魔法少女の放つ、攻撃魔法と治癒魔法
幸佳は、自分よりずっと年上の男達に、十数分間にわたって、痛めつけられた。その間に、男達の手によって、幸佳はどこか人目の無い路地裏に連れ込まれており、幸佳は孤独とも戦い続けなければならなかった。
「何とか言えよ、クソガキ!ええ、コラ」
男達は、陰惨な笑顔を浮かべながら、ゲームを楽しむかのように、幸佳への暴行をしつこく続けた。彼等は、小学生の女の子に対する紳士的な温情など一欠けらも持ち合わせていないようだった。
幸佳には、もはや声を出す事も出来なかった。私は、殺されるな。そう覚悟した。自分は、この男達に、よってたかって殺されるのだ、と思った。
地面に倒れ伏して、ボロボロになった幸佳の頭を踏みつけようと、一人の男が足を振り上げる。その瞬間だった
「お止めなさい!」
可愛らしい声が聞こえた。男達の動きが止まった。周りを見回した。どこだ?どこから聞こえたのだ、この声は?
「もう一度言います、お止めなさいっ!」
二度続けて、お止めなさい、と告げた、非常に可愛い声の主は、男達の背後、十メートルほど向こうにいた。その姿を見た男達は、呆気にとられた。幸佳の存在すら、頭の中から消し飛んでいた。
何だ?何だ、コイツ?
小学生くらいの、小柄な体。魔女が被るような、大きな鍔付き帽を目深にかぶっている。
あちこちにフリルが付いた、西洋人形のような服を着ている。
魔法少女アニメに出てきそうな、微笑ましい形状のステッキ。
そして、傍らには一匹の猫がいる。
典型的な「魔法少女」スタイルの女の子が、そこにいた。
男達の眼が、点になった。幸佳は、目を見開いた。この子だ。間違いない!
この子こそ、噂の「魔法少女」だ!
「そ、その女の子を、放してくださいっ!」
魔法少女は、体と声を震わせながら、そう叫んだ。そして、手に持っていたステッキを男達に向かって突きつけた。しかし、男達はゲラゲラと大口を開けて笑い出した。愉快でたまらないようだった。
「おいおい、何だよ、こりゃあ?」
「随分、可愛い恰好してるじゃねーか、お嬢ちゃん」
「頭、大丈夫?」
などと口々に言いながら、男達は「魔法少女」と「お伴の猫」に近づいていく。それを見て、魔法少女は少し怯んだようだったが、表情を引き締めると、何やらブツブツと呟き始めた。その様子を見て、幸佳だけがいち早く正確に理解した。あれは、呪文だ。魔法少女は、呪文を詠唱しているのだ。男達は、そんなことはお構いなしに、接近する。そして、遂に男達の内の一人が魔法少女の肩に手を掛けようとした。次の瞬間。魔法少女のステッキが、光を発した。その眩い光は、辺り一面を覆った。
「うわっ!」
「な、何だ?」
虚をつかれた男達は、混乱して叫んだ。負傷した幸佳も、思わず目を覆った。
「因果応砲!」
魔法少女がそう叫ぶと、彼女がかざしたステッキから雷のようなものが放たれた。そして、それは油断しきっていた男達を直撃した。
「ぎゃああああああああああああ!」
魔法少女のステッキから放たれた一撃をまともに喰らった男達は光に包まれて、そのまま地面の上を転がり回った。幸佳は、その様子をしっかりと観察していた。あれは「魔法」だ。決定的だ。明らかである。確信した。
この少女こそが、自分が会いたいと思っていた、「魔法少女」そのものなのである。
かえで先生は、正しかった。確かに、この世には魔法が存在するのだ。幸佳がそう思った時、男達を包んでいた光が消えた。哀れな男達の体には、あちこちに焦げ跡がついていた。皆、呻き声をあげながら、痙攣していた。魔法少女は、ステッキを両手で握りしめて、腰が引けていたようだったが、それでも言った。
「参りましたか!」
ビクビクオドオドと震えて話す魔法少女の姿は、とても可愛らしいものだった。
