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【第49話】聞いてしまった以上、黙ってはいられない

光たち一行は各々が採集してきた食材を調理し、メンバー全員で食卓を囲っていた。


そのままの状態で食べれる木の実、お湯で戻した山菜、焼き魚など、メニューはそこそこ豊富。


学生の合宿らしく、和気あいあいとした雰囲気の中を過ごしていた。



「俺たち、多分暫定一位だよな? いやーまさかここまで上手くいくとは思わなかったぜ。」


「ほとんど三刀屋くんのおかげだけどね。 あたしらは別に大したことやってないし。」


「他のパーティーはどんな感じなんだろう? やっぱりシルヴィア様のところが凄いのかな?」


ゲーム再開は明日の6時。


また、終了が9時となっている為、3時間という短い間にどれだけ他チームとの差を広げられるかにかかっている。



そして無論、ライバルはシルヴィアとレイリスが率いる王国パーティだ。


逆にそこ以外のパーティーの大半は、1日目の時点で既にエンカウントしており、いずれも勝利を収めているので脅威ではない。


メンバー3人が楽しく談笑している中、光はただ一人明日の作戦を考えていた。


相変わらず空気が読めないというか、真面目な男である。



「三刀屋くんが釣った魚おいしいね。 あ、凄かったんだよ、魔法でドーンッって感じで!」


「......魔法でドーンじゃなくて"ダーク・サイクロン"な。」


「ほんと器用だよね~、エレメンタルってそんなことまで出来るんだ。」


「しかしよぉ、教室の隅っこでいつもボーっとしている三刀屋がこんなに優秀とはな。 恐れ入ったぜ。」


「あんたその言い方失礼じゃない? ほら、三刀屋くん怒って何も言わなくなってるじゃん。」


「え?! マジ!? すまんそんなつもりはなかったんだ!」



よくよく考えてみれば、彼らとまともにコミュニケーションを取ったのは、今回の授業が初めてなのだ。


それを考慮すると、光にしては随分と打ち解けた方ではあるが、やはりまだぎこちなさが残っている。


ひたすら作戦のことを考えているのも、輪に入らなければならないという現実から逃げてるだけなのかもしれない。



「いや、全く気にしてない。 それより俺は少し外に出てくる。 あとは皆で食べてくれ。」


「え、お前全然食べてないけどいいのか?」


「ああ、元々小食でな。 皆、明日に備えてしっかり身体を休めておけよ。」


「お、おう.....」


結局、そんなことを言って光は洞窟から出ていってしまう。


残されたメンバー3人は一瞬呆気に取られてしまったが、「三刀屋らしいな~」みたいな感じですぐに切り替えていた。


実際のところ、元々の口数が少ない為、悲しいが光が居ても居なくても大して変わらないだろう。



「.....カオス・フリューゲル。」


光は以前も使ったことのある、黒い翼を用いた飛行魔法を使った。


静かで、風当たりが良くて、ゆっくり出来る場所を探す。


(.....よし、あそこにするか)



上空70メートルほどの高さでしばらく飛んでいると、寝転がるのに丁度良さそうな、表面が平らで高めの崖を発見。


そこに着陸すると、まるで残業から帰宅後にビールを思いっきり一口飲んだ時の様な息の吐き出し方をし、大の字になって寝転がった。


自然特有の透き通ったような夜風が心地よい。


気を抜けば、一瞬にして眠りについてしまいそうだ。


日本に居た頃、何か嫌なことがある度に学校の屋上へ逃げ込んでいたのを思い出す。


やはりこの男、異世界に転生してからも根本的な部分は変わっていない。



そんな感じで黄昏れていると、不意に後方から誰かの話し声が聞こえてきた。


一人の時間を邪魔されてしまい、思わず舌打ちが漏れてしまうが、冷静にその声の持ち主を確かめる。


すると、そこには意外な人物が2人立っていた。



「ここなら誰にも聞かれないだろう。」


「.....はい。」



(シルヴィアとレイリス? あんなところで何をしているんだ?)



