【第31話】レイリス=ヴィルターナ
「じゃあ実技の授業始めるぞー。 今日の内容は超重要だからしっかり聞いとけよー。」
かく言う今日のお題は、「魔法の階級」だ。
この世界における魔法は、大まかに「上・中・下」の三階級に分けられているらしい。
この階級システムは、エレメンタル以外の全クラスで共通となっている。
本編登場済みの下位魔法(一部)
ドラグーン…ソニックレイド、アーデント
ガーディアン…なし
サイキック…パイロキネシス
ソーサラ-…フリーズショット、フレイムソード
中位魔法
ドラグ―ン…なし
ガーディアン…ウィンドプロテクション、ホーリネス・スクエア
サイキック…デポート、カタスティポート
ソーサラ-…サンダーボルト、ミラージュライトニング
「えー分かってるとは思うが、現時点で君たちが使える魔法は全て下位のものだ。 シルヴィアとレイリスを除いてな。」
『そんなこと言われなくても分かってますって!』
クラスメイトの連中は、早く教えろと言わんばかりにセシルにヤジを飛ばす。
「まあ待て。 今日の授業では、"いかにして中位の領域に辿り着つくのか"という話の初歩の初歩から説明する。 そもそもだが――」
どうやら、今のところ一年生が使える魔法の大半は下位魔法。
「卒業までに、中位魔法が一つでも扱える様になっていれば超優秀」と言われているらしい。
それほど下位と中位の間には大きな差があり、その壁を越えられない生徒が多いということだろう。
セシルが魔法の階級の話をしているところで、生徒の一人が質問をする。
『すいません、エレメンタルが使う魔法は階級分けされてないんでしたっけ?』
「そうだ。 階級分けどころか、魔法の名前だって決められていないからな。」
エレメンタルは術者ごとに使う魔法が全く異なり、自由度が高すぎる為、魔法の正式名称や階級制度は無いらしい。
質問に答えたところで、セシルは説明を続ける。
「下位とそれ以外とでの決定的な違いは、コード(魔法を構成する術式)の量だ。」
この世界における魔法の仕組みは、コードと呼ばれる数式を脳内でイメージし、そこでイメージしたものを魔力を使って具現化するというもの。
料理に例えると、「野菜を洗う→切る→油を敷く→焼く→野菜炒め完成」という一通りの手順をイメージし、最後にそれを魔力で具現化!みたいな感じだ。
しかし、ただイメージすれば良いというわけではない。
数式を初めの文字から最後の文字まで、一字一句間違わず、かつ順番通りにおこなう必要がある。
一箇所でも間違いがあれば、魔法は正常に発動しない。
要は死ぬほど難易度が高い暗記テストだ。
『コードの量の違いって、具体的にどのくらい違うんですか?』
『中位以上の魔法はコードがめちゃくちゃ多いってことだけは知ってるけど...』
生徒らの質問に、セシルはフッと鼻で笑いつつ答えた。
「モノにもよるが、中位魔法は下位魔法のおよそ35倍だ。」
セシルの回答にクラスの生徒は唖然とする。
『さ、35倍って、無理でしょそんなの...』
『下位魔法との差が大きすぎるって...もっと階級を小分けにしろよ』
『既に中位魔法が使えるシルヴィア様、凄すぎない?』
今まで自分たちが使っていた魔法の35倍にわたるコードを覚える必要があると言われたら、絶望するのも無理はない。
無論、その壁を越える為にこのフォルティス魔法学院が存在しているのだ。
「確かにぶっ飛んだ話ではあるが、決して不可能ではない。 現にシルヴィア達は使えるだろう?」
『まあ、そうですけど...』
「とにかく、在学中は死ぬ気でコードを覚えろ。 それ自体は努力で何とかなる。」
『...はい!!!』
生徒らは「本当に自分にも出来るのだろうか」と不安そうな表情をしているが、諦めている様子もない。
「だが、問題はその後の"実用化"だ。 せっかくコードを覚えても詠唱が遅すぎては使い物にならん。 そこでだ――」
セシルはレイリスの方を向き、「見本を見せてやってくれ」と指示。
ヘカトンケイルNo.3の魔法が目の前で拝めるとなれば、当然のように生徒らは歓喜の声を上げる。
一方で、光の体内では少しばかりの緊張が走っていた。
(...ヘカトンなんちゃらのエースの実力、早速見せて貰おうか)
もし、自分を遥かに凌駕するほどの実力を持っていたら、立場が一気に危うくなる。
そう考えたら、やはり落ち着かない。
「じゃあレイリス、被害が出なければ何でもいいから、今使える中位か上位の魔法見せてくれ。」
「はい、では...」
レイリスが魔法を唱え始めると、周りの草木や地面が揺れ、光は今まで感じたことの無い程大きな魔力を感じる。
その力は光に匹敵するとまでは言わないものの、常人では決して到達できない領域にいるのがすぐに分かった。
(...これは確かに、その辺の一般人とはわけが違うってことか)
