【第10話】予想はしてたけど、最悪の展開になってしまった件
~王都ニヴルヘイム 中央通りにて~
国王への報告を済ませた光は、シルヴィアからニヴルヘイム内を案内して貰っていた。
「さすが王都...やばいくらい広いし、人も多い。 俺こういう所、苦手なんだよなあ。」
「最初は皆がそうですよ。 今日からここで暮らすのですから、徐々に慣れていけば大丈夫です。」
光は明日から魔法学院に通うことになった為、これからは学院が提供する寮に住む。
そう、光は異世界転生二日目にして、幸運にも自分専用の宿が手に入ったのだ。
(まさか寮まで無料にして貰えるなんて、感謝してもしきれないぜ国王陛下...)
「あ、制服や教科書などの道具は、本日中に光さんの部屋宛に届けておくそうなので、寮についたら確認してくださいね!」
「そこまでしてくれるのか...あまりにもVIP待遇すぎて申し訳なくなってきたんだけど。」
元の世界では散々な扱いを受けてきたので、今の待遇に感謝しつつも、勇者として期待されていることへのプレッシャーを感じる光。
「まぁまぁ、あまり気負いせず、せっかくの学院生活なんですから楽しくやっていきましょう!」
「そ、そうだな...。」
改めて、これから学校に通うということを実感した光は露骨にテンションが下がる。
一方で、シルヴィアは終始テンションが高い。
国王が言ってたように、きっと学院に通えることが嬉しくて仕方ないのだろう。
王女という立場もあってか、シルヴィアは年齢の割にしっかりしすぎている。
光と同じくらいの年頃の女の子が、学校に通ってみたいと思うのはごく普通のこと。
むしろ、そんなに若い頃から国家機密レベルの案件に携わってることの方がおかしい。
(やっぱ王女って立場も楽じゃねえよな...俺だったら即効メンタルやられてるぜ)
そんなことを考えていると、シルヴィアが何か必死に話しかけていることに気付く。
「光さんってば! 私の話、ちゃんと聞いてますか??」
「え、ああ勿論聞いてたよ。 凄いよな、あれ。」
「そうなんですよ! あのお店って実は―――」
ついさっきまで頬を膨らまして怒っていたかと思えば、すぐに表情が変わり笑顔で話の続きをする。
見た目が大人びている為、クールな印象があるが、性格は眩しいくらいに明るい。
と思いきや、王城に一歩足を踏み入れると立派なお姫様へと変身する。
まさに"完璧"だ。
(...シルヴィア、学院に入ったら死ぬほどモテるだろうな)
ニヴルヘイムの案内が一通り終わり、光とシルヴィアはベンチで休憩していた。
「ありがとうシルヴィア。 どこに何があるのが、ある程度は分かったよ。」
「それなら良かったです! では、私はこれから城に戻りますので、光さんは寮に向かってください。」
シルヴィアはきっと仕事がたんまりと残っているのだろう。
それでも、簡単にこなしてしまいそうなのが、この子の怖いところだ。
「了解。 じゃあ、明日の入学式で会ったらよろしく頼む。」
「はーい! では、お気を付けてー!」
シルヴィアは笑顔で手を振りながら、王城へと戻っていった。
「さて、俺も行くか。」
光がベンチから立ち上がり、寮へ向かおうと歩き出したその時、辺りから聞き覚えのある声が聞こえた。
??「今頃さー、絶対ス〇バの新作出てる時期じゃーん。 ほんと萎えるわー。」
??「愛華ちゃん、ス〇バのフラペチーノ大好きだもんね。」
??「でも、この世界に来て最初はどうなることかと思ったけど、まさか3人でまた学校行けるなんてビックリしたわ。 魔法学院だけど。」
そんな会話をしながらこちらへ向かってくる3人の少女を見て、光は咄嗟に物陰に隠れる。
(ま、まじかよ...あいつらは...同じクラスの女子じゃねえか...)
茶髪ロングヘアのギャルみたいな奴は、天谷 愛華。
クラスどころか、学年女子の中で頂点に君臨していた女だ。
「あんた、ちょっとそこのセロテープ取って」と、一度だけ会話をしたことがある。
ショートヘアで毛先にパーマをかけている長身のモデルみたいな奴は、九条 鈴音。
現役の女子高生モデルだったらしいが、詳しくは知らない。
「悪い、そこどいて」と、一度だけ会話をしたことがある。
黒髪のロングヘアで大人しそうに見える奴は、風見 木乃葉。
一応、こいつは小中高と全て同じ学校に通っている。
小学校の頃はよく話していたが、中学校に上がってからは...まともに話していないな。
「つーか、私たち以外にも魔法学院に行く奴っていんのかなー? その、転生してきた奴でさ。」
「どうだろう、まあ居ても別におかしくはない。 うちらだってこうして通うことになったわけだし。」
天谷と九条の会話にドキッとする光。
「鎌瀬とか居たらまじウケるよねー。 あいつ馬鹿だし魔法なんて使えないだろうけど。」
「愛華ちゃん、言い過ぎだよ...。」
そんな会話をしながら、3人の元クラスメイトはその場から消えていった。
(...ハープの森で末元に会った時点で予想はしてたけど、これで確信した)
あの日墜落事故で死亡した人間は、ほぼ間違いなく"全員"がこの世界に転生している―――