【第44話】初めての協力プレイ! そのチームワークは果たして...
~森林ステージ エリア8 にて~
『あ~この辺に誰かいねえかなあ~』
『つーか俺らだけじゃねぇ?こんな堂々と動いてんの』
『別にええやろ、目が合った奴から順にぶっ飛ばしたるわ』
『は~~アタシ別のパーティーが良かったぁ~』
光の潜伏ポイントから前方約60メートルの位置。
そこを気だるそうに歩いているのは、1-Bの生徒によるパーティーだ。
視界が悪く、どこに敵が潜んでいるか分からないこの森で、警戒する様子が微塵も感じられないのはある意味凄い。
というより皆が皆、この授業に対して光ほど真剣に取り組んでいるわけではないのだろう。
ともかく、こちらとしてはいい練習相手になる為、最大限に利用させて頂く。
(レット、そろそろだ。 カトレアさん、あいつに防御魔法を頼む)
(おう!ハァァ...プロテクト!!)
(わ、分かった! バリアー!!)
事前に立てた作戦通り、レットが自ら物理防御力をアップさせ、カトレアが魔法攻撃カットのバリアを上乗せする。
これで、物理だろうが魔法だろうがある程度は耐えられる頑丈な囮が完成した。
それにしても、アイコンタクトと身振り手振りだけでここまでスムーズに動けるとは、見事である。
あとは、レットが待機している位置まで、敵のパーティーが来るのを待つのみ。
「...一人で囮になるとか、あいつも惨いことさせるぜ、全く」
罠だと察せられない様、あくまで自然体で、森を探索する感じの素振りをする。
思ったよりサマになっている為、もしかしたら彼は良い演技者になれるかもしれない。
気付けば、敵パーティーはもうすぐそこまで迫ってきていた。
――40メートル...30...20...
『おいおいおい、 あそこに誰かいるじゃ~ん!!』
『しかも一人だぜ、これってラッキーって奴ぅ~??』
『へっ、ほなワイがシバいたる』
(き、来やがった! 三刀屋頼むぞ!何とかしてくれるんだろうな?!)
体に染みる様な緊張がレットを襲う。
狙撃で勝負を決めに行く以上、的を動かすわけにもいかない為、その場から逃げることは許されない。
あとは光とシズルに託すのみ。
そう信じ、目をぎゅっと力強く瞑るレットだった。
一方、石垣メンバーたちの間も緊迫とした空気に包まれていた。
(みみみみ三刀屋くん敵来ちゃったよ!! どうしよう!!)
(俺が男三人をやる、シズルさんは女を狙ってくれ)
(しししシズルちゃんおお落ち着いて! 大丈夫だからきっと!)
冷静なのは光だけで、シズルとカトレアは今にも気絶しそうな勢いで動揺している。
実際の所、レットやカトレアだけでなくこの学院の生徒の大半は、いわゆる戦闘というものをしたことがない。
経験者は光やシルヴィア、レイリスぐらいのものだろう。
故に、初めての実戦ともいえるこの状況で、落ち着けというのが無理な話だ。
そもそもこの授業の目的がそういった経験を積むことでもある為、大目に見てあげよう。
ともかく、もうここまで来たのだからダメ元でもやってみるしかない。
いざとなれば、光がカバーするはずだ。
(シズルさん、せーのでいくぞ、準備はいいか?)
(だだだダイジョブ!! 多分!!)
狙撃役の二人が最後のアイコンタクトを取り、発射のタイミングを計る。
そして、ついにその時がやってきた、
(来たな、じゃあやるぞ! 3...2..1...せーの!!!)
『ダーク・スパイダー!』
『テレキネシス!!』
光の右手から、小さな真っ黒の蜘蛛のようなものが三つ放たれる。
シズルは念力を使い、握りこぶしほどの大きさの石を持ち上げ、勢いよく投じる。
勿論、両者共にただシンプルに直線上へ発射したわけではない。
敵に気付かれない様、曲線を描くような軌道で、後頭部もしくは背後を狙ったのだ。
魔法のコントロールが自由自在なサイキックならではの戦法である。
(よし、このままいけば命中する...だが...)
光の攻撃は想定通りの速度、軌道で完璧に進んでいる。
しかしシズルの方はスピードが若干遅く、また緊張からかコントロールが不安定で、徐々に軌道がズレ始めていた。
(お願い...当たって!)
自分だけ失敗するわけにはいかない。
もう一度集中し、どうにか修正をしようと試みる。
直撃まで残り1秒...その結果は....
――ガブッ!!
『いってえ! 何だ?! いま誰かに首噛まれたぞ?!』
『あだだだだ!ちょっ!このキモい虫なに?!』
『これ虫じゃなくて魔法ちゃうか?! しつこいなほんま!離れろや!』
光のしもべ達は見事に命中。
ダメージこそ少ないが、持ち前のしつこさと粘着力で相手は身動きが取れなくなっていた。
そして、肝心のシズルの方はというと......
