【第26話】危険度:SSS級
光たちの前に突如姿を現した、末元 光良。
そして彼はこう言った。
「僕の目的は、そこにいるシルヴィア王女殿下を殺すこと。」
やはりハープの森でカノープスの大群に襲われたのは、この男の仕業だったのだ。
全く面識のない男に、いきなり殺害予告をされた当のシルヴィアはと言うと、思ったよりも冷静だった。
「なぜ私が、見ず知らずのあなたに殺されなければならないのでしょうか?」
シルヴィアの真っ当な質問に、末元は不敵な笑みを浮かべながら答える。
「フフフッ.....そんなことは、"いま"王女殿下をやられているあなたが一番良く分かってるはずでしょう?」
「.....あなたは一体、何者なの?!」
末元の答えに、つい先程まで冷静だったシルヴィアが、急に感情的になる。
(シルヴィア...どうしたんだ?)
光も、本気で怒っているシルヴィアを見るのは始めてだ。
そのせいか話し方も普段と違い、敬語では無くなっている。
「おっと、怖いなあ王女殿下。 僕はあくまで自分の目的の為に動いているだけであって、あなたの過去とは無関係ですよ。」
「シルヴィアの...過去?」
末元の意味深な発言に、光も思わず反応する。
「光さん...この件については、いずれ必ず話しますので、今は...。」
事情があって説明出来ない様だが、おそらくシルヴィアには何か複雑な過去があるのだろう。
シルヴィアは俯き、言いたくても言えないこの状況に後ろめたさを感じている。
しかし、光は全く気にしていなかった。
落ち込む彼女を慰める様に、優しく語りかける。
「過去の話...気になると言えば気になるけど、無理して話す必要なんてないさ。 それより――」
シルヴィアの過去に何があったのか、末元の真の目的は何なのかとか、今はそんなこと、どうでも良かった。
今はとにかく、「シルヴィアを殺す」なんて言い出した、目の前の大馬鹿者をぶん殴ってやるのが最優先である。
「末元、悪いが.....お前はここで始末する。」
素早くエグゼキューターを召喚し、末元を狙う。
「奴を捕らえろ.....ナイトメア・プリズン!!!」
光が魔法を唱えると、末元の頭上に漆黒の牢獄が現れる。
例のごとくその造形は不気味で、至る所に生気が抜けたような目玉が張り付いており、見ているだけで奈落の底に引きずり込まれてしまいそうだ。
だが、そんな魔法を前にしているというのに末元は依然、冷静だった。
「残念だけど.....君の相手は僕じゃないんだよねぇ。」
彼がそう呟くと、光が生成した檻は何者かの攻撃を受け、轟音と共に粉々に破壊されてしまう。
「馬鹿な!!俺のナイトメア・プリズンを.....一体誰が―――」
焦る光は、攻撃が飛んできた方向を見る。
「グヒヒヒヒ....ヒヒ.....」
そこにはなんと、RPGのラスボスとして出てきてもおかしくないほどの威圧感を醸し出す、巨大な悪魔のような魔物が宙に浮いていたのだ。
ナイトメア・プリズン自体、決して外壁の強度が売りの魔法では無いというのもあるが、それでも破壊するのは至難の業。
並大抵の攻撃じゃ傷一つつけられないだろう。
やはりあの魔物は"普通"じゃない。
そして、この場に出現した魔物は、目の前の一体だけではなかった。
スタジアムの上空に浮遊していたゲートのような穴から、次々に魔物が現れる。
それらに一貫性は無く、ドラゴンを始めとし、スライム、動物系、メカ、悪魔、天使など、数多の種族の中でも頂点に君臨している様な魔物が勢揃いしていたのだ。
「あれは...そんな......」
シルヴィアの頬に汗が伝い、目の前にある信じがたい状況に驚愕する。
「あそこにいる魔物は全てSS級以上.....中にはSSS級まで混ざっています.....!」
しかも、その数はカノープスの時とは比べ物にならない。
ざっと数えただけでも、50体は超えているだろう。
「僕が簡単な指示を出すだけで、これだけの戦力が君たち二人を襲うんだ...最高だね...アハハハハ!!!」
この絶対的有利な状況に、末元のテンションは最骨頂になっていた。
「おそらく、空間転移魔法を使ったのでしょうが、あれほどの数をどうやって...」
