【第43話】囮作戦
『三刀屋、どんな作戦でいくつもりなんだ?』
『私、うまくやれる気がしないよぉ...』
『大丈夫だってカトレア! 何とかなるよ!』
セシルからパーティーの発表がされた後、作戦会議の時間が約30分設けられていた。
各パーティーの開始位置は完全ランダムとのことで、空間転移魔法を介して一斉に森の中へ移動し、よーいドンでスタートとなる。
つまり、場合によっては開始早々に他チームと遭遇し、そのままバッジを奪われるなんてことも有り得る。
そうならない為にも、事前にある程度の作戦を立てておくのが重要だと言えるだろう。
「よし決めた...俺たちのパーティーは、徹底した囮作戦で行く。」
『囮ぃ?お前さあ、そんな作戦でほんとに勝てんのかあ?』
「今回のステージは森、身を隠すポイントが無数にあるはずだ。 おそらく、他のパーティーの多くは待ち伏せスタイルを取ってくるだろう。」
『下手に動いてたら、突然見えないところから攻撃受けてドーンとかなりそうだよね。』
「ああ。 だが、確かに待ち伏せは安定択かもしれないが、それではシルヴィアたちに勝つことは出来ない。」
『優勝を狙うなら、待ってるだけじゃなくて自分達から奪いに行かないとダメってことか。』
「それもあるが今回のルール上、攻撃魔法は下位のものしか使えない。 つまり極論を言えば、シルヴィアに中位以上の防御魔法を張り続けられた場合、突破する術がないんだ。」
会議の内容を聞く限り、光が全生徒の中で最も警戒しているのはシルヴィアだ。
下位魔法しか使えない環境下で、彼女の鉄壁を如何に崩すかが勝利の鍵となる。
『じゃ、じゃあどうするの?勝ち目ないじゃん。』
「その為の囮だ、ガーディアンは一人では戦えない。 つまり、囮を使ってレイリスを含む他の三人を誘き出し、そこで潰してしまえば俺たちの勝ちだ。」
『言ってることは分かるけどよ、そんなにうまくいくか? 相手は王女と現役のヘカトンケイルのメンバーだぜ?』
「フッ.....いきなりラスボスを狙うわけないだろ。 まずは他のチームを練習がてらに狩る。」
『なるほど...な、なんか行ける気がしてきたね...』
『う、うん...』
ちなみにエレメンタルは魔法の階級という概念がない為、下位魔法諸々の制限は無く、好き放題やって構わないとされている。
学生レベルであれば、ゲームのバランスが崩壊するほどの魔法はどうせ使えないからだ。
しかし光だけは例外で、セシルから先程「お前もほとほどにな」と笑顔で圧を掛けられおり、事実上は制限有りとなっている。
実際、エグゼキューターで無茶苦茶に暴れられたらゲームにならないので、当然とは言えば当然なのだが。
『で、囮って誰がやるんだ?』
「そんなもん、肉体強化できるドラグーンのお前に決まってるだろ。」
『私たちがやるわけないじゃん、馬鹿なの?』
『レットくん、女の子にそれは無いって...』
今更だが、光が属するパーティーDのメンバーは以下の通りだ。
三刀屋 光…エレメンタル(仮)
レット=マイト…ドラグーン
シズル=ハバラ…サイキック
カトレア=リルコット…ガーディアン
騒がしくて筋肉馬鹿っぽい男がレット。
元気っ子で、たまに口が悪い女がシズル。
常にオドオドしていて、見てて危なっかしいのがカトレア。
こうして見ると、かなりバランスがいいパーティーにも思える。
そうなる様にセシルが組んだというのもあるが、順応力は他と比べても高めだろう。
火力担当のソーサラーが不在だが、そこは制限有りとはいえ、光が何とかしてくれるはずだ。
「基本の動きだが、レットが囮役。カトレアさんとシズルさんはその援護。 俺は射撃と、いざという時の肉弾戦要員だ。 あとはその都度作戦を立てる、いいな?」
『オー!!!』
『が、がんばる!』
『...お前ら、囮役の俺に対する扱い酷くない?』
光の真面目な作戦会議のおかげで、即席のチームながら統率はある程度取れていた。
「これならいける」と光は手応えを感じながら、開始の合図を待つ。
――3分後ついに、その時がやってきた。
空間転移魔法を使うべく、サイキックだと思われる魔法講師、協力スタッフがぞろぞろと湧いてくる。
さすがに60人近くの生徒を一斉に転移させるとなると、それ相応の術者が必要なのだろう。
(空間転移って大変なんだな...末元の奴は一体どうなってんだ...)
