【七】
【七】
祐介は凍える寒さの中、今年も後一日を残すばかりとなった十二月三十日の午前中、
火葬場の外で一人で煙突をぼんやり眺めていた。
祐介の視界は景色が滲んで、何も見えなかった。
秋沢麗奈がこの世を去った。
東京駅に向かう途中、信号無視して突っ込んできた車にはねられ、救急車で運ばれた先の
都立第二病院で、眠るように息を引き取った。何故か頬が痩せこけていて、腕も細くなっていたが、
彼女の最期を前に、そんなことを気にする余裕はなかった。
麗奈は祐介の前に永遠にその姿を見せる事はない。
麗奈はこの世を去った。最後の最後、一瞬だけうっすらと目を開け、
祐介にだけ聞こえるようにか細い声で一言だけ残して。
『ありがとう。幸せになって』
そう言って、眠るように瞳を閉じた。
祐介は一人、慟哭していた。誰も居ない火葬場の駐車場に両手と両ひざをついて、
子供のようにただ泣きじゃくっていた。
『俺が帰省すると言わなければ。』
『東京駅に来るって言うのを止めていれば。』
『どうしてだ。どうして俺は彼女に何も返せない...
どうして彼女は俺を置いてこの世から去ってしまったのか。』
「なんで...」
「なんで...」
「なんでなんだよっ!!!」
嗚咽で息が苦しい。メンタルヘルスを患っていた時よりも胸が苦しい。
肩で息をしないと、息が詰まってしまいそうだった。
「うわああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
ココロの叫びが、声となって吐き出される。声にしなければ、
意識が無くなってしまいそうなほど苦しかった。
「麗奈...麗奈...麗奈ぁ...れぇなぁ...うっ...ううっ...」
口で息をしているから、唾が地面に落ちていく。駐車場のアスファルトに黒い染みを作り、
そして小さな水たまりを作る。
涙で視界が滲んで、それすらもはっきりと認識できない。
祐介はひたすら泣き続けていた。声を上げて。そうしないと、すぐにでもココロが壊れてしまうから。
麗奈は最後に言い残した。
幸せだった、ではなく。
『幸せになって』と。
それが最愛の女性の、最後の一言だった。
短い時間だったが、一緒に過ごした祐介にとって、その言葉が何を意味しているかも分かってしまった。
いつか、落ち着いたら。
試薬の量産を果して錦を飾りに本社に、麗奈の隣のシマに戻ったら。
麗奈に結婚を申し込みたいと思っていた。
ボロボロとココロが崩れていく音が聞こえる。暗い闇に引きずられていく、
落ちていくあの感覚が呼び起こされていく。
『もう...ダメだ...』
祐介が力なく駐車場に倒れ込もうとしたとき、後ろから低い男性の声が聞こえた。
「名倉君。ありがとう。」
祐介は我に返り、声のする方に顔を上げる。涙と唾液でドロドロに、ボロボロになった祐介の顔を、慈しむかのように悲しい微笑みを浮かべながら祐介に手を差し伸べているのは麗奈の父親、秋沢隆二だった。
「去年の末に麗奈が珍しく帰ってきてね。将来を考えている男性と付き合っていると言ってたんだ。」
「何でも仕事で麗奈の事を助けてくれたらしいね。あんなに目を輝かせて仕事の話をする娘は
初めてみたよ。今度連れてこいって言ったら、まだ時期が早いとか、
相手の気持ちはそこまでじゃないとか、色々と言い出してね...」
「麗奈の最期を、看取ってくれて...ありがとう...」
隆二は涙声で、感情を押し殺すように感謝の気持ちを述べた。
「麗奈は...麗奈さんは...躁うつ病だった僕を救ってくれたんです...」
「今年の春、仙台に行かないかって打診があった時にも、彼女は絶対に行くべきだって
言ってくれて...」
「それなのに...僕は...僕が帰省するって言わなかったら麗奈さんはっ!!」
「そうじゃない。そうじゃないよ。名倉君。」
「もしも麗奈が東京駅に向かわなければ。もしも麗奈が君に会いに行かなければ。
もしも君と麗奈が付き合っていなければ。もしも麗奈が君と同じ会社に就職しなければ。
起きてしまった事を後悔し始めたら...