なんと、視線の先にいたのはシルヴィアとレイリスだった。


それも、両者共にえらく真面目な顔で向かい合っている。



光は念の為、空間から肉体そのものを隠す魔法"ブラック・エヴァーセント"を使い、万が一にも盗み聞きしているのがバレない様にする。


それから二人の元へコッソリと近付き、聞き耳を立てると、こんな会話が聞こえてきた。



「例の襲撃者の件だが、さきほど団長から新たな報告があった。 やはり帝国の関係者であることは間違いないようだ。」


「やはりそうでしたか.....」


レイリスの言葉を聞いたシルヴィアは、視線を斜め下にずらし、儚げな表情をする。


レイリスが言った"襲撃者"とは、おそらく末元のことだろう。


二人の会話の空気感から、話の議題はすぐに分かった。



レイリスは後ろめたそうにシルヴィアに背を向け、崖から見える海を遠い目で眺めながら話の続きをする。


「.....敵が帝国ともなると、あまりにも厄介だ。 奴らには"あの男"がいる以上、我々には居場所を探ることさえ出来ない。」


「つまり、こちらから攻撃を仕掛けることは愚か、今後彼らが攻め込んでくるタイミングすらも予測できない、ということですか。」

シルヴィアが普段より小さめの声で呟く。



レイリスはもう一度振り返り、シルヴィアの切なそうな顔を見ると、彼もまた同じような顔をする。


そしてレイリスは右手を握ると、傍にあった岩に痛々しい打撃音が鳴るほどの強さで叩きつけた。


「すまない、戦力では我々の方が上回っているというのに.....クソッ!!」


「.....仕方ないですよ。 レイリスが自分を責める必要はありません。」


「僕には.....僕たちには、君が奴らに襲われるのを黙って待つことしかできないのか......!」




二人の会話を聞いてると、無性に腹が立ってくる。


勿論、シルヴィアに対してではない。



気付いた頃にはもう飛び出していた。


最後まで話を聞かずとも、状況は把握できた。


勿論、知ってしまった以上、黙っていられるわけがない。



「――――諦めてんじゃねえよ.....馬鹿が。」


「え.....光さん?!」


「なっ! 三刀屋 光!! 貴様いつからそこにいた!?」


「んなことどうだっていいだろ。 それより話は聞かせてもらった。 悪いが、俺はすぐにでも動く。」


「ちょ、ちょっと待ってください! 動くってどうやって?!」


「そのままの意味だ。 もう呑気に学校なんて行ってる場合じゃねえ、さっさと末元の奴を捕えるんだ。」


「フンッ....何も知らない君に単独行動など許可できるわけがないだろう。」



実際のところ、光がこれからやろうとしていることは非合理的だ。


高度な潜伏技術を持っている軍勢相手に、あてもなくがむしゃらに動いたところで勝機は薄いだろう。


故に、今はこの王都ニヴルヘイムに留まり、いつ襲撃を受けても対応できるように備えるべき。


それを分かっているから、国王やレイリスはシルヴィアを敢えて学院という名の防衛基地に通わせているのだ。



しかし、今の光は冷静さを欠いてしまっていた。


シルヴィアのことになるとすぐ感情的になるのは、彼の明確な弱点の一つである。


「許可? ハッ.....俺に負けた奴の許しを請う必要がどこにあるっていうんだ?」


「なんだと貴様.....消し炭にされたいのか?」


「出来るものなら今すぐここでやってみろ......返り討ちにしてやる。」


「.....いいだろう、この前は不覚を取ってしまったが、僕の力はあんなものでは―――」


「二人共、いい加減にしてください!!!!」



男二人が低レベルな争いをしている中、シルヴィアの叱責が鳴り響いた。


珍しく本気で怒っており、その気迫に光とレイリスは思わず息を呑んでしまう、



「.....お二人が喧嘩しても良いことなんて一つもありません。光さんも一旦落ち着いてください。」


「は.....はい、すんませんでした...」


「レイリスもすぐムキになる癖を直してください。 あなたのそれは見ていて気分がいい物ではありません。」


