表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/103

【第38話】勝利、ただそれだけの為に

「もう負けを認めろ、死ぬぞ。」


地面に倒れ込むレイリスに、降参するよう促す光。


誰が見ても絶望的な状況だが、それでもまだ、彼の目には戦意が残っていた。



天才と呼ばれ続けてきた彼にしか分からない意地があるのだろう。


とはいえ、このままでは試合どころではない。


本来なら、立会人でありジャッジの権利を持つダグラスがすぐにでも止めるべきだ。



しかし、ダグラスにその様子は見られない。


それどころか、観戦用の席から飛び出し、大きな声でレイリスに呼びかけた。


「レイリス! "アレ"を使え!! 私が許可する!」


試合が終幕を迎えようとしていた所で、突如飛び交った意味深な発言。


(...あのおっさん、急に何を言ってんだ?)


何か隠し玉でもあるのかと、光は念のため警戒態勢を取る。



一方、レイリスはこの絶望的な状況において、何故か笑っていた。


「フフ...まさかこの魔法を使うことになるとは...情けない。」


残された数少ない力を振り絞り、立ち上がる。


「認めよう...君は強い。 僕にここまでの傷を負わせたのは君が初めてだ。」


「それはどうも。 で、まだやる気か? やめといた方がいいと思うが。」


「ヘカトンケイルの一員...それもNo.3として、そう簡単には負けられないんだよ。」



(あれか、スポーツ強豪校の部員は野試合でも負けを許して貰えないとか、そういう話か)


どれだけ言っても降参する素振りを見せないレイリスに、光は呆れ気味に溜め息をつく。


誰かどう見ても、これ以上戦える状態ではない。



だが次の瞬間、レイリスの目つきが鋭く変わる。


そして、残った魔力を全て解放し、何やら長めの詠唱を始めた。


「――我が魂を喰らえ...ソウル・ジ・フェニックス」


全身から溢れんばかりの炎が広範囲に放出され、それら全てが一斉に上空へと駆け上がる。



すると、今度は舞い上がった炎の群れが、スコールのようにレイリス身体を目掛けて降り注いだ。


「な、なんだあれ...」


今までの魔法は明らかに雰囲気が違う為、ここまで試合を優位に進めてきた光にも動揺が見られる。



「グアァァァァァ!!!!!」


その光景はもう、「焼かれている」と表現した方が正しいだろう。


傍から見れば自爆をしているようにしか見えない。


「あの魔法はまさか...ダグラス団長、早く止めないと!!!」


今まで静かに見守っていたシルヴィアだが、ここにきて急に焦りを見せる。



「...殿下、それはできません。」


「なぜですか?!」


「ここで止めれば、あいつの覚悟を踏みにじることになるからです。」


「そんなこと言っている場合じゃ...」


ダグラスが聞き耳を持たないと分かったシルヴィアは、立て続けに国王に言う。


「お父様、いくらなんでもあの魔法は!!


