【第27話】死闘、絶望、恐怖、そして・・・
巨大なスタジアム一面に広がる、この世のものとは思えない化け物の軍勢。
どうか夢であって欲しいと、誰もがそう思う様な、絶望的な状況。
しかし、三刀屋 光は動じない。
むしろ、この状況を心のどこかで、楽しんでいるまであった。
「カオス...ディスラプター!!!」
まずは、小手調べに得意の素早い斬撃魔法で先手を打つ。
(手応えはある...さて、どうだ?)
「アアアアアアアア....ヒヒヒッ...!!!」
確かに命中したにも関わらず、魔物はまだ生きていた。
並の相手なら即死級の魔法のはずだが、SSS級は伊達ではない。
「これを食らっても無傷...文字通り化け物ってことか。」
一筋縄ではいかない事と分かった光は、ギアを一段階上げる
「丁度いい機会だ。 試したくても試せなかった魔法...思う存分に使わせてもらおう。」
光はそう呟くと、何やらズボンの左右のポケットから、刃のついていない剣の柄を二つ取り出す。
パッと見、ただの玩具...いや、その辺に捨てられているゴミにしか見えない。
だが、やけに自信に満ち溢れた表情をしている光。
「顕現せよ.....ブラッディ・クロス!!!!」
そして、聞き慣れない魔法を唱える。
すると、手に持っていた左右の柄に漆黒の刃が出現した。
勿論ただの刃ではない。
禍々しい黒きオーラがまるで燃え盛る炎の様にうごめいており、触れたもの全てを存在ごと消し去ってしまいそうな、そんな威圧感まで感じさせる。
「さて....こいつはどうかな?」
光は二本の剣を構え、魔物との距離を一気に詰める。
「ハァッ!!!」
目にも止まらぬ速さで二本の剣を振るう。
その間、およそ0.1秒。
次に瞬きをする頃。
その魔物は木っ端微塵に砕け散っていた。
―――ブラッディ・クロス
ただの剣にしか見えないが、その威力はカオス・ディスラプターを遥かに越えていた。
「予想通り火力は十分。 あとは...単純な作業だ。」
ここから光は怒涛の攻めを展開する。
一体、二体、三体と、みるみる魔物の数が減っていく。
その光景は、まさに「無双」
SSS級の魔物たちが、何も抵抗できずにただ虐殺され続けている。
スタジアムのフィールドが、色とりどりの血でみるみるうちに汚れていった。
―――そして残すところ、あと三体。
「凄い...あの魔法、威力は物凄く高いのに、魔力はそれほど消費していない。 どうして...」
後方で見ていたシルヴィアは、「ブラッディ・クロス」のコストパフォーマンスに驚きを隠せない。
無理はないだろう、あれほどの威力があるにも関わらず、見た目はただの剣でしかない上に地味なのである。
そもそも、一対一でSSS級の魔物を倒すことが出来る人間など、そう多くはいないからだ。
魔物の数が残りわずかとなり、しばし余裕が出来た光は、シルヴィアの疑問に答える。
「要はこれただのエンチャントだから、大型の魔法をぶっ放すより魔力の消費が断然少ないのさ。」
エンチャントとはソーサラーが使う戦法の一つで、自属性が及ぼす魔法の効果を自らの肉体や武器に付与するものだ。
つまり、光はエグゼキューターの属性効果を剣の柄にエンチャントしただけに過ぎない。
「で、でもエンチャントって属性効果を付与するだけで、そんなとんでもない火力が出る代物では――」
シルヴィアは自論を言いかけたところで、とあることに気が付く。
光の本当のクラスはエレメンタルでもなければ、ソーサラーでもない。
この世界には"存在しない"と言われているモノだ。
そして、そんなものに常識など通用しない。
「そういうことさ、シルヴィア。 俺の属性は.....そうだな......」
会話の途中だが、光は剣を構え、残こされた魔物がいる位置まで疾風の如く掛け上がる。
――――俺の属性は、闇だ。
剣先に魔力を集中させ、今日一番の力で剣を振るった。
あっという間に最後に残った三体の魔物を殲滅し、光は地面にスタッと着地する。
「.....シルヴィア、怪我はないか?」
怒涛の活躍をしたと思えば、すぐに他人の身を心配する光に、シルヴィアは感服し切った表情。
「あなたは本当に凄い人ですね.....私のことなら心配ありません、それより――」
「ああ、早く避難所に行って他の奴らの様子を確めに行こう。」
末元と鎌瀬が仕掛けた魔法によって、魔力を吸われた生徒や教師は今頃きっと気を失っている。
早く戻って、処置をしなければならないだろう。
「では、皆さんの元へ――」
事態は収束へと向かっている、光とシルヴィアはそう思っていた。
しかし、ここでとある異変に気付く。
「魔物が現れたゲートが...まだ残っています...。」
末元によって作られた空間転移用のゲートが、一つとして消えていない。