最後は麗奈が生まれてこなければ、という結論にしかならない。
それは麗奈の人生を、あんな安らかな顔で逝った麗奈を、全て否定してしまう事と同じなんだよ。」
祐介はハッと顔を上げる。
「名倉君のせいじゃない。麗奈は君と出会い、そしてあの日、この世を去る運命だった。」
「そう考えないと...麗奈が浮かばれないし...私たちも...やりきれないじゃないか...」
隆二はそう言うと、声を上げて泣き出し、顔を白いハンカチで覆った。
他に誰もいない斎場の駐車場に、大切な人を失った二人の男性のすすり泣く声だけがこだまする。
「取り乱してすまなかったね、名倉君。君も私たち同じように、麗奈を失ってこんなにも
悲しんでくれている。私と妻は、麗奈がこんなにも人から愛され、そして人を愛していたことを
知って、少し気が紛れる思いなんだよ。」
「最後に、親族と一緒に骨を拾ってくれないか。麗奈もそうして欲しいと思っているだろうから。」
力なく肩に乗せられた隆二の右手が、祐介の囚われた重くて黒いココロをほんの少しだけ軽くした。
そんな祐介の肩にはいつの間にか降り始めていた初雪が僅かに、儚げに残っており、隆二の手の
体温によって一瞬にして消え去った。
☆
麗奈の葬儀が滞りなく終わり、麗奈の両親は東京の研究棟に故人の私有物を取りに来ると共に、
会社に挨拶に来た。彼女が毎日コンピュータを叩いていた机を掃除し、深々と同僚に頭を下げて挨拶をすると、入り口の守衛室で来客用IDパスを返却し、見送りに来た部長以下応用開発の人々一人一人に挨拶をして会社を去った。
隆二と妻をタクシーの後部座席に乗せて、祐介は二人で住んでいたアパートへと行く。
香織は仙台に引っ越した際にアパートを引き払っているので、帰京中はビジネスホテルに泊まっていた。
祐介はアパートの鍵を開けた。まだ少しだけ彼女の匂いが残って居るような気がした。
部屋の中に入ると、やけに埃っぽいのが気になった。麗奈は割と綺麗好きで、細々と掃除をするタイプで、祐介の中には小さな違和感があった。
「ここで、彼女と四か月、一緒に過ごしていました。」
彼女の生活感がそのまま残っている思い出の狭く、小さい部屋に足を踏み入れると、
祐介の瞳から自然と涙が溢れた。
台所には麗奈が持ってきた調味料や調理器具が綺麗に並んでいる。
『祐介、お帰り!!遅いよ!待ってたんだからねっ!!』
今、まさにそこに麗奈が立っていて、そんな風に話しかけられて、
『ただいま麗奈、寂しい思いをさせてごめん。』
抱きしめて、キスをして。
見慣れていたはずの二人の部屋が今はひどく寂しく、虚無な空間に一人立ち尽くしている事が
ただただ悲しかった。感情の波が堪え切れず、嗚咽となりこみ上げてくる。
「うっ...うっ...す、すみません...」
「ありがとうね。名倉さん。」
麗奈に似た、茶色い髪の毛をした母親が、祐介の背中を優しくさする。
遺品は全て両親に引き取って貰うことにしていた。
祐介が唯一引き取らせて欲しいと頼んだのは事故の当日も身に着けていた、バレンタインに贈った
ペンダントだけだった。
両親が淡々と遺品を段ボールに詰めていく。
と言っても、自宅あるような身の回り品は全てゴミとして捨てるし、精々衣類と小さな本棚に入っていた書類程度で、中サイズの段ボール数個といった所だった。荷物もやけに整然としていて、後は段ボールに詰めるだけのように、綺麗に纏められていた。
幾つかの違和感が祐介の頭の中を駆け巡る。
まるで麗奈がこの部屋に長らく戻っていないかのような、そんな不自然さがこの部屋から感じられた。
祐介が俯いて考え事をしながらベッドに腰かけていると、麗奈の母親が、祐介に小さな手帳を
差し出した。
読んで欲しいと言われ、手に取り、中を開くと、可愛らしい文字でびっしりと日記が
したためられていた。
四月十五日
今日から日記をつけ始める事にした。祐介と離ればなれになって寂しいけど、祐介はこれからきっと歴史に名を残す凄い人間になる。私には夢なんて何もないから、夢を追いかけ始めた祐介を応援したい。私の気も知らないで香織はずっとニヤニヤしっ放しだったけど、女同士で結んだ協定があるから、大丈夫だろう。祐介も香織も、どこか似たもの同士で真面目だから、一つ屋根の下でも間違いは起こさない。。。かな?
