【第20話】ずっと言えなかったこと
~ フォルティス魔法学院 保健室 にて~
「うっ...」
光のせいで気絶してしまった木乃葉は、保健室で目を覚ました。
(確か私、光くんに名前呼ばれて...それから...)
「木乃葉!目を覚ましたか!よかった...」
「え、光くん...? なんだ私、まだ夢見てるのかな。」
自分が保健室で寝ていて、すぐ隣に光が居て、自分の名前を呼んだ。
普通に考えれば有り得ない状況である為、木乃葉はまだ現実だと気付いていない。
「悪い、夢じゃないんだ...俺がいきなり大声を出したから...」
光がそう言うと木乃葉は体を起こし、呟く。
「そっか、夢じゃないんだね。」
「あ、ああ...」
気まずい。
勇気を振り絞って4年ぶりに話しかけてみたら、このザマだ。
木乃葉は何も喋らないまま俯いている。
(ここは俺が責任を取ってなんとかしないと...)
このままではまずいと思った光は、何とか空気を変えようと試みる。
「あ、あのさ、木乃葉、俺――」
話を振ろうとしたその瞬間、木乃葉はベッドを飛び出し光の胸に飛び込んでいた。
(え...?)
光はまだ、自分の身に何が起こったのか理解できていない。
そして木乃葉は光の胸の中で、何年も、何年も溜め続けていた涙を流す。
「ずっと待ってたんだよ...いつかまた、光くんと普通に話せる時が来るって。」
「え、あ、ちょ...」
ぼっちだった光に恋愛経験など無い。
当然、同い年のかわいい女の子に抱き着かれた経験なんてものも一切無い。
そんな光に、今の状況でまともな会話をするのは不可能だ。
「あ、あの、木乃葉...?」
「光くんがなにを思って私の名前を呼んでくれたのかは分からない。 もしかしたら聞き間違えだったのかも...でも、本当に嬉しかった。」
激しく泣きながらも、自分が思っていることをハッキリと伝える木乃葉。
対して、自分はオドオドしているだけで何も伝えられてない。
(ほんと、なにやってんだろうな...俺)
光は自分の頬を両手で叩いた後、木乃葉の頭に右手をポンっと載せ、ようやくまともに話し始めた。
「俺もずっと木乃葉と話がしたかった。 本来なら高校に上がった時点でもう一度話し合って、仲直りすれば良かったけど勇気が出なくて...ごめんな。」
そう伝えると、木乃葉は光から離れ、涙を拭く。
その表情は少し嬉しそうで、怒っているようにも見えた。
「この世界にきて初めて木乃葉を見た時、チャンスだと思った。 ここなら、もう一度やり直せるんじゃないかって。」
「...うん」
「これを言うまで、偉く長い時間掛かっちまったけど...」
光はこの瞬間、以前シルヴィアとの間ですれ違いが起きた時のことを思い出していた。
彼女は、光がどんなに避けようが一歩も引かなかった。
引くどころか前に進み、
"学院であなたと話せなくなる方が私にとっては悲しいのです。 ですから、余計なことは気にせず普通に接してください。 何かあれば、私があなたを守ります"
と言ってくれた。
きっと、4年前のあの時、木乃葉もシルヴィアと同じことを思っていたはず。
周りのクラスメイトなんかより、目の前にいる三刀屋 光と共に道を歩んでいきたいと。
そんなことは、あの時点で光も気付いていたはずなのに。
変にカッコつけて、自己犠牲をして、木乃葉を救った気になっていたのだ。
"自分の気持ちを素直に伝える"ということが、どれほど大事か。
今の光になら、それが痛いほど分かる。
(ありがとうシルヴィア...君のおかげで、俺は親友に本音で話せるようになったよ)
光は例のごとく、軽く深呼吸をする。
そして、ずっと言えずにいた想いを伝えた。
「俺と.....仲直り、してくれない?」
言葉にすると想像以上に恥ずかしい。
光は顔を真っ赤にしており、今にも爆発しそうな勢いだ。
一方、木乃葉はなぜか笑っていた。
「ふふ...あはははっ!」
「え、なんで笑ってんの...?」
「だって、元から別に喧嘩してたわけじゃないでしょ? 理由があって話さないようにしてただけなんだから...ふふふっ」
「まあそうだけどさ...頑張って言ったのにカッコつかねえなあ...」
結局、木乃葉につられて光も笑い始めた。
二人で笑い合ったのは、いつ以来だろうか。
今この瞬間に至るまで約4年、学生にとっては長すぎる時間だ。
だが、空白だった二人の時間はこれから埋めていけば良い。
「あ、そろそろ授業にいかないと...先生に怒られちゃう。」
「セシルには事情をちゃんと説明しておいたから大丈夫だ。 まあ、その分俺は説教と結構な罰を下されたんだけど...」
「4年も私のこと無視し続けてきたんだから、それくらいの罰は受けて貰わないとねっ!」
そう言って木乃葉は保健室から出ようとするが、入口でふと立ち止まり、こちらにくるりと振り返った。
「あ、それと...さっき光くん、カッコつかないなあって自分で言ってたけど...」
木乃葉が次の言葉を声に出すまで、5秒くらいの間が空く。
その間は、時が止まったかのように辺りがシーンとしていた。
聞こえるのは、自分の心臓の鼓動のみ。
そして、地球上のどこよりも静かなこの空間に、木乃葉の声が響いた。
「私にとって光くんは、昔からずっとカッコいいよ。 今日はありがとね。」
そう言うと、そそくさと保健室から出ていく木乃葉。
あまりにも直球すぎる台詞だった。
そして、当の本人の光は固まったまま動かない。
年頃の男子高校生が、同級生のめちゃくちゃ可愛い女の子にストレートにあんなことを言われたら動揺してしまうのも無理はないだろう。
照れ臭そうに頭を掻き、椅子から立ち上がる光。
(....とりあえず、一件落着ってとこかな)
――――こうして無事、4年前に決別した親友と仲を取り戻すことができたのであった




