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迷い家  作者: 鷹樹烏介
9/9

似たり神

打ち切りエンド的な終わり方になります。

大変申し訳ありません。

 三蔵に気を取られていたその時である。

 金属が擦れる耳障りな音とともに、無数の刃が伸びたのは。

 咄嗟に回避行動をとれたのは、さすが鍛えられた神人だったが、その刃は下がり眉の馬面の男、町田馬之助に一点集中だった。

 ただの刃ではない。剃刀より薄く、まるで紙のような。

 それでいて、鋼を貫く強靭さを持っていた。

 『弓鳴り』に範囲に入っていた音彦と草加鹿之進は助かった。

 『護火』に守れていた要には刃は届かなかった。

 星子は、権六に庇われた。

 狐堂と光三郎は三十郎を盾にし、三十郎の『似たり神』は、迫り来る刃を全て抜き打ちに斬り払っていた。

 だが、防御に放った蝶は、刃を押し留めるには弱すぎたのである。

 文字通り馬之助は、すり削られてしまっていた。

 悲鳴すら上げる間もなく。

 キ……キ……キ……キ……

 また、金属が擦れるような、奥歯がむずむずするような音がして、四方八方から馬之助を貫いた刃が風車の様に回転を始めた。

「これは、マズい」

 隊列を前後に分断した刃の風車は、二方向に別れて音彦、要、鹿之進の三人と、星子、権六、三十郎、狐堂、光三郎の五人に別れて動き出していた。

「走れ!」

 権六が星子を抱えて逃げようとした。

 が、床がカタンと抜けて、星子がそこに落ちてゆく。

「星子様ぁ!」

 星子を飲み込んだ瞬間に閉じた床を、権六が獣じみた仕草で、爪を立て引掻く。

「馬鹿野郎! 来い!」

 権六の襟を掴んで、引きずり立たせたのが、三十郎だった。

 だが、一瞬遅く、権六の両腕が刃の嵐に巻き込まれてズタズタになる。

「眼を閉じて!」

 狐堂が叫んだ。その一瞬後、全てが白と黒とに塗り分けられるほどの閃光が迸る。

 まるで、生き物でもあるかのように、刃の群れがたじろぐ。

 その隙に、三十郎が権六を引きずる様にして走るが、権六は星子が消えた床の方に戻ろうと抵抗していた。

「えええい、重いわ!」

 足で、脇にある襖をあけ、そこに権六を放り込み、自身も飛び込む。

 三十郎の背後は、ボロボロの暖簾と土間だったはずが、今は先も見えない廊下になっていた。

 そこを、狐堂と光三郎が逃げてゆくのが見えた。

 刃が唸りを上げて二人を追いかけてゆく。

 三十郎は、べそべそと泣いている権六を残して、刃で傷だらけになった廊下に出た。

 先行していた要らの姿は見えず、後方に退いた狐堂らの姿も無い。

 あるのは、肉片の山に変えられてしまった町田馬之助の名残のみ。

 屋代内部の構造が変わってしまっていた。飛び込んだ先は、あるはずのない部屋だったのだ。

「まずは『眼』を潰すか。いくさの常道よの」

 馬之助の残骸に、三十郎が片手念仏を送り、部屋に戻る。

 そして『似たり神』の鯉口を切った。

「その手、貴様『犬神憑き』だな」

 ズタズタにされた権六の手は何事もなかったかのように、きれいに治癒しており、無残に裂けた手甲ばかりが、負傷の名残だった。

 権六が、何を思ったか、巨体を縮こませて、土下座をする。

「おっしゃる通り、私は人喰いのケダモノでございます。ですが、鬼撃おにぶちマタギに殺されかけたところを星子様に救われ、改心いたしました。以来、人肉は口にしておりません」

