【第34話】つかの間の休息!からの急展開
「今日の授業はここまでだ。 明日明後日はゆっくり休めよー。」
『やっと終わったぁー!』
『ねぇこれからどっかいかなーい?』
『レイリス様、飲みに誘ったら来てくれるかな...』
末元の襲撃事件以来、生徒達にとって初めての休日。
放課後の予定をどうするかという話題で、クラス内は盛り上がっている。
いつもの光なら誰よりも早く教室から出ているところだが、今日は違う。
今まで溜まったストレスを発散すべく、木乃葉と一緒に王都で遊び回るのだ。
(さて、木乃葉のとこ行くか...あ"っ)
帰りの支度が終わり席から立とうとすると、木乃葉は楽しそうに天谷と九条と三人でワイワイ話していた。
『いやマジ例の事件のせいでバリ疲れたわ~。』
『私は普通に個人戦にも出たから、他の人より倍疲れたっての。』
『鈴音ちゃん、一回戦勝ってたもんね。』
元の世界から続く仲良し三人組の会話に、光が割り込む隙など無い。
(...これは直接話すのは無理だな、うん。"デバイサー"で連絡しておこう)
この世界には、携帯電話やスマートフォンは当然だが存在しない。
代わりに、生徒間で連絡を取り合えるデバイサーという機器が、学院から配布されている。
通話とメッセージ機能を備えており、他にも魔法に関する自主学習を補助する機能などが搭載されているらしい。
もちろんインターネットやゲーム等は出来ず、あくまで連絡手段である。
(L〇NEとかそういう系のアプリ、元いた世界じゃ使ったことなかったから分かんねえけど...)
光は不慣れながらも、三人娘の会話の時間を邪魔しない様、最大限に気を使った文章を打つ。
"裏口付近に置いてあるベンチで待ってる(^-^) 急がなくていいからゆっくり来て(^-^)"
(こんなもんでいいだろ...多分。)
ちなみに現状、光のデバイサーに登録済みの連絡先は、木乃葉・九条・グリフレッドの三人のみ。
シルヴィアと連絡を取る際は、国王から渡された特殊な通信機器を使えば済むので、デバイサーの連絡先は交換する必要がない。
しかし、その機器で通信した内容は全て王城の連中にも共有されてしまう為、日常会話などは出来ない、要は業務用スマホである。
つまり、シルヴィアと普通に連絡を取り合いたいなら、デバイサーを使うしかないわけだ。
では何故シルヴィアと連絡先を交換していないのか、それについては察して欲しい。
(うしっ、ジュースでも飲みながら待つとするか。)
光は鞄を持ち教室から出ようとするが、途中で気になる会話が聞こえてきたので、一瞬立ち止まる。
『レイリス様、これからお時間ありますか? チームの皆で交流会でもしたいなーなんて...』
『シルヴィア様も良かったら一緒にどうですか?! まだこういう場に一度も来られてないですし!!』
どうやら教室の中央付近では、シルヴィアとレイリス、それを囲む数人の生徒らで盛り上がっていたようだ。
早速レイリスと交流を深めたい女性陣に加え、便乗してさりげなくシルヴィアも巻き込もうとする男性陣。
クラスメイトの急な誘いにも、レイリスは笑顔で答える。
「今日は予定無いから、僕は構わないよ。 シルヴィア様はどうされますか?」
レイリスはここでもイケメン力を発揮し、二つ返事でOKする。
対してシルヴィアは、少し迷っている様子だ。
「えっと、私は――」
シルヴィアが答えを出す前に、男性陣が自分達の主張を被せてくる。
『シルヴィア様も来てくれますよね!!!』
『皆で交流を深めましょうよ! そう、皆で!』
『女子もシルヴィア様に来て欲しいよなあ?!』
男性陣は下心があることを察せられない様に、あくまで「クラスの交流」が目的であることをアピール。
「えええ?! あの私、今日はちょっと...」
男性陣の圧力に戸惑い、慌てているシルヴィア。
その様子を見て、光は呆れた顔をしながら教室の出口へと向かう。
(下心が丸見えだぞお前ら...つーか俺、こういうノリはやっぱり苦手だわ)
以前に比べたら何倍も外交的になった光だが、やはりこの手の雰囲気にはまだまだついていけないらしい。
色んな意味で気になってはいるものの。会話に混ざろうとはせず、結局そのまま教室から出た。
その姿が見えたのか、シルヴィアは生徒達を避けて光に話し掛けようとする。
「あ、光さん! あの――」
しかし、途中でレイリスがシルヴィアの腕を掴み、そのまま小声で話す。