その一分半後、何とか立ち上がったものの、恐れをなした男達は、一目散に逃げていった。
思わぬ窮地を救われた幸佳は、力を振り絞って何とか立ち上がると、目の前の魔法少女とお伴の猫を見つめた。
魔法少女は、幸佳の視線を受けて、ビクッと身体を震わせたが、やがてこう言った。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。危ない所を助けてくれて、本当にありがとうございました」
礼儀正しくお礼を述べた幸佳の真摯な眼差しを受けて、魔法少女はますます動揺したようだった。
「そ、そんな!あの、いえ、その、気にしないでください!」
それから、魔法少女は、再びブツブツと呟き始めた。その数秒後、ステッキを幸佳に向って振りかざした。
「あなたのお怪我、治してさしあげます!」
その言葉と同時に、ステッキの先から、光が放たれた。その光は、幸佳の身体を優しく柔らかく温かく、包み込んだ。先程の男達と同じように、因果応砲とかいう雷のようなものに打たれるかと身を竦めたが、そんな事は無く、むしろ温かくて心地良い感覚が幸佳を抱きしめた。
次に、自分の身体を見回して、幸佳は驚いた。
「傷が・・・治ってる!」
そう、あれほど深い傷を負っていた幸佳の体は、綺麗に癒されていたのである。
「ヒーリングです♪」
魔法少女は、ステッキをくるくるとバトンのように回して、はにかんだような笑顔を見せた。幸佳は、すっかり回復した身体と心を落ち着かせようと、懸命に励んだ。
これも、魔法なのか。
ただただ驚く事しかできない幸佳の目の前で、またしてもサプライズ。
「よくやったね。お疲れ様」
そう言ったのは、猫だった。
「え?」
幸佳は、今度こそ呆気にとられた。猫が、しゃべって、いる、確かに、目の前で。
「ただ、あれはちょっとやり過ぎだと思うよ。大勢で一人の子供を苛めていたからとはいえ、相手は普通の人間たちなんだから、もう少し手加減してあげるべきだね」
猫が、流暢な日本語を話している。ここまでくると、流石の幸佳でも、自分の見たものだけでなく、聞いたものまでが真実なのかどうか、少し疑問を持ってしまう。
「ごめんね、メルちゃん。でも、あたし、怖くて、加減が出来なかったの」
「まあ、次からは気をつけてね。」
魔法少女と、お伴の猫が、まるで普通の友人同士のように会話している。
メル、と呼ばれた猫は、淡々とした口調で話を続けた。
「とにかく、ここを離れよう。誰か来ると厄介だ」
「うん」
魔法少女も、こくん、と可愛らしく頷いた。ここにきて、幸佳は、自分には心に決めていた事があったのを思い出した。この一人と一匹が自分の前から離れる前に、それを伝えなければ。
・・・とはいうものの、なんて言えばいいのか、幸佳には全く分からなかった。
しかし、とりあえず、声を出した。
「あ、あの!待って下さい!」
幸佳の呼びかけを聞いて、怖がりの魔法少女としゃべる猫は、揃ってビクリと身を震わせた。
「は、はい!」
「な、何でしょう!」
幸佳は、一歩前へ出た。
「あなた達が、この町に出没するという、正義の魔法少女と、その使い魔さんですよね?」
魔法少女とメルは、一瞬だけ顔を見合わせたが、やがて頷いた。
「は、はい・・・」
「そうだね、多分」
幸佳は、二人の返事を聞いて得心がいったように頷き、更に一歩前に出た。
「あなた達に、お願いがあります」
幸佳は、未だに混乱している自分の心と戦いながら、話し始めた。
前回の予告通り、主人公の女の子と、魔法少女(プラス使い魔の猫)が
とうとう出会いました。ここから、主人公達の本格的な戦いがスタートするので
これからも、見てあげてください。




