6話
連合軍パテイン空軍基地。首都メイエリングにほど近いその空軍基地では、模擬戦が行われていた。
赤い戦闘機の編隊の方が押していた。七機の小隊で、三機が自在に動き回り、四機が援護している。
一方青の七機は連携が分断されていた。一人一人の力量はそれなりに高く、本来ならここまで崩されるはずはないのだが、それだけ赤い方が巧みに運用しているのだろう。だがしかし、双方ともにまだ脱落者は出ていない。
と、青の戦闘機の動きが変わった。ばらばらだった動きがまとまった。
そしてほどなく、赤の方が撃墜された。
シミュレーション機のロックが開き、一番手前から金髪の男が顔をのぞかせた。
「やはりお前か、ヴィー……ではなく、提督」
上官に向かって結構な口のきき方であるが、キールなので仕方がないだろう。手を出したヴィエラも悪い。
「ちょっと、大気圏内での戦闘に興味があってね。大尉、協力ありがとう」
「いえ! 准将のお役に立てたなら光栄です!」
敬礼を決めたのは、青い空軍の軍服を着た二十代半ばほどの士官だった。属する軍が違うと言うのに、彼はヴィエラを羨望のまなざしで見つめていた。そんな尊敬されるような人間ではないのだが……。
「いや、今のは卑怯です、提督。あなたは私の手の内を知り尽くしているでしょう。……かといって、私があなたのやり方を知っているからと言って、あなたに勝てるとは思っていませんけど」
恨みがましくキールが言った。そもそも、ヴィエラとキールでは立場が違い、考え方も異なる。異なってしかるべきだ。ヴィエラは小さいとはいえ艦隊を預かっているのだし、キールは人数は多いとは言え、艦隊に属する戦闘機部隊の隊長だ。規模が違うし、運用方法も異なる。
まあそれはともかくだ。ヴィエラは宇宙軍総司令長官フォレスター大将の命により、宇宙戦闘機の大気圏飛行訓練を見に来たのだ。現在、降下作戦などはめったにないが、大戦中はあった。しかし、ヴィエラは参加したことがない。そのため、参考にしろと言うことなのだろうか。
「ブルーベル准将! 私も訓練に参加したいです!」
「……フェオ少尉。君、戦闘機を動かすエネルギーだってただじゃないんだよ」
イレーネが参加すると、動かす機体が一機多くなる。その分金がかかる。宇宙開発が推進されている現在では、宇宙軍はまだ優遇されている方であるが、それでも資金は無限にあるわけではない。
「……むしろ、乗せても大丈夫なんですかね」
などとイレーネに失礼なことを言ってのけたのはキールである。ヴィエラはキールを見上げて言った。
「いや、彼女は戦闘訓練の成績は優秀なんだよ。私の護衛を兼ねているけど、本職はパイロットだ」
本当である。ヴィエラの旗下に配属されるまで、イレーネは純粋に宇宙戦闘機のパイロットだった。まあ、問題の多いパイロットであったが。
「操縦に関しては私よりもよほど優秀だ」
「……微妙に引っかかりますが、私としては一度訓練を受けさせておくべきだと思いますね。あなたの側にいるのなら、なおさら」
「リーシン少佐! ありがとうございます!」
イレーネが先走って肯定的な意見を言ったキールに礼を言ったが、彼女の直属の上司はヴィエラだ。彼女が許可を出さなければ参加はできない。
「……わかったよ。イレーネ、キールの言うことを良く聞くんだよ」
「了解です!」
よい返事であるが、不安しかない。さすがのヴィエラも苦笑を浮かべるしかなかった。
当然、宇宙で運用する戦闘機と地上で運用する戦闘機では、仕組みが違う。地上運用用の戦闘機は、地上でしか運用できない。しかし、宇宙運用戦闘機は、その性質上、降下作戦を行う場合があり、大気圏内を飛行できる。
しかし、大気圏内と宇宙では勝手が違う。一度で何とかなる問題ではないが、体験しておくことは大事だ。
イレーネも、もしヴィエラの副官と言う任を解かれれば一パイロットに戻ることになるだろう。キールの言うように、経験しておいて損はない。金はかかるが。
「第二機動艦隊第一宇宙戦闘機部隊、大気圏内飛行訓練を開始します」
