9話 パーティー
目が覚めて抱きついているアンナちゃんの腕を解き身体を起こす。まだみんな寝ている。アンナちゃんが寝言を言う。
「大丈夫ぅ痛くないからぁ…気持ち良いからぁ…」
…アンナちゃん、どんな夢見てるの?
みんなを起こさないように洗面所に向かい顔を洗い、口をゆすぐ。コップを用意して椅子に座る。小声で生活魔法・ウォーターの詠唱をして、水を飲む。
今日は訓練所でスキルの練習して、パーティーを作って一緒に練習かぁ。練習って聞くと部活を思い出す。
私とアンナちゃんは女子軟式野球部でピッチャーとキャッチャーで部長と副部長だった。副部長のアンナちゃんの方が部長に向いてたと思う。私は話す事が苦手だから行動で示そうと思った。
一日でも皆と一緒にやりたいから全国大会優勝を目指し、その為に誰よりも練習をした。
部長になる前からもやってたけど、朝練では朝練の時間より早く来て道具の準備してウォーミングアップして皆が来るまで壁当てをしてた。皆も少し早く来て一緒に練習をした。
ランニングでは基本先頭を走った。疲れて遅れてきた子が出てきた時に横に並び「もうちょっとだよ。」「自分のペースでいいよ。」「無理しなくていいよ。」と声を掛けながら一緒に走った。最後まで走ってくれた。
筋トレや素振りなどの練習では先生に言われた回数より多くやった。皆も多くやっていた。
家に帰った後も家の周辺を走ったり、庭で素振りやお父さんが作ってくれたネットにボールを投げこんだ。
…大会があと1ヶ月くらい先だったけど…私達がいなくなっても皆いっぱい練習したから大丈夫だよね…
…お母さん達、私達の事を探しているのかな……私達、今異世界にいるんだよ………会いたいけど会えない……帰りたいけど帰れない……せめて、生きているよと伝いたい……
俯いていて太股に涙がぽたぽたと落ちる。
太股にセイが乗ってきて身体を伸ばし私の顔に触れて涙を吸い取る。誰かが後ろから抱き締め、手を優しく握って、頭を撫で、足にすり寄ってきた。
顔を上げるとシホちゃんが手を握っていて、クロちゃんが頭を撫でていたのが分かった。そして抱き締めているのはアンナちゃんで、足にすり寄っているのはラビちゃんとコクちゃん、ハクちゃんだった。
「みんな…」
「どうしたの?」
シホちゃんが心配している表情で見上げて言う。
「…部活の事、お母さん達の事を思い出したら涙が出ていた…」
シホちゃんが手をぎゅっと握り、アンナちゃんもぎゅっと抱き締めてきた。皆の優しい気持ちが伝わってくる。
「みんな、ありがとう。今日のパーティーの練習頑張ろうね。」
「「「うん!」」」
「きゅっ!」「にゃん!」「バウッ!」
セイは頑張る!と力を入れてぶるぶると揺れる。
その後着替えて食堂でみんなと一緒に朝食を摂って訓練所にきた。
訓練所はサッカースタジアムみたいな場所。中央が訓練するグラウンドでそれを囲むように観客席みたいなのがある。
訓練所では個人で訓練をしたり、騎士団同士の大人数で訓練をする事も、それから騎士達の個人戦や集団戦、宮廷魔法師達の魔法戦など士気向上の為やアルジェレント王国最強決定戦(王国所属の騎士や魔法師以外に傭兵や武道家なども参加)などの娯楽として使用する事もあるみたい。だから観戦が出来るように席があるらしい。
昨日と同じように練習と言われ、シホちゃん、クロちゃんと別れる。私達従魔クラスはラーゴンさんの元に集まるが「今日は自身のスキルの練習をしてくれ。」と言われ、私とアンナちゃんは前衛クラスで棒術を練習する事にした。
「トモちゃん、アンナちゃん。」
「あ、シホちゃん。」
「どうしたの?」
「今日はぁ従魔術以外の練習しろってぇ言われたからぁ棒術の練習したいからぁこっちにきたのぉ。」
前衛クラスの担当の人は剣を使う人、槍を使う人、槌を使う人とそれぞれの武器毎に担当の人がいる。私とアンナちゃんは槍の担当のイーカさんに教わる。
「突き、打ち、払いが基本です。」
イーカさんが180センチメートルくらい(私の身長プラス頭を二つくらい)の棒を使って基本動作を見せる。
「突きでも片手、両手で行う突き、連続で速い突き、一撃に力を込めた突きなどあります。」
イーカさんが色んな突き、打ち、払いを見せてくれる。
棒を持つ。素振りの練習で使っていた物干し竿より少し重いかも。
私達はイーカさんを真似て突き、打ち、払いをやってみる。初めてにしては上手く出来ているんじゃないかな?
