第二話 激突する園児
あまりにイタイ小説で泣きたくなります。
一方、美幸が目をつけた二人の園児は庭の隅の倉庫にたどり着いた。彼等は正晴の子分で、倉庫に閉じ込められた彼を助けにきたようだ。正晴は毎朝先生達のロッカーを破壊して盗みを働いたり、気に入らない他の園児をナイフで切り刻んだりしている。そのためしょっちゅう美幸にボコられ倉庫にぶちこまれているのだ。そんな正晴を救出するのが二人の日課になっていた。
「兄貴、大丈夫ですか?」
「俺たち兄貴のことが心配で心配で!」
「うそつけ! てめーさっき俺の顔に落書きしやがったろ!」
「酷いなー。落書きじゃなくてメイクっすよ! 今の兄貴はめっちゃイケメン! どんなメスブタでもイチコロっす!」
「そうなの? いやー、もともとめちゃくちゃイケメンなのにな。俺様困っちまうぜ!」
とりあえずその場をごまかした子分たちは、外にでて鏡をみた後の正晴の怒りを想像し、ぶるぶる震えた。
「とにかくさっさと俺様を出せ!」
「は、はい! 今開けますよ!」
片方がポケットから鍵を出して、扉の鍵穴にぶっさそうとした。
「あれ、入らないぞ?」
「鍵間違えたんじゃないのか? 園長の部屋にはスペアキーがたくさんあるからよー」
「いやいや毎日持ってきてるんだから間違えないっすよ。それに倉庫のカギってちゃんと書いてあるしね」
「おい、どうした!? さっさと開けろよ!」
まごついている子分二人に倉庫の中から正晴が怒声を上げた。しかし、鍵穴に鍵が入ることはない。
「おかしいなあ。やっぱり違う鍵なのかな」
「鍵ならここだよ!」
ポニーテールの少女が二人の後ろに立っていた。
「その凶悪ナイフ小僧を倉庫から出すことは許しません! 怪我したくなかったらそこから離れて、おままごとでもしてなさい!」
彼女は持っていた棒を二人の方に向け突き出した。四十センチほどの木刀だ。
「ありさか! そうか、鍵はてめえが持ってるのか! こいつはかもがねぎしょってやってきたってやつだぜえ! おらおめーらやっちまえ!」
正晴の声に応えて子分二人が声を上げる。
「よっしゃあ! まかせろ兄貴!」
「ありさ! てめえには俺達の計画に協力してもらうぜい!」
「計画? なんのこと?」
ありさが首をかしげると、二人のうち、おかっぱ頭の男の子の方がぽつりと言った。
「ママに新しいビデオカメラ買って貰ったんだ」
「それで?」
すると倉庫の中から正晴が下品な声を出した。
「お前を素っ裸にしてロリコン親父に売りつけるんだよおおおおおッ!!」
「まあ俺達も無駄な争いはしたくないから、大人しく幸福すれば、儲けの0.1%くらいは分けてやらないこともないぞ!」
「に……、にゃあああああああああああああああああああああああ!! 絶対イヤッ! 手加減なんてしてあげないから!」
ありさはついに怒りの咆哮を上げ、木刀を構えて戦闘態勢に入った。
「ふん、大人しくしていればいいものを!」
そういうと二人は懐からすばやく拳銃を取り出し、ありさに向けて発射した。
「きゃっ!」
獣並みの反射神経でサッと飛び退き、ありさは弾丸を回避した。ただの水鉄砲だったのだが。
「くらえ!」
二人は走りながら連続で水弾をし続ける。しかしありさはスイスイと上体を滑らせて避けていく。
「何故あたらん!」
「フ。拳銃の弾など銃口の向きと引き金にかかった指を見ていれば軌道を読むことなど容易いのだ!」
「たかが水鉄砲ごときでマジになりやがって!」
「あんた達のことだからトイレの水とか使ってるんでしょ! あー汚い!」
「俺達がそんな下品に見えるか! この水はトイレの水などではなく、植木鉢に溜まってた水だぜ! ボウフラの駆除もできて一石二鳥!」
「えー!? じゃあそんなかボウフラ入ってるわけ!?」