「レイリスは1人の人間である前に"戦士"。 我々にそれを止める権利は...無いのだ。」


迷う素振りを見せずにそう言い切った国王だが、その表情は心なしか切なそうにも見えた。



「お二人が止めに入らないのなら、私が――」


頼りにならない男二人を見かねて、シルヴィア自ら止めに行こうと席を立つ。


だがしかし、そんなシルヴィアの腕をダグラスは無言で掴み引き留めた。


「...放してください、団長。」


「殿下、さきほど話したことを聞いてなかったのですか?」


「くっ...いい加減に――」


「それに、もう手遅れです。」



ダグラスの視線の先を見ると、既にレイリスは今までとは異なる姿へ変化していた。


フェニックスという名の通り、全身が炎に包まれ、背中には翼が生えている。


辛うじて、右目だけは微かに視認できるものの、それ以外は全て炎。


人の型こそ保っているが、元の身体の部位はほぼ見えない。


そして何より驚くのは、負っていた傷が完全に回復していること。



「そ、そんな...」


「あれを使ってまで目の前の勝利を掴みに行った、彼の勇気を称えてあげましょう。」


怪異的な変化を遂げたレイリスを見て、目の中に絶望の色がうつろうシルヴィア。



ソウル・ジ・フェニックスとは、火属性最強クラスのエンチャント魔法である。


使用者は一定時間、無限の再生能力を得ると共に、大幅な火力アップの効果まで兼ね備えた上位魔法だ。


「クク...アレをまともに扱えるのは、この世でレイリスくらいのものだろう。」


ダグラスは頬を伝う汗を拭いながら呟く。



無論、そんな強力すぎる魔法にデメリットがないわけもない。


今のレイリスは、自らの魔力と引き換えに、その神のごとき力を得ている状態である。


それだけなら特に問題はないが、この魔法には大きな欠点がある。



それは「一度発動したら解除できない」こと。


発動したら最後、使用者は魔力が尽きるまで、不死鳥に吸われ続けてしまう。


つまり彼は今、己の魂を捧げているも同然なのだ。



「最高の気分だよ、三刀屋 光...これなら君にも勝てる。」


まともな状態とはお世辞にも言えないレイリスの姿に、光は戸惑ったままだ。


「おい、その魔法明らかにヤバいやつだろ。」


「...僕は勝たなければ意味がないんだよ。」


「当初の目的を忘れたのか? お前が死んだら意味ないだろ。」



元を辿れば、「レイリスの配下に光を置く」ことが目的だったはずだ。


しかし今のレイリスはもう、目の前に立ちはだかる男を倒すことしか考えていなかった。



残された時間は少ない。



一秒でも早く決着をつけるべく、レイリスは特大の魔法を放つ。


「いくぞ! ツヴァイ・エクスプロード!!」


「この魔法は確か...」


実技の授業でクラスメイト達に堂々と見せつけた、火属性の上位魔法だ。


ただ、今回はあの時より圧倒的に詠唱が早く、威力も大幅に増していた。



「まずい...カオス・ディフェンダー!!」


攻撃範囲が広すぎて避けきれないと判断した光は、咄嗟に防御魔法を唱える。


「ハハハハハハッ!!!!!どうだ!!!」


「くっ...」


何とか盾の生成が間に合い、炎を受け止める光。


しかし、フェニックス状態のレイリスの魔法は、想像以上に強力だった。



「そんな盾で...僕の魔法を防げると思うなァァァ!!!!」


レイリスの気合と共に威力は更に上昇。


ついに、炎を食い止めていた盾に亀裂が入った。



「なっ.....!」



いまだかつて、光の魔法に正面からぶつかり、競り勝った者はいない。


それどころか、不意打ち以外でまともなダメージを受けたことは一度もたりとも無い。


エグゼキューターを扱える様になってからの光は、まさに無双状態だった。


しかし今この瞬間、その絶対的な牙城が崩されようとしていたのだ。



「うおおおおおおおお!!!!」


大きな爆発音と共に、ついにカオス・ディフェンダーが粉砕される。


盾を失った光は、完全に無防備な状態になってしまった。



「...クソッ――」


「終わりだ!!! 三刀屋 光!!!!」


レイリスの魔法は光のすぐ目の前まで迫ってきている。



「やれ! レイリス!!!」


「光さん、逃げてください!!!」


ダグラスとシルヴィアは、それぞれの思いの丈を言葉にして叫ぶ。



「いけええええええ!!!」


レイリスの咆哮の直後に巻き起こる大規模の爆発と激しい衝撃音。


おそらく、ツヴァイ・エクスプロードが光に直撃したのだろう。


いくら光と言えど、もう立ち上がることは出来ないはず。


というより、あんなものをまともに食らう様なことがあれば.....




――――待っているのは、死のみだ。




「ハァハァ...やったぞ...僕が勝ったんだ...!」


「フハハハハッ!!...よくやったレイリス!!!」


自らの勝利を確信し、各々歓喜の声を上げるレイリスとダグラス。



「光さん...うそ...」


シルヴィアは顔を手で覆い、目の前で起きた光景が信じられないといった様子で膝から崩れ落ちる。


木乃葉に至っては試合が始まってからずっと驚きっぱなしで、こうした今も、何が起きたのかさえ分かっていない。



数秒経つと、爆発によって起きた煙が全て流れていった。


そして、フィールド全体を見渡しても、やはり光の姿は無い。


レイリスによって、跡形もなく消し去られてしまった。


この状況を見て、誰もがそう思っただろう。



しかし、その予想はいとも簡単に覆される。



「あれは...まさか....」


爆発が起きた方向と、真逆の位置。


そう、レイリスの背後には、一人の男が立っていた。



その姿を見るや否や、茫然たる顔で叫ぶレイリス。


「なぜ君がそこにいる...三刀屋 光!!!」


「とんでもない威力だったが......惜しかったな。」



光は生きていた。


またしても無傷で。



「馬鹿な! なぜだ?! 直撃したのを私は見たぞ!!」


「ほっ...」


胸をなでおろし安堵するシルヴィアと、目の前の光景が信じられず混乱するダグラス。



「あの状況からどうやって抜け出した?!」


「ダーク・サクリファイス.....お前が焼き殺したのはただの身代わりだ。」


ダーク・サクリファイスとは、己とそっくりの分身を生成する魔法だ。


基本的には、相手を錯乱させたり生贄等に使うらしい。



「身代わり...そんなものいつの間に?!」


「お前、もしかして馬鹿か?」


「なんだと...」


「詠唱にあれだけ時間が掛かってるのを見たら、その間に何かしらの手は打っておく、当然だろう。」



レイリスが詠唱を初めてからフェニックス状態に移行するまで掛かった時間は、およそ10秒。


確かに、光が魔法を唱えるには十分すぎるほどの時間である。



つまり、ツヴァイ・エクスプロードを放つずっと前から、既に偽物と入れ替わっていたのだ。


光の用心深さが功を称したと言えば聞こえはいいが、この男、あまりにも空気が読めない。


もっとも、姿を消して相手の背中に回り、刃物で刺すといった暗殺的戦略を使ってる時点で、それは分かってたことであったが。



「.....僕はやっぱり君のことが嫌いだよ、三刀屋 光。」


「嫌われることに関しては自信あるからな。」


「まあいいさ...作戦を変更しよう。」


ここまで、全力の魔法をことごとく防がれてしまった為、遠距離での打ち合いでは勝機が薄いとレイリスは判断する。



「ヒート・ブレイカー」


腰に掛けていた剣を抜き、火属性魔法をエンチャント。


無限の再生能力を盾に接近戦を仕掛けるつもりだった。



ご存知の通り、剣術に関して光はド素人である。


対してレイリスは、小さい頃から毎日血の滲むような訓練を続けてきた男だ。


近距離戦に持ち込めばレイリスの圧勝だろう。


普通なら、光としては変に付き合わずに距離を取り、今まで通り戦うのがベストである。



しかし、むしろ光は嬉しそうな顔をし、敢えて誘いに乗ってきた。


「剣か.....それならこっちも"ブラッディ・クロス"でいかせて貰おう。」


例の襲撃事件においてSSS級の魔物を幾度となく葬った漆黒の刃を生成する。



―――さあ、ここからが本番だぞ...三刀屋 光!!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