「す、すまな.....申し訳ございませんでした、シルヴィア様。」


「分かればいいんですよ、分かれば。(ニコッ)」


今だけはシルヴィアの美しい笑顔が凄まじく怖い。


見ているだけで、背筋が本気で凍ってしまいそうになる。


ともかく、これで男性陣は冷静さを取り戻したことだろう。



「.....とりあえず、さっき言ってた"あの男"って奴の能力を教えてくれないか?」


「国家機密だ。 一般人の貴様には――」


「名は不明ですが、クラスはエレメンタル。 そして、その男の持つ精霊が帝国の本拠地そのものを担っており、こちらからその居場所を探ることが非常に困難なのです。」


「シ、シルヴィア?! 何を?!」


「ここまで聞かれてしまったのですから、これくらいは話しても問題ないでしょう。」


こうなったシルヴィアはもう止まらない。


初めて出会った時の印象通り、彼女は芯が強く意外と頑固で、猪突猛進な一面があるのだ。



「へえ、要は自在に移動可能な城を持っているってわけか。 確かにそれだと居場所の特定はかなり難しくなるが.....」


「それだけでなく、更に光学迷彩能力まで兼ね備えているので、私達には視認することさえできません。」


「じゃ、じゃあシルヴィアの魔力感知って奴を使って探ることは出来ないのか?」


「この力の射程距離はせいぜい1kmといったところですので、残念ながら.....」


「マジっすか.....。」


「チッ...だから厄介だと言っているんだ。 そうでなければ今頃我々が沈めている。」



今聞いた話だけでも、一筋縄でいく相手ではないことが分かる。


また、戦力自体はヘカトンケイルに劣るとレイリスが言っていたが、これを聞いた後だとそれも真実かどうか怪しい。


今話している"あの男"という人物以外にも、まだ見ぬ猛者が潜んでいるはずだ。


そんな勢力と、あの化け物じみた魔力を持った末元が組んでるとなると、厄介極まりない。



「とまあ、今まさにお父様も騎士団の皆さんも対抗策を練っている最中...というわけです。」


「なるほど...確かにそんな曲者集団相手じゃ迂闊に動けないわけだ。」


「だが、貴様の言っていることは一理ある。 僕もこちらから何かアクションを起こしたいとは思っていたからな。」


やはりレイリスも本心では、こうしてジッと待っているだけの現状をどうにかしたいと考えてはいたらしい。


騎士団としても、シルヴィアの友人としても、きっと歯痒い思いをしていたのだろう。


しかし、この二人の意見が合うなんてことがあるとは、明日は雪でも振るのだろうか。



「つっても、別にいい案があるわけじゃないんだろ?」


「ああ、ハッキリ言うけど現状は何も無い。 せいぜい、奴らが今までに現れた場所の記録から規則性などを考える程度しか出来ん。」


「まぁまぁ、焦っても仕方ないですし、今は合宿を楽しみませんか?」


頭を悩ませ唸り声を上げる二人を宥めるかのように、シルヴィアが割って入ってくる、



なぜ、この状況で彼女は笑っていられるのだろうか。


命を狙われているのは、他の誰でもない自分なのに。


誰よりも恐怖に悩まされ、誰よりもつらい思いをしているはずなのに。


夜だって、きっと落ち着いて眠ってなどいられないはずだ。


それなのに、どうして笑顔なんてものを向けてくるのだろう。



やはり、このままジッと待っていることなど出来ない。


そう心に決めた光は、ここである宣言をする。


「決めた...一刻も早くこの件を片付ける為に、俺は明日にでも暫定的な軍隊を結成する。」


「え、軍隊...ですか?」


「ああ、それも選りすぐりのメンバーだけで構成した少数精鋭のな。 今後はそいつらと共に事件解決に向けて日々動いていく。」


「何を言うかと思えば、貴様ごときが軍隊だと? 軍なら既にヘカトンケイルがある、余計な邪魔はしないで頂きたい。」


この提案には、案の定レイリスが突っかかってきた。


確かに正規の軍に所属している彼からしてみれば、光のやっていることは探偵ごっこにしか見えないだろう。


