【第45話】どうやら地雷を踏んでしまったらしい
時刻は13時。
一つ目のバッチを手に入れてから、およそ3時間が経過していた。
あれ以降も光たちは順調に勝ち星を積み重ね、バッチの合計枚数は現在6枚。
おそらく暫定トップだろう。
だが、気を抜いてはいけない。
まだシルヴィアのパーティーに一度も遭遇していないからだ。
ルール上、バッジを奪われる時は所持枚数の全てを持って行かれてしまう。
つまり、一度でも敗北してしまうと、また振り出しに戻るというわけである。
逆に、ある程度バッジの所持者が偏ってきた段階でシルヴィアたちを倒すことが出来れば、あとは逃げ回るだけで勝ち確だろう。
しかし、ここで一つ問題が発生する。
「な、なあ三刀屋...さすがに疲れたぜ...もう一歩も歩きたくねえ。」
「...ああ、そろそろだと思っていた。」
囮役を担っていたレットの体力切れだ。
ゲーム開始から4時間もの間一人で延々と歩き続けていた為、限界が来たのだろう。
ドラグーンとはいえ、体力は無限ではない。
たびたびカトレアの回復魔法をかけたりもしたが、悔しくも燃料切れである。
勿論、このまま続行させるほど光も鬼ではない。
「OK、俺と交代だ。」
「いいけど、それだと狙撃役一人減るぜ? 大丈夫なのか?」
「シズルさんも慣れてきたみたいで、命中率はかなり上がっているから大丈夫だ。 それに――」
「それに?」
「俺はただの囮ではない、ほんの少しだが戦闘にも参加するから安心しろ。」
「...すまん、良く聞こえなかった。 もう一度言ってくれないか?」
レットは自分の耳がおかしくなったのではないかと、ワザとらしく耳の穴をほじる素振りをする。
そして、光はさきほど言ったことをリピートした。
「俺も戦闘に参加すると言ったんだ。 そうでもしないと倒しきれない場面が出てくるはずだからな。」
「あーなるほどね...って、えええ?!」
今度はしっかりと聞き取れたらしい。
しかし、あまりの衝撃発言に声を出して驚く。
頭の中で状況を整理し、一旦冷静になろうとするレット。
そして、額から汗をダラダラと流し、ひきつった顔をしながら光に問うた。
「あ、あのさ...なら最初からそれで良かったのでは? てか、もう俺たち3人いらなくね?」
「そんなわけないだろ、良く考えてみろ。」
レットの意見はごもっともだが、この授業は光が無双する為に企画されたのではない。
生徒全員が実戦というものを学ぶことが目的である。
囮作戦も、メンバーがそれぞれ活躍出来るよう明確に役割を分け、全員に見せ場を作る為の戦略なのだ。
現にシズルをはじめとして、メンバーたちは初期と比べると見違えるほどに成長していた。
「そ、そういうことか...お前すげえな、そこまで考えてたのかよ。」
「まあ、連携プレー以外でシルヴィアに勝つ方法がないからって理由が一番大きいがな。 それより今後の作戦を教えるから、カトレアさん達にも伝えてくれ。」
「お、おう! 任せとけ!」
この後の作戦といっても、単純に狙撃役が一人減っただけの話なので、基本的には今までと変わらない。
シズルの魔法で押し切れなかった場合のみ、囮役の光がそのまま戦闘に移行する。
レットの体力が回復し次第、元の体制に戻る、それだけだ。
「じゃあ頼んだぞ。」
「了解! 心配なんて無用だと思うけど、お前も頑張ってくれよな!」
そう言って、レットはカトレアたちが待機している場所へ向かっていった。
「.....とりあえず適当に歩くとするか。」
どこからでも来いと言わんばかりに堂々と森の中を歩く光。
ポケットに両手を突っ込んでおり、完全にノーガードの状態だ。
正直言って、傍から見たらただの馬鹿である。
だが当然、その余裕の裏にはちゃんとした理由があった。
先日、新しく開発した"ダークネス・スクエア"という魔法。
以前シルヴィアが使っていた"ホーリネス・スクエア"をアレンジしたもので、正面だけでなく全身に防御壁を作り出す優れ者なのだ。
これなら正面から攻撃されようが、背後を狙われようが、ダメージを受けることはない。
また、使用した前後で見た目上の変化が一切ないことが、オリジナル要素として挙げられる。
これには、防御を固めていることが相手にバレない、ノーガードに見えるため攻撃を誘いやすいといったメリットがあるらしい。
ただし、防御性能はカオス・ディフェンダーに大きく劣る為、決して絶対防御というわけではない。
それからしばらくして、10分ほど歩き続けたが敵の気配はなかった。
他のエリアに固まっているのか、見つけたけど敢えてスルーされているのかは分からないが、暇を持て余しているのが現状。
(散歩するのも飽きてきたな...そろそろ本拠地を変えるのも視野に入れておこう...ん?)
そんなことを考えていると、まるで光が来るのを待っていたかのように、どこからか人間の気配が現れた。
(近い...どこだ...前か後ろか...それとも...)
