【第1話】まさかのクラスメイト全員が異世界転生?!
俺の名前は三刀屋 光、16歳で高校2年生。
性格がちょっと捻くれてることもあって、いわゆる「ぼっち」になってしまい、クラスで浮いてます。
それ自体は別に構わないんだけど、これから4日間、高校生活における最大の山場が来るから、正直不安しかねえ。
山場ってなにかって?
そう、あれだよあれ。
"修学旅行"とかいう、友達がいない奴に対するSSS級の処刑イベントだよ。
担任教師に「もしサボったら、協調性無しってことで進学にめちゃくちゃ響くぞー」とか言われたから仕方なく来たけど、やっぱりきついわ。
現在、光が属する2-A組は、飛行機で旅行先の沖縄に移動中である。
周りのクラスメイト達が、楽しく会話したり騒いだりしてる中で、光は誰とも話すことなく、ひたすら外の景色を眺めていた。
(はあ...もう面倒くさいから飛行機墜落して全員死亡みたいな展開でも起きればいいのに...)
光がそんなことを考えた矢先に、事件は発生した―――。
隣に隕石でも落ちたのかと勘違いしてしまうくらいの、大きな爆発音と共に、飛行機が大きく傾いたのだ。
『おい!今の揺れはなんだ?!』
『絶対やばいってこれ!なんか傾いてるって!』
『ちょっとなに今の音?!こわいんだけどマジ!!!』
機内のお楽しみムードは一転し、パニック状態に。
すぐさま機内アナウンスが流れる。
「お、お客様、どうか落ち着いてお聞き願います。さきほどの揺れはエンジントラブルによるもので―――」
乗客を落ち着かせる為、必死にアナウンスをしようとするが、追い打ちをかけるように再び激しい爆発が飛行機を襲う。
『うわあああああああ!!!!!』
機内は更にパニック。
勿論、乗客の一人である光も焦りが止まらない。
(ま、まさか俺があんなこと考えたからか? そんなわけ...)
光がそんなことを考えている最中にも事態は悪化していく一方。
まもなくして、飛行機は墜落した――――――
「...いってええええ!!」
墜落事故に合った光は、しばらくすると大きな叫び声と共に目を覚ます。
「あれ?確か飛行機が墜落して...」
確かに飛行機は墜落した。そして、乗客はもれなく全員死亡したことが確認されている。
その日における日本国内のニュースは、当墜落事故の話題一色だった。
「てか、ここどこだ...?」
光が目を覚ました場所。
そこは、慣れ親しんだ日本の風景とは明らかに違う。
日本どころか、世界中を旅しても目にすることは無いであろう、あまりにも異質な光景。
光の視界には、現実世界では有り得ない、ゲームやアニメで見るようなファンタジー世界が広がっていた―――
ゲームの世界でありがちな西洋風の建物、何故か至るところに植えられている果物の木、荷物を積んだ馬車、そして何やら重そうな鎧を着た人etc.....
「う、嘘だろまさかこれって...」
なんと、飛行機の墜落事故で死んだはずの光は、現実世界とは全く異なる世界に転生していたのである。
光は近くにあった衣服店のような建物に近づき、そのガラスで身なりを確認する。
「見た目は特に変化は無いな。違和感は、身体が妙に軽く感じることくらいか。」
外見上は元いた世界と変化は無く、顔は相変わらず冴えない表情をしている。
その直後、後ろから聞き慣れた声で名前を呼ばれた。
「あれれえ?お前まさか三刀屋 光じゃねえ?」
思わず自分の目を疑ってしまった。
後ろを振り向くとそこには、光と同じ学校に通い、同じクラスの人間でもある「鎌瀬 弱」が薄ら笑いを浮かべながら立っていたのだ。
(な、なんでこいつがここにいるんだ! まさかこいつも異世界転生したっていうのか!?)