「もちろん、僕一人の力ではありませんよ殿下...学院の生徒の魔力をちょっぴり頂いたんです。」
「魔力を貰った? そうか、椎名や真田が体調不良になったのもお前の仕業か。」
少し前に、椎名を含む個人戦出場者の4名が体調不良を訴えていた。
原因が全く分からない為、ただの体調不良として扱われていたが、どうやらこの男の仕業だったらしい。
「少し違うね...正確にはその4人だけじゃなく、この学院の生徒や教師たち皆から魔力を貰ったんだ。 そうでもしないと、この数の転移なんて出来ないさ。」
「...ってことは、避難した生徒や教師は今頃全員ぶっ倒れてるってのか?」
仮に光の言うことが実際に起きていたら、大惨事というレベルでは済まない。
ただでさえ目の前にいる化け物の大群にこれから襲われるというのに、どう対処しろと言うのだろうか。
「全員ではないよ、君や王女殿下のように耐性の問題で魔法が効かない人もいたらしい。 詳しくは僕も分からないけど。」
「詳しくは.....知らないだと?」
末元の今の発言に違和感を感じた光は問う。
「フフッ、魔力吸収を使った人は僕じゃないよ...あの"鎌瀬"くんさ。 僕たちが強力してこの状況を作り上げたんだ。」
ここにきて全く予想していなかった人物の名前が出てきた為、表情が一瞬凍りつく光。
しかし、この程度の話で動揺することは、もう彼には無い。
右手の指を折って伸ばし、バキバキと音を鳴らした後、手の平を目の前の男に向ける。
「それなら話が早くて助かる。 お前も鎌瀬も、まとめて牢屋へぶち込んでやる。」
光が再びエグゼキューターを召喚し魔法を使おうとした、その時だった。
末元の真後ろに、空間転移用のゲートがまるでこのタイミングを待ち構えていたかのように、ノータイムで出現したのだ。
「お喋りはこのくらいにしておこうか。 僕は戦闘は苦手だから、この辺でお別れだね。」
どうやら、末元はあらかじめ自分の逃げ道を用意していたらしい。
彼は頭が切れるだけでなく、誰よりも用心深いということをすっかり忘れていた。
普段の光なら、少し頭を捻ればこの程度の戦略ぐらい、簡単に予測できるはずなのに。
末元を叩くことに必死で頭が固くなっていたのかもしれない。
「いつの間に.....逃がすか!!!」
すぐさまエグゼキューターで攻撃しようとするが、もう間に合わない。
自らが作り出したゲートに吸い込まれる様に、末元はスタジアムから姿を消した。
光は最大の"敵"が目の前に居るというというのに、みすみす逃走を許してしまったのだ。
(なんて失態だ.....王様に殺されても文句言えねえぞこれ....)
右手を額に当て、自らの甘さと実力不足を恥じる光。
だが今は、末元を逃がしたことを悔やんでいる暇など無い。
「光さん、魔物たちが来ます!!!」
「チッ.....ついに来やがったか!!」
魔物の数は50にも及ぶが、カノープスの軍勢に使った「カオス・デストラクション」のような特大魔法を使えば、一度に多くの魔物を殺せるだろう。
しかし、いくら光と言えど、決して魔力が無限というわけではない。
また、仮に今いる50体を全滅できても、増援が来る可能性は十分にある。
つまりこの状況においては、魔力消費の激しい魔法を連発するのではなく、小規模の魔法で地道に減らしていく作戦が最善の方法のはずだ。
「シルヴィア!! 俺のことは気にしなくていいから、自分の身を守ることだけに集中してくれ! 勿論、ヤバそうだったらすぐ助けに行く!」
「.....分かりました! 無理だけはなさらずに!」
正直なところ、いまこの場で彼女に出来ることは何もない。
魔物の数が多いのはともかく、その一匹一匹の強さが桁違いなので、一度でも光のサポートに回ろうものなら、その間に自分がやられてしまう。
かといって、一人でスタジアムの外に出ようものなら、かえって危険に晒される可能性が高い。
もはや彼女も、全てを光に任せるほかなかった。
(シルヴィアを守る......俺はその為にここまで来た.....)
光は全身に魔力を集中させる。
これから始まる、正真正銘の死闘に向けて。
「来い!!!! エグゼキューター!!!!!!!!」