すぐさま集中モードに入り、敵がいる位置を探る。
定番なのは後方からの遠距離攻撃だが、正面から近距離で叩いてくるパターンもあるだろう。
光自身、初めての囮役な為、少しだがワクワクする気持ちが湧いてきてしまう。
しかし、次に現れる敵は、全く予想できなかった形で攻撃を仕掛けてきた。
『サンダーーーーソーーーード!!!!』
甲高い叫び声と共に、上空から物凄い勢いでこちらに切り掛かってくる人影。
前でも後ろでも横でもない、まさかの上である。
完全にセオリー無視の攻撃を仕掛けてきたのは、どこの誰なのか。
しかし、考えている暇はない。
敵はもう光の頭上まで迫ってきていた。
「てやああああああ!!!!」
「クッ...来い!カオス・ディフェンダー!!!」
対峙するのは、バイオレットカラーに光り輝く紫電の剣と、混沌たる漆黒の盾。
両者が衝突した瞬間、目の前に雷が落ちてきたかのような轟音が一帯に鳴り響いた。
強大な力同士がぶつかり合った衝撃で、術者二人の距離が離れる。
「......挨拶にしてはちょっとやりすぎなんじゃないか?」
「えーそうかなあ? これ下位魔法だし、全然物足りないよ。」
こんな馬鹿げた威力の下位魔法を打ってくる人間など、目の前にいるおてんば娘とレイリスくらいのものだろう。
「それ、俺以外の奴にやったら下手すると死ぬからやめとけよ.....ナギサ。」
「大丈夫大丈夫! 三刀屋氏以外にはやらないから! はっはっは!」
このサバイバルにおいて警戒しなければいけないのは、シルヴィアとレイリスだけではない。
神子・ナギサ=トワイライトの存在をすっかり忘れてしまっていた。
「てかさ、一人でこんな所で何やってんの? 暇なの? ナギサちゃんが構ってあげようか?」
「ッ!!!......悪いな、お喋りはここまでだ。」
いつものようにペースに引き込まれそうになったが、戦闘中であることを忘れてはならない。
光はあくまでも"囮"だ。
(...任せたぞ、シズルさん)
「...ほぇ?」
首を傾げ、不思議そうにしているナギサの背後。
そこには、シズルが飛ばした石塊がすぐそこまで迫ってきていた。
(ナギサ...悪いがお前はここで終わりだ)
勝ちを確信し、光はニヤリと笑う。
しかし、やはり相手は神の子だった。
「ありゃ、何か飛んできてる?.....えい!!!」
なんとナギサは前を向いたまま、雷を纏った右手の甲を後頭部を守る様にかざし、命中する直前で石塊を粉々にしてしまったのだ。
(なっ...マジかよこいつ...死角からの攻撃をノールックで防ぎやがった!)
シズルのコントロールは完璧だった。
普通の相手なら間違いなく命中していただろう。
だが健闘むなしく、まさに神の如き力で無効化されてしまった。
「ふーん.....三刀屋くんって、こーゆーことするタイプだったんだー.....へえー.....」
「.....真剣勝負なんだから仕方ないだろう。」
何かが不満だったのか、ナギサは眉毛をぴりぴり振るわせ、珍しく本気で怒っている様子。
「あ、皆はさっき攻撃が飛んできた方向にいって貰っていい?.....僕はちょっとこの人に用があるから。」
怒っているのは間違いないが、一定以上の冷静さは保っている様で、パーティーメンバーに指示を送る。
ナギサの指示通り動かれてしまうと、石垣に隠れているカトレアたちが危険だ。
ドラグーンのレットがいるとはいえ、相手の力量が不明な以上、放っておくわけにはいかない。
(まずい...早く石垣に戻らないと――)
光が本拠地に引き返そうとした瞬間だった。
目の前に特大の稲妻が激しい地響きと共に、上空から舞い降りてきたのだ。
足元を見ると、地面は黒焦げになり、大きく深い穴がポッカリ空いている。
この威力はどう考えても下位魔法のそれではない。
―――雷属性・中位魔法 サンダーボルト
「.....もう一度だけ言うが、挨拶にしてはやりすぎだ。 ルール違反で失格にされても文句言えねえぞ。」
「ルールとかどうでもいいし。 それより僕いまかなり怒ってるから。覚悟はいい?」
「お、落ち着け! 確かに俺の戦法は卑怯な部分もあるかもしれないが、これはそういうゲームなんだ、分かるだろ?!」
「分かりませーん。 大体、可愛いって言ってた女の子を後ろから攻撃するような奴の話なんて聞く気ないでーす。」
「か、かわっ?!......クッ、今はそれ関係ないだろ! とにかく、せめてルールはちゃんとまも―――」
「.....ライトニング・ブラスター!!!」
ナギサはもう話を聞く気は一切なかった。
狙いを定め、超電圧を纏ったレーザーが右手から発射される。
光はかろうじて避けたが、後ろを振りかえって見るとそこには驚愕の光景が広がっていた。
(.....おいおいマジかこれ)
森を彩る無数の草木たちが、50メートル先まで痛々しいほどに焼き尽くされていたのだ。
こんなもの人間が喰らったら大怪我どころでは済まない。
「向こうに誰かいたらどうするつもりだったんだ? 冗談抜きで死ぬぞ。」
「ちゃんと確認したから大丈夫。 それより、次は外さないよ。」
「.....本気で俺とやるつもりか?」
「さっきからそう言ってるじゃん。」
こんなに落ちついたトーンで話すナギサは初めて見る
どうにかして説得しようと試みるが、折れる気はさらさら無いらしい。
となれば、残された手段はただ一つ。
「フッ.....そうか。 いいだろう.....せっかくだ、相手をしてやる。」
「.....そうこなくっちゃ。」
思いがけないことから始まってしまった、ナギサとの直接対決。
ある意味レイリスより恐ろしい相手を前に、光はどのような手段で戦うのか。
はたして、セシルから掛けられた制限を破らずに戦い抜けられるのか。
世紀末の一戦が始まる―――




