【第32話】やっぱりこうなるの?!力ある二人の男の衝突
ある日の放課後、光はレイリスに呼び出されていた。
「すまない三刀屋くん、急に呼び出してしまって。」
「...構いませんよ、レイリス様。 それより、どういったご用件でしょうか?」
光は元ぼっちであり、かなりの人見知りだ。
そして相手はバリバリ現役の軍人、ヘカトンケイルのエース、レイリス=ヴィルターナ。
そんな目上の相手には、敬語かつ下手に出るのが礼儀というものだろう。
決して、個人的に気に食わないからという理由で、距離を取った接し方をしているわけではない。
「同じチームメイトなんだから、もっとラフに接してくれて構わないのだけど...」
「いえ、国王陛下直属の騎士団員ともあろうお方に、そのような態度は不適切ですから。」
レイリスの方はあくまでフレンドリーな感じだが、ひねくれ者の光は一切折れる気はない。
「まあいい。本題だけど、君のことは陛下やシルヴィア様から聞いてるよ。 予言の勇者なんだってね。」
「はあ、あくまで仮ですが...」
「それにどうやら桁違い...いや、もはや次元が違うほどの実力者だとも伺っている。」
さきほどまで砕けた笑顔をしていたレイリスだが、急に真剣な表情に変わる。
「僕とシルヴィアは、かれこれもう6年の付き合いになる。 王女殿下と、それに仕えるただの騎士団員というわけではない。」
「...あ?」
レイリスは、今までシルヴィアの名前を口に出すときは必ず「様」をつけていたはず。
しかし、何故か今、「シルヴィア」と呼び捨てをした。
「彼女は僕にとって特別な存在であり、ヘカトンケイルとしてだけでなく、レイリス=ヴィルターナとして必ず守ると決めた人だ。」
「...それが何か?」
体の隅々から走る苛立ちをギリギリで抑え、会話を続ける光。
「僕は彼女を守るためにここに来た。 だけど、敵の力は計り知れない。 多分、僕だけの力では足りないくらいだろう。」
(...こいつの言う「敵」って何だ?末元のことだけじゃないのか?)
レイリスの発言に疑問が浮かぶ光だが、ここは一旦置いておいて話の続きを聞く。
「そこで、僕に君の力を貸して欲しいんだ。 勿論、シルヴィアを守るために。」
癇に障る言い回しをされた気がして、更に苛立つ光だが、まだ平静を保っている。
だが、敬語を行使するほどの余裕はもうなかった。
「あんたに力を貸すって...なに? 俺は既にシルヴィアを守る為に行動しているつもりだけど。」
不満があからさまに態度に出てしまっている光だが、レイリスはいたって冷静だった。
「それは知っているよ。 だけど君はどこまでいっても素人だ、有事の際に適切な行動が取れる保証はない。」
(...一理あるが、こいつは完全に俺を煽っている。 落ち着け...クールにいこう。)
「だから君には、学院の中では僕の配下について欲しい。 もしまた何か事件が起きた時は、僕の指示に従って行動してくれ。」
傍から見たら、レイリスの話は筋が通っており、本人も別に煽りたくて言ってるわけではないのだろう。
しかし、今の光にとってそれは、屈辱以外の何物でもなかった。
「あんたの部下になれってことか?」
「勿論、普段は対等なチームメイトだよ。 シルヴィアの身に危険が迫るようなことがあればその時は...という話さ。」
実際、前回の末元による襲撃は、かなりの窮地に追い込まれていたと言えるだろう。
もちろん、光だけに落ち度があったわけではない。
むしろ、あれだけの軍勢を相手に守り抜ける人間が他にいるとも思えない。
あんな状況、普通なら間違いなく全滅していたはずだ。
とは言うものの、冷静に考えれば素人の光が単独で行動するより、レイリスの配下についた方がメリットは多いだろう。
だが、光はそんな要求を簡単に呑むような性分でも無い。
「悪いけどそれは無理な相談だ。 俺は俺のやり方で行動する、それだけだ。」
「...それは何故だい?」
さきほどまで穏やかだったレイリスも、光の答えを聞くやいなや、冷めたような表情へと変わった。
「そうする必要がないからだ。 あんたと協力することに関しては賛成だが、下で働くつもりはさらさら無い。」
「...君は確かに強いのかもしれないけど、素人であることに変わりはないぞ。」
「さっきから素人素人って言ってるが、ヘカトンケイルってのはそんなに偉いのか?」
お互いの意見の食い違いから、徐々に険悪な空気になっていく二人。
「残念だけど、君には口で言っても無駄みたいだね。 勇者というのは、もっと賢いのかと思ってたよ。」
「とぼけんなよ、最初から"その気"だった癖に。」
「僕は話し合いで解決するつもりだったよ。 君の方こそ、僕を殴りたくて仕方がなかったのだろう?」
「...さすがはエリート騎士だな、話が早くて助かる。」
まさかの...いや、やはりと言うべきだろうか。
双方の目的は同じものの、それに向かう方向性の違いから生まれた溝。
そして、自らの実力に絶対の自信を持っている二人が衝突すれば、避けられない道。
お互いの主張が正しいことを証明するには、方法は一つしかないだろう。
――そう、実力行使だ。




