【第13話】クラスメイトから反感を買うのは大の得意技
~フォルティス魔法学院 屋上にて~
(...まあ、この展開は予想の範囲内だったけど、いざ起こると結構きついな)
教室を抜けた光は、学院の屋上に来ていた。
授業開始までまだしばらく時間がある為、それまではここで過ごすつもりだろう。
(...理由があるとはいえ、シルヴィアを無視してしまった)
光は、別に自分がクラスメイトに初っ端から目を付けられたことを気にしているわけではない。
そんなことはもう慣れている。
それよりも、自分に優しく話し掛けてくれたシルヴィアを傷つけてしまったことを悔いてるのだ。
「あとでシルヴィアに会ったら、土下座して謝ろう。」
そう呟いた時、背後から誰かの声が聞こえた。
「誰に何を謝るんですか?」
振り返ると、そこにはあからさまに不機嫌そうな顔で立っているシルヴィアがいた。
「シ、シルヴィア?! いつの間に、てかなんでここにいるって分かったの?!」
「魔力感知の能力を使えばすぐに分かります。 それよりも何故教室で無視したんですか?」
今までにないくらい、シルヴィアは怒っている。
その気迫に押されつつも、光は理由を答える。
「...俺と話してる所を他の奴に見られると、シルヴィアに迷惑掛かるだろ。 だから―――」
「言ってる意味が分かりません。 光さんと私が話すことに何か問題があるのでしょうか?」
シルヴィアは優しい、今まで光が出会ってきた誰よりも。
これまでも、これからもその優しさに助けられることになるだろう。
しかし、そんな彼女の優しさは、今の光にとっては逆効果だった。
教室に入るなり他のクラスメイトからチヤホヤされ、一瞬にしてクラスの中心人物となったシルヴィア。
そんな彼女に、自分のような孤独な人間の気持ちが分かるわけがないと、少しムキになってしまう光。
「問題あるから言ってるんだよ...シルヴィアには分からないだろうけど。」
「何が言いたいんですか? 言いたいことがあるならハッキリ言ってください。」
光らしい捻くれた発言によって、二人の間に険悪なムードが流れる。
「私が何かしたのであれば、すぐに謝ります。 ですから、まずは理由を―――」
「俺はシルヴィアを守れる力をつける為にここにきた、それは変わらない。 だけど......学院内では俺に関わらないで欲しい。」
光は、元の世界に居た頃に戻ったような、生気の感じられない顔でそう言った。
ここで事情を話してもシルヴィアの性格上、引くことはないだろう。
それが分かっているから、光はあえて結論だけ告げる方法を取ったのだ。
キーンコーンカーンコーン―――
少しの沈黙が続く中、授業開始のチャイムが鳴る。
「悪い、じゃあそういうことで...頼む。」
そう言い残すと、光は教室へ戻っていく。
一方シルヴィアは、「絶対に引かない」と言わんばかりのムスっとした表情で教室に戻っていった。
~フォルティス魔法学院 1-A教室 にて~
『おい、あいつ戻ってきたぞ』
『シルヴィア様はどこにいった?まさかあいつに何かされたんじゃ...』
教室に戻ると、案の定クラスメイトは光の嫌味を言っている。
(チッ...)
光はクラスメイトの嫌味に苛立ちつつも、我慢して教科書の準備を始める。
すると、一人の男生徒が光の席の前に立った。
「僕はグリフレッド=マイヤー。 一部始終を見ていたが、君の行動にはいささか問題があるのではないか? その態度では皆の反感を買うのも当然だと思うけど。」
(うわー、いるよなーこういう奴...)
グリフレッドと名乗る生徒の話を光は完全に無視。
「おい、聞いてるのか?!」
「...聞いてないけど」
光が全く目を合わせずに呟くと、グリフレッドは頭に血が上り、光の胸倉を掴んで立ち上がらせる。
『おいおい、やばくねえかあれ?』
『誰か止めて来いよ』
『でもちょっと面白そうじゃね』
(あーあ、やっぱこうなるのか...最悪だ)
おそらく、光の持つ能力は目の前のグリフレッドに限らず、この教室内にいる誰よりも強力だろう。
その気になれば、全員瞬殺することだって可能だ。
しかし、光としてはこれ以上状況を悪化させたくない為、反撃の体制を一切取らない。
「君、嫌なやつだな...僕はそういう人間、許せないんだよね。」
グリフレッドはそう言うと、何かの魔法を使おうとする。
(なっ...こいつ、ここでやる気か?? さすがに魔法を食らうのはやべえって!)
光が身の危険を感じ防御態勢を取ろうとすると、シルヴィアが教室に戻ってきた。
「ちょ、ちょっと二人とも何やってるんですか!?」
「シルヴィア...」
???「はーい、じゃあ皆席について―。」
シルヴィアに続き、今度は担任の教師だと思われる女性が教室に入ってきた。
「うん? なんだいきなり喧嘩か? やめとけやめとけ、私はまだお前らを殺したくないんだ。」
教師が物騒なことを言うと、クラスメイト全員がすぐさま席に座る。
「...あとで話がある。 放課後、模擬戦用ルームDに来い。」
そう言い残すと、グリフレッドは自分の席に戻っていった。
「あー、私が君たちの担任教師のセシル=アンベールだ。 色々厳しいことを言うかもしれんが、将来魔法を使った職で食っていきたいなら、それくらいは我慢してくれ。 以上、早速授業始めるぞー。」
担任教師のセシルはかなりサバサバしている女性のようだ。
あまり生徒に親身にならないタイプの方が、光にとってはありがたい。
授業だけしっかりやってくれれば、それで十分というのが光の考えだ。
「えー、まず最初に、5つのクラスについておさらいするぞー。 ソーサラーってのは―――」
~放課後~
「じゃあ今日はここまで。 明日もちゃんと学院こいよー。」
『先生さよーならー』
『これからどうする? 皆でどこか遊びにでもいく?』
『あ、いいねー!』
今日一日、シルヴィアは光のことをずっと気に掛けていたが、光は誰とも話すことなく、休憩時間も勉強していた。
「はあ...。」
シルヴィアが大きなため息をつくと、何人かのクラスメイトが話し掛けてくる。
『シルヴィア様、これからお時間とかってありますか?』
『皆で近くのカフェに行こうかと思ってまして、もしよろしければご一緒に...』
「ご、ごめんなさい...これから用事がありまして、まだ今度の機会に...」
シルヴィアがそう断ると、話し掛けてきた生徒は「申し訳ございません」と頭を下げ、その場から去っていった。
「よし! もう一回話してみよう....光さん、あの―――」
「...これからちょっと用事あるから、その....ごめん。」
またも光は、シルヴィアとまともな会話をせず教室から出ていった。
その様子を傍から見ていたグリフレッドは、すぐに彼のあとを追う。
光の捻くれた性格によって入学早々に溝ができてしまった二人。
初日からこんな状態になってしまうとは、お互い思ってもみなかっただろう。
今後彼らはどうなっていくのだろうか。
「.....私は絶対に諦めませんからね、光さん。」