【第16話】クラス内での魔法発表会(仮)、開幕?!
光が学院に入学してから1週間が過ぎた。
これまでの授業は知識を蓄える為の講義が中心だったが、今週からようやく実技も始まるらしい。
~フォルティス魔法学院 実技演習場にて~
「えー、今日からは待ちに待った実技の授業も取り入れてくぞー。」
『うおおおおお!!!』
『やっと俺の力を皆に見せることができるぜ!!!』
『シルヴィア様...どんな魔法を使うんだろう...』
ここ一週間、堅苦しい勉強ばかりだった為、1-Aの生徒も鬱憤が溜まっていたようだ。
一方、あれから光はこれといったトラブルも無く、上手いことクラスに溶け込めている。
基本的には1人で過ごすのは変わらず、友達という友達はシルヴィアのみ。
それでも、決して浮いているわけではない。
用件があれば他のクラスメイトとも普通に話すようになった。
しかし、同じ転生者でもある木乃葉らとは初対面以降、一度も話していない。
話す機会が無いからというのもあるかもしれないが、いずれにせよその方が光にとってはありがたいだろう。
「あと、二週間後にファースト(一年生)を対象したチーム対抗戦があるから、気合入れてけよー。」
チーム対抗戦というのは、毎年新入生向けに開催している学院の行事だ。
正式名称は「ファースト・オブ・ディクター」らしいが、長いので「FOD」と呼ばれている。
日本で言うところの球技大会とか体育祭みたいなもので、以下の3種目でクラス別に順位を競い合う。
スペクトラム(7対7)
模擬戦・団体(5対5)
模擬戦・個人(1対1)
★スペクトラムとは、簡単に言うとサッカー × 魔法 みたいな球技。
ルールは単純で、相手のゴールにスフィア(魔法耐性がある頑丈なボール)を入れるだけ。
しかし、当然ただのボール遊びでは終わらない。
多人数での魔法の打ち合いになる為、それはもう地獄絵図らしい。
★他二つは言葉通り人対人の模擬戦で、個人と団体の二種類がある。
こちらは勝ち上がりトーナメント形式でおこなわれる。
(......こういうイベント、参加するのマジで嫌なんだよなあ)
光は中学校、高校での球技大会では、選手として出場したくないが為に、自ら運営側に立候補するほどのイベント嫌いだ。
「出場する競技の割振りを先にやるから、まずはお前らのクラスと得意な魔法を一人ずつ教えてくれ。 ちなみに全員参加な。」
(......そう来るか)
全員参加と言われ、元々低い彼のテンションが更に二段階ほどガクっと下がる。
「じゃー、番号順に前に出てこい。」
「チーム1-Aの特攻隊長、アッシュ=リーランです! クラスはサイキックで、得意技はパイロキネシスです!」
パイロキネシスは、使用者が意図した位置に火を発生させる魔法だ。
ソーサラーが使う火属性の攻撃魔法とは違い、射程は短く威力も低い。
ただし、火の塊を生成して対象に当てるのではなく、「意図した位置に火を発生させる」魔法なので、着弾スピードが非常に速いといった特徴がある。
「よし、じゃあ見せてみろアッシュ。」
「はい! こい!パイロキネシス!!」
―――ボッ!.....シュウゥゥ.......
(え、終わり?! 名前の割にショボくない?)
半径10cmほどの炎がアッシュの数メートル先に発生すると、それは数秒後にあっけなく消えてしまった。
「ふむ、まあ今はこれくらいできれば十分だろう。 詠唱スピードも悪くない。 じゃあ次は――」
(あ、あれが普通なのか...サイキックって地味なんだな...)
