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【第46話】神子 VS 悪魔は予想外の結末に

「いっけぇ!!! ライトニング・ストライク!!!」


大地を焼き尽くす神の稲妻が凝縮され一本の雷槍となり、忌々しい黒の盾を貫かんとする。


両者がぶつかり合った刹那、辺りは激しい轟音で包まれた。



やはり学生のレベルを優に超えている威力だ。


豊かな自然を無差別に破壊する雷女に、森そのものが「もう勘弁してくれ」と泣きながら叫んでいるのが伝わってくる。


しかし、それほどの魔法を前にしても、光は全く動じていなかった。


むしろ表情には随分と余裕が見られる。


「フッ.....どうした、もう終わりか?」


「はぁはぁ.....もう、守ってばっかりでつまんない!」


「ルール上、攻撃系は下位魔法しか使えないんだ。 なら守るしかないだろう。」



戦闘が始まってからと言うものの、ナギサはまだ光の防壁を一度も突破出来ていなかったのだ。


あれだけの威力を持ってしても尚、傷一つ与えられないというおぞましい強度を誇る混沌の盾。


これまでに、カオス・ディフェンダーを破ったことがある者は不死鳥モードのレイリスただ一人。


それを考えればいくらナギサと言えど、正面から突破するのは困難だろう。


だが、彼女もまだ諦めてはいない。



「これならどうだ!! ミラージュ・ライトニング!!!」


「ほう、確かその魔法は....」


晴れた青空が一瞬にして黒く染まり、暗雲から青紫色の稲妻がまるでバケツをひっくり返したかのように絶え間なく降り注ぐ。


雷一つ一つが持つ攻撃力は微々たるものだが、数が多すぎるが故に相手の視界を完全に奪ってしまう強力な幻惑魔法だ。



(相変わらず馬鹿けたやり方だ....あの時の魔物はこんな気分だったのか....)


おまけに耳が痛くなるほどの激しい落雷音まで襲い掛かってくる為、錯乱目的としてはかなり優秀である。


ただ、それ自体を攻撃手段として使えない割に魔力の消費は激しいので、並の人間はそもそも使おうとすら思わない。


そんな魔法を当たり前のように戦闘に取り入れてくるあたり、ナギサもまた化け物である。



(三刀屋氏の動きが止まった.....今ならいける!)


正面突破で崩せないナギサは、このチャンスを逃すわけにはいかない。


間違っても直前でガードされたりしない様、高く宙に跳び上がり、死角である頭上から魔法を叩き込もうとする。



「これで終わりだよ! ライトニング・スピ―――」


「....悪くない攻撃だが、相手が悪かったな。」


「....え?」


つい先程までナギサの目には、確かにそこに光の姿が映っていた。


身動き一つ取れずただ立ちつくしているだけで、大人しくこれから自分の攻撃を受けるしか無かったはずなのだ。


彼女には驚く為の時間すら与えて貰えない。


無数の雷によって構成された海の中から、光はいつの間にか姿を消していた。



「ブラック・エヴァ―セント」



自らの姿を言葉通り完全に"消失させる"魔法で、レイリスとの対決の際に勝利を決定付けた技でもある。


一度発動してしまえば、この世界に存在するありとあらゆる攻撃を無力化できる為、派手さは無いがある意味一番チートかもしれない。



(.....我ながら陰気臭い魔法だとは思うが、あのまま攻撃を受けてしまったら俺が死ぬっての)


ただ、使用中は他の魔法が使えなくなるので、姿を消しながら攻撃するといった行動は現状不可。


ゆえに決して万能というわけではなく、使いどころをよく考えて発動する必要がある。



「うそぉ?! どこいっちゃったの?!」


「―――上だ。」


「ほぇ?.....ぴぎゃっ!!!」


光が次に姿を現したのは、空中に跳んでいたナギサの更に上。


そして地上7メートルほどの高さから、流れる様に男女平等キックを炸裂させる。


何が起きたのかさえ分かっておらず呆気に取られていたナギサを、勢いよく地面へと叩きつけた。



そのままスタッと着地し、彼女の様子を確認する。


(クッ...少しやりすぎたか....あとで謝らないとな)


