【第41話】学校と言えば、やっぱり合宿?!
~ リザレア帝国 にて ~
一体、何年前から存在しているのだろうか。
お化け屋敷と言われたら、誰もが信じてしまうほど、ボロボロに廃れた王城らしき建物。
その建物の最深部にある、薄暗い一つの王室。
そこには、光の元クラスメイト、末元 光良と鎌瀬 弱の姿があった。
「申し訳ございません、今回も王女を仕留めることは出来ませんでした。」
片膝をついた姿勢で、自らの前に君臨する人物に、そんな報告をする末元。
一方、鎌瀬は顔面を真っ青にし息を荒くしながら、何も言わずにひたすら下を向いている。
二人がいる王室の中は、並ならぬ緊張感で溢れていた。
そして、さきほどから末元たちとは逆の方向に身体を向け、黙って王座に座っていた男。
王座がくるりと回転し、ついにその人物の顔があらわになった。
暗くてハッキリとは見えないが、普通の人間であることは間違いない。
すると、そのまま二人を見下した様に足を組み、ようやく口を開いた。
「...それほどの魔力を持っていながら、"ただ"の小娘一匹を殺すのに何をそこまで手間取っている? 」
おそろしい重圧感だった。
たったひとつ声を上げただけで、聞く者すべてが跪く。
常に冷静で卓越した判断力を持ち、クラスのブレインとも呼ばれていた末元でさえ、その迫力に圧倒されてしまう。
「お、王女の側近には少しばかり厄介な男がいまして、前回と同様、彼に阻まれてしまいました。」
「...厄介な男だと? 騎士団の連中か?」
「いえ...僕たちと同じ、異界からの転生者です。」
末元がそう答えると、謎の男は少し納得したような表情をし、王座からゆっくりと立ち上がる。
「相手が貴様らと同じ転生者ともなれば、よもや手段を選んでいる場合ではあるまい。」
「正直に申し上げますが、僕たち二人だけの力では、おそらく彼には敵いません...。」
末元は歯を食いしばり、悔しさを隠しきれない様子。
一方、鎌瀬は相変わらず黙り込んでおり、さきほどよりも更に顔色が悪くなっていた。
「まあ良い、次こそは必ず殺せ。 無論、これ以上魔物などと言った下等生物の力だけに頼るつもりもない...」
目の前の男はそう言うと、突然高笑いを始める。
「しかし、僕たちの戦闘手段は魔物の洗脳しか...それに、またあれだけの頭数を揃えるには時間が...」
「それは分かっている...だから特別に、私の戦力を貴様に貸してやると言っているのだ。」
「せ、戦力...?」
「ああ...故に失敗は許さん。 もっとも、あの部隊には"例の女"もいる...失敗などまず無いだろう。」
男は再び高笑いをし、定位置の王座に座る。
一体何がそんなに可笑しいのか。
それほどまでに、自らの戦力とやらに自信があるというのだろうか。
そして、謎の男は不敵な笑みを浮かべ、こう言った。
―――いつの時代も人間の敵は人間なのさ...なぁシルヴィア。
~フォルティス魔法学院 1-A教室 にて~
シルヴィア襲撃事件が起きてから約二週間。
学院はすっかり通常の体制を取り戻し、生徒らも充実した生活を送っていた。
FODの再開の目途こそ経ってはいないが、それ以外は元通りと言ってもいいだろう。
そして、ある日のHR。
クラス生徒達は、何かが待ち切れないと言わんばかりの顔をし、ソワソワしていた。
「えーそろそろお前らも学院に慣れてきたことだろう。 使える魔法も徐々に増えてきてはいるし、成長スピードは悪くない。」
朝のHRでは、毎日のようにセシルが手短な早朝トークを繰り広げている。
普段と変わらない光景だ。
だが、やはり生徒たちの様子が変である。
妙に楽しそうというか、期待に胸が膨らんでいる様な表情だった。
ただ一人、三刀屋 光を除いて。
「そんなお前らが更に成長する為に、今日から3日間の強化合宿をおこなう!」
『よっ、待ってました!!!!』
『FODが中止になった分、こっちを存分に楽しもうぜ!!』
『レイリス様とシルヴィア様と同じホテルに泊まるとか...ゴフゥァ!!』
ご存知の通り、光がこの世界に転生してきた原因は、飛行機の墜落事故だ。
それも、「修学旅行」の途中で。
あの日、光は嫌で嫌で仕方がなかった。
何でぼっちの俺が、修学旅行なんて...と。
そんなことを思っていたら、事故に遭い、異世界に来た。
おかげで、修学旅行という名の拷問から逃げ出すことが出来たのに。
(わざわざ異世界まで逃げてきたのに、旅行は結局行かなきゃならねえのか...)
