【第28話】チートと王女とおてんば娘が集まれば怖い物ナシ!☆
「ふーっ、危ないところだったね~! 三刀屋くん、シルヴィア様!」
「あなたは確か、少し前に食堂でお会いした...」
昼休憩の際、唐突に光に絡んできた、少し頭が残念そうだった銀髪の美少女。
そんな彼女が、まさかこれほどまでの魔力を秘めたソーサラーだったとは、誰も予想していなかっただろう。
そして光は、ナギサ=トワイライトと名乗る少女が作ってくれた、このわずかな隙を見逃さない。
「今だ...ブラッド・ドレイン...!」
光の背中から不気味な黒い手がいくつもあらわれ、最も近い距離に居た魔物へ襲いかかる。
「グギギ....ギャアアアアアアアアア!!!」
魔物は必死に抵抗するが、無数の黒い手の圧力を前に身体ごと握り潰されてしまった後、光の背中へ吸い込まれていく。
「うわぁ...なにあの魔法、きもちわるっ。」
後ろで見ていたナギサは当然、ドン引き状態。
だがそれは、単なる趣味の悪い攻撃魔法では終わらなかった。
「...あー死ぬかと思った。」
さきほど魔物の攻撃を直に食らい、地面から立ち上がれないほどのダメージを負っていた光。
そんな彼が、何故かピンピン元気そうにしていた。
「光さんの傷が...癒えた?」
シルヴィアは、光が突然立ち上がったことに驚きを隠せない。
そんな様子を見かねて、苦笑いを浮かべながら理由を話す。
「癒えたというか...魔物の生命エネルギーみたいなのを吸収したって感じかな。」
「エレメンタルって何でもアリなの?! でもやっぱりゾンビみたいで気持ち悪い!」
隣で話を聞いていたナギサが思わずツッコミを入れてくる。
この世界において、回復系の魔法を使えるのはガーディアンだけと言われている。
しかし、光のクラスはエレメンタルでもなければソーサラーでもなく、現状「不明」である為、相変わらず常識は通用しなかったようだ。
そんな規格外の魔法で何とか回復できた光だが、シルヴィアは涙目のまま俯いていた。
「無事で良かったです...申し訳ございません、私のせいで――」
「いや、俺も少し油断してた。 危ない目に合わせてしまって...こっちこそごめん。」
実際のところ、光が攻撃を食らってしまったのは、シルヴィアが自身を守り切れなかったのが原因でもある。
だが、SSS級の魔物による不意打ち気味の攻撃を防ぐこと自体、非常に困難であり、シルヴィアを責める気などない。
いずれにせよ、これで思う存分反撃出来る。
それも、油断してたとはいえ一発デカいのを食らわされたのだ。
これ以上無いくらい頭に来ていることだろう。
残す魔物は98体。
普通に考えれば、光たちの生存確率は0%。
しかし、「普通なら」だ。
もう魔力を温存する気などない。
一撃でSSS級の魔物たちを全滅させるつもりでいた。
「ナギサさん?だっけ、10秒くらいでいいから、シルヴィアと一緒に奴らを抑えられるか?」
さすがにそれほどの規模の魔法を使うとなると、いくら光でも発動まで少しの時間が掛かるらしい。
光からの指示を受け、シルヴィアとナギサはお互いの目を見てうなづく。
『了解!!!』
まずは、シルヴィアが光の周囲を固める防御魔法を放つ。
「ホーリネス・スクエア!!」
全方位からの魔法攻撃をシャットアウトする、鉄壁を形成。
防御性能自体は「プロテクション」系の魔法に劣るものの、正面以外の攻撃も防げる代物だ。
続いて、ナギサも雷属性の魔法を放つ。
「いっくよー!!! ミラージュ・ライトニング!!」
スタジアム上空一帯が再び真っ暗になる。
すると今度は、魔物たちの目の前に、天から無数の稲妻が何度も何度も落ちてくる。
雷を絶え間なく落とし続け、物理的に視界を遮るなんて戦法、誰が思いつくのだろうか。
ナギサの狙い通り、魔物たちは完全に動きを封じられていた。
(すげえ...あの子、マジで何者だ)
膨大な魔力を持つ光でも、ナギサの魔法には驚きを隠せない。
スタジアムの広さは丁度サッカーのフィールドと同程度であるが、現在この広い空間は無数の稲妻で覆い尽くされている。
とてもじゃないが、魔法学院の一生徒が出来るような芸当ではない。
彼女の素性は完全に不明だが、おかげで十分な時間を稼ぐことが出来た。
(サンキュー二人共...あとは俺に任せてくれ)
あの光が10秒という長い時間を掛けなければ発動できないほどの魔法。
その威力は、想像するだけでも恐ろしい。
「さーて化け物共...覚悟はできてるだろうな?」
発動の準備が整ったのか、全身が漆黒のオーラで包まれる。
そして己の中に潜む魔力をありったけ解放し、全力で叫んだ。
「消し飛ばせ!! カオス・デストラクション!!!!!!」
全身から黒く細い光が放たれ宙に舞い、98体の魔物に向け襲い掛かる。
