SS.電波女にキャトられて
最近、四肢の一部が不可解な方法によって切断された動物の死骸があちらこちらで見つかり、変質者の仕業とも宇宙人の仕業とも囁かれている。
「キャトルミューティレーションだよ」
「宇宙人が地球から調査用サンプルを採取してるってことか」
「あら? 否定はしないのね」
勤め先の研究所の屋上で星を見上げていたとき、たまたま一緒になった見知らぬ若い女性となぜそんな話に発展したかは分からないが、なんだかそんな話になった。
「地球外生命体を否定する気はないよ。地球人だって小惑星からのサンプルリターンをしているわけだし、俺もその関係者の一人だから、地球より進んだ文明を持つ宇宙人が地球を調査したいという気持ちも理解できないでもない」
「君はイオンエンジンを研究してるんだよね」
あれ? そんな話までしたかな、と思いつつも研究所の職員なら知っていてもおかしくはないのでうなずく。
「宇宙に憧れててね。いつか有人宇宙船で深宇宙を調査するのが夢なんだ」
「ふうん。……ちょうどよかった。ね、これからアタシに付き合わない?」
「は?」
「だから、アタシにキャトられてみない? 宇宙のお話しよ?」
と、いたずらっぽく笑う彼女。
変わったデートのお誘いだとは思ったが、こういうユーモアのセンスは嫌いじゃない。それに彼女は俺の好みのタイプでもあった。
「いいね。どこいく?」
承諾した次の瞬間、俺は光に包まれ、体が宙に浮き上がり――
気がついたらUFOの中にいた。
窓の外、急激に地球が小さくなっていく。
おおおっ? この速度、光速は出てる!? それでいて全くGを感じないなんてどういう技術なんだ? ……ってそれどころじゃない!!
慌てて振り向くと、目の前にはパイロットスーツ姿で嬉しそうな様子の彼女。
「研究所のデータベースから経歴をチェックして前から目はつけてたんだけど、一定以上の文化レベルを有する知的生命体の場合、同意なしに拐うのは宇宙法で禁止されてるのよね」
「…………」
「うふふ。憧れの宇宙へようこそ、地球人さん」
Fin