鎌瀬の協力があったとは言え、100体以上の魔物を一人で転移させた末元の凄さが浮き彫りになった瞬間でもあった。
「じゃあお前ら、頑張ってこいよ。 私の賞与も掛かってるからくれぐれも他のチームに優勝は譲るんじゃないぞ。」
1-Aの生徒達に向け、最後にセシルが激励の言葉をかける。
私事が混ざっていたような気もするが、あえて誰も反応はしなかった。
『それでは皆さまご武運を...カタスティ・ポート!!』
末元が以前使っていたものと同じ魔法を使い、生徒達を一斉に森の中へと送り込む。
全員の転移が完了した時点で、ゲームスタートだ。
~森林ステージ エリア14 にて~
「.....随分遠くに来たようだな」
『おおおお!!こんなの見たら泳ぎたくなっちまうぜ!!』
『見てカトレア! なんか魚みたいなの泳いでるよ!!』
『あ、ほんとだ...』
光たちが転移した先は、色鮮やかな海が一面に広がっており、おそらくかなりの辺境だと思われる場所。
背後を警戒する必要がない為、サバイバルの開始位置としては最高と言ってもいいだろう。
「まずは本拠地を探す。 あまり時間を掛けずサクッと見つけるぞ。 その間に狙い撃ちをされない様にな。」
『三刀屋、お前ほんと真面目だな...』
「当たり前だ、俺達は遊びに来てるわけじゃない。」
『はい早速レット怒られた~!』
『う、うるせえ!お前こそ――』
馬鹿担当の二人がどうでもいいやり取りをしている中、カトレアは緊張しているのか一人黙り込んでいた。
「...カトレアさん?どうかしたか?」
自分がぼっちだったこともあり、こういう様子を見ると放っておけないのか、気を使って話し掛ける。
「あ、うん...ちゃんと出来るかどうかやっぱり不安で...私あんまり魔法上手くないし...」
「...失敗しても死ぬわけじゃないんだから、気軽にやればいい。 いざという時は俺が何かするさ。」
不慣れながらも精一杯の励ましをする。
こういうところは、光の数少ない良いところである。
「...ありがとう。 三刀屋くんって教室だと大体一人だし、今まで話したことほとんどなかったけど、優しいんだね。」
カトレアはさきほどよりも表情が柔らかくなっており、ニコりと笑いながらそう言う。
(.....一言多い気がするが、まあいいだろう)
悪気の一切ない、でも棘のある言い回しをされ苦笑いが出るものの、カトレアの緊張が少しでも和らいだのであれば結果オーライだ。
早速、ステージの探索も兼ね、潜伏先を探す一向。
『おい三刀屋、あの洞窟っぽいところはどうよ?』
レットが指差す方向は海岸のすぐ近くにある、大きな穴が目印の洞窟だ。
「...無いな。」
『な、なんでだよ、あそこなら多分誰にも見つからないぜ。』
「入口が目立ちすぎていて逆にバレやすい。 あと、会議の時にも言ったが基本的に待ち伏せはナシだ。」
『そ、そうだったな...軽率だったぜ。』
「まあ、野宿の場所としては良いんじゃないか? 先客がいたら使えないが...」
『そういえばこのメンバーで野宿するんだったね。 レット、変な気起こさないでよ。』
『ふ、ふざけんな!誰が起こすかよ!』
会話をする度に言い争いが始まる、レットとシズル。
仲良いのか悪いのか分からない微妙なラインだ。
その後しばらくの間森の中を歩き続けていると、ようやく光のお気に召す場所が見つかったらしい。
「...ここで決まりだな。」
位置は森全体の中間付近、ゆえに人の出入りが最も多いと予想される場所だ。
辺りは適度な量の草木で覆われており、敵がここを通り過ぎた際は比較的視認しやすいだろう。
だが、決して丸見えというわけではない為、逆にこちらが囮役を飛ばした際の妨害にもなってくれる。