「末元...まさかあいつ...」
光の嫌な予感は的中した。
『グギャアアアアアアアア!!!!!』
つい先程、50体も魔物を倒したというのに。
これでようやく、学院の皆を助けに行けると思ったのに。
「増援」
それも今度は50どころではない。
100、いや...それ以上の数の化け物たちが一斉に姿を現した。
「そんな...こんなことって...」
「問題ない。 雑魚が50から100に増えようが、もう一度返り討ちにしてやる。」
激しく動揺するシルヴィアに対し、光は普段通り余裕の表情をかましている。
実際、魔物の数が倍増したところで、先程と同じように光は1人で片付けてしまうだろう。
しかしその余裕が、このあと最悪の事態を招くこととなった。
「んじゃ、魔物狩り第二回戦といこうか。」
再びブラッディ・クロスを使い、魔物の軍勢に単独で挑もうとしたその時だった。
『キヒヒイヒヒヒ!!!』
シルヴィアが魔物に背後を取られ、襲撃を受けてしまったのだ。
「しまった?! シルヴィア!!!」
「魔物?! いつの間に! くっ...ダイア・プロテクション!!」
シルヴィアは咄嗟に防御魔法を唱え、なんとか直接的な攻撃は受けずに済んだ。
しかし、衝撃までは吸収しきれず、30メートルほど吹き飛ばされてしまう。
「攻撃が...重い...ガハッ!!」
軽い吐血。
重症ではない為、彼女ならすぐに回復できる程度だろう。
だが、傷の深さなんてさほど重要ではない。
「シルヴィアが攻撃を受けた」という事実。
そんな光景を目の前で見るようなことがあれば、次に起こる展開は容易に予想がつく。
「クソッ!!! こいつ!!! ぶっ殺してやる!!!!!」
光は完全に逆上してしまい、周りが見えなくなっていた。
一瞬だが、自分の後ろに99体のSSS級の化け物がいることさえ、忘れてしまうほどに。
そして、それこそが彼にとって唯一のミスだった。
―――ズシャアッ!!!!
唐突にスタジアムに鳴り響いた激しい風切り音と共に、床にドバドバと流れ落ちる血液。
「ウグッ......ゲホッ.......」
全身に襲い掛かる猛烈な痛みと目眩から、何が起きたのがすぐに分かった。
光は一瞬の隙を突かれ、別の魔物の攻撃をモロに受けてしまったのだ。
背中に軽く手を当て、傷の状態を確認する光。
滑っとした不快な感触と、ほんのりと感じる暖かさ。
当然、帰ってきた手の平は自分の血で真っ赤に染まっていた。
「クッ.....マジかよ.....やっちまった.......」
負った傷は深く、立っていることさえ出来ない。
そのまま光は、地面に勢いよく倒れ込んでしまった。
光は反則級の強さを持っているが、別に肉体そのものが硬いわけではない。
シルヴィアや他の生徒と同じように、ただの一人の人間だ。
その為、全く意図していない位置から攻撃を受けてしまえば、ダメージは普通に通る。
普段の光ならこの程度の攻撃、消す・避ける・ガードするなどして防ぐことは容易だろう。
しかし、目の前でシルヴィアが攻撃されたことで冷静さを失い、自分が狙われていることに気付けなかったのだ。
「光さん!!! すぐに回復を―――ハッ!?」
シルヴィアは回復魔法が使える距離まで行こうとするが、目の前の魔物に再度攻撃を受ける。
「キヒヒヒ...アアアアアア!!!」
(ダメ...ここで魔法を解いたら私がやられる。 そうなったら誰が光さんを助けるの...でも......)
光はまだ立ち上がれない。
そして、後ろで不敵に笑っていた魔物たちは、光に追撃をする体制を取り始めた。
「カカカカカカ...グオアアアアアア!!!!」
シルヴィアも光も打つ手がない。
このままでは二人とも本当に殺されてしまう。
そう思った刹那。
シルヴィアでも光でもない、別の誰かが魔法を放った。
「サンダァァ.....ボールトぉぉぉぉぉ!!!!!!」
誰かがそう叫ぶと、シルヴィアを襲っていた魔物の上空一帯が急に暗くなる。
そして瞬く間に暗い空から巨大な落雷が発生し、SSS級の化け物を一撃で焼き尽くしてしまったのだ。
SSS級と言うと、一般的なギルドの戦士が束になっても全く歯が立たず、上級ギルドのリーダー格が3~5人集まってようやく撃退出来るほどの強さと評されている
そんな言葉通りの化け物を一撃で葬った、目の前の少女は一体何者なのか。
「あなたは...あの時の......!?」
シルヴィアは、自分を助けてくれた人物の姿を見て驚く。
そこには、見覚えのある一人の少女が立っていた。
「じゃじゃーん!! 天より轟く紫電を司りし者、ナギサ=トワイライト!!! ここに降臨!!!」
とんでもなく強力な雷魔法を放った者の正体。
それは、昼休憩の際に食堂で話しかけてきた銀髪の少女だった――




