家族
ディオはアウルとともにイナモニナへと帰っていた。道中の屍の小銃を携えて。服装も、あまり目立たない地味なものにした。そして、実家へと訪れると、そこには案の定、何もなかった。母の死体も。
後ろめたさを感じた村人たちによって供養でもされたのであろうか。
「ごめん、母さん……」
彼が落ち込んでいると、アウルはディオの肩からピョコンと飛び降りて、床に落ちている紙を不思議そうに2~3回つついた。
「これは、手紙?」
ディオが紙切れを拾い上げると、そこにはこう書かれていた。
ノエル様へ。
ディオナを助けてくださりありとうございます。
今頃モーレピアで立派な召使として働いていることでしょう。
問題はディオのことです。
あの子はこの事を知りません。
どこかで行き倒れしていないか心配です。
もしあの子を見つけたら、どうか守ってやってください。
「母さんの字だ。それにノエルって……」
ディオは彼の形見の小銃を見つめる。何が何だかわからない。ひとまずディオは、手紙に書かれているモーレピアへと向かうことにした。その道中、ある男に声をかけられる。
「その鶯髪。まさか、ディオ君かね」
「……どうして僕のこと知ってるの」
ディオが訝しげに男を見やると、アウルも男に向かって「ドウシテ、ドウシテ」と反復した。
「失礼、私はゴース。”風の旅人”の一員だよ」
ティアマト共和国には、孤児や難民などを援助する慈善団体“風の旅人”というのがある。彼はその一員だという。首に巻かれた緑のスカーフが特徴だ。聞けば、ノエルという男もその一員だったらしい。
「彼は命を賭けて仕事をしていた。ちょうど君みたいな息子がいたんだが、強盗に襲われて死んでしまってね。この手紙を見て、君を探すと言ってきかなかったんだ。きっと息子と君を重ねたんだろうね」
「……この手紙を見なければノエルさんは死ななかったのかな」
「いや、彼のことだ。きっと誰かのために死んださ。それが彼の生き方なんだよ」
しばらく立話をしていると、ディオの母が生きていることが判明した。彼女は風の旅人に保護されているのだそうだ。ディオは二人で保護施設へと赴いた。
そこには、洗濯物の埃を落としている、元気そうな母の姿があった。その姿を見てディオはじんわりと体が温かくなった。そして、気がつけば涙が溢れ出している。アウルはジッとその様子を眺めていた。
「お帰りなさい。ディオ」
「ただいま」
ディオが母に抱きつくと、彼女は彼の頭をポンポンと撫でた。まるで赤子をあやすように、優しい手で。
「ディオナはモーレピアにいるんだね」
「ええ。あの子が奉公しに行って、そのお金で私の薬を買ってくれているの」
「その手続きも風の旅人が?」
「そうよ。私たち家族は生きているわ」
「……良かった」
ディオはディオナに向けて手紙を書き、それを風の旅人へと渡した。
ディオナへ。
あの時は助けられなくてごめんね。
そっちはどう過ごしてる? いじめられたりしてない?
僕は母さんと一緒にティアマトで暮らします。
遠く離れてしまったけれど、こうやって手紙でやりとりをしよう。
ディオナのおかげで母さんは元気です。ありがとう。
いつか僕たち家旅が一緒になれる日を願ってるよ。
――ディオ――
手紙は数日で返ってきた。そこにはこう書かれていた。
私は幸せに暮らしてるよ、ディオ兄。
昔からの悪い癖が残ってるね。
家”旅”じゃなくて家”族”だよ。
お母さんを守るならそれぐらい覚えてね。
私たちは大事な“家族”なんだから。
――ディオナ――