痛みに顔を歪ませながらも、力強く立ち上がろうとするナギサ。


そんな姿を見ていると、やはり心が苦しくなる。


だがこれは真剣勝負、やらなければ自分がやられるので、光の選択は間違っていない。



ともかく、一発打撃を与えたことでナギサも少しは冷静になってくれただろう。


暴れる猛牛を説得するかのように、落ち着いた口調で光は話す。


「普通の相手ならさっきの連携で決まっていただろうが、残念だったな。」


「いたたた....」


「お前は確かに強い...が、見ての通り俺の防御を崩すのは不可能だ。 相性の問題もあるが、今の様な大技ばかりでは一発も当てられないぞ。」


「.....あーあ、ズボンの膝のとこ破けちゃってるし、どうしよっかな。」



光がダラダラとそれっぽいことを語るが、ナギサの耳には何一つ届いていなかった。


得意の雷魔法をことごとく防がれ、しまいには意味不明な魔法で姿を消してからの容赦ない蹴り一閃。


そして、挙句の果てには上から目線で説得をしようとしてくる。


ここまでくると、彼女がいま何を感じているのかは想像に難しくなかった。



「........」


「ナギサ、聞いてるのか? とにかく一度仕切り直して、ちゃんとルールに従い―――」


「さっきからごちゃごちゃうるさい!! なんか超ムカつく!!! もう嫌い!!!!」


「っな!!!.....き....きら...い.....?」


戦闘開始からおよそ10分。


初めてナギサが、光に決定的なダメージを与えた瞬間だった。


それも、この後もしばらく痛みが残るくらいの大きな大きな切り傷を。



(....ありゃ? 三刀屋氏、なんか氷みたいに固まってない? どうしたんだろ?)


ここに来てついに、光が僅かながらも隙を見せる。


戦闘とは全く関係のない面からの攻撃ではあったが、今この瞬間、確かにそのガードは緩んでいた。


意図してやったわけではないものの、ナギサにとっては千載一遇のチャンス。



「よ、よく分かんないけど....いまだ!!! サンダーボルト!!!」


光がなぜ急に動揺し始めたのかは分かっていない様だが、すかさず得意技で勝負に出る。


これまでの人生で何度この魔法を打ってきたのか。


その高い練度から繰り出される攻撃は、疾風迅雷のごとく光に襲い掛かった。



「あったれええええ!!!!」


「...へ?」


自分が攻撃されていることに気が付いた時。


既に落雷は頭上1メートルの距離まで迫ってきていた。



そして再び、天地がひっくり返るほどの雷鳴が鳴り響く。


精神攻撃を受けたせいで、いつものように瞬時に盾を形成することができない。


今の光には、落雷から自分の身を守る手段はなかった。



―――直撃。



目の前には黒く焦げた色をした地面と、そこにうつ伏せで倒れている光の姿があった。


「あ、ほんとに当たっちゃった...ど、どうしよう...」


ナギサは魔法が命中したことに驚き、川魚のように口をパクパクさせている。


つい先程までは本気で殺しにかかっていたように見えたが、彼女としてもここまでやるつもりはなかったのだろう。


「やばいやばいやばい」と言いながら頭を抱え、若干だが涙目になっていた。



「うっ...グハッ...」


しかし、被弾からものの数秒後、光の身体がピクっと微かに動いた。


ナギサはすぐに光の元にいき、不安そうに声を掛ける。


「み、三刀屋氏!! ごめん、大丈夫?!」


「.....何度でも言うが、俺以外には絶対やるなよこれ。 洒落になってねえぞ.....」



まさかのと言うべきか、やっぱりと言うべきか。


光は無事だった。


無事どころか、ほとんどダメージを受けていない。


どうやら、囮役を交代した直後に使ったダークネス・スクエアの効果がまだ継続していた様だ。



(新魔法の研究を毎日欠かさずやってた甲斐があったな....危うく死ぬところだったぜ)


