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盆地。周りを山にかこまれている平地。ここ囲市はこの国で1番狭い盆地にところ狭しと家と役所と病院とその他の文化的な施設を並べたなんの取り柄もない町、"だった"。
市長選の投票率はぎりぎり選挙が無効にならない値だったとテレビで言っていたが、「僕」はよく知らない。かく言う僕も選挙などには行っていないし、誰のどんなマニュフェストも聞いてはいなかった。
きっともし今度当選した伊野崇史市長が
「液体鏡の霧を町にまくことで、市民は鏡に映る自分の姿をきちんと省みて、この伝統ある囲市はより良い、人格都市へと変わるだろう。」
と嘯かなければ、政治に対しての文句など感じるわけもなかった。ただそれに対し怒りに震えてクーデターを起こすようなことはないと言っておきたい、僕はそんなことより、今日のばあちゃんを言いくるめるのに必死だった。
「あんたね、せっかく可愛い顔なんだから、そんな…」
「は?顔は関係ないだろ。僕が着る服なんだから、どうしようと勝手だろ。」
「そんな言葉遣いしんと…ばあちゃんもぅ…。」
そう言って今まさに胸を痛めていますという仕草と表情をするばあちゃんにそっぽを向いて、僕は学校に行くためのローファーを靴箱から出した。
「あぁ!あんた、またそうやって靴に落書きしたんね?ばあちゃんこないだ頑張って洗ったんよ?」
「頼んでないだろ。こうしたいんだよ。」
僕のローファーは一般的な形の茶色のものだが、表面はヤスリで傷だらけにしてあるし、絵の具を筆につけてそれをブンブン振り回して表面に付着させてある。
「先生達も電話してくるんよ。『おたくの〈娘〉さんどうしてそんなに"奇抜"なんですか?』ちゅうてね…」
「奇抜でなんが悪いとね?〈僕〉が女だから、女らしくしろっちゅうの?そんな曖昧なアイデンティティで生きてられる、皆が僕にはわからんね!」
そう言いながら乱暴にドアを開けて今日も僕はビリビリに破いたスカートと所々を炎で焼いて穴を作ったブレザーを着て高校に行った。




