【第24話】謎のおてんば娘、見参?!
「えーっと、次の試合は真田とフェリッサって奴か.....うん、別に見なくていいな。」
片桐との試合を終えた光は、校庭の草むらで寝転がり、ぼーっとトーナメント表を眺めていた。
「知らない仲じゃないし、さすがに九条の試合は見にいくか.....ついでにグリフレッドのも.....って、あれはまさか―――」
独り言をボヤいていると、シルヴィアが笑顔で手を振りながら、こちらへ歩いてくる姿が視界に入ってきた。
「光さん、一回戦突破おめでとうございます! あまり勇者らしくない戦い方でしたが、見事な魔法でした。」
(.....おかしい)
学院には花なんて大して植えられていないはずだが、光の目には何故か、彼女の背景にピンク色のチューリップやコスモスで彩られた、壮大な花畑が広がって見えた。
もちろんそれが本物のわけもなく、この男が勝手に幻覚を見ているだけである。
頭を数回横に振り、愚かな妄想にリセットを掛け、いつものクールなトーンで光は返事をした。
「ありがとう。戦法に関しては......見てて気持ちがいい物ではなかっただろうな。」
「冗談ですよ。 それより対戦相手の方はお知り合いだったんですか? なにやら揉めていたようでしたが.....」
「あー....まあ、ちょっと色々.......それより九条の試合を見に行きたいから、観客席まで案内してもらってもいいか?」
光がそう言うと、シルヴィアは「うーん」と顎に手を当て、少し考えてから答えた。
「分かりました! では案内しますね! えっと....こちらから行きましょう!」
「サンキュー......って、俺たちのチームの席ってそっちだっけか? 確か1-AはAゲートだったような―――」
「確かにチームの席はそちらに用意されてますが、その.....二人きりで観戦したいなー.....なんて。」
彼女が発した予想外の言葉に、光は思わず目を見開き、動揺してしまう。
もちろん、"そういう意味"での発言でないことぐらい分かってはいるのだが、彼も元はただの男子高校生だ。
何とか平静を保ち、シルヴィアにその意図を問う。
「な、なんで二人きり?? ほら、チームの皆はシルヴィアのこと待ってるだろうし―――」
「ここ最近、FODの練習で忙しくて、二人でゆっくりお話しする時間なんてほとんどなかったから、たまには一緒にと.....」
「ま、まあそうだけど.....」
「.....ダメでしょうか?」
確かに一週間ほど前からは、お互い練習に追われ授業も別々だった為、会話する機会が激減していた。
おそらくシルヴィアの言葉には特に深い意味はなく、単純に親しい友人と話せなくて寂しい思いをしていたのだろう。
それに、王女殿下たるものが物寂しそうな顔をしながら、上目遣いでこう仰っているのだ。
断るという選択肢は無い。
「分かった.....じゃあ自由席の方に行くか。」
光がそう言うと、シルヴィアはいつもの笑顔を取り戻し、
「はいっ!」
と大きく返事をした。
~フォルティス魔法学院 競技用スタジアム にて~
同時刻、スタジアムでは真田 優斗対フェリッサ=マリの試合が丁度終わったところであった。
『勝者はフェリッサ選手!! 真田選手は緊張からか、本来の力を出せていない様にも見えましたねぇ!』
終始圧倒しつつ勝利を収めたフェリッサは、フィールドで跪いている真田の所に向かう。
「あんた、全然力が出せていなかった様に見えたけど、具合でも悪かったの?」
フェリッサがそう聞くが、真田は何も答えない。
「ちょっと、本当に大丈夫?」
「......もしこのまま勝ち上がったりなんてしたら三刀屋に殺されちまうんだ.....それならここで負けておいた方がマシだ.....」
真田が本来の力を発揮できていなかった理由はこれだ。
彼は、目の前で元クラスメイトの片桐が、光の魔法で血達磨にされているのを見ている。
そしてなぜ光がそこまで片桐を痛めつけたのか、その理由もよく分かっている為、今度は自分の番であると恐怖していたのだ。
「あいつ....絶対僕のこと恨んでるに違いない....ううぅ...」
「恨むってなに? 何かあったわけ?」
ぼっちの真の敵が、陽キャではなく陰キャだと言うのは有名な話。
心に余裕がない低カーストの人間は、自分より"下"の人間が近くにいようものなら、徹底的に叩く。
そうすることで「自分は最底辺じゃないんだ」という実感をお手軽に得られるからだ。
ゆえに真田は、元の世界に居た頃、光に対して地味な嫌がらせを度々やっていた。
下駄箱のナンバープレートの向きを表裏逆にしたり、ロッカーのドアを勝手に開けそのままの状態で放置したり、傘を傘立てから外して床に落としておいたり.......などなど。
そしてある日、犯行現場を光本人に見られ、一触即発の空気になったことがあった。
しかし、当時の光には仕返しをする気力もなければ、当然エグゼキューターを持っていたわけでもないので、その時は何のお咎めも無しで済んだのだが.....
