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【第36話】天才VSチート、ついに実現

光と木乃葉がカフェから出ようとした、その時だった。


レイリスとシルヴィア、二人との交流会を計画していたグループが続々と店へと入ってくる。


もちろんグループの中には、フードを被ってカモフラージュしたシルヴィアの姿もあった。



「あ、クラスの皆だ。 そういえば、皆で交流会するって言ってたけど、ここでやるんだね。」


「.....そうらしいな。 俺達はさっさと出るぞ。」


「え? 私、声くらいは掛けてこようかなって思ったんだけど.....同じクラスだし。」


「いいよそんなの、早く出るぞ。 急げ木乃葉.....いやマジで急いで。」



光は何らかの危険を察知し、早々に店から出ようとしている。



彼はおそらく、クラス内カーストの低い人間が最も嫌う、「アレ」を危惧しているのだろう。



陽キャというのは不思議なことに、学校以外の場所で遭遇すると普段より面倒臭さが倍増する。


カラオケルームに無理矢理乱入してきたり、度が過ぎた無茶振りをしてきたり、その場のノリによっては金銭を要求してきたりと、とにかく鬱陶しい。


アレをされると、絡まれた側の人間は心の底から不快になり、テンションも一瞬にして最低値まで下がる。


最悪の場合、そのまま解散なんてことも。



つまり、ここで彼らに見つかってしまえば、ほぼ間違いなく面倒臭いことになるわけだ。


(何としてでもあいつらにバレずにここから去らないと.....)



幸い、交流会メンバーの方はまだ光たちには気付いていない様なので、逃げるなら今しかない。


「よし、会計も準備万端だ! いくぞ木乃葉――」


光は一秒でも早くこの場から去る為、急いで席を立つ。


しかし、神様というのは悪戯が好きな生き物だ。


人間から崇拝される立場にありながら、時には平気で人間を陥れる様なジャッジを下すことがある。



「ア"ッ」



その瞬間、店内に大きな床衝撃音が響き渡った。



シーン――――



店内の客は一斉に静まり返り、流れる様に今度は衝撃音が鳴った方向に視線を移す。


そこにはうつ伏せで倒れている、一人の青年がいた。



「ひ、光くん! 大丈夫?!」


すかさず木乃葉が心配の声をあげる。



無情にも光は、勢いよく飛び出しすぎたせいで椅子の脚に躓き、盛大に転んでしまったのだ。



『お客様、お怪我はありませんか?!』


「あっはい...大丈夫です...むしろすいません...はい...」


今日ばかりは、店員さんの優しさがとてつもなく痛い。



(これ、やっちまったな.....色んな意味で....)


他の客は気を使ってくれたのか何事も無かったかのように振る舞っており、気付けば、事が起きる前の状態に戻っていた。



しかし、これほどのインパクトを起こしておいて、奴らが反応しないはずもない。


『おい、今転んだ客...あれ三刀屋じゃね?』

『うわほんとだ、ウケる。』



まさかの、というか、やはりというべきか。


残念なことに、交流会のメンバーに存在を気付かれてしまっていた。


『三刀屋ドンマイ! そういう時もあるって!(プププ』

『つーかお前もこの店に来てたのかよ! って、風見も一緒...だと...?』

『ねぇねぇ、もしかしてあの二人デートかなぁ...?』


クラスの連中が、揃いもそろって騒がしくしながら寄ってくる。



(まあこうなるよな....)


光はあからさまに嫌そうな顔をしつつも、顔を合わせた手前、一応返事はしておく。


「ほっとけ。 いいからお前らは早く交流会始めろよ、シルヴィアだっているんだろうが。」


そう返すと、レイリスが胡散臭い笑顔をしながら話に入ってくる。


「せっかく会ったんだから、君も一緒にどうだい? 風見さんもほら。」


「え、でも今日は...」


木乃葉を誘っているのは本心かもしれないが、光に対しては一ミリもそう思っていないだろう。



勿論、そんなことは光も分かっている。


(.....誰が参加するかバーカ)



光は、いま思ったことをオブラートに包んでから声に出す。


「悪いけど俺達は――」


そう言いかけたところで、今度はシルヴィアが割って入ってきた。



「わ、私も、光さんと木ノ葉さんが参加してくれると嬉しいです!」


シルヴィアは何故か少し焦った様子でそう言った。



「そ、そうだよ三刀屋くん、シルヴィア様もこう仰っているだろう....?」


(おっと、自慢のスマイルが崩壊しているぞ、レイリス=ヴィルターナ。 鏡を見てきたらどうだ?)


