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【第29話】シルヴィアの居場所

~ 約一時間前 ~


「ぜ、全員気絶してたって...マジ?」


「そだよー。 避難所に居た人の中で起きてたのは、多分ナギサちゃんだけ。」


魔物の襲撃を防ぎきった光たちは、他の生徒らが集まっている避難所へと急ぐ。


その道中、スタジアムの外側で起きていたことをナギサに聞いていた。



どうやら、避難自体は問題なく出来たものの、しばらくするとその場で全員気を失ったらしい。


中には、移動中に倒れてしまった生徒までいたそうだ。


おそらく...いや間違いなく、鎌瀬による魔力吸収の魔法が原因だろう。



ただ、現在はほとんどの人間が既に意識を取り戻しており、後遺症等も今のところは見られない。


その為、生徒たちは一旦教室で全員待機。


教師らは状況の整理をおこなっているところであった。




~フォルティス魔法学院 屋上にて~



待機命令が出ているにも関わらず、光、シルヴィア、ナギサの三人は屋上にきていた。


「つまり俺達以外、あの魔物の姿は誰も一人として見ていないってことか。」


「うん、ナギサちゃん以外は多分誰も見てないよ。 パッと見だけど、みーんな寝てたし。」


「まあ、その方が何かと都合が良くて助かる。 あと、君は俺達を助けに来てくれるまで何してたんだ? 魔物が来てから結構なタイムラグがあったが――」


「ご飯の途中で避難させられたから、全部食べてからスタジアムに向かったよ。」


ナギサの回答に、光は反射的に「えっ?」と聞き返してしまう。



「えっと、ごめん...なんて?」


「だからご飯食べてたんだってば。 三刀屋くん、耳悪いの?」


「いや、そっか。 ハハハ...ご飯は大事だよな、分かる分かる。」


「でしょー? せっかく観客席で優雅に焼きそばパン食べてたのにさー、ほんとやめて欲しいよねー。」


やはりこの子は、少し頭がおかしいのかもしれない。


天才と馬鹿は紙一重とよく言うが、まさにこのことを差すのだろう。



ナギサのマイペースっぷりに面を食らった光だったが、すぐに真面目な顔に切り替えて話をする。


「もし仮に、誰一人さっきの状況を見ていなかったとして...俺たちが知っていることは報告すべきだろうか。」


「んー隠しておく理由もないし、講師の人たちには言った方がいいんじゃない? 知らんけど。」


唐突に日本人のような「知らんけど」をぶっこんで来たナギサだが、光は敢えてツッコまない。



「そもそも、何で末元がシルヴィアを殺そうとしているのかも分かんねえからな...」


末元は確かにこう言った。



"僕の目的は、そこにいるシルヴィア王女殿下を殺すこと"



