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プロローグ4

それからはアルとは会っても他人の様な接し方しかされなかった。


「ご機嫌麗しゅうノエル王子」


「やめてよそんな言い方」


「私は臣下でございます。このような態度こそ本当なのです。ご容赦を」


ノエルはアルが他人行儀されるたびに泣きそうになった。ノエルを外に連れ出したのは間違いなくアルだった。アルがいたからこそ世界は広がり、その分感謝した。貴族で臣下だとしても間違いなく友達であったし、対等な友人と思っていた。


「もういい、あっちいって」


「かしこまりました。失礼します」


アルは年に一度の集まり以外来ることはなくなった。貴族は十二歳から学校があり忙しくなったのも関係あるだろう。三年間通う学校はノエルがただの貴族であれば一緒に通うこともあっただろうが王族は通うことはしない。教師を呼び一対一で授業を行うのだ。


「アル、キミとはもう一緒に遊べないのかな」


アルの背中を見ながらつぶやいた言葉は届くことは無かった。


友達を失って暫くふさぎ込んでいたノエルであったが、別に打ち込むべき問題は山積みであった。五年たった時間も悲しさを軽減する効果もあっただろう。ある意味一人に依存するのことを防げたのは王族としてはプラスだったかもしれない。


十歳になったノエルは勉強し以前のような幼さは目立たなくなってきた。王族として国や民の事を考えられるようにサラも尽力してきた。


サラは一般市民に扮装し、市場調査を時々行い、その情報を十歳になった時からノエルに伝えていた。


「儀式は僕ではできないのでしょうか? 国民は飢え、この国の成長は止まっています」


「その通りですが、儀式は成人してからでなければできないのです。こんなことを言ってはいけませんが、ノエル様が成人するまで国がもっていてくれればいいのですが」


「父上に直接言ってくる! 」


「ああ、王子。お待ちくだされ」


ノエルは昔遊んでいた街の子供たちが満足に食事を摂れていないことを知った。街の活気は失われつつあり、久しぶりに会う友人たちは痩せていた。自分だけが贅沢に食べられるのだ。それが我慢ならなかった。


海や山で採れる量はだけでは国中を満たす事は出来ない。畑作など不作知らずだった土地は見るも無残になっている。少量を管理しながらであれば問題ないのであるが一都市を満たすだけの量はとても管理できなかった。


勉強すればするほど自分の無知を呪った。王子として民を、国を助ける。国王に近いのは自分だ。自分が言わなければ誰が言うのか。きっとこんな不甲斐ない王子だからアルは離れて行ったのだろうと良いように解釈した。


「父上、おいでですか? 私です、ノエルです」


「入りなさい」


「失礼します」


国王は自室の椅子に座っていた。机には山のような書類が見える。顔はひどく疲れており、以前見た時より堀が深くなっていた。


「何かあったのか? 」


「はい。父上なぜ民たちをほっておくのでしょうか?皆飢えています。儀式をするだけでいいのでしょう? 」


「ああ、ノエル。妻の忘れ形見。随分と妻に似てきたな。妻が生きていれば」


「父上、今はそのような事を聞いているのではありません。答えてください」


「そうだな。お前も後継者であるし話しておこう」


国王は懐かしむようにノエルをみながら語り始めた。



「『豊穣の珠玉』は誰かを思う気持ちだけが必要で魔力は必要ないのじゃ。むろん王族しか使えないのは本当であるが魔力は必要ない。“誰かを思いやる”その気持ちがあれば効果を発揮する。各地に回り毎年その土地土地に恵みをもたらす」


