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Foresight  作者: 雲居瑞香
23/25

23話








 新設された第八特別機動艦隊。これが初戦の兵士も多かった。戦後七年だ。兵士の入れ替わりもある。新設されたとあって、配属された兵士も戦争未経験者が多かった。


「落ち着いて、自分の仕事だけを果たせ。そうすれば、私があなたたちを家に帰してやる」


 大言壮語にもほどがあるが、司令官は落ち着いていろ、と言うのがヴィエラを教育したサンタクルス少将の教えである。

 そう言えばこの宙域で、サンタクルス少将はその命を散らしたのだ。そう思うと怒りも沸いて来ようというものだが、同じ宙域で以前の鳳天を崩壊寸前にまで追い込んだのもヴィエラである。


「艦長、艦の動き、任せる」

「わかりました」


 第八特別機動艦隊は、戦艦三隻と巡洋艦一隻の小規模艦隊だ。編成されたばかりだから、と言うのもあるし、かつての敵とはいえ、今は友好関係を結んでいる相手の要塞に、あまり多くの戦力を持っていくことはできなかった。例えこれを越える戦力があっても、ヴィエラは置いて行く判断をしただろう。

 つまり、どんなに大規模な艦隊だったとしても、この状況である時点でこれ以上の戦力は望めなかった。まあなんにせよ、今ある戦力で何とかするしかない。

 勝手にテロリストだと決めつけてしまったが、なかなかの戦力だ。戦艦二隻に巡洋艦三隻、輸送艦一隻、宇宙戦闘機三十六機が確認されている。


「……機先を制されていませんか?」


 デニスの言葉に、ヴィエラは「そうともいうね」と答える。


「逆に言えば、こちらの方が戦闘機のエネルギーが持つ。ねえこれ、先に攻撃したらまずいと思う?」

「……だいぶ血迷ってますね」


 リーシン少佐を連れてきます? とデニスが戸惑ったように言った。ヴィエラはそこは冷静に「発進準備させといて」と答える。

「あ、ブルーベル提督、アンノウン艦隊より通信です」

「開け」

 短い命令に、オペレーターが通信回線を開く。中年と思われる男性の声が流れてきた。


『連合艦隊司令官に告げる。我々は『シャドー・ロー』。我々はこれから、統一機構の宇宙要塞を制圧するものだ。連合艦隊、統一機構は敵だろう。協力するというのであれば、無傷で帰してやる。返答を求める』