「なあ光ちゃん、これってどういうわけぇ?頭もいてーし意味分かんねえ。お前なんか知ってるか?」
そう、この世界に転生したのは光だけではなかった。
墜落事故で亡くなった"クラスメイト30人全員が転生"していたのである―――。
「お前とりあえずさあ.....その辺探して誰か事情を知ってそうな奴呼んでこいや。 あと、いつものコーラも忘れんなよ。」
「お、俺も分かんねえよ。それに誰か呼んでこいって、それくらい自分で――」
「はあ?舐めてんのかお前。俺は今機嫌が悪いんだよ.....さっさと行かねえと殺すぞ?」
鎌瀬はクラス内カーストのトップグループに属しており、その中でも随一の肉体派。
いわゆるヤンキーである。
(異世界に来ても尚、俺はこいつに絡まれるのか....最悪だ....転生できてちょっと嬉しかったのに)
「せっかく転生したんだから、何か特別な能力とか魔法を覚えてたりしねえかな...。」
光がボソっと呟くと、鎌瀬のイライラゲージは一気にMAXへ到達。
「早く!!!いってこい!!!」
ドンッ―――
鎌瀬の渾身の右ストレートが光の横顔を直撃した。
(うわ、殴れたよ。いってー...)
「ってあれ?あんまり痛くねえ。少なくとも元居た世界では有り得ない、せいぜい小学生のビンタ程度だ。」
「なっ!!こいつやせ我慢しやがって、オラァ!!!」
再び鎌瀬が光に殴りかかる。
(なんだこれ....鎌瀬の動きがやけに遅く見える....)
光は鎌瀬の二度目のパンチを容易く回避。
「簡単に避けれた.....た、試しに俺も殴ってみるか....?」
「ほう、やる気かぼっち野郎!!かかってこいや!!」
日頃の恨みを晴らすべく、光は鎌瀬に殴り掛かる。
「ふっ!せや!!!」
素人丸出しのフォームとぎこちない連携。
悲しいことに、喧嘩慣れをしている男にはそんな貧弱な攻撃、全くもって通用しなかった。
続け様に5発ほど打ち込んだが、余裕の表情でそれを避ける鎌瀬。
「ハッ......なんだよ、やっぱいつものお前じゃねえか。」
(あ、あれ、俺なんか弱くね?相手のパンチが遅く見えるってことは、身体能力諸々が格段に上がってる展開じゃないの??)
光が動揺を見せ、動きが完全に止まったことを察知した鎌瀬は怒涛のラッシュを仕掛ける。
「さっきまでの威勢はどうしたァ???ええ??」
(ガハッ.....さすがに何十発も打たれるといてえな.....)
たとえ小学生のビンタ程度の攻撃だとしても、鼻や頬、腹部に続けざまに打たれればダメージは通る。
気が動転して、最初の様に攻撃を回避できない光は、とうとう地面に崩れ落ちた。
「ハァハァ.....クソ!根暗野郎のくせにビビらせやがって.....大人しく言うこと聞けコラァ!!!」
倒れている光に対し、鎌瀬はサッカーでミドルシュートを打つかのような勢いで腹部を蹴る。
(ウッ.....ブハァッ!!....こいつマジで許さねえ....来世で会ったら殺してやる....来世でな。)
「またその目か、ムカつく奴だぜ......そら!!もう一発!!!!!」
この男は頭のネジが半分飛んでいるのかもしれない。
吐血まで始めた光の姿を見ても尚、攻撃を止めるつもりは一切無かった。
(こういう時って普通は主人公が覚醒して、何か隠された能力とかに目覚めるんじゃねえのかよ.....って、俺は主人公じゃなくてただのぼっちだし、そりゃ無理だよな....)
「おっと、こんなところに丁度いい物が落ちてるじゃねえか....ヒヒヒ....」
鎌瀬は近くに落ちていた太い木の枝を拾うと、今度はそれを使って光を何度も殴打する。
(あっこれヤバいわ。普通に痛すぎる。木はやばいでしょ。てか死ぬだろこれ。あーあ、ひっどい人生だったなあ...)
光は殴られている最中、走馬灯のように今までの悲惨な人生を振り返っていた。
「オラぁ!!!ラスト!!!!!」
最後の一撃を放つべく、鎌瀬が大きく振りかぶった、その刹那。
光の頭の中にかすかな声が響き渡ったのだ。
『もう!!こんなアホみたいな所で死なれたら困ります!!! しっかりしてください!!!』
どこからかそんな説教じみた声が聞こえると、光はハッと意識を取り戻し、身体を横転させ、鎌瀬の攻撃をギリギリでかわした。
(な、なんだ今の声......多分だけど女の人の声だったような....まあいい、とにかく助かったぜ!!!)