一度張ってしまえば耐久度がゼロになるまで守り続けてくれる優秀な壁に、光は感謝をする。


防御性能自体はカオス・ディフェンダーに劣るが、他の魔法が使えなくなるというデメリットが無い分、使い勝手が非常にいいこの魔法。


とはいえ、頬に小さな傷が出来ているのを見て分かる通り、やはり完全には防ぎきれなかったらしい。



不意打ちだったというのもあるが、光の第二防壁を崩すほどの威力の攻撃。


レイリスと同じく、彼女もまた天才ということ。


もし事前に保険を掛けていなかったらと思うと...身震いが止まらない。



「良かった...生きてて...」


「良かったじゃねえよ、お前がやったんだろ。ふざけんな。 ぶん殴るぞ。」


「そうだね...ごめん。 ちょっと頭に血が上ってたみたい。」


「ハハハッ! 良いってことよ!...なんて、この俺が言うと思ったか?」


なぜか少しだけいい雰囲気になっていたが、光に雷をぶちかましたのはどこの誰でもない、目の前のおてんば娘だ。


ちょっとばかり可愛い容姿をしているからと言って、このまま黙って帰してあげるつもりは無い。



「へ? なんて?」


「......ダーク・スパイダー、やれ。」


光が選んだ刑罰は、この授業で大活躍の蜘蛛の刑。


可哀想なので痛みを伴う攻撃はさせないが、4匹全員で粘着し身動き一つ取れない様に抑え付ける。


「えっちょっなになに?! キモいキモいキモい!!」


「しばらくそこで遊んでろ。 俺は皆を助けに行く。」



ナギサの首元を見てもバッジが付いていないので、彼女たちのパーティーのリーダーは石垣の方にいるようだ。


あれからしばらく経ってしまったが、無事だろうか。


めちゃくちゃに騒いでるナギサはひとまず放置し、急いでカトレアたちの所へ向かった。




「食らえ必殺、アルティメットブロー!!!」


「こいつ...戦い方めちゃくちゃだぞ!!!」


石垣に戻ると、レットと敵のリーダーらしき人物がまだ交戦中だった。


男同士かつ、ドラグーン対ドラグーンという何とも暑苦しい戦い。


見たところかなり優勢で、あと少しで決着が着きそうな気配さえ感じる。



(あいつやるじゃねえか...カトレアさんとシズルさんも無事みたいだし、助かったぜ)


思ったよりもレットが頼りになることが分かり、ホッと一息つく光。


そして最後の一手を打つべく、手を前にかざし魔法を唱えようとする。


「さて、これで終わりだ....カオス・レイ―――」


ここまで踏ん張ってくれたお礼にとっておきの魔法で援護してあげようと考えたが、ハッとしてその手を直前で止める。



(.....俺としたことが、余計なお世話をするところだった)