「ではなぜ各地を回らないのです? なぜ儀式をしないのですか? 」


「気力がないのだ。妻がなくなって誰かの為にやさしくなれなくなった。むろん試したさ。でもできなかったのだ」


「実の子である僕では代わりに慣れないのでしょうか? 僕では力不足ですか? 」


「お前の事は勿論愛している。だが妻の代わりには何者でもなれない。お前が成人するまでこの国がもつことを祈るばかりだ」


国王である父もまた、世情は把握していると言った。すでに手は打ってある。だがこの土地柄では豊穣の珠玉なくしては成り立たないのだ。


「……わかりました。これにて失礼します」


ノエルは何も言えなかった。実の家族に突き放されたような感覚になったからだ。結局のところ国王にとって家族とは王妃だけだったのだろうと思った。


「こんな親をゆるしてくれ」


その呟きを背にノエルは退室した。


この国はどうなるのだろう。そう思い最近大臣になった男に話に行こうと思ったが見つからなかった。高齢であった大臣は引退し新しく就任したのだ。


大臣が見つからなかったためノエルはサラの居る自室へ向かった。


「サラ、この国はどうなるのだろうか? 」


「間違いなくこのままだと後数年で破綻してしまうでしょう。何とか食料を確保するべく政を頑張っている者もありますが、政治ではお腹が膨れません。王都をまかなう程は簡単には手に入りませんし、各地で暴動も起きていると聞きます」


その話を聞き、自分がもっと早く生まれていればと強く思った。


「父上は使えなかったと聞いた」


「何をでしょうか? 」


「『豊穣の珠玉』だよ。母上が亡くなってから試したんだって。でも気力がなくて効果が無かったと言っていた」


「ああ、陛下は何もしなかったわけではないのですね。少し安心しました。それだとノエル様が成人するまでは使えるものがいない、と言うことになりますね」


「うん。早く大人になりたいよ。力もないし貧相だし、民の役にも立たない」


「そんなことはありません。ノエル様は残っている民の希望であります。ノエル様まで腐ってはいけません」


「そうだと良いけど……」


ノエルには自分が役に立っている自覚はこれっぽっちもなかった。王の代わりにも慣れず、ただただ裕福に食べる。ただ魔法が少し使える程度のただの人間でしかない。


「提案があります。変装して市街に出てみてはいかがでしょう? 貴族としての意見ではなく平民として話が聞けるかもしれません」


「それってサラがしていることを僕がするってこと? 」


「はい、そうです。一般市民は一般市民にしか聞けないことがあります。それを実際に聞きに行ってみてはいかがでしょうか? 」


「そうだね、やってみるよ。でもどうやって変装を? 」


「私にお任せください」


するとどこから出したかわからない化粧箱を取り出した。


「ふふふ、印象を変えるには女装しましょう。私は変装のプロですから任せてください」


「ちょっとなんか怖いんだけど……うん、まかせるけど」


サラはノエルが女の子であると知っている一人だ。男らしく短く髪を切っているが、いつか女の子らしく着飾ってみたいと常におもっていたのだ。


「椅子に座っているだけで大丈夫です」


「なんか不安だなぁ。鼻息荒くなってるけどー? 」


「ふふっふふふ」






十分後女装したノエルが出来上がった。


「終わりました」


「ありがとう。それにしてもカツラとか衣装とか準備がいいね」


「ええ……趣味です」


「???」


「では立って一周回っていただけますか? 」


ノエルはくるりと回った。スカートはふわりと舞い、どこからどう見ても女の子だった。


「ええ、完璧です。服は少し汚れている物を準備しましたので我慢してくださいね」


「大丈夫。声とか大丈夫かな? 」


「はい、違和感ありませんとも」


こちらを、姿見の前に連れて行かれたノエルは鏡を見て驚いた。


「凄い……女の子だ」


ちょっとかわいいじゃんとノエルは思ったが口には出さなかった。男の子が可愛くてどうするのだと。


「はい、とても可愛いですよ」


「ああーそう言われてもあまりうれしくないかも……」


サラに可愛いと言われて頬が熱くなるのをノエルは感じた。少し嬉しいかも、そんな感情が沸き起こってきた。


「ふふ、照れなくていいですよ」


「照れてないし。僕は男なんだよ? もー」


サラは内心ガッツポーズした。


「よし、じゃあこそっと行ってくるね」


「はい、私も後をつけていきます……ですが万が一の時があります。この短剣をお持ちになって下さい」


ソフィーは短剣を渡してきた。


「これ手に持ってて大丈夫? 」


「いえ、少し失礼します。太ももに付けますので」


「うん」


ノエルは慣れていないスカートをたくし上げた。


「もし危険がせまったらこれを出して威嚇してください」


「う、うん。……くくっあははははくすぐったいぃぃー」


「敏感ですね」


「あーぞわぞわした。ありがと、いってくるね」


「気を付けてください」



読んで頂きありがとうございます。

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