4話 従魔屋
私達はラーゴンさんの後ろに付き従魔屋に向かっている途中、隣を歩くアンナちゃんが顔を覗き込んできた。
「トモちゃん、どうしたのぉ?何か嫌な事あったぁ?」
「え?ううん。無いよ。これから行く従魔屋の事を考えてたんだよ。ペットショップみたいなとこかな?楽しみだね。」
「………」
「ん?どうしたの?」
「……トモちゃん!」
「なに?アンナちゃん?」
「私、その作り笑い嫌いだよ!」
「…え?」
「前にも言ったよね?1人で抱え込まないでって!」
アンナちゃんが泣きそうな表情で怒鳴る。
「う、うん。言われた…ね。でも、ほんと「嘘!つらい顔してた!あの時と同じ顔してた!トモちゃんがそんな顔してると私も辛くなるよ…」
両肩を掴まれ今にも涙が溢れそうなアンナちゃんに慌てる。
「ご、ごめん。泣かないで。あ、後で話すから。」
「………ほんと?」
「う、うん。絶対話すから。」
「絶対だからね…離さなかったらぁ…怒るからね!」
「う、うん。」
ひぃ、笑ってるけど、目が笑ってない!アンナちゃん怖い!帰ったら絶対に話そう!
アンナちゃんは笑顔を見せ隣に並ぶ。
ラーゴンさんが落ち着いた私達に声をかけてきた。
「大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です。立ち止まってしまって、すみません。」
「すみません。」
「そうか…じゃあ行くぞ。」
「「はい。」」
私とアンナちゃんは先を歩いているマキ君逹に近づき話しかける。
「マキ君、タダノ君、ごめんね。」
「ごめんねぇ。」
「大丈夫だよ。でも何かあったら、スズキさんが言った通り一人で抱え込まないで、スズキさんとか先生とかに話したらいいと思うよ。話したら楽になる事もあるしね。僕も聞くよ。」
「気にすんな。まぁ俺も聞くよ。」
「…ありがとう。」
マキ君もタダノ君も優しいなぁ…
それからどんな場所かな?とか他愛のない会話しながら、街並みを見ながら歩いていく。暫くしてある建物の前で止まる。2階建、扉の上には『従魔屋ペットショップシン』と書かれた看板がある。看板が無ければ、お店には見えない。
扉を開くとカランカランと鈴が鳴る。ラーゴンさんの後に続き中に入ると黒髪の男性が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。あ、ラーゴンさん。おはようございます。もしかして昨日の件ですか?」
「おはよう。そうだ。昨日の今日だが用意できているか?」
「ラーゴンさんの頼みですからね!最優先で用意しておきました!」
「すまんな。助かる。」
「いえいえ!そんな気にしないで下さい!