オペレーターが落ち着いた声で管制を行う。ヴィエラは管制塔から訓練を眺めていた。まずは飛び立つまでのシークエンスである。地上から飛び立つのも、宇宙戦艦から飛び立つのとはちょっと勝手が違う。
本当は大気圏内突入訓練もした方がいいのだろうか、と思いつつ、危なげなく飛び立った七機プラス一機は空中で編隊を構成した。中心で先頭を飛んでいるのが体調機、キールの宇宙戦闘機だ。さすがに良い飛びっぷりである。
後続の七機も遅れずについてきているし、飛行訓練としてはまずまずだろう。実戦となれば、こんなに上手くいかないだろうが。あとでイレーネに感想を聞いておこう。
急上昇、急降下、急旋回、フォーメーションの確認など一通りを行い、一時間弱ほどでパイロットたちは地上に戻ってきた。滑走路上で待っていたヴィエラは「お帰り」と声をかける。
「これが初大気圏内だと思うんだけど、なかなかよかったんじゃないかな」
「光栄です、提督」
ヘルメットを片手に持ちキールが片言で言った。ヴィエラは軽く笑い声をあげる。
「私にとっても参考になったよ。フェオ中尉、どうだった?」
「楽しかったです!」
元気に答えたイレーネに、ヴィエラは笑いかけた。
「あのね、イレーネ。初等学校生の感想じゃないんだから、もう少しパイロットらしい見解をくれないかい」
「ケンカイってなんですか?」
「そこからかよ」
たまらずキールがツッコミを入れてきた。彼の背後にいる若いパイロットたちが笑いをこらえている。イレーネがむーっと頬を膨らませる。
「准将! みんなが馬鹿にしてきます」
「いや、正直君はもう少し勉強した方がいいよ。つまりね、宇宙運用との違いを聞かせてほしいってことだよ」
「ああ、そうならそうと言ってくださいよぅ」
一転、ニコニコと言うイレーネに、さしものヴィエラも呆れて苦笑した。
「……私もさ、人のことは言えないけど、イレーネ……付き合ってあげるから、もう少し語彙を増やそうね……」
「あの、勉強、苦手なんですけど……」
そもそも、この子、語彙と言う単語がわかっていないかもしれない。
「知ってるよ。でも、このままじゃ指揮系統に問題が起きそうだからね……」
イレーネは、たとえヴィエラの護衛の方が比重が大きいのだとしても、副官だ。いざと言う時に意思疎通ができないと困る。
「まあ、ひとまずそれは置いておこう。どうだった?」
「んー、やっぱり、ちょっと機体が重い感じがして、スロットルを多めに開けちゃいました」
「なるほど……やはり、エネルギーが問題かな」
「またお金?」
「いや、活動時間が制限されるだろうと言うことだよ。活動限界時間も知りたいなぁ」
ちらっとキールを見やると、彼は冷たい口調で言った。
「やりませんよ。記録を調べてください」
「そうしよう。まあ、引き留めてごめん。イレーネ、着替えたらお暇しよう」
「了解です!」
きれいに敬礼を決めて、イレーネが駆け出していく。他のパイロットも続き、キールだけが残った。
「いい勘をしている、あの子は。うちに欲しいくらいだ」
「ああ……あの子も、本当はその方がいいんだろうけどね」
パイロットであるなら、機体を駆って宙を飛び回りたいだろうと思う。それを戦艦の中に押し込めているのは、ヴィエラの副官なんかになったせいだ。
「ただ、命令をちゃんと理解できるのか、疑問が残るよね……」
「……一応、士官学校を卒業できてるから、大丈夫なんじゃないかとは思うが」
キールも不安げだ。一応、先ほどの飛行訓練は何とかなったし。ヴィエラは笑うとキールの肩をたたいた。
「ところで、今日の夜空いてる? 晩御飯作ってよ」
「……お前、生まれる性別を間違ってるよな」
呆れてキールが言った。無駄に男前なところがある連合軍初の女性提督は笑って、「男だったら、士官学校を卒業できなかったかもね」と言った。
「……ま、そうかもな」
十年来の友人にうなずかれ、自分で言ったことなのにちょっとへこんだのは内緒だ。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
SF(宇宙)なのに宇宙に行かない!