「今のあいつと会ったら何百倍にもして返してくるにきまってる.....」
「よく分かんないけど、確かにあの三刀屋って奴ちょっとヤバそうだったしね、私も気を付けないと。」
フェリッサは話の内容にはサッパリついていけなかったが、一応彼女も勝ち進めれば光と当たる可能性がある。
決して他人事ではないと自分を鼓舞し、会場をあとにした。
~ 一回戦第四試合、九条 鈴音 VS トレス=ニコル 開始5分前~
「九条さん、頑張って欲しいですね。」
「俺は練習で何回か戦ったけど結構動けてたし、多分勝つと思う。 それになんか変な武器使ってくるしな、あの人。」
「へぇー、どんな武器をお使いになられるんですか?」
「十字架の形をしてて、中央に柄があるタイプの剣.....かな。 ほんと、あんなもの一体どこから仕入れたんだか。」
「ほうほう、そんなのがあるんですね....なんだか私ワクワクしてきました。」
そんな会話を交わしながら、光とシルヴィアは観客席の隅に隣り合って座り、九条の試合開始を待っていた。
『それでは一回戦第四試合、九条選手対トレス選手、レディーファイッ!!』
マイクを通した大きな実況の合図がスタジアムに鳴り響く中、先に動いたのは九条だった。
「いくよ、ソニック・レイド!!!」
「いきなりかよクソっ!! しかもこの女....早い!?」
九条は人知を超えた移動速度を見せ、10mほど空いていた間合いを猛烈な勢いで詰める。
そのまま射程圏内まで踏み込むと、軽快な身のこなしで武器をくるりと回し、敵の顔面目掛けてそれを振るった。
ヒュンッ!!と空を切る音がする。
九条の腕には、特に手ごたえは感じない。
「.....あっちゃー、ギリギリでかわしたか、ざんねん。」
「み、見かけによらず中々やるようだな.....女。」
トレスの見事な反応と的確な判断により当たりはしなかったものの、先手を打つことには成功したようだ。
開始早々に九条が使用したのは、ドラグーンが得意とする移動速度上昇系の魔法。
彼女の戦闘スタイルは、スピード強化に魔力を全振りし、弱点の火力不足は武器で補うというドラグーンの中でも鉄板のものであった。
(速い.....九条の奴、詠唱から一撃目までのスピードが以前より上がっている)
光から見ても、九条の展開スピードは目を見張るものがあった。
だが、トレスの方もやられっぱなしでは終わらない。
「少しビビっちまったけど、俺も本気でいくぜ......フリーズ・ショット!!!」
トレスの両手から氷のつぶてが出現し、九条に襲い掛かる。
彼の放った魔法は、お世辞にも威力が高い攻撃とは言えないが、弾速はそこそこ。
それでも、スピードに特化した九条には万が一にも当てることはできない。
「そんな遅い攻撃が今の私に当たると思ってる? 後ろ....貰った!!」
九条は氷のつぶてを余裕の表情で回避すると、そのまま後ろに回り込んで背後を取りにかかる。
「......かかったな!」
トレスがそう呟くと、突然九条の動きがピタリと止まった。
「なんだ....足が動かない...これは.....?」
「へっ....フリーズ・ショットは囮で、こっちの罠が本命さ。 お前みたいな戦闘スタイルの奴は必ず背後を取りに来るって分かってるんだよ。」
「......ふーん、モブっぽいくせに結構やるじゃん。」
トレスは九条の発言が少し心に聞いたのか、眉毛をピクピクと上下させつつも、無防備の彼女にとどめを刺そうとする。
「モブで悪かったな.....だが俺の勝ちだ!! くたばれ!! フリーズ・ラ――」
彼が魔法を唱えようとしたその時だった。
――――ガンッ!!!!!!
