カツアゲ
同刻。
一色小学校から遠く離れた所にある柴田家の住居。
何の変哲もない一軒家の一室で、幸佳はベッドの上で横になっていた。
「頭が重い・・・」
そう呟いた幸佳は、ゆっくりと起き上がった。時刻は、午前十一時過ぎ。幸佳は、体調が急激に悪化して、結局、本日は学校を欠席したのだった。真山の追及を振り切ってから、どうにか自宅に逃げ込んだ後、幸佳はそのまま崩れ落ちた。心配する両親に介抱されながら、幸佳はそのまま自室で眠りこんだ。次に目覚めた時には、既に朝の八時になっていた。
身体を動かそうとしても、動かない。熱を計ってみると、三十九度もあった。今日は学校を欠席するように、と母親に言われて、幸佳もそれに従ったのだった。そして、現在に至る。幸佳は、真綿の詰まったような頭を何とか動かしながら、考えた。昨日の事について。かえで先生は、「暴力の鬼」と話をしてみる、と言っていたが、大丈夫だったろうか。
あの「暴力の鬼」の事である、他人に、しかも自分とは正反対である人気者の教師に、自分の所業を批判されたら、真山はどんな事をやらかすか、全く予想がつかなかった。
幸佳は、かえで先生の身を案じつつ、咳を繰り返した。辛い。かなり辛い。
自分の体調がここまで急激に悪化したのは、昨日、真山に遭遇したからだ、と幸佳は思っている。
せっかく、かえで先生と共に時を過ごして癒されていたというのに、真山と会ってしまったせいで、心だけでなく体まで害されてしまったのだ。
そう、思った。
幸佳だけではなく、最近、一色小学校では欠席者の数が非常識なほど多い。
教師や生徒、そして父兄の間でも問題になっている。
しかし、これといった対策も無く、皆ただ手を拱いているのが現状であった。
全部、暴力の鬼のせいだ。
幸佳はそう考えている。彼女の頭の中には、異常なまでの熱が籠っていた。
あいつさえいなければ、全ては回復して、元に戻るのに。あいつが発している邪悪なオーラこそ、諸悪の根源、不幸の元凶に違いない。
次に、この町に最近流れている奇妙な噂について考えた。
猫をお供に連れて、どこからともなく現れる、正義の魔法少女。その人物と、もし出会ったら、必ずお願いしよう。
「暴力の鬼」という魔物・真山徹子という人間をこの世から消して下さい。
そして私達の学校を救ってください、と。
そんな事を考えながら、幸佳は再び眠りについた。
次に目を覚ました時、既に夕陽が輝いていた。時刻は午後五時半。
体調は、少しだけ回復したような気がする。何となく、体も軽くなったように感じた。
腹が空いた、と思い幸佳はベッドから起き上がって、自室から出た。そして台所に向かう。
現在、柴田家にいるのは、長女の幸佳だけである。
台所に着くと、冷蔵庫を開けてみた。しかし、食べられそうなものは入っていなかった。しかし、腹は空いている。
「買い物に行こうっと」
そう呟いた幸佳は、再び自室に戻り、外出着に着替えた。まだ身体の調子は芳しくなかったが、コンビニにでも行って、適当に食料を買うことぐらいは出来るだろう。そう判断した幸佳は、小銭入れをポケットに入れると、そのまま家を出た。外の光が、いつもよりも美しいものに見えた。大きく伸びをした後、幸佳は歩き出した。足元が少し危うかったが、普通に歩くだけなら、問題は無かった。数分ほど歩いて、最寄りのコンビニに着いた幸佳は、適当な菓子パンやお菓子、それからポカリスエットなどを購入した。その後、コンビニを出て、自宅に帰るために進み始めた。何も問題はない。そのはずだった。
しかし人気のない歩道を歩いている時にトラブルが起こった。
「ねえ、キミ!」
数人の男達に取り囲まれた。男達は、皆高校生以上と思われる若者たちで、体格も子供の幸佳より遥かに大きく、強そうだった。
「お金持ってる?」
男達の一人が、猫なで声で幸佳に向かってそう問いかけてきた。他の連中は、にやにやといやしい笑みを顔に浮かべている。幸佳は、自然と自分の体が震えるのを感じていた。
こいつらは、自分をどうするつもりなのか。先程、食料を買い込んだために、金は残っていない。しかし、自分が金を持っていないと知ったら、こいつらはどうするのだろうか。
「聞こえなかったかな?金だよ、金」
別の男が、言いながら幸佳のポケットに手を伸ばした。抵抗する間もなく、小銭入れを抜き取られる。
「ほら、これだよ、これ。どれどれ、いくらぐらい入ってるかなー」
楽しそうに小銭入れの中を見つめた男の表情が、一変して険しく、更に醜悪なものに変わった。
「おい、メスガキ!二百円しか入ってないじゃねーか!こりゃあ、一体どういうことだコラ!」
男は、幸佳の髪の毛を掴み乱暴に引っ張り上げた。
幸佳は、苦痛で顔を顰め、呻き声をあげた。他の連中は、楽しそうにそれを見ている。
ろくでなし達に絡まれている少女は、声を絞り出した。
「私の所持金は、それだけなんだよ。さっき、食料や飲み物を買って来たばっかりで、それで」
言葉はそこで途切れた。幸佳の髪を引っ張り上げていた男が、幸佳の腹を殴ったからである。
「金がねえ、だと!なめんなよ。ざけんな、クソが!」
男達は、幸佳をサンドバッグと認識した。