何より、そこからほんの少し離れた位置にある高く大きな石垣。
高さはおよそ20メートル、横幅は30メートル以上はあるだろう。
この石垣こそ、光が目を付けたポイントである。
『三刀屋、なにしてんだ?』
「...まあ見てろ。」
光は例の石垣に近付き、何かを探すかのように端から端までまんべんなく見回し始める。
そして数秒後、「ふむ...」と頷いたと思えば今度は後ろに下がり、突然右手を前にかざすポーズを取った。
「こことここ...あとはあそこだな...やれ、カオス・レイザー。」
『え!!?ちょっいきなり何やってんの!?』
『おいおい!! 気合入りすぎて頭おかしくなったのか?!』
細く黒い光線が三本出現し、目の前の石垣へ向け、それぞれがバラバラの方向に発射される。
理解不能の行動に他のメンバーたちは唖然としていたが、すぐにこの意味が分かった。
「いま開けた三つの穴...ここに俺、カトレアさん、シズルさんがそれぞれ入り、この位置から遠距離攻撃する作戦で行く。」
『学院の所有物破壊するとか...めちゃくちゃだなお前。』
『でもルールにそんなの書いて無かったし、良いんじゃない? しかもなんかラクそうだし。』
「はわわ...」
光の作戦を要約するとこうなる。
①囮役のレットが自らに肉体強化魔法を掛ける
②カトレアが防御魔法をレットに上乗せし、頑丈なタンク人間を作り上げる
③レットに周辺をひたすら歩き回らせる(光とシズルの射程距離内に限る)
④その様子を見た敵がレットを遠距離から狙ってくる、もしくは普通に中~近距離から攻撃してくる
⑤敵の位置を逆探知し、敵から見えない位置...つまり石垣から光とシズルが狙撃する
⑥陣形が崩れたことを確認でき次第、レットがバッジを奪いにかかる
「――という感じだ。 何か質問がある人はいるか?」
「えっと...誰かに私たちが隠れている場所がバレちゃったらどうするの?」
「その時はその時だ。 留まってるわけにもいかないから、飛び出して戦うしかないだろう。」
「そ、そうだよね...バレなきゃいいなあ。」
「そうならない様、極力は俺が一撃で仕留めるようにするさ。」
「.....か、かっこいい!」
「は?」
光の自信に満ち溢れた態度に、カトレアは目を輝かせ感服していた。
まるで小学生が憧れのヒーローでも見たかのような、そんな様子である。
『三刀屋くん、頼りになりすぎじゃない? 軍人か何か?』
『お前、喧嘩が強いのは知ってたけどこういうのも得意だったんだな。』
「...そうでもないさ。 結局、俺はただ仮定であーだこーだ言ってるだけで、勝てる保証はない。」
『またまた~謙遜しちゃって~。 レットも見習ったら~?』
『シズル、お前はいつもいつも余計なことを....!』
「謙虚なところもかっこいい....!」
メンバー三人があまりにも素直に褒め称えるものだから恥ずかしくなる。
約一名、褒めているというよりただのファンみたいになっているが、今は放っておこう。
だが実際のところ、この作戦が本当に機能するかどうかは試してみないうちは分からない。
「――レット!静かに!」
突然、光が口に人差し指を当て、静かにしろと全員にジェスチャーを送る。
―――ガサッガサッ
遠くから確かに聞こえる、人の足音。
開始からまだ30分も経っていないが、早速獲物のお出ましだ。
四人はアイコンタクトを取り、意思の疎通する。
(じゃあ皆、定位置についてくれ! レット、頼んだぞ!)
(任せとけ!)
(了解!)
(わ、私も頑張る!)
ついに、特別授業その1 対人訓練 in 森林ステージが本格的に始まった―――