クラスの生徒達が大盛り上がりの中、光は一人、テンションがガタ落ちだった。
「あ、当然だが他のチームも合宿所一緒なんで、くれぐれもトラブルとかない様にな。」
この合宿は唐突に決まったのではなく、毎年おこわれている大切な行事。
魔法という代物を扱う学校な以上、やはり限られた敷地内では、出来ることは少なくなってしまう。
だからこそ、広い合宿所に行き、普段は出来ない練習をするわけだ。
(...まあ、前と違って話す相手は一応いるし、我慢すっか)
シルヴィアと木乃葉をはじめとして、九条やグリフレッドなど、友人と言える間柄の人間はそこそこ増えた。
もちろん、クラスは違うがナギサもいる。
また、この間ひと悶着あったばかりの天才レイリス=ヴィルターナについてだが、実は言うとあの一件以降、光とは一言も交わしていない。
決闘で負った傷は完治しており、体調も回復している為、もうこれ以上話す必要が無いと言えばそれまでなのだが。
「んじゃーこれから早速合宿所に移動するから、荷物をまとめた奴から外で待機しててくれ。」
セシルはそう言い残して教室から出る。
周りの生徒たちは、相変わらず楽しそうだ。
そんな様子を光は呆れた目で見ながら、最速で移動の準備を終えるのであった。
(...しかし騒がしいな、さっさと出よう)
各々、仲間同士でペラペラと話している中、光は早々に教室から出る。
こういうところは、元の世界にいた時と何も変わっていない、典型的な陰キャだ。
廊下に出ると、丁度隣のクラスも移動を始めたところだったらしい。
教室の入口で立ち止まっている光の前を、ずらずらと通り過ぎていく生徒たち。
勿論、そこには1-Bに所属しているナギサの姿もあった。
そして、そのまま彼女とピッタリ目が合ってしまう。
「お、三刀屋くんじゃん、よっすー!」
「あ、ああ.....どうも。」
「一人でそんなとこに立ってどしたの? やっぱり友達いないの?」
「やっぱりってなんだよ、友達くらいいるっての.....一応。」
トワイライト神宮に訪れた時は、例の失言に始まり色々とあったが、ナギサの態度に変化はない。
一方、光は少しだけではあるが、気まずさを感じてしまっており、いつも以上に上手く会話できずにいた。
この時ばかりは、ナギサの適当さが嬉しい。
「寂しかったらナギサちゃんに言うんだぞ、いつでも相談に乗ってやるからな。」
「.....ほっとけ。」
そんなことを言いながら、笑顔でその場から去っていく。
相変わらず、"黙っていれば可愛い"を体現したような女の子だ。
(はー......俺も早く移動しよ)
光はモヤっとした気持ちを残したまま、集合場所へと向かった。
~フォルティス魔法学院 裏 搬入口 にて~
(前々から疑問には思っていたが...そう来たか)
学院から合宿所までは約20km程度と、そう遠くはない。
かと言って、徒歩で行けるほど近くもない。
日本なら、車やバスを使って移動する距離だ。
しかし、ここは「魔法が使える世界」。
技術が進歩していて、さぞかしハイテクな移動手段が用意されているのだろう。
そんな期待をしていたが、予想は悪い意味で裏切られた。
なんと集合場所には、7両ほどの馬車がズラリと並んでいたのだ。
「じゃあお前ら、適当にバラけてちゃちゃっと乗ってくれ。 特に指定はない。」
『よっしゃ俺達はあれに乗ろうぜ!』
『シ、シルヴィア様と同じ馬車に乗っちゃまずいかな?』
『やめとけお前みたいな凡人、下手したら切られちまうぞ』
1-Aの生徒らはガヤガヤと楽しそうにし、仲間同士固まって颯爽と馬車に乗り込んでいく。
光は、そんな様子を何とも言えない表情で眺めていた。
(何でここだけアナログなんだ...魔法学院っていうくらいなんだから、せめてドラゴンだろ)
どうでもいいツッコミをしている間に、ほとんどの馬車が定員に達し、それぞれ出発していく。
頼みの綱であるシルヴィアも、既にレイリスに連れられて乗車してしまっていた。
気付けば、どこにも乗っていないのは光ただ一人。
「おい三刀屋、何をぼさっとしている。 早く乗れ、置いてくぞ。」
「...うぃっす。」
セシルに注意され、馬車に乗ろうとするが、ここである問題が発生する。
まだ出発していない車両は二両。
レイリス・シルヴィアの二人グループと、木乃葉・九条・天谷の三人グループのところだ。
それ以外の馬車は既に出てしまっている。
(.....やべえ、どっちにも乗りたくねえ)
シルヴィアと木乃葉、それに九条だけなら何の問題も無い。
しかし、いま関りたくない奴No.1のレイリスと、高校時代の女王、天谷 愛華がそれぞれ乗っているのだ。
故に、どちらを取っても結構な地獄である。
「何を迷っているのか知らんが、さっさと乗れ。 じゃないと出発できん。」
「じゃ、じゃあ...こっち乗ります.....」
セシルに急かされ、やむを得ず馬車に乗り込む。
「あ、光くんこっちに来たんだ。」
「ププ.....友達いないのか? やっぱ高校時代と変わってないんだな、三刀屋。」
「お、おう...ハハハハ...ハ.....」
悩んだ末、光が選んだのは木乃葉ら三人娘のグループだった。
乗車して早々に九条から煽られるが、今はいじってくれた方がありがたいまである。
何がともあれ、ようやく学院を出発した。
(.....気まずい帰りたい腹痛い死にたい、いやほんとに冗談抜きで帰りたい)
案の定、天谷は光のことを居ない者として認識しており、一度も話し掛けてこない。
仲良し三人組、それも女子グループ中に、一人ポツンと座っている光。
これから約1時間、この四人で過ごさなければならない。
そう考えると、胃が痛くて仕方がなかった―――