「その通り! 俺達の素晴らしさがわかったか!」
「わかるか!」
「ふん、では遊びは終わりにしてやるか」
「!? しまった、後ろに!」
話している間に一人の子分がありさの後ろに回っていたのだ。
「死ねっ!」
突如子分達が前後からありさに水鉄砲で殴りかかってきた。パキンッという音が響き何かの破片が飛び散った。
「あぶねー! こいつら本気でやる気なんだね!」
二人の水鉄砲はぶつかりあって砕け散っていた。ボウフラ入りの水が彼等の顔にかかっている。肉眼では見難いが。
「どうした二人とも!」
倉庫の声から正晴の声が聞こえた。
「ばっちりですよ! 見事ボウフラ共は死滅しましたぜ兄貴!」
「アホか! ボウフラはいいからありさを捕まえろ!」
「あせることはないっすよ。奴はボウフラ攻撃で最早虫の息っすからね」
「何いってるの!? ボウフラくらったのはあんたたちでしょ!?」
ありさは反論したが、子分の二人組は不気味ににやけた顔を見せた。
「気づいてないようだな! お前の鼻の頭の上に水を失ったボウフラが飛び跳ねていることに!」
「え!?」
ありさは驚いて鼻の頭に手を当てた。すると二人が笑い声を上げながら突然飛び掛ってきた。
「うそぴょおおおおおおおおおおおおおん!!」
「しまったあああああああッ!!」
二人の突撃を横に動いてかわすありさ。
奇声を上げながら素早く動く二人は、左右から挟み撃ちにしようと図る。しかしありさは軽快なバックステップで挟み撃ちをことごとく避ける。
逃げる彼女を追撃しようと二人そろっては追いかけるが、これこそありさの第1の狙い、二人の間の距離を縮めてまとめる作戦だ。
「こっちよ!」
宙に浮いているかのようにふわっと流れる動きと木刀のリーチを生かし、敵と一定の距離を保って右へ左へ誘導するありさ。迫ってくる拳と顔は木刀で払う。
「手加減なしっていっておきながら逃げやがって!」
「それじゃあ必殺技を見せてあげようか」
一度様子を見ようと二人が立ち止まると、ありさは背を向けて走り出した。
「……な、何?」
教室ではまだ修くんが美幸の巧ましい胸を眺めていた。早織先生も彼女の筋肉は興味があった。美幸は柄にもなく頬を赤く染めていく。
「そんなに見ないでよ…」
何故か胸を両手で押さえて、少しにやけながら修くんを上目遣いで見る美幸。
「君は…さっき何割ぐらいの力を出したの?」
さっきというのはもちろん正晴をシメたときのことだ。早織先生は物騒な質問をする修くんに少し戦慄のようなものを感じた。美幸は一瞬呆気にとられたが、すぐ手を降ろして渋い笑顔を見せた。
「…3分の1ぐらいかな。」
乙女ちっくな顔をしていた美幸はもういない。彼女なりのジョークだったのだろうか。
「ふーん、…」
「おい、ありさが喧嘩してるみたいだぜ。」
「え!?ありさちゃんが!?」
外で遊んでいた園児たちはありさの活躍を一目みようと庭の隅に集まってきた。
ただの喧嘩ならこのさくら幼稚園では毎日50もあるので珍しくないのだが、このさくら幼稚園生徒会副会長代理である木崎ありさのファイトなら別だ。
素人には真似できない華麗な戦いぶりが、血の気の多いさくら幼稚園の園児たちに人気なのだ。
パワーファイターの会長に対して彼女はテクニシャンタイプで、父親の趣味で忍術を習わされている。
「追い詰めたぜ!」
ありさは塀にかこまれた庭の隅に追い詰められていた。
いや、挟み撃ちにされないよう隅まで逃げてきたのだ。
「じゃあ反撃開始するかな?」
「もう遅いんだよ!」
「くらえ我らのダブルパンチ!」
正晴の子分二人は拳を突きだし、突進していった。
「決める!」
ありさは自分に突撃してくる二人のうち、左側のおかっぱ野郎に狙いを定め、強力な助走をつけて木刀で突きを放った!