末元は光と同じく転生者である為、シルヴィアと直接的な関係があったとは思えない。


彼が何の為に、どうしてシルヴィアを命を狙っているのか、謎は深まるばかりだった。



「あの末元という方は...私のことを知っているようでした。 それも、凄く"深い"ところまで...」


「確かにそんな感じだったが、命を狙われるような心当たりなんてあるのか?」


「...申し訳ございません、詳しくはお話できないです。」


「国家機密ってやつか。 だが、命を狙ってるってハッキリ言われた以上、何の対策も取らずにこのまま呑気に過ごすわけにはいかねえ。」



そう、この度は単に殺害予告をされただけではない。


凶悪な魔物を大量に送り込み、実際に殺されかけたのだ。


光の言う通り、このまま末元を野放しにしておくのは危険すぎる。


勿論、それについてはシルヴィア本人が一番分かっていることだろう。



「今日の夜、ここで起きたことをお父様に話してみます。」


「ああ、それが一番良いと思うよ。」


「はい。 それと...学院にもこれから――」


「いや、学院には言わなくていい。」


シルヴィアの話の途中で、光が割り込んでくる。


それも、凄く深刻な顔をしながら。



「ど、どうしてですか? これだけの被害を出しておいて、黙っておくわけには...」


幸い、生徒や教師に怪我人は出なかったが、スタジアムのフィールドや壁はボロボロだ。


正当防衛の結果である為、修理費などを請求されることはないが、まずは詳しい事情を話すべきだろう。



それだけでなく、「自分の命が狙われている」なんていう超重要なことを学院に黙っておくのは、色々とまずい。


しかし、光はその辺りのリスクをしっかりと考慮した上での発言だった。



「学院に言うってことは、シルヴィアが末元に命を狙われていることまで話すわけだろ? そんなことをしたら、シルヴィアは周りからどんな目で見られると思う?」


「それは...」


周りにいる連中から蔑む様な目で見られることの辛さを、光は誰よりも知っている。


この度の襲撃の根本的な原因がシルヴィアにあるということ。


それが学院に知れ渡れば、彼女は一夜にして悪者扱いされるだろう。



当然、光はそんな未来を望まない。


あれほど学院生活を楽しみにしていた、シルヴィアの笑顔を奪うような真似はしたくないのだ。



「シルヴィアに関する話だけを省いて伝えるって手もあるけど、それだと学院側は更に混乱してしまうからナシだ。」


末元の目的を伏せたまま報告した場合、学院は「どこの誰だか知らない男に理由も分からず襲撃された」ということになる。



唯一の手掛かりである末元の目的が分からなければ、学院側は打つ手がない。


そんな八方塞がりの状況に持って行くくらいなら、「何も起きてなかった」ということにした方がマシだろう。



「ですが...皆さんに嘘をつくわけには...」


「悪いのは100%末元の奴だ、シルヴィアが責任を感じる必要は無い。 それに、王様には話すんだから大丈夫さ。」


「こればっかりはナギサちゃんも同感かな。 黙ってたことがあとでバレたとしても、陛下の権力があれば何のお咎めも無いっしょ!」


光だけでなく当事者のナギサも、学院には黙っておく方針に賛成のようだ。



そこまで言ってくれても尚、シルヴィアはまだ決断できずにいた。


「私はここに居てもいいんでしょうか...私がいると、また学院が襲われてしまうかもしれません。」


実際のところ、今後も末元は、ほぼ間違いなく襲撃を仕掛けてくるだろう。


それでも光は主張を曲げる気はない。



「居ても良いとか悪いとかじゃない、自分がどうしたいと思ってるのかが、今は大切だ。」


「私は...」


「つーか、俺の監視役っていう王様公認の任務のために学院に来たんだろ? それを途中で投げ出すのはまずいって。」


「それはあくまで...口実というか、なんというか...」


光とナギサがこれだけ言っても、シルヴィアは中々折れない。


自分より他人を優先する性格であるが故に、学院に嘘をつきながら、のうのうと居座ろうとする自分が許せないのだろう。



しかし、光はシルヴィアの"本音"を知っている。


そして、ここにきて最後のカードを切った。



「...学院生活、ずっと楽しみにしてたんだろ。」


光がそう言うと、シルヴィアの体がビクッと震え、表情が一変した。


今にも泣き出してしまいそうな、放っておいたらどこかへ消えていってしまいそうな、淡く儚い表情に。



「せっかく入学出来たのに、末元のしょうもない企みのせいで台無しにさせられるとか、ふざけんなって話だ。」


いつもの光なら照れ臭そうに話すような内容だが、今回ばかりは終始真面目な顔で語っている。



黒幕が元クラスメイトの末元と鎌瀬である以上、他人事ではない。


勇者として、王女殿下が目の前で困っているのを見過ごすわけにはいかない。


なにより、"三刀屋 光"がシルヴィアに対して抱いている想い。



この時、珍しく彼は本気で熱くなっていた。


普通なら心の奥底に溜めておくような感情を何の躊躇いもなく、表に出していた。


それはシルヴィアの為だけではない。



自分自身の為でもあった。



「.....あいつが再びシルヴィアの目の前に現れるようなことがあれば、今度こそ俺があいつを殺す。 だからさ―――」


光はシルヴィアの目を真っ直ぐ見て、今自分の胸にある気持ちをそのまま伝えた。



「これからも学院に居てくれよ.....シルヴィア。」


「......!!」



光の言葉に、シルヴィアはずっと我慢していた涙が一滴、ついにポロリと流れ落ちた。


彼女は別に「学院にこれからも通えるから」というだけの理由で泣いているわけではない。



光がまだ知らない、彼女の「過去」にも多少なり関係しているから、一層嬉しかったのだ。



シルヴィアが泣いてしまったのを見て、ナギサが慌ててフォローに入る。


「王女殿下を泣かすとか、三刀屋くんさすがにヤバない? 不敬罪じゃない?」


「えっ! 俺、変なこと言った?! も、もしかしてキモかった...?!」


「さあ? どうだろうね?」


バタバタし始めた光は放置し、ナギサは「よしよし」とシルヴィアの頭を撫でる。



末元の本当の目的、シルヴィアが抱えている事情。


元々謎だらけだった異世界生活に、またもやとんでもない謎が追加された。



普通なら、こんな常識外れた世界など一刻も早く抜け出して、元いた世界に戻りたいと願うだろう。


しかし光は、元の世界に居た時よりも何倍も生き生きとしている。



そう、彼の異世界生活は、まだ始まったばかりなのだ――

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