この魔法は、カノープスの群れを一掃した時のものと同じだ。
黒い光一つ一つが、ナギサのサンダーボルトを越えるほどの威力。
瞬く間に魔物たちを切り刻んでいく。
「これはあの時の...」
「なにこれやっばー!!! 凄すぎー!!」
シルヴィアとナギサは、SSS級の魔物たちが無差別に殺されていく様子を呆然としながら眺めている。
魔物の中には抵抗する者もいたが、すぐに別方向からの追撃に遭い、無残にも散っていく。
その光景は、やはり「災害」と評すのが正解だろう。
しかし、カノープス戦とは異なり、光の見た目に変化はない。
あの時は、まるで悪魔に変身でもしたかのような風貌をしていたが、今回はその様子は見られなかった。
それでも、魔物たちを殲滅するには十分すぎる威力である。
「凄い、これが光さんの全力の魔法...」
「さすがのナギサちゃんでもこれはちょっと引くわ。 こっわ。」
気付けば、約98体存在したSSS級の魔物がものの数秒で全滅し、跡形も無く消えていた。
もしこの光景を他の誰かが見ていたのなら、勇者どころか神として称えられていただろう。
「ハァ...ハァ......やっと片付いたか....」
さすがの光も、これほどの威力の魔法を使えば、魔力と体力を大量に消費するらしい。
地面に膝をつき呼吸も少し苦しそうだが、すぐにシルヴィアが光の傍に駆け付け治癒魔法を放つ。
「いま体力回復の魔法を使います...クーラ!!」
「悪い...助かる...!」
シルヴィアの優秀さも相まって、短い時間で光の体力はある程度まで回復した。
やはり実戦において、ガーディアンがいるといないとでは雲泥の差があるということがよく分かる。
「そういえば、あのゲートもいつの間にか消えてるな。」
「これで本当に終わった...のでしょうか。」
「末元には逃げられちまったからな...それより俺達も早く避難所へ行こう。 もしかしたら向こうでも何か起きてるかもしれない。」
「そうですね...戻りましょうか。」
事態は一旦片付いたものの、シルヴィアはまだ浮かない顔をしていた。
やはり、自分が足手まといになってしまったことを気にしているのだろう。
そもそも今回の襲撃の根本的な原因は他でもない、自分にあるのだ。
気が沈んでしまうのも無理はない。
それを感じ取った光は、すかさず彼女のフォローに入る。
「末元が言ってたことはあまり気にしない方がいい。 あいつは昔から口がうまくて、嫌な奴なんだよ。 だから自分に原因があるとか、そういうのはもう考えんな。」
少し照れ臭そうにし、かなり遠回しな言い方になりつつもシルヴィアに慰めの言葉を掛けた。
「はい.....ありがとうございます。」
「それに、今回あいつを逃がしたのは完全に俺のミスだ.....本当にすまなかった。」
「そ、そんな、謝らないでください....元はと言えば私のせいで―――」
(ジィー・・・・・)
ちょっぴりいい雰囲気の二人を余所に、なにやら不満そうにしている人物が一人いた。
「ちょっとお二人さん、お邪魔して悪いんだけど、ナギサちゃんに何か言うことはないの? ねえ!?」
今回の末元による襲撃は、ナギザの活躍がなければ切り抜けることは難しかっただろう。
それは光とシルヴィアも十二分に分かっている。
二人は順に頭を下げ、ナギサにお礼を言った。
「決して忘れてたわけじゃない、本当に助かったよ。 ありがとう。」
「私も、ナギサさんには感謝してもしきれません...!」
二人のテンションの低さ...というか真面目さに、ナギサは困惑する。
「あ、いや、そういう返しを求めてたんじゃなくて、"わ、忘れてないわーい!"みたいなノリを待ってたんだけど...」
ナギサは、光とシルヴィアに自分を「いじってもらう」ことで、しんみりとした空気を変えようとしたのかもしれない。
そうだとすれば、意外と空気が読めるタイプの子だ
だが、シルヴィアはともかく、光は基本的にかなり真面目である。
大袈裟ではなく、自分達の命を救ってくれたナギサをこの状況で忘れるなど、絶対にない。
「あとで何かお礼をさせてくれ。 ただ、とにかく今は避難所へ急かないと。」
「え、いやお礼とか別に求めてないんだけど......」
「まぁまぁそう言わずに! ほら、早く行きますよ!」
シルヴィアも少し元気を取り戻したのか、笑顔でナギサの手を取り、避難所へと走っていく。
事の発端となった末元の姿は見受けられないが、ひとまず事態は収まったと言っていいだろう。
ファースト・オブ・ディクター初日。
そんな一大イベントの中、唐突に巻き起こった大規模な襲撃。
光とシルヴィア、そしてナギサの力がなければ、学院の生徒は全員殺されていただろう。
しかしこの事件は、近い未来に起こる悲劇の序章に過ぎなかった――




