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【第50話】初めての部下

「貴様の結成する軍には、この僕も参加させて貰うことにしよう。」


唐突にレイリスの口から飛び出した驚きの発言。



言うまでもなく、レイリスと光の相性は最悪だ。


口を開けばお互いが殺すだの消えろだの何だとの、まともな会話が成立したことは今の一度も無い。


今後も二人が、本当に意味で相容れることは絶対に無いと断言できる。



そして勿論、光はこの申し出を拒否。


額に右手を当て、顎をほんの少し上げながらこちらを得意気に見ているレイリスに目もくれず、


「断る。 悪いが、お前のような無能は求めていない。」


「フッ.....軍と言うからには優秀な戦士が一人でも多く欲しいだろう? この僕が力を貸してやると言っているんだ、感謝したまえ。」


ここまでハッキリと断りの言葉を入れても尚、レイリスの態度は変わらない。


立場的には「お願いする側」のはずなのに、何故こんなに偉そうなのだろうか。



「戦闘専門の要員なんて俺一人で十分だ。 それに、お前と比べても遜色ない実力を持つ知り合いがいるもんでな、もう間に合っている。」


「僕に匹敵するだと? 笑わせてくれる.....是非その方にお会いしてみたいね。」


光の深みを持った言い方に、レイリスの表情が一転する。


天才である自分と同等の実力者がいるなんて話、聞き捨てならないと言わんばかりにこちらに鋭い視線を向けてきた。



だが光は、少し複雑そうな表情で視線を逸らし、またしてもレイリスの要望をノータイムで拒否。


「.....あいつとお前を会わせる気はない。 悪い影響を受けたりしたら困るからな。」


「ほう、貴様がそんな台詞を吐くとは....どこの誰だか知らないが、随分とお気に入りのようだな。 益々興味が湧いてきたよ。」


「.....」


光が言う知り合いとは、ナギサのこと。


確かに彼女はレイリスと同じソーサラーであり、負けずとも劣らない魔力を持っている。


おまけに良い意味で純粋な女の子で、ルックスも◎という高スペックっぷり。


また、実際のところ「お気に入り」なのは図星の為、光は言葉に詰まってしまう。



ここは一旦流れを変えるべく、話の内容を無理矢理にでも元に戻す。


「.....大体、あれだけ否定的だったお前が今度は突然協力とか、一体何のつもりだ?」


「そんなこと聞くまでも無いだろう、貴様が余計な行動を取らないか監視する為だ。 これはシルヴィアの命に関わっている案件なんだぞ、素人の集団に好き勝手させるわけにはいかない。」


レイリスの言っていることは正論だ。


一人の軽率な行動から事態を悪化させてしまったケースは数知れない。


また、彼はヘカトンケイルの一員だからという理由だけで、こんなことを言っているのではない。


レイリス個人が本気でシルヴィアを大切に思っているからこその提案なのだ。


その証拠に、今のレイリスの顔には先程までの高慢さや鼻につく微笑は一切無く、真剣な表情で光の目を見ていた。



普通に考えれば、レイリスにも協力して貰うべきだろう。


戦闘が起こった際は勿論のこと、敵陣営の調査に関しても有益な情報を可能な範囲で提供してくれるはずだ。


だからここは一つ、"制約"を与えた上で光は彼を軍に招き入れることにした。



「.....よし分かった、いいだろう。 お前も軍に入れてやる。」


一見真面目そうに見える光の表情だが、その裏には悪い笑みが伺える。



対して、入団許可を頂けたレイリスは途端に上機嫌になり、いつもの調子を取り戻す。


「ハハッ! ようやく僕の偉大さに気が付いたのか、脳みそが空っぽの貴様にしては上出来だ。」


「そうか、お褒めに預かり光栄だ。」


「どんな面子を揃えるつもりなのか知らないが、全員僕の指示に従って動けば間違いはない。」


「そうだな。」


「ふむ.....そうだ、手始めに僕から一つ君に言いたいことが―――」



この男は完全に気持ちよくなってしまっている。


聞いているだけで苛々してくるぐらいに鬱陶しい。


そんなレイリス=ヴィルターナ氏を光は、高所から地面に叩き落すかのように、


「.....だがあくまで軍のリーダーは俺だ。 つまりお前は俺の"部下"になるわけだが、勿論それで構わないよな?」


先程とは打って変わって、今度は悪い笑顔を全面に出し、レイリスを見下すようにそう言った。



そしてやはり、プライドが誰よりも高い彼にこの制約はクリティカルヒットする。


「っな!!!.....ぶ、部下だと!? ヘカトンケイルのNo.3であるこの僕が.....一般人の貴様ごときの部下.....?」


目を見開き、まるで強敵を前にして絶望でもしたかの様な表情で、プルプルと震えている。



実際、このタイミングで上下関係をハッキリさせておくのは非常に重要だ。


そうでもしないと今後、事あるごとにレイリスがしゃしゃり出てくるのが容易に想像できる。


あのレイリスがこんな要求を呑めるとは到底思えないが、光もそれを分かった上で言っているのだろう。


要はただ冷やかしてるだけなのだ。



だが、レイリスはまたしても我々の予想を裏切ることになる。


額の汗を拭い、作り笑いを浮かべながら、


「い、いいだろう.....し、従ってやろうじゃないか。 僕は明日から君の部下になってやるさ.....」


「.....へえ、正直驚いた。 一体何がお前をそこまでさせている?」


「シルヴィアを一日でも早く魔の手から救ってあげたいという気持ちは僕も同じなんだよ。 その為なら、プライドなんて喜んで捨ててやるさ。」


(.....なるほどな)



