【第21話】美少女二人が俺を取り合って喧嘩!...なんてあるわけ無い
~模擬戦・個人部門 練習場所 にて~
気付けば、FODの開催が二日後まで迫っていた。
今日の授業は、試合に向けた最終調整に全てを費やすらしい。
そしてたった今、1-Aの生徒全員で光対グリフレッドの練習試合を観戦している最中であった。
「三刀屋!今日こそ君に勝つ!!! ゼラス・ガントレット!!」
グリフレッドの両腕・両足に鋼のアーマーが出現。
攻撃力アップと移動速度アップを兼ねた、万能な魔法だ。
「これが僕の新技だ...いくら君でも対応できまい!!!」
リベンジに燃えるグリフレッドは、勢いのままにフルパワーのパンチを繰り出す。
その攻撃は早く、威力も十分だった。
しかし、光相手にはカスりもしない。
『おい三刀屋のやつ...空飛んでるぞ!!』
『飛行魔法ってサイキックしか使えないんじゃ...』
光が取った防御手段は、回避でもガードでもなかった。
そもそも攻撃が届かない位置、ゆえに宙に浮くことで、一方的に無効化していたのだ。
どうやら、黒いオーラを翼代わりにして飛んでいるらしい。
ただし、カノープス戦で出現したあの禍々しいものとは違い、あくまでただの飛行用とのこと。
それにしても、地上での殴り合いを得意とするグリフレッド相手にこれとは、容赦が無さすぎる。
(...俺の"エクゼキュータ―"にかかれば空を飛ぶくらい造作もない)
エレメンタルは自分の精霊に対し、必ず名前をつけることになっている。
今までは「黒いオーラ」などの曖昧な呼び方をしていたが、これを機に「エグゼキューター」と命名した。
「空を飛ぶなんて卑怯だぞ! 降りて正々堂々、僕と勝負しろ!」
「断る。」
「え」
「そらいくぞ...カオス・レイン!!」
光が浮遊している距離、およそ地上20メートル。
その高さから大量の黒い雨...いや、針のような光線がグリフレッド目掛けて降り注ぐ。
「そ、そんなの避けきれるわけ...ぐああああぁ!!!!!」
常人のグリフレッドにそんな魔法を防ぐ術はない。
今までの練習と同様に、虚しくも一撃で再起不能となった。
「安心しろ、威力は抑えているから大したダメージにはならない。」
「君...ほんと性格悪いよ...」
光の桁違いの強さを初めて見たクラスメイト達は唖然としている。
既に学生レベルを遥かに超えている為、無理もないだろう。
しかしシルヴィアだけは、光の成長が嬉しいのか物凄くニコニコしていた。
対グリフレッドとの練習試合(一方的な虐殺)が終わり、セシルはクラスメイト全員に声を掛ける。
「見ての通り三刀屋は強い、おそらく個人戦は優勝するだろう。 だが、総合優勝にはお前らの活躍も必要不可欠だ。」
セシルの言葉で自分たちが置かれている立場を再認識したのか、生徒らはごくっと唾をのみ込む。
「FOD開催まであと二日、いや実質今日しか練習時間はない。 全員もう一度気合を入れ直せ、いいな?」
『はい!!!』
大きな返事と共に、クラスメイト達はそれぞれの練習場所へ戻っていく。
「普段適当なあんたが、学院の行事にここまで本気になるとは意外っすね。」
「なぜこの私がこんなに必死になっているのか、教えてやろうか?」
珍しく真剣な顔で語るセシルに、光も深刻な表情で聞く体制を取った。
「それはな......」
「.....ゴクリ。」
「FODの総合順位が賞与におおーーーきく反映されるからだ。」
セシルの答えを聞いて、「はぁー...」と溜息をする光。
「まあ金は大事っすよね。 俺もセシル先生のお給料のために、精一杯頑張らせて頂きます。」
「よく分かってるじゃないか三刀屋。 お前には期待している、頼んだぞ。」
とにもかくにも残り2日、1ーAの生徒は全力で練習に取り組んでいった。
~FOD開催の前日 1-A教室にて~
「今日の授業はここまでだ。 あ、放課後の居残り練習は禁止だからさっさと帰って寝ろ。 以上。」
最終調整は昨日の時点で全て済ませ、あとは全力で休むのみ。
これもセシルの作戦だ。
『ついに明日だねー!』
『1ーBには絶対負けたくないわー』
『シルヴィア様のご活躍...早く見たい』
クラスメイトらもかなり気合が入っている模様。
入学からまだ一ヶ月も経っていないが、クラスの雰囲気はかなり良い。
肝心の光はと言うと、自分からコミュニケーションを取りにいくことは少ないものの、いい具合に馴染んではいる。
高校時代の様に一人ポツンと浮いていたり、陰口等を言われることも無い。
本人もこの環境に満足しており、卒業までこの調子で過ごしていければと、願っているほどだ。
(...さて、帰って飯でも作るか)
光が鞄を持って席を立とうとすると、先日無事仲直りを済ませた木乃葉が寄ってきた。
「光くん! あの...」
「ん? どうした?」
木乃葉は何やらモジモジとしていて、中々続きを話さない。
その間に、今度はシルヴィアが光の傍に来る。
「光さーんこれから私と...あれ、お話し中でしたか?」
「ああ、木乃葉が俺に用事があるって。」
「いや、用事とかじゃなくて、その...」
木乃葉が次に発する言葉は何なのか、二人の注目が集まる。
「こ、これから一緒にカフェでも行かない...?」
「え゛っ」
光が反応するより先にシルヴィアの変な声が漏れてしまっているが、今は置いておこう。
