【第25話】勇者の使命
「は? 椎名が棄権?」
二回戦一試合目の光は、開始10分前に控え室に立ち寄った。
するとそこには、運営スタッフを務める二年の生徒が待っており、光の対戦相手だった椎名 桃花が突然棄権を申し出たとの情報を伝えてくれた。
「ああ、なんだか急に体調が悪くなったらしい。 だから三刀屋くんは二回戦は不戦勝ということでよろしく。」
「.....分かりました。」
「他にも片桐くん、真田くん、不動くんの三名も同じく体調不良みたいだ。 不動くんに至ってはまだ勝ち残ってたのに、残念だ。」
(4人も立て続けに、しかも転生者だけが体調不良ってそんなことあるか.....?)
真田については、光の強さに恐怖を覚え、見るからに体調が悪そうだったが、他の3人については不可解だ。
特に椎名はその強気な性格上、光との試合を前にして逃亡するなんてことは絶対しないはず。
おそらく、今このフォルティス魔法学院では何かが起きている。
しかし、彼らの体調不良の原因が分からない以上、それはただの「偶然」として扱うしかないだろう。
そして運営は、試合を続行する判断を下した。
~フォルティス魔法学院 競技用スタジアム にて~
『思わぬトラブルで2名の選手が棄権してしまいましたが、気を取り直して2回戦を始めていきましょー!!』
実況のコールと共に、2回戦第2試合に出場する九条とフェリッサがフィールドに現れる。
「何か嫌な感じがするけど、このままやるしかないかあ。」
同じ転生者として、九条もこの状況には胸騒ぎがしてならない。
対してフェリッサは特に気にしている様子は無く、むしろ気合が入っていた。
「2名も棄権したならラッキーだわ、このまま私が優勝を頂く。」
そもそも、体調不良を訴えた4名がこことは別の世界から来たなんて、フェリッサを含む他の生徒達は知らないだろう。
つまりフェリッサ達にとっては、「何百人といる生徒のうちの4名が体調不良になっただけ」という認識なのだ。
確かに、それくらいのことは学校行事において日常茶飯事ではある。
故にFOD自体が中止などされるわけもなく、試合はそのまま始まった。
『それでは九条選手対フェリッサ選手...レディーファイッ!!!!』
いつものように試合開始のゴングが鳴る。
そして、九条とフェリッサがお互い得意とする魔法を詠唱し始めた、その時だった。
『お、おい見てみろ!空に何か穴みたいなのが大量に現れたぞ?!』
『何か魔物みたいな魔力を感じるんだけど、なにこれ...』
『さっきの悪魔くんの仕業...ではないね、全然感じが違う。』
なんと突然スタジアムを包囲するかのように、上空にゲートの様な物体が大量に現れたのだ。
(な、なんだあれは.....)
この奇妙な光景を目にし、さすがの光も驚愕してしまう。
想定外の事象に、学院の講師はすぐにアナウンスで生徒の避難を命ずる。
『生徒は全員速やかにスタジアムから退場し、指定の避難所に移動せよ!! 多少なら魔法を使っても構わん!』
フォルティス魔法学院の生徒は全部で300人弱と決して多くはない為、避難自体はそこまで難航しないはずだ。
フィールドのど真ん中にいた九条とフェリッサも、アナウンスに従って避難する。
「九条さんだっけ? 試合の続きは明日、必ずやりましょう。」
「そんなこと言ってる場合? 私はさっさと逃げるよ、じゃあね!」
「え、ちょっと、待って! ドラグーンはこういう時ずるいわよ!!」
九条はスピード強化の魔法を使い、フェリッサを置いて颯爽と逃げていった。
一方で、光は避難所には向かわず、逆にスタジアムの中へと入り、突如現れたゲートの様子を伺っていた。
「この感じ.....ハープの森で末元が現れた時のものによく似ている。」
以前、ハープの森で末元が使用した空間転移魔法と、いま目の前にあるゲートがどことなく似ていると彼は感じていた。
だが、大量のゲートが出現してから10分ほど経過したものの、今のところ動きは無く、不気味にうごめいているだけだ。
しかし、光はここであることを思い出す。
「そういえばあの時、確かあいつ、シルヴィアを知っているみたいなことを言ってたよな...それで、もしこのゲートがあいつの仕業だとしたら.....」
ハープの森でカノープスに襲われたのは、おそらく末元の仕業だろう。
そして、彼はシルヴィアのことを知っていた。
つまり、あのカノープス襲撃事件の目的はシルヴィアの身柄の確保、もしくは殺害だった可能性がある。
これら情報から導き出される答えは1つだ。
「.....シルヴィアが危ねえ!!」
シルヴィアの身に危険が及ぶ可能性があると悟った光は、まずはスタジアムの観客席を見渡す。
だが、残っている生徒はもう見当たらない。
「いない...ってことはクラスの皆と一緒に避難できたのか?」
現状、空に浮かぶゲートに異変もない為、何も無ければシルヴィアは避難済みと考えていいだろう。
「ふぅ.....念のため、俺も一回避難所に行って確認してくるか。」
光はエグゼキューターを使って翼を形成し、飛行を始めようとする。
そんな時、誰かがスタジアムの中へと入ってくる音がした。
「光さん! なんでこんなところにまだ残ってるんですか! 早く避難してください!」
なんと、入ってきたのはシルヴィアだった。
魔法感知の能力を使って、光の位置を探ったのだろう。
彼女はいつになく焦った様子でこちらへ走ってくる。
「なっ!!!馬鹿!! ここは危険だから来る――」
自らの危険を顧みずに行動したシルヴィアに、光が叱咤しようとしたその時だった。
空に浮いているゲートと全く同じものが一つ、スタジアムの中央に現れたのだ。
そこから出てきた男の顔を、光は嫌と言うほどよく知っている。
「やあ、久しぶりだね三刀屋くん。 そして.....シルヴィア王女殿下。」
奴に会ったのは、ハープの森の一件以来だ。
学校一の切れ者だった男、末元 光良。
「あの方は確か、ハープの森にいた....。」
「.....やはり来たか末元。 で、こんなところに何の用だ? お前はこの学院の生徒じゃないだろう。」
「ハハッ.....君、雰囲気変わった? 同じ高校に通ってた時は、あーんなに無口だったのに。」
出会って早々、光を煽り始める末元。
しかしこの男の場合、ただ無意味に煽っているわけではなく、何かしらの作戦の可能性まである。
「.....いいから質問に答えろ。 何をしに来た?」
挑発に乗らず、冷静さを取り繕って、末元の目的を聞こうとする光。
すると、末元が急に高笑いをし始めた。
「なに笑ってんだ気色悪い。 他のクラスにいたお前のファンが見たら引くぞ。」
「フフ.....ハハハハハハハ!!!! 僕の目的はねえ.....」
次に末元が口に出す言葉に、光は絶句した。
『そこにいる王女殿下を殺すことだよ。』
あまりの衝撃にしばらくの間、声が出せなくなる。
シルヴィアの命が狙われている。
理由は分からないが、確かに末元はそう言った。
予想はついていたものの、にわかには信じがたい事実。
そして、その事実を知ってしまった以上、自分の命に代えてでも成し遂げなければならない任務がこの場で発生した。
それは当然、勇者としての任務などではない。
フォルティス魔法学院1-A三刀屋 光として、「シルヴィア=ルー=エルグラント」を必ず守る。
それがたった今、光に下された絶対厳守の任務だ――