何の前触れもなく発生した、謎の打撃音。
そしてトレスは、自身の後頭部に激しい痛みがジワジワと伝うのを感じた。
「な、なんで...いつの間に......」
患部を手で押さえ、地面に倒れ込むトレス。
その姿を見て、してやったりと言わんばかりの顔で二ッと笑う九条。
「どうだ? 結構効くだろ?」
「グアッ.....こ、この女....」
驚くことに先程の打撃音の正体は、トレスの頭部に九条の武器が直撃した音だったのだ。
彼女は両脚が氷によって凍結され、そこから一歩も動くことが出来ない状態だったはずなのに、いつの間に攻撃をしたのだろう。
その秘密は九条の持つ武器にあった。
今も確かに、九条は武器をその手に持っている。
その辺の店ではまず買えない様な、特殊なデザインと素材で作られている十字架の形をした剣。
だが地面を見ると、トレスを攻撃したと思われる武器が、今もそこには落ちていた。
これらの要素から導き出される答えは一つ。
「私の武器"サザン・クロス"は分離式なんだ、悪いね。 あ、ルールに従って武器に刃はついていないから安心して眠ってていいよ。」
「......無念。」
しばらくすると、トレスは気を失い試合終了。
九条はサザンクロスの半身を拾いにいき、慣れた手つきで再び合体させる。
そのまま相棒を天に掲げると、女性らしからぬ勇ましい顔で喜びを表現した。
『第四試合、九条選手の勝利です!』
『うおおおおお!!!! めっちゃかっこいいじゃねえか!!!』
『しかも結構美人!ファンになりそう!!』
実況のコールと共にスタジアムが歓声に包まれる。
掛かった時間はおよそ20秒。
終わってみれば、今大会の暫定最速タイムでの決着となったこの試合。
本当に彼女はつい最近まで日本の女子高生だったのかと疑ってしまうほど、完璧な試合運びであった。
「九条さん、鮮やかで素敵ですね~!」
「元々モデルやってたくらいだからな.....」
試合を見ていたシルヴィアと光も、九条の輝かしい勝利に拍手を送る。
その後も試合は予定通り進行。
残るチームメイトのグリフレッドも、危なげなく勝利したのであった。
一回戦が全て終了し、残っている選手は以下の通り。
椎名 桃花
三刀屋 光
フェリッサ=マリ
九条 鈴音
デイアナ=ビセット
不動 連
グリフレッド=マイヤー
ナギサ=トワイライト
光は椎名と、九条はフェリッサと、グリフレッドはナギサという一回戦はシードだった選手と対戦することになった。
~フォルティス魔法学院・食堂 にて~
二回戦開始の前に昼休憩を挟む為、シルヴィアと光は食堂に来ていた。
学院の食堂はとても広く、仮に生徒全員が利用した場合でも、ある程度席が余るほどだ。
「これで1-Aは三人とも一回戦突破ですね! 皆さん凄いです!」
「俺と九条はともかく、グリフレッドまで勝つとはな、正直驚いた。」
「あはは.....あ、向こうのテーブル空いてますね。」
「ほんとだ、んじゃあそこに座るかー。」
光とシルヴィアが空いているテーブルに向かおうとすると、何やら周りの生徒がザワザワし始める。
『あの人、例の悪魔じゃない?』
『隣を歩いているのは...シルヴィア様?!』
『悪魔と王女殿下が一緒に居るって、マジヤバくない?』
「ふふふっ、光さんもすっかり有名人ですね。」
シルヴィアは、やけに嬉しそうにしながらそう言った。
自らが勇者として選んだ男が順調に実力を伸ばしていく姿を見て、喜んでいるのか何なのか知らないが、笑った顔は本当に美しい。
「いや、俺は別に目立ちたくてやったわけじゃないんだが...」
あれだけ派手なパフォーマンスを見せれば、嫌でも目立ってしまうだろう。
漆黒の魔法に、奇妙な顔のついたブラックホール、まるで拷問をしているかのような残虐ショー。
やられた片桐は気の毒だが、観客からしてみればこれ以上とない試合内容だった。
「光さん、いつもパンばっかり食べてますから、今日は私が日替わり定食を奢りますよ。」
「えっマジ、いいの?!.....じゃない、さすがに自分で買うからそれくらい。」
「私の出番は明日からですし、今日は光さんに頑張って頂かないと! だから奢らせてください。」
「.....じゃ、じゃあ、せっかくだからお言葉に甘えさせて頂こうかな。」
光がそう答えるとシルヴィアはニコっと笑い、上機嫌でカウンターへと向かった。
どうでもいいが、こうやって事あるごとにその笑顔を見せつけてくるのは卑怯だと思う。
(これが王女.....いや、女神様と呼ぶべきか.....ブリリントだぜ....)