「シルヴィア、チームの皆と交流を深めるのは大事なことだと思わないかい?」
「そうですけど、今日は光さんと――」
「急ぎの用事というわけでもないだろう? それに僕一人では緊張してしまうから、できれば君にも居て欲しいんだ。」
「...分かりました。」
何か光に言いたいことがありそうなシルヴィアだったが、結局レイリスに言い包められてしまう。
「皆、シルヴィア様も来て下さるそうだ!」
数秒前までの口調とは打って変わり、いつものイケメンキャラに戻るレイリス。
『ほんとですか!よっしゃぁ!!!』
『お二人とも来てくれるなんて...私、1-Aで本当に良かった...』
『...絶対連絡先聞こう。』
クラスの連中は大喜びし、とても断れるような雰囲気ではない。
「アハハ...よろしくお願いしまーす。」
こうしてやむを得ず、シルヴィアも交流会に参加することとなった。
~フォルティス魔法学院・裏口 にて~
「ここのベンチ、結構古びてるな...この学校って何年前からあるんだろう。」
先に待ち合わせ場所についた光は、缶ジュースを飲みながら木乃葉が来るのを待っていた。
木乃葉とは既に気心の知れた仲である為、二人きりで出掛けることへの抵抗も無い。
傍から見たら「同じクラスの可愛い女の子と放課後デート」なのだが、本人にそんなつもりはないだろう。
とはいえ、元ぼっちであり性格も暗めな光にとっては、木乃葉の存在は唯一無二である。
「今日は思いっきり遊ぶとしよう...まずは神社に行って今後の為にもお参りを――」
「あれ、三刀屋氏じゃん! 昨日ぶりー!」
この後のプランを考えているところに、どこからかナギサがやってきた。
「...ナギサさんか。 てかその呼び方はなに?」
「呼び方は適当。 それよりこんな所で何してるの? ひとり寂しく黄昏れてるの?」
「いや別に...」
相変わらずノリが適当なナギサ。
正直なところ、光は彼女のことが少し苦手である。
友人と言えるほどの仲でもなく、いわゆる「顔見知り」でしかないのにやたらとフレンドリーに接してくるからだ。
勿論、嫌っているわけではない。
単純に、コミュ力が低い光にとっては少々絡みづらい相手ということだ。
「あんなに凄い魔力を持ってる癖に、なーんか普段は全然オーラないっすね、三刀屋くん。」
「ほっといてくれ...それに、君こそこんな所で何をしている?」
「見ての通り、ゴミ拾いのボランティア活動です!!!」
確かに、ナギサは右手にゴミ拾い用のトング、左手には大きなゴミ袋を持っていた。
この辺りは人通りが極端に少ない為、掃除当番の割振りがされていない。
かと言って放っておくわけにもいかないので、こうしてボランティアを募集しているのだ。
「ボランティアか、そう言えば募集してたような...他にも参加者はいるのか?」
「ううん、僕だけ。」
「なっ...ってことは、今までずっと一人でやってたのか?」
「そーだよ。 ゆーても二週間前からだけどねー。」
コミュニケーション能力の高いナギサのことだ、一緒に活動する友達がいないわけはない。
だが、大半の生徒はボランティア活動を率先してやりたいとは思わないだろうし、ナギサもそれは分かっている。
おそらく彼女は「自分がやりたいからやる」、ただそれだけの気持ちでやっているのだろう。
(毎日たった一人で、ここ一帯のゴミ拾いをやり続けるなんて、何考えてんだ...)
何気ない活動に見えるが、今の光には到底真似できないことだった。
きっと光の場合、「一人でゴミ拾いなんてしてるところを誰かに見られたら陰口を言われる」と考えるだろう。
孤独になってしまった当初、中学生の時は、それほど周りの目を気にしていなかった光。
しかし、一人でいる期間が延びていくにつれ、どんどん人の目が気になっていくようになり、高校時代は常にコソコソと過ごしてきた。
そんな彼にとって、人の目を気にせず自分がやりたいことをやるナギサの姿は、とても愚かで、とても輝いて見えたのであった。
「この辺、ほとんど生徒なんて来ないのにさー、一日経つともう枯葉とかで汚れてるんだよねー。」
言われてみると、今日この時も、ここ一帯にはゴミが散らかっていた。
この範囲を一人で掃除するのは楽ではないだろう。
そんなナギサを見て光は考える。
(漫画とかに出てくる勇者なら、やっぱりこういう子を放ってはおかないんだろうな...)