『なんかアタシ変な石飛んできたんだけど。 ギリギリで気付いたから良いけど、これ絶対狙われてるよ。』
結果は失敗だった。
スピードは修正できたものの、一度ズレた軌道までは回復できなかったのだ。
とはいえ、初回にしては十分な出来。
正直な話、ここまでは想定内でもあった。
あとは、あの男に任せればいい。
「...さて、もう一匹行ってこい!スパイダー!」
先程と同じ魔法を使い、最後の一人を狙う。
勿論、この程度のミッション、光が失敗するわけもない。
小さな蜘蛛がおどろくべき速さで、めちゃくちゃな軌道を描きながら飛んでいった。
『いったああああい!! 待ってアタシも噛まれた!! なんなのこいつ!!』
結果はやはりクリーンヒット。
左腕の裏側に張り付き、地味に痛い攻撃を繰り返しおこなう蜘蛛4号。
これで、敵パーティーの陣形は完全に崩れた。
残す作業は1つ、バッジの回収のみ。
「悪いなお前たち、俺達のリーダーはかなり頭イッちまってるんだわ。」
『この筋肉野郎!! 卑怯だぞ!!』
『リーダーの顔見せろコラァ!!』
『もう負けでいいからさっさとバッジ取ってよ!この蜘蛛離れる気ないじゃない!』
「おう、じゃあ貰ってくぜ。 あ、間違ってもリベンジとかしない方がいいぞ、あいつマジでやべえから。」
レットはニッコリと笑いながら、敵リーダーの首に掛かっているバッジを奪う。
これで無事に一枚目ゲットだ。
「じゃ、またな!」
『覚えてろよこの野郎!!』
しばらくすると、敵メンバーたちは一斉に合宿所へと転移させられていった。
「素晴らしい連携だった。 次もこの調子で頼む。」
「内心、一人で囮とか大丈夫かよとか思ってたけど、さすがの作戦だったぜ。」
「わ、私は見てるだけだったからあれだけど...皆ほんとに凄かった。」
「......」
各々、作戦成功の喜びを分かち合っている中、シズルは一人浮かない顔をしていた。
結果的に失敗という失敗をしたのは彼女一人だけである為、素直に喜べないのも分かる。
そんな様子を見て、すかさず光がフォローに入った。
「シズルさん、その...あまり気にするなよ。 ミスは誰にだってある。」
「うん、ありがとう...次はちゃんとやるから。」
「いや、むしろあの位置から打ったとは思えない精度だった。 他の奴には到底真似できないはずだ。」
「そうかな...?」
光は別にお世辞を言っているわけではないのだろう。
実際、数十メートル離れた位置の敵に攻撃を当てるのは簡単ではない。
それも、ただストレートに飛ばすだけでなく特殊な軌道で、更には相手の背後まで狙う必要があった。
まだ入学して一ヶ月足らずの女の子なのだから、胸を張っていい成果だ。
「...まあ、別に失敗しても俺がまたなんとかするさ。 ただの授業なんだから、気楽にやればいい。」
「そう言って貰えるとかなり助かるかな。 でも、次こそは絶対当ててやるんだから!!」
「そうだぜ、俺が決死の覚悟で囮になってんだからちゃんと当ててくれよ。」
「なぁ~~~んですってぇ!!! あんたって男は本当に...!!!」
「...お前ら、仮にもサバイバル中なんだからもっと静かにしろ。」
ぎこちないフォローではあったが、シズルは本来の元気を取り戻したようだった。
(さて、次に備えて定位置に戻...ん?)
何やら視線を感じる気がした光は、隣をチラリと見る。
「...カトレアさん? どうした?」
「三刀屋くんって、何者なの?」
視線の正体は、キラキラした目で見つめるカトレアだった。
「いや...ただの学院の生徒だけど。」
「普通の生徒にしては変な魔法使ってるし、変に落ち着ているし、変に戦いに慣れてるし。」
「気のせいじゃないか? あと変な魔法じゃなくて、精霊"エグゼキューター"だ。」
「ふーん、でもなんていうか、同じ世界の人間っぽくないんだよね、名前も変だし。」
授業や魔法と関係ない所まで突いてくるカトレアに、ギクッと動揺してしまう。
現状、転生の話はシルヴィアにさえまだ話していない。
別に言いたくないわけではないのだが、話すタイミングを逃し続けている。
ただ、シルヴィア以外の人間にはバレると面倒臭そうなので、出来ることなら黙っていたいのが本音。
しかし、木乃葉たちが既に誰かに話している可能性もあり、もしそうだとしたら光の抵抗は無意味になってしまう。
いずれにせよ、今これ以上問い詰められるのは嫌なので、光は無理矢理に話を逸らす。
「そんなことより皆、早く定位置に戻るぞ。 敵がもうその辺まで来ているかもしれない。」
「えええ...話逸らされちゃった...」
「おっとそうだったな、上手く行き過ぎたもんで、つい浮かれちまってたよ。」
「よし、今度こそ絶対成功させるぞー!!」
もう一度、気を引き締めて各々の定位置に戻っていく。
開始からおよそ一時間が経過し、成果はバッジ一枚。
上々の滑り出しを見せた一行は、次のステップへ向け更に連携を深めていく。
まだゲームは始まったばかりだ―――




