【第5話】難易度SSS:王女様と二人きりでクエスト編
~マール村 ギルドにて~
光とシルヴィアはクエストを受注しにギルドへ戻ると、受付の女性が眩しい笑顔で迎えてくれる。
「こんにちはー! ってあれ三刀屋さん、また来られたんですね。」
「実は俺いま1円...じゃない1ルビも持ってなくて、簡単にお金が稼げるクエストとか探してるんですけど。」
そう、光がこの世界に持ってこれたのは衣類と靴だけで、スマホや財布などの持ち物は一切無かった。
仮に財布があったとしても、日本のお金はこちらでは使えないだろう。
「そういうことでしたら、ラムの葉を採集してくるクエストがオススメです。」
「えっと、ラムの葉って何ですか?」
光が物不思議そうな顔で聞き返すと、シルヴィアは少し飽きれた顔をして説明し始めた。
「ラムの葉は、傷を癒すポーションの元となる大切な素材です。 ポーション自体は特別貴重な品というわけではありませんが、一年中売れ続ける商品なので、ラムの葉の採集を依頼する商人さんは多いんですよ。」
「へ、へぇー...詳しいんだな....」
まるで学校の先生のような振る舞いで説明をするシルヴィアに、光は苦笑いを浮かべる。
「常識です。 本当に何も知らないんですね、この世界のこと。」
「まぁまぁお二人さん、痴話げんかはあとでゆっくりやってください。 では、こちらのクエストを受注されますか?」
「むっ......」
受付人に痴話げんかと揶揄されたことへの不満が、分かりやすく顔に出るシルヴィア。
王女と言うのだから、常に泰然としているのかと思いきや、意外と感情が顔に出やすいタイプ......なのかもしれない。
「じゃ、じゃあそんなに難しくなさそうだし、それでお願いします。」
「かしこまりました。 では、こちらの受注書にクエストの詳細が書いてあるので、よく読んでから出発してくださいね。」
と言って、受付人は光に1枚の書類を渡す。
書類の内容は、簡単にまとめると以下の通り。
" 採集場所はハープの森の中間地点 "
" ハープの森は、街から北方向にしばらく進んだところに位置する "
" ラムの葉と雑草はよく似た見た目をしているので、間違えないように注意 "
" ハープの森には、ランクSS級モンスターの「カノープス」が出現するとの噂がある。 遭遇したらすぐに逃げること"
「えっと、何か物騒なこと書いてません? そのカノープスって......なに?」
「あ、それは近頃聞く様になった都市伝説なので気にしなくても大丈夫です。」
「は、はあ.....」
「カノープス自体は風の攻撃魔法を使う非常に凶暴なドラゴンですが、万が一にもハープの森に居るような魔物ではありませんよ。」
都市伝説レベルの話ならわざわざ書くなよとツッコミを入れたくなる光だったが、グッと我慢した。
「では光さん、早速向かいましょうか。」
「ただの都市伝説だし、気にするだけ無駄か......よし、行こう。」
一文無し状態を早急に解決すべく、シルヴィアと共に初めてのクエストへ出発する。
「お二人さん、お気をつけてー!」
ギルドの受付人は、いつものビジネススマイルで2人を送り出した。
~マール村からハープの森へと向かう道にて~
「ハープの森は北方向にあるって言ってたけど、大体どのくらい掛かるんだ?」
「徒歩なら1時間くらいで着きますよ。 まだ12時ですし、のんびり行きましょう。」
(そういや腹減ったな...シルヴィアはお金持ってんのかな...いやさすがにそれはダサすぎるから我慢しよう)
働かざるもの食うべからず。光はクエストが無事完了したら、心行くまで食ってやろうと意気込んだ。
ハープの森へ向かう途中、シルヴィアは光が最も気になっていた "クラス" について、丁寧に説明をしてくれた。
現状、クラスは以下の5つに分類されているらしい。
1.ソーサラー(魔法使い)
2.ガーディアン(守護者)
3.ドラグーン(剣闘士)
4.エレメンタル(召喚士)
5.サイキック(超能力者)
