【第39話】決着。そして...
「我が剣技...受けてみろ!!!」
男同士の殴り合いに御託など必要ない。
遠距離の魔法戦から打って変わり、今度は剣を用いた近距離戦が繰り広げられていた。
レイリスは炎の翼を活かし、高速で上空から切りかかる。
(クッ...さすがに慣れてるな...こいつ)
「フハハハハ!! まだまだいくぞ!!!」
不慣れながらも、レイリスの猛攻をなんとか凌ぐ光。
スポーツに例えるなら、ガチの初心者とトッププロが試合している様なものだ。
そもそも光は、人対人の戦闘自体の経験が乏しいわけで、本来なら10秒も持たないだろう。
しかし、何故か光は上手い具合に対応できていた。
「確かにガッチガチの現役軍人って感じの強さだ、悔しいが認めてやろう。」
「...余裕をかましてられるのも今のうちだぞ。」
やはり剣術に関しては、レイリスの方が圧倒的に上だった。
幼い頃から叩き込まれたその腕は、まさに芸術。
完成されたフォームと無駄のない動きから繰り出される、高速斬撃。
無論、速さだけでなく一発一発がとんでもなく重い。
並の相手なら何も出来ずに瞬殺されてしまうほど、レイリスは強かった。
そんな猛者中の猛者を相手にして、なぜか素人同然の光が互角の戦いをしている。
それには理由があった。
実は、光はコッソリと魔法で身体能力を上げていたのである。
通常、肉体強化系の魔法を使えるのはドラグーンだけだが、例のごとく光はイレギュラー。
それはもはや、見方によっては"ズル"だった。
これもスポーツで例えるなら、超強力なドーピングみたいなものだろう。
このパンプアップによる差は思ったよりも大きいものであり、徐々に試合の流れが変わっていく。
「くっ...何故この男は剣術まで...」
「どうした、動きが鈍ってきてるぞ。」
レイリスはただでさえ消耗しているというのに、相手は反則級の強化人間。
たとえ技術で大幅に上回っていようと、その差はあまりにも厳しいものだった。
「隙あり...ソラッ!!」
レイリスが体制を崩した所を見逃さず、ついに黒き刃が腹部に直撃。
「グハッ......ま、まだだ.....」
通常状態なら、この一撃で終わっているだろう。
しかし、桁外れの再生能力を持つレイリスは即座に回復し、再び攻撃態勢を取る。
「...ゾンビか、お前。」
「不死鳥だ、二度と間違えるな。」
とはいえ、その姿は初めの頃よりも弱々しくなっている。
身体を覆っていた炎の量も少なくなってきており、人間の姿へと戻りかけていた。
その後も、何度も斬られては再生を繰り返すレイリス。
気付けば、炎は完全に消滅していた。
「もうやめとけよ...マジで死ぬぞ。」
「...どの道、僕はもう助からない。」
「...は?」
レイリスの発言に耳を疑う光。
「この魔法を使った者は、最後には必ず死ぬんだ...見てれば分かるだろう?」
「洒落になんねえぞ、それ...」
そしてついにレイリスは魔力を使い果たし、その場に倒れた。
慌てて声を掛けに行く光。
「お、おい! 大丈夫か!」
「まさかこれを使っても勝てないなんて...これが勇者というやつの力なのか。」
「そんなこと言ってる場合じゃねえだろ...」
倒れたレイリスを見かねて、立会人を務めた四人もフィールドにやってくる。
「レイリス...お前の勇士、確かに見届けたぞ。」
「負けはしたが、見事であった。」
まずはダグラスと国王がそう声を掛ける。
(このおっさん達、何でそんなに冷静でいられるんだ?)
目の前で部下が死にかけているのにも関わらず、普段と至って変わらない二人を見て、光は少しばかり苛立ちを覚える。
軍人だから慣れてるとか、そういう問題ではないはずなのに。
「申し訳ございません...僕は...」
悔しさのあまり、涙を流すレイリス。
生まれた時から天才と呼ばれ、ヘカトンケイルに入団してからも確かな実力を示してきた男だ。
彼がNo.1の座に君臨する日もそう遠くはなかっただろう。
そんな男が一対一で完敗することの重さは、本人が一番よく分かっている。
「レイリス...どうしてこんなことを! すぐに回復魔法を――」
シルヴィアは腰を下ろし、レイリスに回復魔法を唱えようとする。
「この魔法の代償...君も知っているだろう? 無駄だよ...」
「それを分かっていながら...なぜ!!」
「フフ...こうでもしないと...また君を―――」
―――スッ
何かを言いかけていた様だったが、力尽きたレイリスはついに両目を閉じてしまう。
「...!!!」
すぐさま呼吸を確認するシルヴィア。
対して、やはり動揺する素振りは見せず真っ直ぐに、レイリスを見るダグラス。
首を横に振り、遺憾の意を表したような顔を見せる国王。
まだかろうじて息はあるようだが、長くは持たないだろう。
「レイリス...目を覚まして...!」
シルヴィアは希望を捨てておらず、回復魔法を何度も掛け続ける。
「こんなことって...」
この場で最も"普通"な存在の木乃葉は、まだ目の前で起きたことを受け入れられていない。
しかし、光だけは不自然なくらいに冷静だった。
それは、ただ単にレイリスが嫌いだったからとか、そういった理由ではない。
「ムカつく奴だけど、さすがに死なれたら後味が悪い。」
「...え?」
光の意味深な発言に、魔法をかける手を止めるシルヴィア。