カノープスを瞬殺出来る威力の魔法が使える光にしてみれば、子供のお遊戯レベルにしか見えないだろう。
その後も、他の生徒たちは順番に自分のクラスと得意魔法を披露していくが、そのレベルはアッシュと大差は無かった。
そうこうしている内に、シルヴィアに順番が回ってくる。
(そういえば俺、ウィンド・プロテクション以外のシルヴィアの魔法って見たことなかったな)
どんな凄い魔法を使ってくれるのか、光は柄にもなくワクワクしていた。
「シルヴィアのクラスはガーディアンだな。 さすがの私も王女殿下のクラスは存じ上げているぞ。」
「あはは.....では行きます、ルクス・リフレクション!」
そう唱えると、白く細い短剣が大量に出現し、シルヴィアの周りを綺麗に等間隔で囲み始めた。
『なにあれ!めっちゃ綺麗!』
『シルヴィア様、かっこいい...』
『神々しい...涙出そうだよ俺』
「ルクス・リフレクション......物理攻撃による衝撃を吸収し、その反動を利用して剣を射出するカウンター魔法だ。」
セシルが冷静に魔法の解説をする。
さすがはシルヴィア、本人だけでなく使用する魔法まで美しい。
「しかし、中位魔法をその速さで使えるとは、末恐ろしいよシルヴィア。」
「いやぁ、それほどでも...。」
セシルに褒められ、シルヴィアはまんざらでもない様子。
度が過ぎる謙遜は、時に嫌味にもなり得るので、素直に喜べるのはシルヴィアの良いところだ。
「えーじゃあ次は...風見 木乃葉よろしく。」
セシルの言葉に、光は思わず身体がビクッと反応してしまう。
彼はこの時、とあることを必死に恐れていた。
元の世界では特別頭が良いわけでも身体能力が高いわけでもない、ごく普通の人間でおまけにぼっちだった男。
そんな自分が、こちらの世界ではとんでもなく強力な能力を持っている。
対して、木乃葉を始めとする元クラスメイトの三人組は、元の世界では光よりも色んな意味で格上の人間だった。
―――つまり、あの光ですらこれだけの力を持っているのなら、他の三人はそれ以上の力を持っていても不思議ではない。
この授業の結果次第で、この世界での"格"が無情にも決まってしまうのだ。
(......頼む、せめて俺と同等レベルの能力であってくれ)
「おいで、ウンディーネ!」
木乃葉のクラスはエレメンタル、召喚士だった。
肝心の呼び出した精霊だが、いかつい名前に反して見た目はRPGの序盤に出てくる水属性モンスターにしか見えない。
(ふ、フゥ......お、俺はお前を最初から信じてたぜ、風見。)
その後、残る二人の元クラスメイト、天谷と九条も自分の魔法を披露したが、光が特別脅威を感じるほどの力はなかった。
どうやらこの世界で得られる能力は、転生前のステータスに比例しているわけではないらしい。
「えーっと、じゃあ最後は......三刀屋 光か。」
ついに光の順番が回ってきた。
『三刀屋か....グリフレッドを圧倒したって噂もあるしヤバそうだな...』
『シルヴィアと親しい友人だからやっぱり凄いのかな?』
『いやいや、あいつは絶対大したことねえよ』
チームメイト全員が光に注目する。
通常、目立つことは極力避ける性格の光だが、今回ばかりは違う。
この魔法披露会(仮)の結果によって、自分の教室での立ち位置が確立するからだ。
魔法の強さが絶対と言われているフォルティス学院において、これは非常に大きな意味を持つ。
しかし、今使える魔法の中で最も強力なものを使えば、逆にドン引きされる可能性もある為、中の下くらいの魔法が理想だろう。
(謎に緊張するが......落ち着け、俺)
右腕に魔力を集中させ、詠唱する。
「......カオス・ダービュラント!」
光の手の平から、混沌の黒槍が立て続けに飛び交う。
発動までにかかった時間、攻撃速度、回転率、そして威力。
どれをとっても、他の生徒たちとは比べ物にならないほどに優秀な魔法だ。
それから約一秒後、気付くと、50メール先の壁に数ヶ所、いや数十ヶ所の穴が開いていた。
(.....やばい、途中で消すつもりが力み過ぎて端まで飛ばしちまった)
クラスメイトらは、一瞬の出来事に何が起きたのかさえ分かっていない。
一方でシルヴィアは、何故かめちゃくちゃニコニコしていた。
光は恐る恐るセシルの方を見る。
「三刀屋、聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず......」
「と、とりあえず...?」
「今すぐグラウンド1000周してこい」
「うぃっす......」
こうして、チームメイト全員の魔法披露会(仮)は幕を閉じた――