仮にも光は勇者であり、困っている人を見て見ぬ振りなどしてはならない。
その相手が、共に戦った仲間と来たら、尚更だ。
「.....あ、明日から俺もボランティア手伝おうか? 一人だと大変だろ?」
「.....ほへ?」
光の口からこんな言葉が出てくるとは予想外だったらしく、ナギサは気の抜けたような声を漏らす。
「いや、一人で頑張ってる女の子を放っておくわけにもいかないかなー...なんてな。」
光は正直に自分の考えを話すと、ナギサはふふっと笑った。
「なにそれ、三刀屋くん、そんなキャラだったっけ?」
「まあ、その...こんなキャラでは...ないです...だが――」
「気持ちはありがたいけど、来週からここもちゃんと掃除担当がつくんだよね。」
「え」
まさかの返しに、光は開いた口が塞がらない。
ボランティアの必要が無いと言われたこと自体は、さして問題ではない。
せっかく勇気を出してカッコつけてみたのに、全くもって無意味だったことが問題なのだ。
「でもさー三刀屋くんも良いとこあるじゃんね。 やっぱりナギサちゃんみたいな可愛い女の子はほっとけない的な?みたいな?」
「あ、いえ...ちが...いや、ちがくはないのか....?」
光の言葉が嬉しかったのか、ナギサは少し上機嫌になっている。
しまいには、「可愛い子はほんと罪だよな!わかるわかる!」などと言いながら、光の背中を叩き始めた。
(.....何だろうこの虚しさ、早くこの場から去りたい、てかこいつの前から逃げたい)
己の惨めさと恥ずかしさで生気を失ってしまった光だが、そんな彼の元に救世主が現れる。
「光くんごめん! 愛華ちゃん達との話が長引いちゃった!」
うしろから申し訳なさそうな顔で走ってきたのは、放課後の相方である木乃葉だ。
天谷と九条はいかにも「女子高生」という感じの生徒なので、放課後トークも長くなってしまうのだろう。
一方、光はまるで、ピンチの時に現れたヒーローを見るかのような眼差しで、木乃葉の方を見る。
「大して待ってないから気にすんな。 もういいのか?」
「うん、OKだよ。 それより、さっきから気になってたんだけど――」
待ち合わせの約束をしていたのは、光ただ一人のはずだが、この場にはもう一人居る。
それも、木乃葉にとっては知り合いですらない、赤の他人のナギサだ。
「あ...こ、この人は1-Bのナギサ・トワイライトさんだ。 以前、色々あって知り合った。」
木乃葉が不思議そうにしているのを見て、光はナギサのことを簡単に紹介する。
「どーも! ナギサです! 三刀屋くんとはボランティア仲間でしてー!」
「...ボランティア、仲間ですか?」
「いや違う。 さっき自分でボランティア無くなったって言ってただろ。」
「そうだった、すまんすまん。」
相変わらずのノリに、光は慣れた手つきでツッコミを入れる。
「えっと、光くんのお友達ってことですか?」
「まあそんな感じ。 こう見えてかなりの実力者だ、木乃葉も知り合いになっといて損はない。」
「こう見えてって失礼だなー。 見た目通り、でしょ。」
「いや、見た目はそんなに...。」
木乃葉は二人のくだらないやり取りを見て、クスクスと笑いながら話す。
「私は風見 木乃葉です。 これも何かの縁ですから、良かったら私ともお友達になってくれると嬉しいです!」
「ほほぅ...これはまた可愛らしい子じゃありませんか...こちらこそよろしく!」
(...おっさんか、こいつは)
木乃葉は大人しそうに見えて、意外にもコミュ力は高い。
既にナギサともペラペラと会話をし始めた。
(っと、そろそろ出ないと時間無くなっちまうな...)
気付けば、終業から30分が経っていた。
明日が休日とは言え、いわゆる「花金」の放課後は少しでも長く楽しみたいものだ。
ナギサと話している最中ではあるが、光は木乃葉に声を掛ける。
「木乃葉、そろそろ行こうぜ。」
「あ、そうだね。 じゃあナギサちゃん、また来週学院で!」
「ありゃ、これから二人でどこか行くの?」
「ああ、王都をプラプラしようかなって、俺が誘った。」
光たちのこれからの予定を聞くと、ナギサは何かを考える様に顎に手を当て、うーんと唸る。
そして何かを思い付いたのか、光に質問を投げた。
「三刀屋くんと木乃葉は付き合ってるの?」
ナギサから唐突な質問が飛んでくると、木乃葉の動きが完全に止まってしまう。
まるで石化でもしたかのように、ピクリとも動かない。
そんな木乃葉を余所に、光は質問に淡々と答えた。
「木乃葉は友達だ。 それもかなり前からで、俺の唯一の親友といっても過言ではない。」
「...ふーん...へぇー...そうなんだぁ」
光の回答にナギサは疑心暗鬼のようだが、それ以上は追及しなかった。
「本当に良い奴だから仲良くしてやってくれると助かる。 あ、変なノリは教え込まないでくれよ。」
「ほーい! じゃあ僕はゴミ拾いの続きするからこの辺で~。」
ナギサはそう残すと、ニコニコと手を振りながらその場から去っていった。
「相変わらず嵐のような奴だった...今度からは木乃葉も絡まれるぞ、絶対。」
光が声を掛けるが、何故か木乃葉は心ここにあらずという状態だった。
顔を軽く赤らめ、それを悟られない様に俯いている。
「木乃葉、どうかしたのか?」
「え?! あ、ごめん大丈夫! じゃあいこっか!」
明らかに動揺している様に見えたが、木乃葉は何事もなかったかのように歩き始める。
彼女はよくボーっとしていることがある為、光も特に気には留めない。
「よし、まずは武器屋行こうぜ!! どんなの売ってんのかな~。」
「お、いいね! 私もエレメンタル用のアクセサリーとか欲しかったんだよね。」
「そういや木乃葉はエレメンタルだったな。 ウンディーネって――」
思わぬ来客が現れたせいで遅れてしまったが、ようやく始まった王都探索。
かれこれ、二人きりで出掛けるのは4年ぶりだ。
今までの分も楽しんでやると、光は意気込んで校門を出た――