間違えたら間違えたで、二人にビンタ数発お見舞いしてやろう。自分で書くのも情けないけど結構お似合いなんだよね。あの二人。でもやっぱり祐介のいない部屋は寂しい!早く連休にならないかな。
祐介は日記を読み進めていく。
祐介への思いや、仕事の悩みやミスなどごく普通の女の子の日記のようだった。
だが、途中から可愛らしかった麗奈の文字が少しずついびつに歪んでいる事に気が付く。
八月十三日
祐介に初めて嘘をついた。最近、ちょっと体調が悪い。倦怠感とか食欲不振が酷い。お盆休暇が明けたら、病院に行こうと思う。本当は祐介に逢いに仙台に行きたかったけど、これじゃあちょっと難しい。文字を書くのも辛い。
九月一日
何もする気になれない...私は本当にガンなの?余命半年って本当なの?
お父さんとお母さんに、どうやって話をすればいいのか?でも迷っている時間はない。私には残された時間がほとんどない。祐介には言えない。祐介に言ったら絶対に帰ってくる。私は彼の邪魔をしたくない。
祐介は余りのショックに声も出なかった。
麗奈が...ガン? ...余命半年...? 時間が...ほとんどない?
十月三日
死ぬのが怖い。祐介と離れたくない。怖い。助けて。祐介。
十一月一日
ビデオ通話に備えて精一杯メイクを頑張る。痩せている事を祐介に気付かれない様に明るめの色で、白色のタートルネックを着た。どうやら気付かれなかったようだ。申し訳ない気持ちと、安心した気持ちが同居する。本当にごめんね。祐介。一人になりたくない。一人で逝きたくないよ。
この日の日記は涙で濡れてしまったのだろうか、紙に皺が入っていて、文字が滲んでいた。
十一月二十三日
遂に入院することになった。課長には口止めを依頼した。絶対に祐介に私の事を伝えないで欲しいと。私はフロアの全員に嘘をついた。海外研修なんて急に決まる訳がない。ごめんなさい。皆。ただでさえフロアのエースだった祐介が抜けて大変な所に、私まで抜ける事になって。責任感じてます。祐介も病気療養中はこんな気持ちだったのかな?いつも元気だよってメッセージがくるとホッとする。祐介にも、一杯一杯ごめんなさい。私は祐介に一杯嘘をついています。
十二月一日
香織、本当にごめん。あなたから祐介を奪った事を今は後悔しています。私では祐介を幸せにすることは出来なかった。私が居なくなった後、祐介は悲しむと思う。今の香織なら大丈夫だよね?どうか祐介の事を支えてあげて欲しい。
十二月十二日
最後の通告を受けた。もって一か月。残された時間はわずか。自分に何が出来るのだろう。結局抗がん剤は効かず、思ったより進行が早かった。今年の年末は何としても祐介に逢いたい。ここまで来たら、もう正直に打ち明けるしかない。天国にまで後悔を持っていきたくないから。
香織から祐介を奪ってしまった私は、天国に行けるのだろうか?そう思うと、少しだけ死ぬのが怖い。
あと半月頑張れば祐介に会える。頑張れ私。
十二月二十四日
メリークリスマス祐介。本当はビデオ通話したかったけど、最近は手足に力が入らなくて。
病院のベッドの上じゃバレちゃうし。後五日。頑張ろう私。
十二月二十五日
腰痛が酷い。痛み止めの点滴で楽になる。祐介、ごめん。香織、ごめん。ありがと