「……すごく上から目線ですね」


 デニスが顔をしかめて言った。ヴィエラもそうだね、と適当にうなずく。

「『シャドー・ロー』と言えば、月軌道周辺を中心に活動してる、反政府勢力だよねぇ。連合にも手を出してきたが、統一機構にもか……無節操なものだね」

「敵の敵は味方、と言うことでしょうかね。どうします?」

 艦長が自分よりだいぶ若い女性司令官の指示を仰ぐ。七年前、大戦末期、この艦長はヴィエラの上司であった。負傷し、戦線を退いた後もヴィエラたちのことを見ていた。

「決まっている……少尉。向こうと通信回線を開いてくれ」

「は、はい」

 通信オペレーターは初戦の年若い女性兵士である。年若い、と言ってもイレーネと同じくらいだが。イレーネの肝の据わり方は、あれはあれでどうかしている。

 通信回線が開く。マイクが声を拾うように、ヴィエラは声を張った。


「私は、国際共同連合宇宙軍第八特別機動艦隊司令官、ヴィエラ・ブルーベル准将だ。まず、ご丁寧なあいさつに御礼申し上げよう」


 玲瓏たる声は、しかし、あらんかぎりの嫌味を込めていた。玲瓏としているのに冷たいその声に、ブリッジの年若いクルーたちが身震いする。


「さて、貴君らの提案への返答だが……余計なお世話だと言わせていただこう。我々は正規軍だ。テロリストと交渉するつもりはないよ」


 提案を一刀両断である。艦長がさすが、とばかりに笑ったのがわかった。


「そもそも、君たちが襲撃して来なければ、我々は安全に帰還できたはずなのだよ。よって、我々が君たちの提案に乗ることは無い」


 返答してからしばらくして、通信回線が開かれた。


『生意気な女が! 自分の状況をわかっているのか!』


 ヴィエラはアームレストに頬杖をついたまま平坦の声で返す。


「自分たちの状況を理解していないのは君たちの方だろう。君たちはテロリストに過ぎない。本気で、鳳天を支配下に置けると思っているのかい?」

『ふん、後で泣いてわびるがいい!』


 強制的に通信を切られた。あちらからつなげて来たのに。


「ずいぶんと短慮だね。作戦参謀は別の人かな?」


 ヴィエラのように指揮官と参謀を兼ねるタイプもいるが、たいていの指揮官は、自分のほかに作戦参謀を置いている。まあ、テロリストにもそれが当てはまるのかはわからないが。

「で、どうするんですか?」

 艦長が再び尋ねる。ヴィエラは「基本方針は変わらない」と答える。

「戦うしかないね。逃げることも不可能ではないよ。しかし、それでは、カレスティア停戦条約に抵触してしまう」

 停戦条約では、連合と統一機構がお互いに助け合うということを明記している。ここでヴィエラが逃げ出せば、この条約に抵触してしまうというわけだ。かといって鳳天に逃げ込むわけにもいかない。

「ははっ。苦しい状況だねぇ」

 しかし、最終戦に比べればましだ。あれは、崩れた戦線を立て直すところから始めたが、今はその必要はない。


 艦長が攻撃準備を指示している。各艦自体の動きは艦長たちに一任している。ヴィエラは目の前の敵を倒す算段を立てなければならないが。

 数で抑え込まれると厄介だ。リュー大将が鳳天の指揮権を早く奪還してくれるとよいのだが……希望的観測はせず、堅実に戦術を立てるべきだろう。戦略? そんなものは知らん。最終的に鳳天がどうなろうか知ったことではない、と思う自分もいる。

 そう思いながらも、ヴィエラは作戦を撃ちこんでいく。それを機関だけではなく随行艦にも送信し、彼女は自軍にのみ通信回線を開いた。


「全員、作戦要旨をよく読むこと。動きについてはその都度指示を出す。全員、落ち着いて、指示に従ってくれ。大丈夫。我々が負けるような敵ではないさ」


 正直微妙な言い方だ。第八特別機動艦隊だけでは完勝はできないだろう。かといって、勝てないわけではない。

「六十秒後から作戦を開始する。全員、七分二十秒、耐えてくれ」

「はい!」

 威勢の良い返事と、震えた返事とがあった。震えているのが新人たちだろう。古参メンバーからは妙な信頼があるヴィエラだった。

 ヴィエラはクロックを見る。戦闘機管制官が発進シークエンスを行っている。発進と同時に作戦開始時刻となるだろう。

「宇宙戦闘機部隊、発進します」

「では、作戦開始」

 発進を待っていたかのようなタイミングで、ヴィエラは作戦行動の開始を告げた。後は黙って見ているしかない。どうしても必要であれば口をはさむが、総司令官が口をはさみ過ぎるとややこしくなるものなのだ。

「ミサイル、来ます!」

「総員、衝撃に備えろ!」

 艦長の声を各員が認識するかどうかという瞬間、艦体が揺さぶられた。ヴィエラも一段高くなった指揮官席で耐えたが、どうにも内臓が揺さぶられてむせた。げほげほ咳き込みながらクロックを確認する。あと三分。


 艦の被害状況が上がってくる。その間にも攻撃が続いており、ヴィエラは思わずうめく。

「テロリストのくせに、資金が潤沢だこと」

 場合によっては相手が撃ち尽くすまで耐える、と言う方法もあったのだが、長期戦になる上に相手の備蓄が多ければ使えない。今回の作戦では採用していないが、作戦としてはあり得る。

 やはり、裏で糸を引いている人物がいるのだろうか。ヴィエラはちらりとクロックに目をやる。あと三十秒。

「艦長、左のエンジンの被害甚大!」

「隔壁を閉鎖します! Eの7から35まで!」

「提督!」

 艦長がヴィエラを振り返った。彼女は頬杖をついたまま「あと十秒」とつぶやいた。

「五、四、三、二、一」

 天頂よりテロリストに向かって銃弾の嵐が降り注いだ。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


最後にヴィエラさんが司令官っぽい仕事をします。


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