「カフェか...どうせ暇だし行くか。」
「ほんと!? やった!!」
光からOKを貰い、木乃葉は物凄く嬉しそうな表情で両手を上げる。
元の世界では、放課後一緒にカフェに行くなんて夢のまた夢だったのだろう。
「あ、悪いシルヴィア、何だっけ?」
「むっ.....」
シルヴィアは、ちょっと前にも見たような不満たっぷりの目で光を睨む。
「...な、なに?」
「私もお二人に付いていきます。」
「え、いいけど...シルヴィアと木乃葉ってあんまり接点無かったような――」
「い・き・ま・す・か・ら! ご一緒させて頂いてもいいですよね、風見さん?」
シルヴィアの頼みに対し、木乃葉は少し考えてから返事をした。
「もちろんです! シルヴィア様と一緒にお出かけなんて光栄です!」
「私も風見さんとは一度ゆっくりお話してみたいと思ってましたので、とても嬉しいです。」
シルヴィアは王女だが、一般市民に対しても分け隔てなく接している。
立場を利用した横暴な態度なんてもってのほかで、むしろ下手に回ることの方が多い。
シルヴィアが周りから好かれているのは、ルックスの良さではなく、こういった性格の面が大きいだろう。
(美少女2人と俺が一緒にカフェとか...異世界ってすげー)
光は、自分の前を歩く可憐な少女二人組を見て、異世界という環境に心から感謝するのであった。
~王都ニヴルヘイム カフェ・ディトーレ にて~
数分後、光・シルヴィア・木乃葉の三人は、王都で若者に人気のカフェに来ていた。
「このお店、よく愛華ちゃんと鈴音ちゃんと来てるんだー。」
「素敵なお店ですね。 この紅茶も凄くおいしいです。」
女性陣二人が優雅に会話する中、光は妙にソワソワしていた。
(よく考えたら、カフェなんて元の世界でも行ったことねえよ...しかも女の子二人と一緒...落ち着かねえ)
「あれ、光さんは飲まないんですか? 美味しいですよ甘くて。」
「あ、あぁ...そういえば、久しぶりにフードを被ってるシルヴィア見た気がする。」
シルヴィアは一国の王女だ。
学院内は関係者以外立ち入り禁止のため、普通に素性を晒しているが、王都の街中ではそうもいかずカモフラージュは必須。
カモフラージュ無しで街を歩こうものなら、一瞬にして人だかりが出来るだろう。
フードを被ったシルヴィアの姿を見るのは入学式の前日以来なので、少し懐かしささえ感じる。
「確かに、最初は一日中このフードを被りっぱなしでしたね、私。」
「そうそう、第一印象は不審者だった――」
「こ、コホンコホン!!」
光が話している途中だが、木乃葉がわざとらしい大きな咳払いをする。
「おい、大丈夫か木乃葉? なんかやばいもんでも飲んだか??」
「ううん...大丈夫。」
この状況は誰が見てもわかる。
自分が知らない話題で盛り上がっているシルヴィアと光に妬いているのだ。
よくある漫画の展開では、主人公が鈍感すぎてヒロインの気持ちが分からず、状況が更に悪化するような発言をしがちだ。
だが、光は元ぼっちなだけあって、他人が何を考えているのかを人並み以上に気にしてしまう体質。
なんとも虚しい性分だが、それが時に役立つこともある。
今回も木乃葉が居心地悪そうにしているのをすぐに察し、話題を変えようと試みた。
「...あ、明日の試合、勝てるといいな!チームでも個人でも!」
「そうですね、皆で頑張りましょう!」
「私、もう既に緊張してきた...」
何とか空気を戻すことに成功し、ひと安心する光。
(ふぅ...我ながらナイスプレイだ、俺!)
その後は、FODの話を中心に、三人共通の話題で盛り上がった。
「今日は二人ともありがとうございました。 シルヴィア様にまで付き合って頂いて...」
「いえいえ、私が勝手についてきたんですから気にしないでください。 こちらこそお邪魔して申し訳ありませんでした。」
(この二人...結構気が合ってそうで安心したぜ)
最初こそ少しギクシャクしたものの、後半はお互いすっかり打ち解け、光が話に入る隙はほとんどなかった。
「じゃ、俺はこの辺で。 また明日な。」
『はーい!』
そう言って、光は寮に帰っていった。
「では、私もそろそろ―――」
「...シルヴィア様。」
シルヴィアが別れの挨拶をしようとした所、木乃葉が割って話し出した。
その雰囲気は先程までとは打って変わり、真剣な表情をしている。
「ずっと気になってたんですけど、シルヴィア様と光くんってどんな関係なんですか? 入学初日から凄く親しそうでしたし、ただの友達ってわけではないですよね...?」
「...はい。 詳細は話せませんが、少々複雑な関係にあります。」
「やっぱりそうでしたか...突然変なこと聞いちゃって申し訳ございません。 今日はありがとうございました!」
木乃葉はそう言うと、少し駆け足でその場から去っていった。
「複雑な関係...か。」
夜の街にひと際目立つ、自らが仕える王城を遠くから眺め、そんなことを呟くシルヴィア。
光は、シルヴィアと出会ってからまだまだ日が浅い。
もちろん、彼女の過去も目的も、詳しくは聞かされていないのが現状だ。
そして、学院の一大イベントを明日に控えた光。
この先、彼にどのような試練が待っているのか。
ただの学校行事では終わらない―――