思い返してみれば、レイリスが光に決闘を挑んだのもシルヴィアに関することがきっかけだった。


やり方は少々荒かったが、彼なりの正義に基づいての行動だったのだ。


そして今回も、彼の選択の裏には彼女の存在がある。



光の目線で見たらただの嫌な奴かもしれないが、シルヴィアを守りたいという想いは一貫して変わっていない。


そこだけは評価をしてあげていいのかもしれない。


「そうか。 では今後の動きについては追って連絡をする。 まだお前以外の団員候補にはこの話をしてすらないからな。」


「.....了解した。 さて、僕はそろそろ戻るとしよう。 ほらシルヴィア様、行きますよ。」


話は済んだと言わんばかりに背を向け、この場から早々に去っていくレイリス。


部下になることを確かに了承はしたが、きっと彼は今晩、夢でうなされることになるだろう。



一方、話があまりにも急ピッチで進んでいくものだから、シルヴィアはまだ少し困惑気味だった。


既に帰路を歩き始めているレイリスと光の顔を慌てた様子で交互に見た後、


「えっと、あの.....で、では光さん、また明日!」


「ああ、おやすみ。」


そう言って、シルヴィアはレイリスを追いかける様に小走りで戻っていく。



色々と問題は残したままだが、ひとまず今後の方針は決まった。


一人で黄昏れに来ただけのつもりが思わぬ展開になってしまい、少しばかりの戸惑いは感じる。


しかし、立ち止まっている暇などない。


王女を守る為、そして元クラスメイトの暴走を止める為にも、光がやらなければいけないことは山積みだ。



(.....随分と長話をしてしまったな。 俺も洞窟に戻ろう。)


かれこれ洞窟を出てから1時間以上は経過しており、時刻は21時になっていた。


パーティーメンバー達はまだ起きてはいるだろうが、疲労も相まってゆっくり身体を休めている頃だろう。



「カオス・フリューゲル」


行きと同様に黒い翼を召喚すると、崖からバンジージャンプのようにダイブし、そのまま飛行を始める光。


地上70メートルの高さから見える景色も案外悪くない。


高すぎず、低すぎない丁度いい具合で、己の身だけで飛行をしている感がより濃く味わえる。


最近は慣れてきてしまっているが、ここは異世界であることを忘れてはいけない。


初めてジェットコースターに乗った子供の様な感声を轟かせながら、夜の森を存分に満喫する光であった。




~森林ステージ エリア14 野営地 にて~


「悪い、いま戻っ.....と、もう寝ていたか。」


光が洞窟に戻ると、そこにはテントが2つ貼られていた。


一般的な高校生の就寝時間としてはかなり早めだが、今日の授業内容を考えれば納得だ。



「俺もシャワー浴びたらさっさと寝よう.....」


学院の親切心により、仮設シャワーを1パーティーに一台貸して貰っている。


サバイバルを忠実に再現するとなると、やむを得ず湖の水などを使うしかないのだが、さすがにそこまでは強いないらしい。


また、学院特製のセキュリティが施されており、覗き等の悪戯対策も完璧な仮設シャワーである。



「ふー.....」


丁度いいぬるま湯を頭から被り、今後の方針について考えながら早々にシャワーを済ませる光。


そして着替えを終わらせ、いざテントで寝ようとしたその時だった。



「おい.....どっちに入ればいいか分かんねえじゃねえか、これ。」


まさかの問題が発生した。


なんと、どちらが男子用でどちらが女子用なのか、外側から見てもさっぱり分からないのだ。


全く同じデザインかつ同じ配色のテントが少し距離が離れた位置に二つ設置してある、ただそれだけ。



他に判別できるような目印も無く、耳を澄ませても話し声どころかいびきすら聞こえない。


靴も雨漏り対策でテントの中に入れてしまっているのだろう。


正真正銘、冗談抜きでどっちがどっちなのか分からなかった。



それにしても、メンバー三人はそこまで気が回らないものなのだろうか。


一人で勝手に抜け出した光が悪いと言えばそれまでだが、少々気の毒ではある。



(クソッ.....こんな寒くて湿り気全開の床で寝るなんて冗談じゃない.....)


ともかく、2分の1を当てに行くにしても、失敗した時のリスクが大きすぎる。


外から声を掛けるにしても、起こしてしまったら可哀想だ。


どう足掻いても詰んでいる、そう諦めかけた時。



片方のテントの扉が光に救いの手を伸ばすかのように、ふわりと開いたのだ。


「.....ふぁえ? 三刀屋くん戻ってたの?」


なんと、そこから出てきたのは寝巻姿のカトレアだった。


おそらく、トイレかなにかで目が覚めたのだろう。


しかし、まさかここにきて本日のMVP級の活躍をしてくれるとは思ってもみなかった。


絶望的な状況に陥っていた光にとっては、彼女は救世主...いや、本物の天使にさえ見えてくる。



「カトレアさん.....君って奴は.....最高だ。」


「.....ふえ?!! ど、どうしたの急にそんなこと言って?!」


「このパーティーに君がいてくれて本当に良かった.....おやすみ。」


「ひぇぇぇぇ.....」


カトレアに感謝の気持ちを存分に伝えてから、男子用テントへと入っていく光。


これで安心して夜を明かすことが出来る。


お礼を言われた当の本人は、顔を真っ赤にし眠気も飛んでしまった様子で、何か重大な勘違いをしてそうだが今はいいだろう。




何がともあれ「特別授業その1 対人訓練 in 森林ステージ」も残すところあと3時間。


授業より遥かに大切な事案を抱えてしまった光だが、まずは目の前のことを片付けていかなければならない。



ラストゲームに向け、いざ出陣―――

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