序章
テレビに、二枚目俳優に愛の告白をしている美しく、どことなくあどけない顔の綺麗な女優が映っている。目に涙を浮かべながら、あなたの事が本当は大好きだったの。と台詞を口にして二枚目俳優の胸に飛び込む女優。恋愛ドラマお決まりのクライマックスシーン。テレビからポップでキャッチーな主題歌が流れ始めて二人は見つめ合う。
二枚目俳優と美人女優の顔の距離が近付いていく。
画面はゆっくりと、少しずつ二人の顔をアップにしていき、これ以上近付けない程に画面いっぱいに二人の顔が映し出されると、海が見える公園を背景に、広角の映像に切り替わり、公園の中で二人が口づけを交わしている風景画の様なシーンが流れる。
主題歌のサビに合わせて抱き締め合う二人がフェードアウトしてドラマは終わりを迎え、エンディングロールが流れ始める。
一番最初に美人女優の名前が流れ、その次に二枚目俳優の名前が流れ、続いて名わき役の大物俳優、
助演、このドラマでは二枚目俳優を奪い合った美人女優のライバル役だった女優の名前が流れていく。
ありきたりのドラマのエンディングを俺はぼーっと見ている。最終回を迎えたドラマはバブル期のあの有名なドラマや、とある銀行マンがリベンジをしていくドラマと変わらない、近年では最高に近い高視聴率を維持してクライマックスを迎え、そして今日最終回を迎え、ドラマはハッピーエンドで完結した。
テレビの下には、ブルーレイレコーダが録画中を示すオレンジ色のランプを点灯させている。
放送が終わると同時に、オレンジ色が消灯し、青色へと変化する。
曰くあの口づけのシーンは『している振り』らしい。
あの二枚目俳優は女性癖が悪く、女優の所属事務所は難色を示したが、それでも今を時めく人気俳優との共演は断れなかったらしく、ベッドシーンはおろか、キスシーンすら最終話、それもした振りで終わらせるという今時にしては珍しいドラマだった。それでもこのドラマが高視聴率を維持し続けたのは、清純派の美人女優の影響が非常に大きい。
月曜日のドラマにも、水曜日のドラマにも、そして現在も尚興行収入ランキングを更新中の人気アニメの実写版のスクリーンでも見る事が出来る人気女優の名前を草津香織という。
テレビからＣＭが流れてくる。さっきまでドラマに出ていたと思ったら、今度はＣＭに現れ、さっきは全く違う輝くような笑顔で笑いかけてくる。
草津香織は今や日本を代表する若手人気ナンバーワン女優。ロングヘアの美しい黒髪、猫のような愛嬌と、サラブレッドのような優しさを兼ね備えた、ぱっちりとして少し潤んだ美しい瞳を持っている。
本人曰く、瞳よりも母親ゆずりの美しい目元を引き立たせる長いまつ毛の方がチャームポイントらしい。
美しく整った顔の下には男性に媚びるようなセックスアピールをする事も無い標準的なバストに、しっかりとくびれた腰。所謂、均整の取れた美しいプロポーション。
そんな人気女優、草津香織は水着姿でペットボトルの飲料を飲みながら、飛びっきりの笑顔で画面の向こうから俺を見ている。
草津香織は若手人気ナンバーワン女優で、ＣＭ好感度一位のＣＭクイーンでもある。
そして、俺、名倉祐介と高校生の時代から付き合っている恋人だ。
