転校生
彼は教室に入り、ゆっくりとクラスを見回してから、
「佐宮冬夜です。トヤってよんでください。」
と、笑った。
ご主人様がその笑顔にホッと息をつくのを感じる。
完璧に整っているその顔は、笑うと人を安心させるのだ。
「佐宮、席、そこ。」
片言以上で話す気がない先生はご主人様の前の席を指差す。
「よろしく。」
転校生からの挨拶にご主人様は嫌な顔を隠しもしなかった。
それからは騒がしい毎日になった。
彼と話したい人が彼の周りに入れ替わり立ち代りやってきた。
彼の周りとはボクらの周りでもあるわけで。
「あ~、もう落ち着かない。」
ご主人様がつぶやく。
でも、ご主人様が疲れている理由はそれだけではなかった。
「ね、カケ。」
翔のことを「カケル」と勘違いし、親しげに話しけてかかるのは他でもない転校生、冬夜だ。
トヤくんは何故かご主人様を会話に引き込もうとするのだ。
その態度には交友関係の狭いご主人様が可哀想だから、などという様子は見られず意図が全くわからない。
ご主人様は粘着質なヤバめの彼女がいる残念な男と認識されていて近づく人は多くない。
というか、クラスにはいない。
それでも地味ながら顔は整っているし、コミュ障というわけでもない。
交友関係が0なのは本人の意図によるものが大きかったが。
人気の転校生の友人という立場はそんなご主人様の計算を完全に狂わせた。