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【第3話】俺に秘めた特殊能力はチート?それとも・・・



「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ございません。 私はエルグラント王国の第一王女、シルヴィア=ルー=エルグラントです。 あ、目立つので大きな声は出さないでくださいね!」


「なるほど、だからフードで顔を見えない様にしていたのか。」


「あ、あれ...全然驚かないんですね。」


「で、その王女様が俺みたいな一般人を必要とするって、何かの冗談ですか?」


異世界に転生したところで、光のひねくれた性格は変わらない。


たとえ相手が王女と名乗る人物だとしても、まずは疑うことから彼のコミュニケーションは始まる。


というのも、光の今までの人生において、何の前触れもなく距離を詰めようとしてくるタイプの人間に、ロクな奴がいなかったからである。



ある日、急に友達になって欲しいと言ってきたA君。

彼の正体はとある宗教のガチ勢で、信仰する宗教団体への勧誘が本当の目的だった。


テスト期間に突入した時期から、やけに話し掛けてくるようになったB君。

彼は光のノートを全教科分コピーし、コピーが済んだ後は一切話しかけてこなくなった。


高校入学初日、眩しすぎるほどの笑顔で話し掛けてきたKAMASE君。

実は、彼は地元で有名なヤンキーであり、終業のチャイムと同時に裏庭に呼び出され、カツアゲをしてきた。


etc.



こんな出来事が高校一年の間に何度かあり、上手い話をしてくる相手には警戒態勢を崩さない様になった。


そんな経緯もあって、光は疑いの目でシルヴィアを睨む。


「なっ!冗談なんかではありません! エルグラントを救うにはあなたの力が絶対に必要なんです!」


「んなこと急に言われてもさ、色々と無理があるだろ。 俺、この世界のこと全く知らないし。」


光の反応はごもっともだ。


数時間前に転生してきたばかりの人間が、はいそうですかと簡単に納得できる話ではない。


「そ、そんな......」


光の冷淡な態度に、シルヴィアは思わず弱気な表情になってしまう。


(え、ちょっ......そこまで落ち込む?)



女性と話すこと自体、ひと月に一回あるかない生活を送っていた光。


そんな彼がシルヴィアの反応を見て動揺しないわけもなく、思わずフォローを入れる。


「わ、分かりました、ちゃんと話は聞くんで、とりあえず顔を上げてください。」


「ほんとですか?!」


そう光がなだめると、彼女は一瞬だけ子供の様な無邪気な笑顔を見せたが、すぐにキリっとした表情を取り戻し、再び話を切り出す。


「コホン、えっとですね、実はエルグラントでいま―――」



「すみませんお客様、ギルド登録の準備が完了しましたので手続きを再開しま...ってあれ、お仲間ですか?」


シルヴィアがとても重要そうな話をし始めた矢先だったが、ギルドの登録準備が整ったようだ。


「あ、そういえば登録手続きの途中だった。すいませんシルヴィ...旅人さん、話はまた後で聞くよ。」


光は出来るだけ申し訳なさそうな顔をしながら、シルヴィアに断りを入れる。


「登録手続き? こちらのギルドに所属されるのですか?」


「そのつもりだけど、何か......?」


またシルヴィアに何か言われるのではないかと、恐る恐る聞いてみる光。



「うーん、まあ、ギルドに登録すること自体は特に問題はないので、どうぞ手続きを進めてください。」


シルヴィアの回答にホッとした光は、気になっていた申請書類の項目にある "クラス" について尋ねる。


「あの、こちらのクラスという項目は具体的に何を書けばいいんですか?」


「クラスは、所持している能力のカテゴリーですよ。 あなたも何か力を持ってますよね? それを書くだけです!」


そう伝えられ、光は鎌瀬との喧嘩で現れた黒いオーラのことを頭に浮かべる。



「もしかして、こういう奴ですかね?」



光は、例のオーラをこの場で実際に発生させて見せた。


その瞬間、受付人とシルヴィアはまるで幽霊でも見たかのような反応をする。


「その色、なんですか...? 7年くらいこの仕事やってますが、黒い魔法なんて今まで一度も......」


「勇者様の属性が.....黒?」


(え、何その反応....つーかこれ魔法なの? マジで?)