「何をするつもりだ、勇者殿。」
「少しばかり俺の生命力をこいつに分けてやるだけさ。」
「なんだと? そんなことが――」
突拍子もない発言に疑いの目を向けるダグラスだが、光はそれを無視。
「吸え...ブラッド・ドレイン。」
光の背中から気色悪い手が数本出現し、そのまま光の胸を貫く。
「グゥッ!!.....分かってはいたけど、やっぱ痛え...」
「光さん、その魔法は.....」
これは以前、末元の襲撃を受け、光が瀕死状態に陥った際に使った魔法だ。
対象から生命力なるものを吸収する効果を持つが、どうやら自分以外の人間にも使えるらしい。
とはいえ、今のレイリスは死と隣り合わせの状態である。
回復魔法に長けたシルヴィアでも助けることが出来ないほど、深刻なダメージを負ってしまったのだ。
神の力でも借りない限り、レイリスが生き延びることはないだろう。
それほどまでに、「ソウル・ジ・フェニックス」を使った代償は大きい。
しかしそれは、この世界における"常識"の範囲内で考えた時の話に過ぎなかった。
「不本意だが...受け取れ、クソ野郎。」
光は、自らの胸に突き刺さっていた黒い腕たちを一斉にレイリスの身体へと差し込む。
やっていることは正義のヒーローだが、表情はやむ無くといった感じである。
理由があるとはいえ、何度も挑発してきた相手を助けるなんて、誰だって気乗りはしないだろう。
「こんな魔法が存在していたとは...陛下、彼は一体何者なのでしょうか?」
目の前で起きている奇妙な光景を見て、さすがのダグラスも驚きを隠せない。
国を守る騎士として、幾度となく前線に立ってきた男でも目にしたことがない魔法だ。
これならもう、奇跡が起きてもおかしくない。
この場にいる誰もがそう感じ始めた。
レイリスの胸に黒い腕が数本挿入されてから10秒ほど経過した所で、光は魔法を解除した。
「ふぅ...まあこんなもんでいいだろ。」
まだ意識こそ戻っていないが、先程より呼吸が安定している。
「なんという回復力だ...信じられん。」
この状況を見て、ダグラスは驚きのあまり口が開いてしまっていた。
「光さん、レイリスは助かるのでしょうか!?」
「ああ、この状態ならそのうち目を覚ますはずだ...絶対安静だけどな。」
「ほんとですか?! 良かった...本当に...」
光から朗報を受け、シルヴィアは安堵の表情を浮かべる。
(...まあいいか)
嬉しそうな彼女の様子を見て少し複雑に思う光だが、人を助けたこと自体に悪い気はしなかった。
「陛下、勝負はついたんで俺たちはこの辺で失礼します。」
「う、うむ...試合の内容から何まで、驚くことばかりであった。」
「別に大したことはしてないっす。 それより、さっきの妙な魔法は二度と使うなってあいつに言っとかないと、そのうちマジで死にますよ。」
「ああ...念頭に置いておこう。」
例の魔法については、直接対峙した光としても思うところがあったのだろう。
単なる野試合に命を懸けられてしまっては、対戦相手はたまったものではない。
今後何かしらの指導が入ることを祈り、光は遠回しに国王へ注意をした。
「悪い木乃葉、随分待たせたな。 寮に帰ろう。」
「え?! あ、うん!」
突然の呼びかけにビックリしつつも、木乃葉は国王らに頭を下げてから光のあとを追う。
試合に勝利し、レイリスも一命を取りとめることが出来た。
光がここに居る意味はもう無い。
シルヴィアとも、今はこれ以上話す空気でもないので、光は早々と立ち去ろうとする。
そんな時、ダグラスが光を呼び止めた。
「お待ちください、勇者殿。」
「...あ?」
ダグラスは何とも表現しにくい顔で光を睨む。
怒り、妬み、喜び、悲しみ、驚き、不安。
どれにも当て嵌まらない、複雑な表情。
その裏には、一体どのような感情が隠れているのだろうか。
しかし、そんな表情も束の間、今度は一変して真面目な顔で話し始めた。
「この度はうちの団員がご迷惑をお掛けしました。 どうかお許し頂きたく存じます。」
仕事でミスをした部下の責任を上司が取るような絵面で、ダグラスは謝罪する。
光としては、ここで上手に出れば、今後の生活を色んな意味で有利に働かせることが出来るだろう。
だが、今回の一件はレイリスが悪いとか悪くないとか、そういう話ではない。
両者共に譲れないものがあり、お互い納得の上での決闘だった。
それは光も十分理解しており、別にレイリスを責めるつもりもなかった。
「別にそういうのいいんで。 では.....」
そうとだけ言い、光は木乃葉と共にその場から去っていく。
「......」
そんな光の後ろ姿を見るダグラスの目は、一言では表せない、やはり妙な感情を含んでいるように見えた。
「天才」と「イレギュラー」、ある意味対象的な二人の対決だが、終わってみれば光の圧勝で幕を閉じた。
当初のルール通り、光がレイリスの配下に付くという提案は現時点では白紙に。
今回の完敗によって、レイリスの心が折れたのかどうかは定かではないが、しばらくは絡んでこないだろう。
しかし、挫折というものを味わったことが無かったレイリスにとって、この敗北は様々な面でプラスに働くはずだ。
そしてこの度の結果は、光の今後の異世界生活にも様々な面で影響が出てくることになるのであって―――




