1話 勇者召喚
よろしくお願いします。
キーンコーンカーンコーン。4時限目の終わりのチャイムが鳴る。
「今日やった所はテストに出るかもしれないから、ちゃんと復習するようにね!
じゃあ、終わりましょう。楽本さん」
「き、起立、礼、「「「ありがとうございました。」」」着席。」
ふぅ。と息を吐く。
大勢の人の前で話すのが苦手な私にとって日直の日は憂鬱な日。出席番号の25の日なども同じ。先生に指される事が多い。国語、英語がある日なんて最も憂鬱、最低最悪の日である。
みんなの前で音読なんてしたくない。指名するなと全力で気配を消してるにも関わらず(全く消えていない)、容赦なく指してくる先生達。(ほとんどの教師も似たようなもんだ。「じゃあ、今日は5日だから出席番号5番の人、次は15番、25番の順で読んで」とかあるはず。)
ブルーな気分になりながら教科書とノートをカバンの中に仕舞い、席を立って黒板に向かう。
先生が教室から出ていこうと扉に手をかける。
「あら?開かないわ。おかしいわね。」
「先生、鍵が掛かってるじゃない?」
「それが掛かってないのよ。ほら。掛かってないでしょ?」
「あ、ほんとだ。開かないね。」
「せんせー、こっちも開きませーん。」
「え?そっちも!おかしいわね……誰かーそっちから扉を開けてくれない?」
先生は廊下にいるであろう誰かに助けを求めたが、全く反応がない。
「うーん…管理室に連絡してみましょうか。」
先生は携帯電話を取り出し電話をかける。
『この電話は現在使えません。詳しくは○○○に掛けるか、お近くの△△にお越し下さい。この電話は』
「え?使えません?!どうして?!」
気持ちが沈んでいる私は全く周りの様子に気が付かずに、日直の仕事、黒板の文字を綺麗に消していた。
後ろの扉では男子達が扉を数人で開けようとしている。「なんで開かないんだよ。」「どうなってんだよ。」「トイレに行きたいんだけど…」と騒ぎ始めた。「どうすれば…」と先生は混乱してる。どんどん騒ぎが大きくなっていく。
やっと騒がしい事に気が付いて、振り向くと教室の中央が光り輝き出す。私は光の中で動いているモノを見た。文字?模様?だと思う、たぶん。それも一瞬だった。目が開けられないくらい、輝き出して目を瞑る。
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ゆっくりと目を開ける。
先生、クラスメイトと目が合う、合ったと思う。
なんでみんなの前に立っているのかな。ドッキリ?誕生日でもないし…日直だから?というか光った瞬間に私の前にみんな来たの?早くない?あれ?机や椅子どこにいったの?
あれれ〜?おかしいなー?みんなの後ろに仮装した人いるよー?騎士?魔法使い?なにこれ?映画の撮影?
あ!天井高い!壁遠い!広い!?え?教室じゃないよ?!
夢かな?光にビックリして気絶して夢見てるかな?
「勇者の皆様、初めまして。私はアルジェレント王国第一王女、サーティリア・アルジェレントと申します。サティと呼んで下さい。」
声がした方へバッと振り向くと、サーティリア・アルジェレントと名乗る女性がスカートを持ち上げ頭を下げていた。頭が上がり、笑顔を見せる。100点満点の笑顔を見せられて、女子の私でも惹かれる。
不安、驚愕、困惑、様々な思いを忘れて、王女様に惹き寄せられる先生と生徒達。
「混乱していると思いますが、落ち着いて私の話を聞いて下さると助かります。」
「は、はい。お、お願いします。」
先生が緊張しながら言う。王女様が真剣な表情で話し始めた。
「ありがとうございます。
そして私達の世界の事で勇者の皆様を巻き込んでしまって申し訳御座いません。
私達の世界は絶滅の危機が迫っています。邪王が現れ、全種族が絶滅すると…
それを回避する為には異世界から勇者様を召喚しなければならないと…
予知者は『邪王が現れ近い未来に全種族が絶滅する』預言者は『勇者、召喚、危機』と神託があったと申してました。
それで世界を救う為に勇者召喚をしました。
身勝手な事だとわかってます。それでも、どうか、どうかお力をお貸し下さい。」
王女様が深く頭を下げる。
「私からも頼む。力を貸してくれ。」
「「「勇者様、お力をお貸し下さい。」」」
王女様の隣の貫禄がある男性、周りの騎士達も深く頭を下げる。
ええっとどうすればいいのかな?勇者と言われてもただの中学生が力になれると思わないけど…騎士さん達の方が強そうだよ?力になれると思うよ?もっと頑張ってよ。というかこれドッキリとかじゃない感じ?異世界だって言ってたよね?え?現実?え?どうするの?
私は振り返り先生を見ると同じくクラスメイト達も先生に目を向けていた。大人の先生に判断を任せる。未だに混乱していた先生だが、みんなに見られ少しずつ混乱が収まっていくように見えた。
「私達はただの教師と中学生です。一般人です。勇者とはなにかの間違いだと思います。だから力になれません。すみませんが、今すぐ帰らせていただけないでしょうか。」
王女様は申し訳なさそうな表情になる。
「申し訳御座いません。召喚魔法の対となる返還魔法がありますが………お帰りできないと…思います…」
「え?そ、それはどうしてですか?」
「…召喚魔法に100年分の魔力を使いました。対となる魔法なので最低でも100年分の魔力が必要になると思います。残っている魔力は数年分…約100年後に出来るかと………」
…え?無理じゃん…
もうお父さんお母さん妹に弟、猫ちゃんお爺ちゃんお婆ちゃんに会えないの…?