当然と言えば当然の反応ではある。



しかし、光は考えを変える気などさらさらない。


「お前らはお前らで勝手にやってればいいだろ。 俺は俺のやり方で末元を追う。 部外者に文句を言われる筋合いはない。」


「君は自分の立場を忘れたのかい?...下手に動かれたら我々としても迷惑なんだよ。」


「...立場? シルヴィアが襲われる日をただのうのうと待ち続けるのが、勇者ってやつの役目だと言いたいのか?」


「そうとは言っていない。 素人が勝手なことをするなと言っているだけだ。」


「ほう...なら、プロであるヘカトンケイルさんに任せておけば安心安全!とでも言うつもりかお前は? 」


「そ、それは...」



実際のところ、対策チームは多いに越したことはないだろう。


仕事でも何でも、人手は多ければ多い方が効率も質も基本的には上がっていく。


ましてや光は、別にヘカトンケイルと協力したいと言ってるわけでもないのだ。


今回ばかりは、レイリスが私怨で邪魔をしている様にしか見えない。



そして、それはシルヴィアの目にも同じように映っていた。


「私は...本当に個人的な部分だけで言えば、光さんにその...ま、守ってもらえるなら凄く嬉しい...です。」


「シ、シルヴィア! 何を馬鹿なことを言ってるんだ!? こんな野蛮な男に君を守れるわけが...」


「光さんは野蛮な人ではありません、私が選んだ勇者様です。」


「フッ...決まりだな。 レイリス、お前は大人しく騎士団とかいう殻にヒソヒソとこもってるといい。 あとは俺に任せておけ。」


シルヴィアは光の強さをこの世界で誰よりも理解している。


あれだけの力を持った人間に直属のボディーガードを頼めるというなら、断る理由が無い。



レイリスだって本当はそれくらい分かっているはずなのだ。


それでも頑なに認めようとしないのは、天才であるが故のプライドのせいだろう。


一対一で負けた癖に...と言いたいところだが、たった一度の敗北で負けを認められるほど、男という生き物は単純ではない。



「ですが、あまり無茶はしないでくださいね。 その、"選りすぐりのメンバー"と言っていた方々なんて特に...」


「分かってるって。 それにシルヴィアの為となれば、あいつらはきっと喜んで協力してくれるはずだ。」


「本当にありがとうございます...私なんかの為に...」


「俺が言えたことじゃないが、自分を卑下しすぎるのは良くない。 シルヴィアは少しは他人に甘えることを覚えるべきだ。」



やはり、今までシルヴィアは平気な"フリ"をしていただけであった。


表には出さずにいたが、本当は不安でいっぱいだったのだろう。


その証拠に、いま光と話すシルヴィアの目には、小粒ほどの涙が溜まっているのが見える。



むしろ、光と同じくらいの歳の女の子がこんな状況で平常心を保てるわけがない。


普通なら、既にメンタルが壊れてしまっていてもおかしくないだろう。


見えない敵から命を狙われるというのは、そういうことなのだ。



光たちが気恥ずかしそうに話している中、納得がいかないと言わんばかりの表情で、炎ばりの闘志を燃やしている男がいた。


「...いいだろう、シルヴィアがそれを望むなら許可してやる。 だが...」


「なんだお前まだいたのか。 さっさと消えろ、邪魔だ。」


また面倒臭い文句をつけられると思い、心底嫌そうな顔をする光。


ここまできて、彼はまだ何か言うつもりなのだろうか。


嫌悪感たっぷりの目でレイリスの方を見る。


しかし、この後にレイリスが発する言葉に、一同は度肝を抜かれることとなった。



「貴様の結成する軍には、この僕も参加させて貰うことにする。」


「...は?」



まさかの発言に、ここら一帯の空気が数秒ほど凍りつく。


あれほど否定的だったレイリスが、何故このような提案をしたのか。



その理由は、ある意味想定通りとも言える様な内容であった―――

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