分かっていたが、やはりこの男は光を本心から誘っているわけではなかったようだ。



「せ、せっかく会ったのですから一緒にやりましょうよ!! うん、それがいい! あと、えっと....そうだ! あれから実は私も、結構このお店利用してますので、おすすめのメニューとか知ってますよ!!」


シルヴィアは必死に説得を続ける。


そこまでして二人を誘う理由は分からないが、シルヴィアの勢いに釣られ、他の連中らも乗ってくる。



『いいから来いって三刀屋! 飲み物くらいなら奢ってやるから!』

『お前は根暗だけど悪い奴じゃないって皆知ってるから! な?』


ガヤガヤと騒ぐクラスメイト。



「木乃葉ちゃんだってレイリス様とお話したいでしょ? ほら、いくよ!」


ここにきて、ついに女子生徒の一人が、木乃葉の左腕を取って半ば強引に連れていこうとする。


「へ? あの、私は――」



しかしその直後。


今度は別の誰かが彼女のもう片方の腕を掴み、グッと力強く引き留める。



木乃葉が後ろを振り返ると、そこには笑み一つない冷めた表情で立っている光がいた。


「.....俺たちこの後予定あるから、悪いな。 また誘ってくれ。」


彼にしては珍しく、ハッキリと断りの台詞を吐く。


単純にクラスの連中が鬱陶しいからというのも勿論あるが、幼馴染との時間を邪魔されたくないという想いがあったがゆえの、割り切った行動だろう。



ここまでハッキリと言われれば、クラスメイトたちも引き下がるほかない。


『そ、そっか! じゃあまたな!』

『こ、木乃葉ちゃんもばいばーい!』


幸い、話の分かる奴が多いクラスなので、拒む二人をしつこく誘うようなことはしなかった。



「木乃葉、いくぞ。」


「う、うん! じゃあ皆、またね!」


木乃葉は少し申し訳なさそうにしながらクラスメイト達に手を振り、別れの挨拶をする。


一方、光は振り返ることすらせず、淡々と支払いを済ませ店から出ていった。


彼に親しい友人が中々出来ない理由は、こういうところにもあると思う。




その後は予定通り交流会が始まった。


クラスメイトらはこれまで以上に騒ぎまくる。


『店員さん、ビリビリするやつ5本追加!!』

『いや10本追加で!』

『いやいや20本だろ!!!』


この世界には、酒と似たような高揚効果を持つ飲み物があり、15歳以上から飲用可能だ。



開始から30分、その効果で参加者のテンションはMAXに到達する。


『レイリス様って、好きな女性のタイプとかありますか?!』

『シルヴィア様、もしよかったらデバイサーの連絡先を.....』


レイリスには女性陣から、シルヴィアには男性陣から様々な質問等が飛び交い、盛り上がりは絶頂。



「好きな女性のタイプか、そうだね...考え方が大人な人が好きかな。」


普通ならNGにされそうな質問にも、気さくに答えてあげているレイリス。



対して、シルヴィアはある程度の相槌や返答はしているものの、終始どこか寂しそうな表情をしていた。



そんな彼女を見て、レイリスはグラスを持ったまま席を移動し、声を掛けにいく。


「シルヴィア様、どうかしました? 退屈でしたでしょうか?」


「へ?......いえ、大丈夫です、とても楽しいですよ。」


「......それなら良いのですが。」


そうは言うものの、やはり本調子ではない様に見えた。



何がともあれ、交流会は着々と進んでいき、あっという間に解散の時間がやってくる。


「皆、今日はありがとう。 とても楽しい時間を過ごすことが出来て嬉しいよ。」


『こちらこそありがとうございました!』

『来週からもよろしくお願いします!』


レイリスが簡単な挨拶を済ませると、シルヴィア以外の参加者は各々がそれぞれの帰る方向へと散っていった。



「ではシルヴィア、城まで送っていくよ。」


「.....はい、お願いします。」


光たちと別れてから、シルヴィアはずっとこんな調子だ。


光と木乃葉の二人が参加してくれなかったことを悲しんでいるのか、他の理由があるのかは分からない。



これまで彼女の異変をさりげなく気に掛けていたレイリスは、試しにこんな質問をしてみた。


「.....やはりあの男が気になるのかい?」


「いえ別に光さんがどうとかではなくて...」