「のわっ!」
おかっぱはこれを避けようとするが、間に合わず首に傷を負う。リーチの差が可能にした攻撃だ。ありさはそのまますぐ近くの倉庫に向かって走り出した。
「ま、まて!」
おかっぱは傷も気にせず怒りに任せて追いかける。一方天パの方の少年は、隅で戦う作戦ではなかったのかと動揺して出遅れた。
「ありさちゃーん!!!」
この様子を見ていた年少組の女の子から声援が上がった。
ありさはその面倒見のよさ、人なつっこさから特に女の子に頼りされていた。
この子も悪ガキに遊具を奪われたり、クレヨンを盗まれたり、パパの浮気をママにチクられて両親離婚の危機に陥ったりしたときに、何度も助けて貰っていたのだ。
そしてこの子はこの後、ありさの強力な必殺技が炸裂することを知っていた。
「ほあっ!」
おかっぱは倉庫に向かって、まっすぐ走っていったありさに、飛び蹴りを見舞おうとしたが――、そのキックが当たったのは倉庫の壁であった。
相手は垂直な倉庫の壁をそのまま駆け登ってしまったのだ。
「ふぇ!?」
「るりゃああああああ!!!」
ありさは壁を強く蹴って飛び上がり、宙返りをしておかっぱに高空からボディプレスを仕掛けたのだった。
空には彼女のしなやかな身体と、さらさらのポニーテールによって綺麗な弧が描かれ、見る者を魅了した。
ありさは普通体型の園児だったが、3メートル上空から落ちてくれば相当な威力の技になる。
おかっぱの後頭部から首筋にボディプレスが直撃し、ドシンと砂ぼこりを舞い上げ彼は顔面から地面と衝突した。
サンドイッチの具のようにありさの下敷きになったおかっぱ。その下の地面から鮮血が広がり始めていた。
「これが私の必殺技よ!次はあんたの番ね!」
ありさは直ぐ様立ち上がり、攻撃の手を止めていた天パに向かって構える。周囲から歓声が上がる。
「な、なんだ?やられたのか?」
倉庫の中で外が見えない正晴は喚いている。だが天パは無視してありさに指を向ける。
「そんなもの持って戦おうなんて、卑怯だと思わないか!?ここは正々堂々といこうぜ!」
「あんたたち二人がかりの上に水鉄砲使ってたじゃない……」
ありさは木刀を投げ捨てた。
「そうこなくちゃな!では俺も変身させて貰う!」
「変身…!?」
園児たちがどよめいた。
「そりゃいいな!やっちまえヤスシ!」
「とぅわっ!!」
天パは空高く飛び上がり、服を脱ぎ捨てた。
この天パ野郎、中谷康史はある特定の状況になると、極めて攻撃的精神状態になる。
いわゆる「最高に『ハイ』って奴だ。」
その特定の状態とは―――
「パンッ、チィィィーーマンッッッ!!参上ぉぉぉぉぉぉぉぅぅうえああ!!!!」
パンツ一丁になることであった。
天パの康史はパンツ一丁になって誇らしげに両手をあげ、その野性味溢れる肉体を見せびらかして、ポーズを取った。
「おおおぉおおおおおぉ!!」
「ひぃぃいいいやああああ!!」
周囲から悲鳴にも似た歓声が上がる。
どうにも、幼稚園児はパンツ一丁に興奮するようである。
女性のパンツ一丁姿なら作者も興奮するのだが。
幼稚園児で興奮するかどうかは秘密である。
「でたな、変態マン!」
「変態マンではない。『パンチィマンッ』だ。」
「どっちも同じよ!」
「同じではないッ!最後の『ッ』が大事なのだ!!」
「じゃあ『変態マンッ』なら同じなの?」
「うん…、まあ…同じかな」
おかしなな問答を始めたありさだが、この康史、いやパンチィマンは、
「パンチィマンではない!『パンチィマンッ』だ!!』
このパンチィマンッは、普段こそただの天パ野郎だが、パンツ一丁になったとき恐るべき戦闘力を発揮する。
彼が女子トイレに潜入したとき、中から女の子が悲鳴を上げながら飛び出して来たという逸話からも、彼の恐ろしさが容易にわかるだろう!!
「さあ、初めるぜ。」
「よし!こい!」
ありさは構えなおすが、両手の指先を脳天に乗せるパンチィマンッの輝かしいポーズに威圧されていた。
パンチィマンッがはいているパンツに印刷された正義のヒーロー「メイトレッド」も同じポーズを決めている。
二人は見合ったまま動かなかった。
(-_-;




