・ディフェンダーで守るにしても射程外。
攻撃魔法で相殺しても、それで生まれた衝撃を逆に受けてしまう可能性があった。
そこでチョイスしたのが、自らの分身を生成する魔法ダーク・サクリファイスだったのだ。
確かにそれなら確実に守ることが出来るとはいえ、この機転の良さはさすがの一言。
二人の光が同時に後ろを振り向き、同時に安堵した表情を浮かべ、同時に同じ言葉を発する。
『ギリギリだが間に合ったようだな。 二人共、怪我はないか?』
「だ、大丈夫だけど....分身とか、マジでなんでも有りじゃんエレメンタルって」
「や、やっぱり凄い.....」
シズルとカトレアの無事は確認できたが、安心するのはまだ早い。
ゲームはまだ終わっていないのだ。
むしろレットがやられてしまった為、人数的には不利になってしまった。
潜伏位置がバレてしまっている以上、もはや遠距離での狙撃も不可。
カトレアたちと三人で正面から戦いに行っても、レイリスとシルヴィアに瞬殺されるのがオチだろう。
この状況で光が取れる選択肢はもはや1つしかなかった。
『二人は自分の身を守ることだけ考えて行動してくれ。 ここから逃げて貰っても構わない。』
「で、でも三刀屋くんどうすんの?! 相手はレイリス様とシルヴィア様だよ?!」
「私たちにも何か出来ることがあれば.....」
『じゃあアッシュとレオナだっけか、あいつらの相手をしてくれ。 俺は―――』
光はダーク・サクリファイスを解除し、最終決戦の場へと単独で飛び込んでいく。
相手はヘカトンケイルのNo.3と防御のスペシャリストの最強タッグ、普通に考えれば無謀極まりない。
だが、こちらはイレギュラー中のイレギュラー。
そんな彼の辞書に無謀なんて言葉は存在しなかった。
「俺はレイリスとシルヴィア.....二人同時に相手をする」