「フフ、僕はまだ"あの男"としか言ってないよ。」


「え?! あっ.....」


シルヴィアは「やってしまった」と言わんばかりの苦い顔をし、二人の間に少しの沈黙が流れる。




「正直なことを言うと、僕は彼を良くは思っていない。」


「.....何となく察してはいましたが、やはりそうでしたか。」


「ぽっと出の学生が勇者なんて、冗談もいいところだ。 他のヘカトンケイルのメンバーだってきっと同じ様に思っている。」



確かにレイリスの立場からしてみれば、光の存在は心底気に食わないだろう。


古くからエルグラント王国を支え続けてきたヘカトンケイル。


そんな彼らを差し置いて、唐突に出てきた「勇者」などという異質な存在。


それも、王女殿下と国王陛下が直々に指名したと言うのだ。


レイリスを含め、関係者らが光の存在を不快に感じるのも無理はない。



このレイリスの主張に対し、シルヴィアは珍しく少しムキになって反論する。


「光さんの力が本物であることは私が一番良く知っています。 勇者に相応しい力を持つお方は、私が知る限り光さんだけです。」


「何をそんなに怒ってるんだい? 綺麗な顔が台無しだよ、シルヴィア。」


レイリスは得意のイケメンスマイルでシルヴィアをなだめようとするが、効果はない。



「私は事実を言ったまでです。 もう遅いので、今日は1人で帰りますね。」


完全にお怒りモードに入り、その場から去ろうとしたシルヴィアをレイリスは引き留める。


「1つだけ聞きたいんだけど、いいかな?」


「.....何でしょうか。」


次に飛んでくる質問が何なのか、シルヴィアは既に分かっていた。



二人の間に緊張が走る。


二秒、いや三秒ほどの沈黙を経た後、ついにレイリスの口が開いた。



「.....この僕と勇者の彼、君はどちらが強いと思う?」


多くの人で賑わい熱気にあふれている王都において、唯一この瞬間、この場所にだけひと際冷たい夜風が吹く。


フードからチラリと見える二人の長い髪が、ひんやりとした風に揺らされているのが見えた。



レイリスからの質問に、シルヴィアはなかなか答えを返さない。


きっと答えは決まっているはずだが、彼女としても様々な想いを抱えており、口に出すのを躊躇しているのだろう。



「そんなに迷うことかな? 少し考えれば分かることだろう。」


黙り込んでいるシルヴィアに、答えを促すかの様に追い詰めていくレイリス。



「答えれないってことは、僕の方が―――」


「.....直接対決なら、光さんに分があるでしょう。」


「へぇ.....真面目な君にしては、珍しく面白いことを言うんだね。」


シルヴィアから出てきた答えを聞いたレイリスは薄ら笑いが止まらない。



「それは僕がヘカトンケイルのNo.3だと知っての発言かい? だとしたら.....あまりにも愚かだ。」


「......」


「君はもう少し頭が良い子だと思っていたんだけどね...残念だよシルヴィア。」


「私は別に見当外れなことを言ったつもりは一切ありませんよ。」


二人が言葉を交わすごとに、周りの空気がピリつくのがよく分かる。



そして事態は思わぬ方向へと進みだした。


「最初からこうすれば良かったんだ。 わざわざ学院なんていう檻の中でやり合う必要なんてないじゃないか。」


「.....何を言っているんですか?」



何かを決断した様子のレイリスは、長い前髪をかきあげてこう答える。


「訓練用のフィールドを使って彼と試合するのさ。 勿論、目的も無しにただやり合うわけじゃない、正当な理由がある。」


学院内においては、生徒間での模擬戦及び戦闘は許可が必要だが、一度外に出てしまえばそれは関係ない。


会場についても、ヘカトンケイルの訓練で実際に使われている施設を使えば事は足りるだろう。



しかし、当然王都は無法地帯などではない。


仮にも勇者候補と現役の騎士団員が試合するとなれば、それ相応の許可が必要だ。



「そ、そんなことお父様や団長が認めるはずは...」


「そこはシルヴィア王女殿下の出番ですよ。」


「私はそんな危険なことに手を貸すつもりはありません!」


「.....彼の方が僕より強いと言うなら、彼がヘカトンケイルのメンバーから認められるいいきっかけになると思うけど?」



シルヴィアとしても、光が良く思われていない現状は、あまりいい気はしないはずだ。


