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【第4話】 ぼっちの俺が勇者とか、やっぱり有り得ない

「あの...王女殿下? そんなところで何してるんですか?」


半放心状態のような表情で、地面に三角座りをしているシルヴィアを無視するわけにもいかず、光は声を掛ける。


「....ん? ああ、あなたですか....ちょっと考えごとです。 そういえば、一応お名前を聞いてもよろしいでしょうか? まだ聞いていませんでした。」


「えっと、三刀屋 光ですけど。」


「珍しい名前をしてらっしゃるんですね。 さきほどは少し取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」



シルヴィアは少し落ち着きを取り戻したのか、スカートについた汚れを手で払い、立ち上がる。


ようやくまともな会話が出来そうだと判断した光は、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「そもそもの話、なんで俺が勇者だと思ったんですか? どう見てもただのぼっ...青年でしょ。」


「その理由ですが、大きく分けて2つあります。 一つは今は亡きクリスタという予言者が、5年前にこのような予言を残しているからです。」



"20XX/05/31 エルグラント王国へ迫りくる滅亡の危機から救う唯一の鍵、大いなる力を宿す勇者が小さな村に現れる"



「そしてもう一つ、私には周囲に居る人が持つ魔力の大きさ、強さ、傾向などを感知する力があります。」


「えっと、その2つと俺が勇者ってことに何か関係が? てか滅亡ってそんな物騒な.....」


光はこの世界に適応してきたのか、現実離れしたことを言われても特に驚かなくなっていた。



「予言に関する内容については、今は話せません。 ごめんなさい。」


(なるほど....俺が勇者じゃないって分かったから、部外者に内部事情は話せないって感じか)


実際、国一つが滅亡するしないの話を一般人に話せるわけもないだろう。



シルヴィアはそのまま説明を続けた。


「私は1時間ほど前に、このマール村で魔力感知の力を使用し、今まで感じたことが無い様な、とてつもなく大きな魔力の持ち主を見つけました。」


「......それでこの村に突然現れた俺をその予言で言ってた勇者だと仮定したわけか。 一応辻褄は合ってるけど...」


予言にあった今日という日に、小さな村で大きな魔力を持つ人物が現れる。


確かに、三刀屋 光という存在とその条件は、それとなくハマってはいる。



しかし、これら2つだけの情報では確信には至らないだろう。


この世界にはきっと、似たような小さな村は無数に存在するはずだ。


こことは全く別の小さな土地に、高い魔力を持った人間がいる可能性なんていくらでもある。



「そもそも、"小さな村"なんて他にもありますよね? 何故ここに限定しているんですか?」


「数日前から不可思議な魔力変動が起きている地点がいくつかあり、それらの内のいずれかに勇者が現れると、私はまず睨みました。」


光は「不可思議な魔力変動って何?」と突っ込みたくなったが、話の腰を折らないように黙っておく。



「そして、魔力変動が起きた9つの地点のうち、唯一このマール村だけが小規模なエリアでしたので、消去法でここに来るしかなかったのです。」


「言いたいことは分かるけど、それ結構な博打じゃ.....?」


予言自体が曖昧な内容であるため、シルヴィアとしてもここに来たのは1つの"賭け"だったのだろう。



「おっしゃる通り仮定でしかありませんが、あなたほどの魔力を持つ人が他にいるとも思えません。 ですが―――」


「彼は魔法のことを1ミリも理解していないただの馬鹿だった。 だからこの人は勇者じゃない。 私はこの先どうすればいいんだろう.....ってところか。」


光はシルヴィアが次に言おうとしていたことを察し、自ら代弁する。


「はい.....それでこの結果をお父様になんと報告したらいいか分からず、あそこで唸っているところでした。」


(あっ、ただの馬鹿って思ったところは否定しないんだ.....)



シルヴィアは、本日中が期限だった仕事を終業時間直前に思い出したかのような、絶望的な表情を浮かべる。


「それで、殿下はこれからどうするんですか? 王様のところに戻るんですか?」


「情けない話ですが、今は帰る勇気がありません。 一応報告は2日後の予定なので、まだ帰る必要はないんですけどね.....」


落胆するシルヴィアを見て、心がグングン痛くなってくる光。


光に直接的な原因があるわけではないが、結果的に自分という存在のせいで困っている人を見て、少なからず責任を感じてしまっているのだろう。



気まずい雰囲気を打破しようと、光は無理矢理に口を開いた。


「お、俺、実はお金が一銭も無くて、これから簡単なクエストを受けようかなーって思ってるんですけど.....よ、良かったら一緒にどうですか?」


苦し紛れに、光はらしくない、あまりにも不慣れな提案をしてしまう。



(......コミュ障の癖に何言ってんだ俺! つーか王女をクエストに連れ回したりなんてしたら、俺処刑されるんじゃ...)


自分が言ったことの意味をあとから理解した光は、冷や汗が止まらない。


勿論、女の子と二人で行動するなんてイベント、ここ数年では一度たりとも無い。



「......クエストですか。 まあバレなければ問題ないので、気分転換にぜひご一緒させてください。」


「......まじですか。」


予想外の返答に戸惑う光だったが、自分から誘った以上、ここで引くわけにはいかない。



「ア、ジャア早速、クエスト受注シニ行キマショウカ、殿下。」


数時間前までぼっちのスペシャリストだった光は、緊張のあまりカタコトになっている。


女の子どころか、家族以外の誰かとまともに会話すること自体、本当に久しぶりだった。


「ふふっ、今は殿下とかシルヴィアじゃなくて、そうだなー.....ルーナって呼んでください。 あと、敬語は使わなくても構いませんよ。」


「あ、はい、ルーナさ.......ルーナ。」



高校2年間ぼっちであり続けた光にとっては、あまりにも難易度が高いこの状況。


緊張で顔を歪めつつも、シルヴィアと二人でクエストの受注に向かった―――

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