「いきます...ツヴァイ・エクスプロード!!」
魔法を放った途端に響く大きな爆発音。
レイリスの左右の手の平から現れた巨大な二つの火柱が、上空めがけて発射された。
そしてしばらくすると、再び大きな爆発音と共に、今度は雲一つない青き空が無限の炎で包まれ、夕暮れの空へと変化を遂げる。
その光景はまるで火山の噴火を見ている様であった。
『レイリス様、凄すぎ...』
『美しい花火を見ているようでした...』
『三刀屋くんよりヤバくない?いや、当たり前か...』
それを間近で見たクラスの生徒らは、当然のごとく大はしゃぎ。
一斉に話し始める生徒らを余所に、レイリスとセシルは冷静に話をしていた。
「僕が今使える魔法の中でも、とっておきのものを披露させて頂きました。」
「さすがはNo.3、噂にたがわぬ実力だ、ありがとうレイリス。」
おそらく、今の魔法は彼の中でも、特に威力の高い魔法だったのだろう。
普通なら、この場はレイリスの凄さに驚くところだが、光はあくまで冷静で、ぼーっと空を眺めていた。
(......俺はもっと強くなれる。これで確信した。)
そんなことを考えながら、光は少しニヤリと笑う。
噂通り、レイリスの実力はとんでもないレベルにあった。
もうその辺の一般人では、どう足掻いても絶対に到達できない領域にまで達している。
そこまでの差を見せられたら、普通の生徒は「レイリス様はやっぱり凄い!一生敵わないよ!」で終わりだろう。
だが、光はただの一般人ではない...仮とはいえ勇者だ。
レイリスの魔法を目の前で見たことで、新しいなにかを掴むことが出来た、そんな様子を見せていたのだ。
クラスの生徒が騒いでる中、一人だけやけに引き締まった顔をしている光を見て、シルヴィアがトコトコと寄ってきた。
「そんな真面目な顔して、なにか考えごとですか?」
「ん? いや、別に.....」
「ふふふっ...光さんが今考えていること、当ててあげましょうか?」
シルヴィアの唐突な振りに、光はギョッとする。
「へ? いや当てなくていいよ...つーか分かんないだろ、そんなの。」
「勝手な予想ですけど、レイリスが学院に来たことによって自分の立場が危うくなるとか、そんなことを考えていたんじゃないですか?」
シルヴィアが何を根拠にそう予想したのか不明だが、図星を突かれてしまい更に焦る光。
「なっ!そんなこと...まあ、少しだけ思ってたかもな...ほんの少しだけど。」
「ほら、やっぱり。」
光の考えていたことを見事に的中させたシルヴィアは嬉しそうだ。
「シルヴィア、結構恥ずかしいから図星を突くのは勘弁してくれ。」
「昨夜と今日の朝の様子を見てれば分かりますよ。 レイリスのこと、あからさまに睨んでましたし。」
(マジかよ...無意識に睨むとか、典型的な負け犬じゃねえか)
「安心してください。 お父様が光さんのことを勇者だと信じているのは変わりません。 それに――」
「それに?」
シルヴィアは少し溜めてから、続きを話した。
「私にとっての勇者は、今後もあなた一人だけですから。」
「......へ?」
予想もしてなかった発言に、光は思わず赤面してしまう。
別に愛の告白をされたわけではないが、こんなセリフを真っ直ぐ見つめられて言われたら、無理もないだろう。
そしてそれは、言った本人のシルヴィアも同じだった。
「なんつーかその......ありがとう。」
「......もう、そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなるじゃないですか。」
「え?! あ、わ、悪い......」
シルヴィアと出会って三週間ほど経つが、こんな顔をしている彼女を見るのは初めてた。
一国の王女だけあっていつも落ち着いており、誰に対しても余裕ある立ち振る舞いをしていたシルヴィアが、こんな表情をするなんて。
おそらく、何となく勢いで言ってしまったが、冷静に考えてみたら中々に恥ずかしいセリフだったと気付いたのだろう。
『.......』
二人の間に短い沈黙が流れる。
仮にも今は授業中なのだが。
そんな二人にセシルが気付くと、少し離れた位置にいた光たちに、「お前ら早くこっち来い!」と大きな声で呼ぶ。
「は、早く戻ろう。」
「そ、そうですね!」
二人は少々気まずそうにしながら、定位置に戻っていく。
(シルヴィアがそんな風に思ってくれてたとは...素直に嬉しいな)
光はその後の授業も、自分に向けられた言葉の余韻に浸りながら、度々ニヤニヤと笑っているのであった。
レイリスの登場により危機感を感じていた光だったが、シルヴィア本人から嬉しいお言葉を頂き、まずは一安心。
だが、レイリスの実力は本物であり、光とてあぐらをかいていればすぐに首が飛ぶだろう。
無論、そんなことは重々承知している光は、今度も自身の向上に努めていくことにした―