★クラス:ソーサラーの能力は、いわゆる攻撃魔法。
攻撃魔法には火・風・氷・土・雷の5つの属性があり、一人の人間が使える属性は原則1つで、それぞれの属性を特徴を生かした攻撃を繰り出すことができる。
それだけでなく、所持している武器等に魔力を注ぐことで、属性効果を付与する "エンチャント" のような使い方も可能。
クラスの中で最もカスタマイズ性が高く、戦闘時以外にも使える場面も多い。
使い手によって個性が出るクラスだ。
ギルドの受付人が光のクラスをソーサラーだと仮定した理由は、腕に発生させた黒いオーラが、武器にエンチャントをした時の様子によく似ていたからだそう。
★クラス:ガーディアンは、治癒魔法と防御魔法を得意とするクラス。
状況によっては、他のどのクラスよりも重宝されることもあり、クエストでパーティーを組む上では必須と言われている。
逆に、ガーディアン以外の人間が取れる回復手段は、ポーション等の道具を使う以外に無い。
シルヴィアはこのクラスに該当するが、光の居場所を察知した時に使った魔力感知の能力はまた別の話らしく、詳しくは聞けなかった。
★クラス:ドラグーンは、己の肉体を強化する術を介した近接戦闘をメインとするクラス。
攻撃力、防御力、移動速度、跳躍力、反射神経などの強化が可能。
人間同士かつ一対一の戦闘においては、並ならぬ強さを発揮する。
対して魔物の相手をするには、いささか火力不足な面もあり、決して最強のクラスというわけではない。
★クラス:エレメンタルは、精霊と呼ばれる物体を召喚し、術者と共に戦うことが出来るクラス。
精霊は己の分身とも言われており、その姿形は使用者によって異なる。
召喚できる精霊は基本的に一体のみで、複数体扱える人間はいないらしい。
★クラス:サイキックは、対象の魔法や物理攻撃、効果範囲内にある物質など、あらゆるものに干渉することが出来るクラス。
例えば、相手の攻撃魔法の軌道を変えたり、物理攻撃によって発生する衝撃を跳ね返したり、近くにある岩を持ち上げて投げる、のような使い方が出来る。
ただし、使い手の魔力と練度が干渉能力の強さに大きく影響されるため、誰でも好き勝手に暴れ回るなんてことはない。
とは言うものの、相手の精神に干渉できる能力なども一部報告されており、厄介度は群を抜いて高い。
これが、この世界でクラスと呼ばれているものの概要だそうだ。
「確かに今聞いた話だと、俺の能力はソーサラーかドラグーンなのかな。 実際、パンチ力めちゃくちゃ上がったしな...」
「結局、その能力の全貌を見ない限り、判断は難しいですね。」
「なんかモヤモヤするけど、仕方ないか。」
「かと言って、光さん自身が能力についての知識が皆無である以上、どんな能力なのか確認することもできません。」
はぁ~とため息をつく光に、シルヴィアは1つの提案をする。
「光さんがもし、自分が持つ力についてもっと深く知っていきたいなら、魔法学院に通われるのはどうでしょうか?」
「魔法...ガ ク イ ン?」
シルヴィアの言葉を聞いて、光は手に持っていたクエストの受注書を地面に落としてしまった挙句、完全に硬直してしまう。
「え?!どうしたんです?! 私なにかまずいこと言いました?!」
シルヴィアが慌てて声を掛けると、光はなんとか我を取り戻す。
そして、一度地獄を見たかのようなゲッソリした顔でこう言った。
「オレ、ガッコウ、キライ、コワイ、イキタクナイ」
「......はい?」
そう、高校2年間ぼっちで過ごしてきた光にとって、異世界での生活は天国以外の何物でもない。
学校に行く必要がないから、友達なんて居なくても関係ない。
ギルドに関しても、受付人や他のギルドメンバーにとっては立派なビジネスであり、誰にでも分け隔てなく接してくれるはずだ。
そんな夢のような生活を捨て、また学校という名の牢獄に戻るなんて、絶対に有り得ない。
よくある異世界ハーレム学院生活のチャンスを、光は自ら手放そうとしていた―――