十二月二十八日
祐介へ。明日東京駅に迎えに行きます。きっと私を見て驚いて、そして悲しんじゃうと思うけど、
泣かないでほしい。
私は祐介の笑った顔が大好き。祐介の隠れた甘えん坊な所が大好き。
やせ細った私の胸じゃ眠れないと思うけど、優しい祐介ならきっと励ましてくれると思う。
もし私が死んだら、一週間は私のために泣いてほしい。
でも、一週間過ぎたら、絶対に前を向いてほしい。頑張ってプロジェクトを成功させてほしい。
祐介の研究できっと沢山の人が助かるはずだから。明日が待ち遠しくてたまらない。
祐介、愛してる。
香織、ありがとう。あなたが居なかったら祐介とこんな風になれなかった。ごめんなさい。
あなたの大切な人を奪ってしまって。
女優をやめてまで祐介の傍に居たいというあなたの気持ちが私には眩しかった。
もっと一杯色んな事聞きたかったな。
祐介のことだけじゃなくて、香織自身の事も。私は香織の事、大切な友達だと思ってるけど、
きっと香織は私の事憎んでるよね。意地を張らずに、もっと素直になれたら、きっと私と香織は
本当の親友になれた。
時間は残酷だ。今更になってもっとあれをしておけばよかった、これをしておけばよかったと思う。
でも私の人生は幸せだった。
あなた達二人ならきっと大丈夫。香織、あの時の約束、守れなくてごめんね。
最後の日記は、力が入らないのか、酷く乱れた文字で読み辛かった。それでも彼女のココロの奥底の、
本当の思いが読めてとれた。
祐介は唯、涙を流し続けた。
隆二と母親が祐介の肩を抱きながら一緒に泣いた。どれだけの時間、そうしていただろうか。
一月の早い日没に、辺りはすっかりと暗くなっていた。
隆二はタクシーを呼ぶと、玄関先で涙ながらに祐介に話をした。
「名倉君。本当にすまなかった。本人の口から言うまでは、絶対に連絡するなと言われていたから。」
「そこにも書いてある通り、麗奈はいつも君の成功と幸せを願っていた。だから、一日も早く立ち直り、 幸せになってほしい。」
「麗奈の事を忘れてくれとは言わない。でも、この世を去った麗奈に縛られる事だけはしないでほしい。 それが麗奈の、私たちの最愛の娘の、最後の望みだったんだから。」
「名倉君、本当にありがとう。」
二人は深々と頭を下げると、タクシーに乗り込んだ。
タクシーの赤い光がすうーっと流れていく。涙で滲んだ祐介の視界からその光が流れて消えると、階段の下に見慣れたダウンコートを着て、コンビニの白い袋を手に提げている香織の姿があった。
「祐君、部屋に戻ろう。」
片付けられた部屋は何もなく、ドアを開けた瞬間に僅かに匂った麗奈の残り香も感じられなかった。
寒々とした部屋で、香織はエアコンのリモコンのスイッチを押すと、小さなビープ音と共に、やや冷たい風が吹き出してくる。
「祐君、少しでも食べないとだめだよ。」
香織が床に置かれたビニール袋に入った弁当を取り出し、箸と飲み物を祐介に差し出す。
祐介はベッドに浅く腰掛け、俯いたままポツリと呟いた。
「...麗奈...末期ガンだった...」
「そ、そんな!う、嘘でしょ?」
香織は思わず大きな声を出してしまう。
「うそ...ついても仕方ないよね...ごめん、祐君」