1時間ひたすら基本動作をした。
休憩をして今度はアンナちゃんとゆっくりな動作で戦うよう言われた。私達は中段に構えて向かい合う。私はゆっくりと突きをする。アンナちゃんがゆっくりと払いをしてきて私の棒が払われる。アンナちゃんが返して手首に打ち込んでくる。私は棒を引き寄せて防ぎ押し返して距離を取る。
今度はアンナちゃんが突きをしてくる。私は左に避けてからアンナちゃんの腕へ棒を打ち込もうとするが、アンナちゃんが横へ棒を振ってくる。棒を縦にして防ぎ回転させてアンナちゃんの棒を上へ払い、空いた胴へ振り下ろす。アンナちゃんは払われた力を利用し体を回転させて棒を振り下ろす。鍔迫り合いの形になる。
「こんなに動けるのってスキルのおかげだよね?」
「そうだと思ぅ。すごいよねぇ。」
「うん。」
と昼食までそんな風に戦いを繰り返した。
昼食を摂った後、マーデルさんがパーティーについて説明してくれた。
パーティー人数は5人で前衛2人、後衛、魔法、支援回復クラスが理想だそうだ。最低でも3人、前衛2人、魔法クラスで回復は回復薬などを使用するすればいいと。
パーティーを組む事で生存率が上がる。
一人で斃せない敵でも仲間と協力すれば斃せるようになる。
パーティーを組んでいて近くにいれば魔物に攻撃をしていなくてもレベルが上がる。
…斃さなくてもレベルが上がるんだ……でもそれってアンナちゃん達が斃すって事だよね…
みんなを守る為に私が強くならないといけないのに……アンナちゃん達だけにやらせるなんて…私がやらないといけないのに……
「…ちゃん、トモちゃん。」
「な、なに?」
「パーティーを組んで下さいだってぇ。それとぉ後で話してねぇ。」
ニコッと笑って言うアンナちゃん。
「う、うん。わかった。」
クロちゃんとシホちゃんが近くに来る。
「やっぱり5人が理想だってさ。だから支援回復クラスの人を入れたいと思うんだけど、どう?」
「「いいよ。」」「いいよぉ。」
「支援回復クラスの人ってぇ誰がいるのぉ?」
「あそこにいるトモミちゃんとカオリちゃん、ヨシノ君。あとイガラシ先生だよ。」
とクロちゃんが支援回復クラスで集まっている先生達を見ながら言う。
「どうするぅ?トモちゃん?」
「…私はカオリちゃんがいいな。」
「良いと思う。」「トモちゃんに賛成ぃ。」
「理由を聞いていい?」
「…仲良くなりたいって理由じゃダメかな?」
支援回復クラスを見た時に仲良くなりたいって思った。一人で俯いててほっとけないと思った。それに先生達は他の人に誘われているから。
「ううん。ダメじゃないよ!」
「良いと思う!」
「くっ…トモちゃんにぃそう思われるなんてぇ羨ましぃ。」
「私はアンナちゃんともみんなとももっと仲良くなりたいよ。」
私がそう言うとぱぁっと笑顔が咲く。アンナちゃんが抱き付いてくる。
「トモちゃん大好きぃ!賛成ぃ!大賛成だよぉ!」
「じゃあ、カオリちゃんを誘いに行こっか。」
クロちゃんはアンナちゃんの行動をスルーして言う。
「「うん。」」「はーい。」
私達はカオリちゃんの所に行き話しかける。
「カオリちゃん、誰かとパーティー組んだ?」
「…ううん。誰とも組んでないよ。」
「じゃあ、私達と組まない?」
「…私が…ラクモトさん達と…」
「…イヤ?」
「嫌じゃ…ないけど…なんで私なんかと?」
「カオリちゃんと仲良くなりたいからだよ。あと私なんかって自分を卑下しないで。」
「だって…私なんか…みんなよりトロいし頭も良くないし可愛くもないし…迷惑をかけるだけだし…」
「私もみんなよりトロいよ?」
「私はぁ頭は良くないよぉ?」
「カオリちゃんは可愛いと思うよ。」
とクロちゃん、アンナちゃん、シホちゃんが言う。
「私もみんなにいっぱい迷惑をかけてるよ?私が言うのも変だけど迷惑かけていいんだよ。」
「でも…」
「…私達と仲良くなりたくない?」
「…仲良くなりたいけど…」
「じゃあ、パーティーを組もう。」
「でも…」
私はカオリちゃんの手を握り、目を合わせて言う。
「パーティーを組んで。」
カオリちゃんは目を逸らし沈黙、少し経ちちらっと私を見て言う。
「…ううぅ、迷惑をかけても知らないよ…」
「うん。いっぱいかけていいよ。」
「…ううぅ、ラクモトさん達のパーティーに入ります。よ、よろしくお願いします。」
「うん!よろしくね!あと名前で呼んでいいよ。」
「よろしくねぇ。それとぉもう手を離してもぉいいんじゃないかなぁ。」
「よろしく。」「よろしくねー。」
「きゅ!」「にゃ!」「バウ!」
セイは身体の一部を伸ばしカオリちゃんに触れる。カオリちゃんは「きゃっ!?」といきなり触られて驚く。セイは驚かれた事で固まる。カオリちゃんにセイの事を説明すると「驚いてごめんね。よろしくね。」と伸ばした一部に触れる。セイはよろしく!とぷるぷると震える。
「カオリちゃんが加わって、理想のパーティーが出来ました!」
「「「パチパチ」」」
私、アンナちゃん、シホちゃんが拍手をする。カオリちゃんが少し遅れて「…パチパチ」と拍手をする。
「理想のパーティーが出来たので、次はパーティー名を決めなければいけません!」
「「「そうなの?」」」
「そうなんです!ということでパーティー名を考えて下さい!」
「はい!」
と早速アンナちゃんが手を上げる。
「はい。アンナちゃん。」
とクロちゃんがアンナちゃんを指して言う。
「可愛いトモちゃんファンクラブ!」
「ダメ!」
「はい。他はー?」
「はい。」
シホちゃんが手を上げる。
「はい。シホちゃん。」
「地球戦隊5女レンジャー!レッドはトモちゃん、ブルーは私、グリーンはクロちゃん、イエローはカオリちゃん、ピンクはアンナちゃんだ「あ、あの~。」よ。」
声を掛けられて私達は振り向く。支援回復クラスのヨシノ君が立っていた。
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