それで、その子達が…?」
「あぁ、そうだ。」
ラーゴンさんと黒髪の男性が話している間、私達は少し興奮しながらキョロキョロとお店の中を見ていた。首輪や鞭や餌、餌皿などがあるが、肝心の動物、魔物がいない。
「勇者の皆さんですね。おはようごさいます。私はこのお店の店長で魔獣使いのユーです。」
「「「「おはようごさいます。」」」」
「魔物使いのマキ トオルです。」「虫使いのタダノ カイです。」
「獣使いのぉスズキ アンナですぅ。」「スライム使いのラクモト トモエです。」
「「「「よろしくお願いします。」」」」
「よろしくお願いします。では行きましょうか。付いてきて下さい。」
笑っているユーさんを不思議に思いながら、後を付いていく。奥の部屋に入り、地下に進む。下りた先の扉を開き中に入る。
そこには草原が広がっていた。奥には森がある。
そして小屋がありその横に小屋と同じくらい大きな犬が伏せてこっちを見ていた。立ち上がり私達に近づいてくる。
大きい犬だなぁ…すっごい大きい。そして綺麗…
アンナちゃんは私の腕に抱きつき、マキ君タダノ君はビビり、ユーさんはニコニコして、ラーゴンさんは苦笑。大きな犬が口を開く。
「ユー、その子達が勇者なのかい?」
「そうだ「い、犬が喋った!?」
「小僧!私は犬ではない!」
私達は怒気にビクッとなり震え上がる。
「「カイ(タダノ君)謝れ!(謝って!)」」
「犬って言って、すみません!!」
私も大っきい犬だと思いました!すみません。と心の中で謝る。
「ウル、タダノ君も謝ってるんだ。許してやってくれ。」
「…わかった。許そう。
私は白狼の王、ウルだ。ユーのパートナーだ。」
「そしてここの管理者でもあるんだ。何度も会うかもしれないからね。紹介しとこうと思ってたんだ。」
ユーさんがウルさんの首を撫でる。尻尾が左右に揺れる。
「さっきはすませんでした。タダノ カイです。」
「マキ タオルです。」
「スズキ アンナです。」
「ラクモト トモエです。」
「…!」
「「「「よろしくお願いします。」」」」
「…あぁ、よろしく。ではユー、私は戻るぞ。」
「うん、いいよ。じゃあ、またね。」
ウルさんはチラッと私達を見てから、森の方に走っていった。
「私達はこっちです。」とユーさんは小屋に向かう。
後を追い扉の近くにあった小屋に入る。
低いテーブル、そのテーブルを囲う様に1人掛けのソファ2つに3人掛けのソファーが2つ。奥の部屋に続く扉。
「どうぞ、お掛け下さい。」
手前にラーゴン、右にマキ君とタダノ君、左に私とアンナちゃんが座り、ユーさんが飲み物をみんなの前に置き、奥の椅子に座り私達を見る。
「皆さん何か聞きたい事がありそうな顔ですね。」
私達は目を合わせてる。
「はい。ユーさん、なんで地下に草原、森があるんですか!?そんな階段を下りきてないはずなのに天井が高いし、空と太陽もあります!どういう事なんですか?!」
興奮しながらマキ君が代表して私達が思っていた事を聞いてくれた。うんうんと頷く私達。
「落ち着け下さい。まぁ、私も初めて来た時は驚きました。
ここは過去の賢者、調教師などのクラスの勇者達が従魔クラスの為に作った部屋です。低ランクの様々な魔物が生息できるように空間魔法や土魔法などを使って作った空間です。比較的安全にテイムできる場所なので、低レベルの従魔クラスにとって最高の場所ですね。」
「すげー!勇者ってこんな事もできるんだな!すげーな!」
「そうなんですね!その勇者達も魔法もすごいですね!」
「すごいねぇ。」
「うん。すごいね。」
「皆さんもも勇者ですから、レベルが上がれば出来るようになりますよ!