「えっと、とりあえず俺のクラスは"魔法"ってことでいいんですか?」


そう問われた受付人は、ハッと我に返った表情をし、ビジネススマイルを取り戻す。


「クラスはソーサラー(魔法使い)、だと思います...ただ、ソーサラーが使う魔法には必ず属性というものがありまして.....」


「属性?火属性とかそういう奴ですか?」


ファンタジー感が急に強まってきて苦笑いを浮かべつつも、会話を続ける光。



「はい、ソーサラーが使う魔法の属性は、火・氷・風・土・雷の5つしかありません。」


(......ゲームとかでよく見るやつだ)


「そして、ソーサラーはこれら5つの属性のうち、1つしか扱えない様になっています。」


「なるほど。 で、何で黒はダメなんですか?」


「ダメとかじゃなくて、有り得ないんですよ。 というのも、攻撃魔法はそれぞれの属性を表す色をした元素で構成されているからです。」


受付人は、ゲームオタクが好きなゲームの話題を振られた時にだけ生き生きとするような感じで、急に口数が増えてきた。



「火なら赤、風なら緑、氷なら水色、土なら茶色、雷なら薄い紫色。 ソーサラーが使う魔法は必ずこれらの色をしています。」


そうは言われたものの、光は分かったような分かっていないような、そんな表情。


「じゃあそもそも俺はソーサラーってやつじゃないのでは?」


「うーん、どうみてもエンチャント系の魔法なんですけどね。 まあいいです、このまま手続きを進めましょう。」


(......何か知らないけど納得してくれた...で、エンチャントってなに?)



聞き慣れない言葉が次々と押し寄せてくるが、光は少しずつ慣れてきた様子。


「次は魔力の数値を測りますので、魔法を発動させた状態で隣にある鏡に手を入れてください。」


(.....もう俺はツッコまない。 ここは大人しく言うことを聞いておこう)



受付の隣には確かに大きな姿鏡があるが、ガラス部分はどこか別の空間に繋がっているかのような、渦を巻くゲート状になっている。


「じゃあ右腕に意識を集中させてから―――」


「あの、ちょっと待ってください!」


ここにきて、先程から黙り込んでいたシルヴィアが突然口を開いた。



「こ、今度はなんすか.....?」


「.....黒い魔法についてはこの際一旦置いておきます。それより、もしかしてあなた、魔法についての知識が全く無いとか、まさかそんなことはないですよね??」


「いや、魔法の知識なんて何にもないですけど.....(だってさっき転生してきたばかりだし)」


「え"」


返って来た答えがシルヴィア的には予想外だったらしく、それを聞くや否や、口を大きく開けた状態で固まってしまった。



「申し訳ない、だから勇者とか人違いなんですよ。 これで分かりました?」


「.....そうですね。 気になることはまだありますが、今日のところはお暇させて頂きます。 お邪魔してしまい、申し訳ありませんでした。」


シルヴィアはそう告げると、顔を下に向けたままギルドから出ていった。



「なんだかあのお嬢さん、色々と不思議な人でしたね。 顔も良く見えませんでしたし、勇者とか何とか言ってましたし。」


「.....まあ彼女にも複雑な事情があるでしょう。 えっと、魔法を発動させた状態で腕を鏡に突っ込むんだっけか。」


光は歯切れの悪い展開にモヤモヤしつつもも、気を取り直して黒いオーラを纏った右腕を鏡に入れた。


すると、鏡の上部に設置されている数値のカウンターが動く。


「それでOKです。 えっと魔力数値は......0って出てますね。」


「え?! 0ですか? それってめっちゃ弱いってこと?!」


鏡が壊れるとか、桁違いの数値が出たりとか、そんなことを少し期待していた光は落胆する。



「いやー今までの最低値は50でしたし、0なんて見たことも聞いたこともないですね。」


「ま、マジすか......」


「でもこれは多分、測定不能とかそっち系な気がします、分かんないけど(テヘッ」


(.....おい、今テヘッって言ったぞこの人。 まあ、存在しない属性って言うくらいだし、既存の装置で測定できないってのは有り得る話だ)



「ひとまず、これで登録は完了ですが、ちょっと謎が多すぎる魔法のようなので、あまり大っぴらにはしない方がいいですよ。」


受付人は何やら物騒なことを言った。


「大っぴらにしない方がいいって、どういうことですか?」


「物珍しさで利用しようと企む人がいるかもしれないって話ですよ。 あくまで"かも"ですけど。 気を付けてくださいね。」


(マジかよ、いや予想は出来たけど面倒くさいな.....)



「では、これからのギルド活動、ぜひ頑張ってくださいね!!」


ひと仕事終えた受付人は、ビジネススマイルで締めの台詞を放った。



「よし、無事ギルドに登録出来たし、昼飯でも食べに行くか。」


そう呟いて光はギルドから出る。



すると、入口のすぐ傍で地面に三角座りをし、大きなため息をつく人物が視界に入る。


(.....まさか)


そう、その人物とは、さきほど物悲しげにギルドを出ていったシルヴィアであった―――

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