シルヴィアの後ろ姿に神々さを感じている中、突然見知らぬ一人の女子生徒が光の席へやってくる。
彼女は光の顔をしばらくじーっと眺めた後、こう言った。
「君が三刀屋くんかぁー.....んー、近くで見るとごく普通の男子って感じだねぇー。」
「えっ、あ、あの......ど、どどどちら様ですか?」
何の前触れもなく話し掛けてきた目の前に少女に、光は自分でも驚く程たじろいでしまった。
青要素が少し入った銀色に輝くロングヘア―に、頭頂部にそびえ立つ一本のアンテナのような毛。
一見強気な印象を与えるが、可愛らしさも存分に兼ね備えた紅い瞳。
更に、148cmほどしかない控えめなその身長。
スタイル抜群で完璧美人タイプのシルヴィアや、物静かで守ってあげたくなる系の木乃葉とは全く違うタイプの女の子だ。
そして実は、光が個人的に一番好むタイプのルックスでもある。
「あれれー? もしかして僕のこと気になるのー??」
「い、いや気になるっていうか.....先に話し掛けてきたのはあんただろ.....」
「それもそうか! ごめんごめん、ついつい☆」
(......今のでもう分かった、この人たぶんヤバい人だ。 絶対中身で損しているタイプだ。)
自分好みの女の子が目の前に現れ、不覚にも少しドキっとしてしまった光。
しかし、滲み出る"ヤバい奴オーラ"を察知した瞬間、その胸のときめきはどこかへ消えてしまった。
関わっちゃいけないタイプの人種であることは間違いないので、変に刺激しない様、恐る恐る話を続ける。
「で、俺に何か用ですか? なるべく早く用件を―――」
「光さん! 今日の日替わり定食はハンバーグ定食でした.....よ? あれ、その小っちゃい子はお知り合いですか?」
結局、なにも会話が進まないまま、昼食を買いに行ったシルヴィアが戻ってきてしまった。
「ち、小っちゃい子呼ばわりされた!! 僕は.....って、シルヴィア王女殿下だ!?」
いきなり罵倒されて少しムッとした少女だったが、相手がシルヴィアだったことに気付くとすぐに態度を改める。
「こんにちは、シルヴィアです。」
「もう、二重の意味でビックリしましたよ。 まさか王女殿下に.....ち、小っちゃい子なんて言われるとは.....」
自分が言われた言葉の意味を改めて実感したのか、先程と同じ不服そうな顔に戻る少女。
その様子を察し、シルヴィアはすぐに謝罪をする。
「ご、ごめんなさい! 悪気はなかったんです! その、えっと.....」
「いえ、大丈夫です全く気にしてません本当に。 あ、それより僕はもう戻りますね! んじゃ三刀屋くん、またねー。」
「えっ、いやまだ話を聞いて.....行ってしまった。」
一体彼女は何者で、なぜ突然光の元にやってきたのかサッパリ分からなかった。
ただ、色んな意味で"普通じゃない"ということだけは確かだろう。
「何だったんだあの人.....あ、買ってきてくれてありがとうシルヴィア。」
「いえいえ、二回戦以降も力を発揮できるようにガッツリ食べてくださいね。」
「いただきます......なっ、なんだこれは?! 美味すぎる.....!」
魔法学院に入学してから昼食はパンしか食べていなかったので、その味はもう至高の一言。
一口目以降、物凄い勢いで料理を口の中に放り込んでいく光。
シルヴィアは彼のそんな姿を、まるで子供の食事を見守る母親の様な顔で見ていた。
「喜んで貰えて何よりです。 それにしても前から気になっていたのですが―――」
「ん? どうした?」
「光さんが仲の良いお友達って、なんか女の子ばっかりですよね。」
―――ガッシャーン!!!!
多くの学生で賑わっている食堂で、ひときわ大きな金属音が鳴り響く。
その出処は言わずもがな、光が手に持っていたスプーンを床に落とした音だ。
間違いなく、約一秒前にシルヴィアの口から発せられた言葉が原因だろう。
「実技の授業とかでは男の人と話してる姿も見ますけど、それ以外ではあんまり見ないなあって。」
「......」
シルヴィアによって繰り出された唐突な精神攻撃を受け、死んだ魚のような目をして虚空を見つめる光。
(.....でもまあ、別に友達が欲しくて学院きたわけじゃねえし.....それに―――)
なぜか生気を取り戻した光は、シルヴィアの方を向き、珍しく笑顔を見せた。
当の本人は、なにやら「ごめんなさい」だの何だの必死に謝っているようだが、そんなことはどうでもいい。
まだまだ分からないことが山積みだけど.....俺はこの世界に転生できて良かったって本気で思う―――
ついに三人目のヒロイン登場です。