「……え…?…100年後って………無理じゃないですか!?どうしてくれるんですか!
この子達はまだ子供なんですよ!?家族もいるんですよ!100年って…もう会えないじゃないですか…どうしてくれるんですか…」
「…申し訳御座いません…」
空気が重くなる。泣き出す生徒達がちらほら。私もその1人。
そんな中一人の生徒、佐藤君が手を上げた。
「あの、王女様お聞きしたい事があるのですが。」
「…はい。なんでしょうか。」
「魔力を早くためる方法ってありますか?」
「はい。直接魔力を魔石に送る方法があります。と言っても20年くらいだけですが……」
「そうですか……
僕達にも魔力ってありますか?」
「はい。勇者の皆様にも魔力があるはずです。魔法使いくらいあると思います。人によっては鍛えれば、最上級クラス以上になると言われてます。」
「そうですか。ありがとうございます。」
佐藤君は王女様にぺこりと頭を下げた後先生の側に行きひそひそと話し合う。王女様は首を傾げていた。
「五十嵐先生、これからの事を考えよう。帰れないのなら、この世界で生きていくしかないし。頼れるのは先生だけです。あと給食を食べてないからお腹空きました。お昼ご飯要求しようよ。僕達は勇者様みたいだから、ね。」
「…ふふ。ありがとう佐藤君。私がしっかりしないとね!」
「無理はしないでね。先生。」
「先生より落ち着いてて、先生より佐藤君の方がよっぽど大人ね。」
「勇者の話とかファンタジーものをいっぱい読んでたからかな。最初はビックリしたけどね。」
「そうなのね。じゃあその話を後で聞かせて。」
「うん。わかったよ。」
「みんな聞いて。」
生徒全員が先生を見る。先生は一人一人生徒達に目を向ける。
「これはドッキリ修学旅行です。普通の修学旅行なら事前に計画を立てて行動するけど、今回はドッキリなので、地元のガイドさんの案内でいろんな所を行ったり、いろんな体験をやってもらいます。
………なーんてね…ごめんね。先生にも何が起こってるのか正直に言うとわかりません。でも、先生はどんな事をしてもみんなを絶対に家族の元に帰します。絶対なんとかします。先生頑張るから!
…先生に付いてきてくれるかな?」
…先生。その冗談はちょっと…
それに最後のは…頼りないよ…でも、なんか元気付けられたよ。悲しいけど頑張ろう。ありがとう先生。
シーンとなる。それも一瞬、生徒達は笑い声をあげ笑顔で先生を見て言う。
「あはは。先生、そこは付いてこい!って自信持って言わないとダメだよ。」
「「「先生、私(僕)達も一緒に頑張るよ!」」」
「修学旅行なんでしょ?じゃあ楽しもうよ!」
「先生は頼りないからな。俺が手伝ってやるよ。」
「みんなありがとう。一緒に頑張りましょう。楽しみましょう。よろしくね!」
先生は振り返り王女様に言った。
「王女様、お昼ご飯をまだ食べてないので、昼食を用意していただけると嬉しいのですが…お願いできますか?
その後にこの世界の事も勇者の事も全く知らないのでもっと詳しく説明してほしいです。」
王女様はぽかんとした表情を浮かべたがすぐに真面目な表情に戻る。
「え?…あ、はい。わかりました。
では、食堂に向かいましょう。付いてきてください。」
王女様と貫禄のある男性の後を騎士、先生、生徒達、騎士と順に付いていく。私達が立っていたとこに淡く光る模様(魔法陣だと後から聞いた)があった。
大きく頑丈そうな扉を近くにいた人が開いてくれて、私達は部屋を出る。
召喚された部屋は王城の後ろにある2つの塔の内の1塔。塔と塔、塔と王城の間に3つの宿舎があって、中央には壁に囲まれた訓練所がある。
2つの塔と王城を繋げると▽の形になっていて右上の位置に私達がいた塔、下が王城、それぞれの辺の中央に宿舎、▽の中に訓練所がある。
私達がいた塔と王城の間の宿舎はメイドや料理人達。反対側は文官や魔法使い。塔と塔の間の宿舎は武官や騎士達。
どの宿舎も一階に食堂、風呂場、休憩所。二階は6人部屋、4人部屋、三階は個室と統一してるみたい。
今回はメイド達の宿舎で食べるみたい。食堂はパーキングエリアみたいにテーブル、イスがいっぱい、奥に厨房がある。そこで料理を作っている。
次々と料理が出来る。受け取り、席に着く。
料理は見た目は鶏肉のソテーに人参、じゃがいも、コーンスープ、ロールパンである。
全員が席に着いたところで王女様がいただきましょうと言った。
「「「いただきます。」」」
うん。美味しかった。鶏肉?は皮がパリッとお肉は柔らかくジューシー、スープは優しい味で、ロールパンはふわっとしてて柔らかくて噛めば噛むほど甘くて美味しかった。
「「「ごちそうさまでした。」」」
食器類を片付けて、また席に着く。王女様達が話し始めた。
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