「...俺もさっきこの日記読んで、初めて知った。皆で隠してやがった...」
「ちくしょう!!」
祐介は左の手のひらを右手の拳で叩きつける。
バシッと乾いた音が静かな2DKのアパートに空しく響く。
交通事故にあわなくても、近い未来に祐介は麗奈と永遠に別れることが決まっていた。
その事が酷くショックで、祐介は麗奈の体調不良にも、十一月に無理していたであろうビデオ通話でも、彼女の異変に全く気付いてやれなかったことを深く後悔した。
十二月末の冷たい空気を健気に温めようとするエアコンの、風を運ぶ僅かな音だけが部屋に響いていた。
☆
祐介と香織は麗奈の納骨に参列し、そこで両親に挨拶をすると、仙台の住所と電話番号が掛かれたメモを渡した。四十九日の法要にも参列したいので、連絡が欲しい旨を伝えた。
全てが落ち着いた新年早々、祐介と香織は暗い表情で東京駅のホームに立っていた。
祐介は遺品のネックレスとA6サイズの小さな手帳を鞄に仕舞い、終始無言で仙台までずっと窓の外を眺めていた。
一面雪景色になった東北地方に入ると、勝手に涙が流れて来た。
涙も拭かず、ココロの欲するままに一人静かに泣いていた。漏れそうな声を我慢して、
押し殺してただ涙を流していた。
不意に温かい布の感触が頬を撫でた。
香織がハンカチで祐介の涙を拭いた。
「悲しい時は、我慢しちゃだめだよ。」
香織のその一言に、せきが切れたように祐介は声を上げて泣き出した。
Uターンラッシュにはまだ早過ぎる、ガラガラの新青森行きの新幹線の中で、
祐介は香織の肩口に顔を当て、ココロが求めるままに泣きじゃくった。
麗奈を送りだすための全ての式事が終わるまでは、慌ただしさばかりを感じていた。葬儀、挨拶、片付けにアパートの引き払い手続き。その忙しさは使命感のように残された者たちの悲しいココロにカーテンをした。
悲しむ暇を与えないかのように、ただ目の前でやらなければならない形式ばった『最後の別れ』の儀式に没頭する。そうして一番悲しい時間を、身内や家族と分かち合いながら、人は大切な人との別れを済ませる。
葬儀など、古臭い習慣で、合理的ではないと祐介はおぼろげに考えていた。
麗奈の葬儀に家族同然に参列させてもらうと、その忙しさがかえって祐介には有難かった。通夜では両親や親せきと麗奈の話をし、皆で涙を流した。両親から麗奈の幼少の話を聞いて、涙を流しながら微笑んだ。葬儀、火葬、初七日法要と目まぐるしく式事が進んでいく。その間、麗奈の家族と共に過ごした。初対面に近い両親は自分たちの愛娘がこの世を去ったというのに、祐介のココロまで支えてくれた。
葬儀は故人のためだけに執り行う式ではなく、残された者たちが別れをはっきりと受入れ、明日へと歩き続ける為の式でもある。
漠然とそう感じながら祐介は一連の式事に参列し、そして新幹線に乗った。少しは冷静になったはずだと思っていた祐介のココロは、それでも尚未だに苦しく、そして悲しすぎた。
最愛の人を突然失った祐介が、本当の意味で麗奈を失ったと自覚したそんな車中。祐介はただ涙を流し続けた。それが祐介のココロが求める行動だったからだ。祐介はそのココロが求めるままに、人目を憚らずに声を上げて泣いた。
香織は涙を流しながら、気丈に、ただ祐介の頭を優しく撫で続けていた。