「へぇ、まだそんな気力残ってたのかお前。大人しく寝てた方が良かったかもなぁ!それじゃ使い物にならねえから困るけどよォ!」
(そうだよ、せっかく異世界に転生したんだ....こんなしょーもない展開で死ぬとか勿体なさ過ぎるっての)
光は立ち上がり、鎌瀬の方をじっと見る。
「何だその生意気な顔...おもしれえ、第二ラウンド開始といこうかァ!!!
鎌瀬は手に持っている木の枝を再びフルスイングし、光の顔面をとらえる。
「おーっとぉ、これは効いたんじゃねえかぁ光ちゃーん!!??」
(さっきからボカスカ好き放題殴りやがって.....かませ犬みたいな名前のくせに.....)
溢れんばかりに蓄積していた怒りを凝縮し、右手にありったけのパワーを送る。
ここで全てを語りはしないが、高校でも光は鎌瀬から日常的に嫌がらせを受けていた。
異世界に転生してまで、同じ相手にコテンパンにしごかれていては、さすがの光も黙ってはいられない。
「..........」
力を込め過ぎたせいか、手の平に爪がめり込み、ついには地面にポタポタと血が垂れてきていた。
「おいおい、血が出ちゃってるじゃーん!!! 大丈夫かあー?! アッハハハハッ!.....あ?」
その血に気を取られていたのも束の間、突如、光の右腕から混沌とした黒いオーラのようなものが発生する。
見るもの全てを戦慄させ、いずれ闇へと葬る、悪魔の力――――
いま彼の身には、一体何が起きているのだろうか。
詳細は不明だが、元の世界にいた頃の常識で考えれば、どう見ても"普通"ではなかった。
「な、なんだその煙みてーなのは。 陰気すぎて負のオーラでも出たのかァ??」
鎌瀬が煽りをいれてくるが、光はもう聞いていない。
黒いオーラを纏った腕を振りかざし、何年も溜め続けた鬱憤をこの一撃で晴らすつもりで、鎌瀬の顔面めがけて全力のパンチを繰り出した。
「今までの分........全部返すぜ!!!!!!!」
「え?!ちょっなに.....ゴフゥァ!!!!!!」
おそらく、30メートルは飛んだであろう。
オーラを纏った光の渾身のパンチは、鎌瀬を一撃でノックアウトさせていた。
「こ、これは.....一体......」
自分の右腕に纏わりついているオーラに気が付き、呆然とする光。
元いた世界では有り得ない光景だが、それ以上に鎌瀬への復讐心が強く、これまで視界に入ってすらいなかったようだ。
「よく分かんねえけど、転生早々死ぬとかいう最悪の事態は免れたな.....」
落ち着きを取り戻した光は、鎌瀬の様子を見に足を進める。
「これは……なんつーか……ひでえな……」
鎌瀬は仰向けに倒れながら、完全に気絶していた。
もしかしたら、歯が数本折れているかもしれない。
当然、光には人間をこんなにも痛めつけた経験は無かった為、相手が因縁の相手とはいえ少々心が痛んでしまう。
どう考えても鎌瀬の自業自得なのだが、未知の力によって理不尽に攻撃されたことを思うと、嫌々ながらも彼には同情せざるを得ない。
「今なら好き放題やり返せるけど、さすがにこれ以上やると死にそうだし、ほっとくか。」
光から攻撃の意思が無くなると、右腕に纏っていたオーラがフッと消える。
「き、消えた?!あれか、攻撃する意思がある時だけ出てくるみたいな感じか??」
光は試しにもう一度右腕に意識を集中させ、力を込める。
「うおっ!!やっぱり出てきた!コントロールできるぞこれ!」
さきほどは無意識だったようだが、今度は意図的に黒いオーラを出現させることに成功。
「でも、派手な見た目のわりに効果は攻撃力が上がるだけなのか? とにかくあとで色々試してみよう。」
そう呟いて、光は鎌瀬をそのまま放置して街の中心部へと歩き出した。
この世界に来てほんの数十分しか経過していない光にとっては、知らないことが山のように存在する。
"なぜ事故で死んだはずの自分が別の世界にいるのか"
"どうやってここに辿り着いたのか"
"鎌瀬や自分と同じように転生したクラスメイトは他にいるのか"
"黒いオーラの正体は何なのか"
"気を失っている最中に聞こえた女性の声はなんだったのか"
予期せぬ事故に合ったと思えば、唐突に強いられた異世界での生活。
三刀屋 光の冒険が今、幕を開ける―――