だが、これほど大きな力を持った二人が本気でやり合えば、無事に終わる保証はない。


最悪の場合、片方が死に至る可能性だってある。



そして、仮に光が負けるようなことがあれば、勇者候補という立場から降ろされる展開まで予想できてしまう。


これだけのリスクを背負ってまで果たしてやるべきことなのか、シルヴィアには判断できなかった。



「あと、一つ言っておくけど、彼自身も僕と戦いたくて仕方ないみたいなんだよ。」


「そんな.....」


レイリスの圧に、徐々にシルヴィアは崩れていく。


その表情は、少し泣きそうになっているようにも見える。



そんな時、暗い物影から誰かが声を上げた。



???「そいつの言う通りだ、シルヴィア。」


「誰だ?!」



レイリスほどの凄腕の戦士が気付けないほど、完璧に気配を消すことが出来る人物。


そんな男は1人しかないだろう。



「光さん! それに木乃葉ちゃんも...」


「.....うっす。」


「こ、こんばんはでーす.....。」


隠れていたのは、王都を遊びつくした感満載の光と木乃葉だった。



商品が大量に詰め込まれているだろう紙袋を両手に下げ、飴のようなものを咥えている光。


木乃葉は、何やら御利益がありそうな青い宝石が埋め込まれているブレスレットをつけており、顔には謎のペイントがされていた。



そんな場違いな格好には一切触れず、レイリスは光を煽り始める。


「フッ、勇者たるものが盗み聞きとは、決して褒められたものではないな。」



しかし、光が挑発に乗ることは無く一瞬レイリスを睨んだ後、すぐに本題へ入った。


「シルヴィア、さっきも言った通りだ、こいつとの試合を許可してくれないか。」


「で、ですが.....」



シルヴィアの立場を考えれば、どう考えてもこの場で許可を出せるような事案ではない。


国王はともかく、ヘカトンケイルの責任者くらいは通すべきだろう。



それでも、一度火が付いてしまった男という生き物は、簡単には止まらない。


いや、止まれないのだ。


目の前にいる、いけ好かない赤髪の男を泣かすことしか、光の頭にはもう無かった。



「大丈夫だ、俺は負けない...頼む。」


ごく稀に見せる本気モードの顔つきで、シルヴィアに頭を下げる。


単なる私怨で出来る様な表情ではない、そこには確かな"覚悟"があった。



「僕からもお願いいたします、シルヴィア様。」


「あなたもですか.....」


光に続いてレイリスまで頭を下げてくるものだから、もうどうにでもなれといった顔で溜め息をつくシルヴィア。



「はぁ.....ではお父様に相談してみます。」


「.....サンキュー、シルヴィア。」


「ありがとうございます。 ご迷惑をおかけいたしますが何卒.....」



(あわわわ....一体何が起きてるの....?)


あまりの急展開に、完全に置いてけぼりの木乃葉。


彼女だけは、この世界において、本当にただの学生でしかない。


今もただ付き添いでここに居ただけである為、少し可哀想でもある。



そんな木乃葉を余所に、話はどんどん進んでいく。


「日時は明日、場所は訓練用フィールドBを使う。 立会人はシルヴィア様と風見さんということでどうでしょう。」


「え、私?!」


「安心しろ木乃葉、ただ見てるだけでいいから。」


「うえぇ.....」


更に面倒事に巻き込まれてしまう木乃葉には同情しかない。



「分かりました。 その内容でお父様に報告いたします。」


「シルヴィア様、分かっちゃうんだ?!」


木乃葉の必死なツッコミはスルーされ、半ば強引に立会人に任命されてしまう。



「では三刀屋くん....また明日。」


レイリスは得意の胡散臭いスマイルを浮かべながら別れの言葉を言い、その場を去る。


勿論、光は挨拶など返さない。



彼はただひたすら、己の右手をじっと見つめているだけであった。



こうして、一度は中止になった二人の決闘は別の形で実施されることに。


己のプライドをかけた絶対に負けられない戦い。



そして、間違いなく今までで最強の敵との闘いが、ついに幕を開ける――

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