 更に権六は畳に額を擦りつけるようにして続ける。

「私をお討ちになりたいのなら、抵抗もいたしませんが、せめて、星子様を救ってからにして頂けませんか? この通り、伏してお願い申し上げます」

 三十郎が考え込む顔になった。笑顔の次に怖い顔である。

 そして、土下座する権六の前にどっかと胡坐をかいた。

「もういい、頭を上げろ、うっとおしい」

 おそるおそる、権六が頭を上げる。

 困惑した様子の三十郎が、無精髭の顎を指で搔いているところだった。

「貴様が『犬神憑き』と知れたからには、斬らねばならん……」

 泣きそうな顔で、何かを訴えようと膝行した権六を三十郎が身振りで止める。

「ただし、ある条件を飲めば、共闘できなくはない」

 権六の顔が、その言葉を聞いてぱぁっと輝く。

「条件を聞く前に、喜ぶな、たわけ」

 居住まいを正して、権六が言葉を待つ。三十郎はますます居心地が悪そうな顔になった。

「わが教団の信徒となれ」

 三十郎が言ったのは、その一言だった。

「教団?」

 首をかしげる権六は、まるで困惑した熊のようだった。

「そうだ、『似たり神』は、ご神体よ。かつて信仰を集め、今は忘れ去られた神の、たった一人の信徒であり、神官が、俺というわけだ。神が神たるには、信徒が必要。だから、『似たり神』は俺を手放さない」

 つまり『似たり神』は庇護を与える代わりに、三十郎から信仰と供物を求める……いわば、共生関係なのだった。

 『似たり神』への供物は、あやかしの絶望や苦痛。犬神憑きを見て、見逃すわけにはいかないのだが……

「信徒になれば、別だ。ただし、俺の神様は非常に嫉妬深い。お前は今の信仰である『星子』を捨てなければならん。それでもいいか?」

 星子を助けるには、この怪しげな侍が必要。そう判断した権六がコクンと頷く。

 三十郎と戦って、おめおめと負ける気はないが、この危機的状況で博打を打ちたくないという判断もあった。

「よかろう。入信は簡単。『似たり神』に接吻し、命を捧げますと言えばいい」

 スラリと三十郎が『似たり神』を抜刀する。

「なんという神様なのでしょう?」

 権六が問うた。何に所属することになるのか、知りたいと思ったからだ。

「いや、人間の喉では、発音できない名だそうな。俺にもようわからん」

 由来といい、何か黒い炎が揺れているように見える禍々しい刀身といい、怖気を振るったが、権六は

「命を捧げます」

 と言って、唇を近づけた。



 バラバラに分割された一行を、『迷い家』の怪異が襲いかかります。

 果たして彼らの運命は? この不気味な屋代の主の正体とは?

 しかし、残念ながら、ここで紙面も尽きました。

 この続きは、いずれまた、語られる事もございましょう。

 それまでは、しばしのお別れでございます。


 いずれ、また……


 『迷い家』 第一部(完)

 

 

 

 

**************人物一覧****************


鈴木道元…七ツ沢代官 淫術『三日殺』を生まれながらに備えている

鈴木星子…道元の娘で黒羽の矢が立った、穢れを自動清浄する聖女

茶畑三十郎…深甚流を修めた剣士で呪刀『似たり神』を所持し、肉体操作法『擁我』もマスター

風間狐堂…風魔の残党で火術を使う凄腕の忍、七ツ沢を探っているらしい

戸隠音彦…戸隠流退魔術を使う山岳系呪術師、『弓鳴』の使い手

村越要…道元子飼いの神人で星子の護衛を命じられた 軻遇突智九十九番『大日』使い

町田馬之助…要の同僚、傲慢で嫌われ者 頭が悪い  軻遇突智二十三番『幻蝶』使い(死亡)

草加鹿之進…要の同僚、卑劣で嫌われ者 ヒョロガリ 軻遇突智四十七番『八ツ手』使い

大森光三郎…要の同僚、うすら禿の嫌われ者 キモ男 軻遇突智七十五番『車輪』使い

鼎権六…要の同僚、『犬神憑き』の巨漢で、驚異の身体能力と回復力を持つ 星子を崇拝

津田三蔵…七ツ沢の本体『迷い家』唯一の生還者、再訪で完全に憑かれてしまった


設定を作ったり、資料を集めるのが楽しすぎて、本編を書く時間が無くなってしまいました。

とても不本意な終わり方で、作者としても非常に不甲斐なく感じておりますし、失望される方もおられると思います。続編は改めて書き、必ず完結させます。

しばらく時間をください。

本当に申し訳ありません。

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