他に何かありますか?」
「えーっと、肝心の魔物は何処にいるんですか?これから森に行くんですか?」
それはですね、とユーさんは立ち上がり、奥の扉に手をかける。
「さぁ、こちらへ。
皆さんお待ちかねのパートナーになる魔物達ですよ!」
奥の扉が開かれ部屋に入る。魔物達がケージや籠、水槽などに入っていた。
私達は「「おお!」」「「わぁー」」とテンションが上がる。
「言われた通り魔物、虫、獣、スライムを用意しました。」
「あぁ、ありがとう。」
「いえいえ。お役に立てて嬉しいです。
私は邪魔になりますので、隣の部屋に戻りますね。」
「皆さん頑張って下さい。
皆さんに良い出会いがあります様に。」
と両手を合わせ一礼してユーさんが出ていく。
「さて、この中から好きな魔物をテイムしてみろ。最悪な相性でなければ、この魔物達なら大抵テイム出来るはずだ。好きな魔物をテイムしてみろ。」
「「「「はい!」」」」
私は右から順にガラスケースを見る。
あ!あれかな?生物図鑑で書いてあったスライムにそっくりだ。
ソフトボールくらいの小さいスライムが1匹、サッカーボールくらいのスライムが4匹いた。
近づいてみると、小さいスライムがゆっくりと私の方に近づく。この子以外は警戒してか少し後ろに下がり、様子を見ている。
「君は…警戒しないんだね。」
小さいスライムは疑問に思って首を傾げる人の様に右の方へ身体を寄せる。
「なんで?って。うーん?知らない人が来たら警戒するでしょ?」
小さいスライムはさらに右の方へ寄せる。
「そうなの?って。はぁ…気をつけないと攫われちゃうよ。危ない人もいるんだから警戒しないとダメだよ。わかった?」
小さいスライムは元に戻り、頷くように上下に揺れる。
「うん。素直でよろしい。私はトモエ、よろしくね。君、名前はなんていうの?」
小さいスライムは上下に揺れた後、左右に揺れる。
「うん。よろしくね。そうなんだ。名前は無いんだ。」
小さいスライムがさらに近づいてきてガラスケースにへばりつき上目遣いをしてきた。様にトモエには見えた。
あ、可愛い…
「え?私に名前を付けてほしいの?」
小さいスライムは上下に揺れる。
「うーん。お父さんお母さんはいないの?」
小さなスライムは左右に揺れる。
「そっか…本当に私でいいの?」
小さいスライムは上下に揺れる。
「わかったよ。あ、ごめんね。見た目じゃわからないのだけど君は男の子?それとも女の子?」
小さいスライムは左右に揺れた後上下に揺れる。
「女の子ね。わかった。考えるから待ってて。」
小さいスライムは上下に揺れる。
うーん。名前か…スライム…小さいスライム…ライム。
薄い水色の身体…ブルー。アオイ。アオ。サファイア
身体の中にある赤い宝石のような物…アカ。レッド。ルビー。
確かスライムはいろんな可能性があるって書いてあったよね…無限の可能性…
「うん。決まったよ。漢字で書くと星。星はものすごくたくさんあるんだ。スライムはたくさんの可能性がある、秘めているって本に書いてあったの。だから君の名前はセイ!星と書いてセイ!良いかな?」
小さいスライムが上下に激しく揺れる。
「よかっ…!」
その瞬間私から白い靄が出て小さいスライムの中、赤い宝石のような物に入っていった。小さいスライムの赤い宝石のような物から白い靄が出て私の中に入ってくる。
ーーー
ベビースライムがトモエの従魔になりました。
ベビースライムの名前がセイになりました。
ーーー
「え?なにこれ?え?従魔術やってないよ?」
トモエの目の前にステータスオープンした時のように
文字が浮かんで見えた。
セイが喜んでジャンプをしている。蓋に当たっても繰り返しジャンプをしている。
慌てて蓋を開けセイを両手でキャッチする。
「…セイ?私の従魔になっちゃったんだけど良いの?」
セイは激しく上下に揺れる。肯定と嬉しい気持ちが流れてくる。
「…ここを出る事になるんだけど良いの?」
セイは上下に揺れる。
「そっか。セイ、これからよろしくね!」
セイはぷるぷる揺れる。
「テイム成功したみたいだな。」
「あ、はい。名前を付けてほしいと言われて付けたら、勝手に従魔になってしまいました。」
「…ほぉ。気に入られた様だな。」
「そうなんですかね?そうだったら嬉しいです。」
セイがぷるぷると揺れる。私はありがとうと言ってセイを撫でる。
「テイムに成功したらより詳しくステータスが分かるようになる。相棒の事をよく知っとく事も従魔クラスにとって大切な事だ。呪文は分かるな?」
「はい。」
「セイ?セイの事をもっと知りたいの。ステータスを見てもいい?」
セイは手の上で上下に揺れる。
私は小声で呪文を唱える。
「《魔物鑑定》」
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