光が攻撃するのを辞めた理由は、いかにも彼らしい内容だった。


ここで自分が乱入し、戦闘を終わらせること自体は造作もない。



しかし、これまで必死に戦ってきたレットが最後の最後に見せ場を奪われてしまったら、彼はどう思うだろう。


それはもはや、空気が読めませんでしたで済むような話じゃない。



自分の出る幕じゃないことを察した光は、出かかっていたエグゼキューターをスッと収納する。


あとのことは全てレットに任せるとして、光はナギサの拘束を解除してあげるべく、元いた場所へと戻っていった。




「クク.....どうだ、楽しかったか?」


「うえぇ...ひ、酷すぎる...三刀屋氏にこんな趣味があったとは...迂闊だった。」


「これに懲りたら、ちゃんと人の話を聞く癖をつけろ。 いいな?」


「...別に聞いて無いわけじゃないし。」


またしても急に不機嫌になり、ムスっとふくれた顔をするナギサ。


それほどまでに、光と正面から戦ってみたかったのだろうか。



「とにかく、お前らのリーダーはもうじきバッジを奪われる。 この勝負、俺の勝ちだ。」


「そんなのどうでもいいし。」


「はぁ.....俺が悪かったって。 だから機嫌を直してくれないか。」


「...別にいつも通りだし。」


どちらかと言えば被害者である自分がなぜ謝っているのか、腑に落ちないといった表情で腕を組む。


しかし、この気まずい空気のまま別れるのも困る。



なんとか機嫌を直してもらおうと手段を考えるが、意外にもナギサの方が先に声を上げることになった。


口を尖らせ、視線は横に逸らしたまま。


言いたくないけど言いたい、恥ずかしいけどちゃんと口に出して伝えたい、そんな想いが表情から読み取れた気がする。



そして、耳の付け根まで真っ赤にし、俯きながらナギサはこう言った。


「こんなに広い森の中で三刀屋くんを見つけられたからその...ちょっと...う、嬉しかったのに、作戦とは言えあんなことされたら、そりゃ僕だって怒るよ.....」


ここに来てようやく、彼女が怒っていた本当の理由が分かった。


他人の考えていることには人一倍敏感なはずだが、授業に真剣に取り組むあまり彼女の想いに気付けなかったのだ。



(なるほど...さすがにこれはあとで反省会だな...それにしても.....)


あんな台詞を言った後に、赤面しながらこちらをチラチラ見てくるのはやめて欲しい。


羞恥が感染してくるどころか、あらぬ勘違いをしてしまいそうだった。


光は自分を落ち着かせるよう軽く息を吐き、まずは謝罪をする。



「そうだったんだな...悪かった。 俺、色々あってこういう本格的な授業は特に真剣に取り組むって決めてるからさ、あまり余裕がなくて....」


「もう気にしてないから大丈夫だよ。 てか、授業に関係ない事情を持ち込んだ僕が悪いだけだから。」


ナギサも頭を冷やしたことで、光に非が無いのはちゃんと分かっているらしい。


こちらとしては、ただゲームに勝つための作戦を遂行しただけなのだから、当たり前といえば当たり前である。


彼女も十分に理解しているはずなのだが、それでもやはり、どこか寂しげな表情をしていた。



それから少しの時間が流れ、レットたちがバッジを奪うことに成功したのか、ナギサの足元に転移用の魔法陣が出現する。


すると身体が蒸発するかのように、足元からスーッとゆっくり消え始めた。


「じゃ、じゃあまたな。」


「...ほーい。」


和解はしたはずなのに、二人の間には変わらず微妙な空気が漂っている。


彼女をこのまま行かせてしまって本当にいいのだろうか。


小手先の理屈だけ並べて論破した気になって、こちらの"本音"を伝えないまま終わっていいのだろうか。



―――その答えは考えるまでもなかった。



完璧なフォローの仕方とか、相手の機嫌を直すのに効果的な台詞とか、そういった小難しいことは必要ない。



光は無我夢中になって、自分が思っていたことを素直にナギサへ伝えた。



「そ、そういえばさ、森で最初に会った時、"構ってあげようか"って言ってくれただろ? 顔には出さなかったけど、あれぶっちゃけ結構嬉しかった.....かも。」



16年間生きてきて、誰かにこんな台詞を言ったことは一度も無い。


しかも相手は女の子だ。


冷静になってみると途端に恥ずかしくなってくる。


今にも茹で上がりそうなタコの様に顔を赤くし、ナギサを横目で見ながら反応を待った。



だがナギサは背を向けたまま、リアクションを一切取らない。


まさか思い掛けない所に地雷があり、逆に怒らせてしまったのだろうか。



転移魔法はもうすぐ完了する。


光にはもう、ナギサの首から上しか見えなくなっていた。



「お、おいナギサ―――」


さすがに無反応でその場から去られるとショックで立ち直れなくなる為、消えかかっている彼女の名前を咄嗟に呼ぶ。


同時に、ナギサが頭部しか残っていない身体でこちらに振り返った。



そして、ちょっと生意気な小悪魔じみた笑顔、でも子供のように無邪気で愛らしい、そんな表情で最後にこう言った。



「.......バーカ。」



確かに、おてんばな彼女らしいと言えばらしい返事なのかもしれない。


言われた張本人である光も、きっとそう思っていることだろう。



なにがともあれ、突発的に始まったナギサとの対決は勝利に終わり、無事バッジも獲得できた。


夜の休戦時刻まで残り4時間。



「さて、俺も早く戻らないとな.....」



―――光たちのゲームはまだまだ続く

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