表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/49

第七話 偽装


 わたし――レティシアは困っていた……全く身動きが取れないからだ。格好は半ズボンに半そでといった格好でまだ日が高い時間だからいいが、日が落ちたり風が強くなってしまっては風邪を引いてしまう。



「ひ、ひどいよ〜。ミレィ〜」


 何があったか知らないが、わたしのご主人様は「動くな」という命令をして街道を外れて村に向かってしまった。せめて状況説明くらいしてほしかった。



「……おしっこ行きたくなったらどうしよう」


 こんな状況だとそういう最悪なことを考えてしまう。レティシアちゃんは奴隷である。でも乙女でもあるのだ。


「ミ、ミレィー!! カムバック!!」わたしの魂の叫びがこだました。






 どのくらい経っただろうか――ズドンっ!!という大きな音が二回聞こえて村の中で土煙が舞っている。


「およ? あれはなんだろう……」と見るが少し遠いので何が起きているかわからない。


(「もしミレィに何かあったら……」


 そう考えただけで胸がはちきれそうになる。服のサイズが胸とあっていないとかじゃなくて――いや合ってないんだけど。


 ミレィは魔族……らしい。そしてどうやら公爵の屋敷では暴行事件の所為で厄介者扱いされているのがわかった。普通貴族令嬢さまを護衛なしで外を歩かせないだろうし。


(「屋敷のみんな――使用人の人たちや屋敷の警備員さんの態度がミレィに対してよそよそしかった」


 これはわたしにとってショックなことだった。一つ屋根の下で暮らしているということはもうそれだけで”家族”だ。孤児院ではそうだったし、スラムでも皆助け合って生きてきた。だから”家族”に対してそういう状況はわたしにとってショックだった。


(「でも、奴隷で新参者のわたしが何を言っても駄目だっていうのはわかっていたから……だから」


 だから――わたしがミレィの家族になろうと思ったのだ。きっと他人行儀にしないでほしいというのもそういうものを欲しているミレィの本心そのものなんだと思った。奴隷とか関係なくわたしはそう決めたのだ。頭が悪いわたしだけど、神様に……慈悲の女神セーリアさまに誓ったんだ。



 そんなことを考えていると、村の入り口からミレィが歩いてこちらに向かってくるのが見えた。


「お、おーい。ミレィ、だいじょうーぶ?」とわたしは大声でミレィに問いかける。ミレィは疲れた様子でなんだか呆れた顔をしながらもこちらに向かってくる。


「はぁ、もう動いていいわよ。リュックの中から回復薬を出してくれる?」と言ったミレィに「え? 怪我をしたの?!」とミレィの身体をよくみると左腕がだらんとしており骨が外れているようにみえた。


「た、たいへん!!」と私は動けるようになった身体でリュックから慌てて回復薬を取り出した。






 ミレィの手当ても終えて、わたしは村で起こったことの事情説明を聞いた。


「つまり、お屋敷にはもう帰れない……ということ?」


「ええ、そうよ」とミレィは前髪をいじりながら深刻そうに答える。



 わたしを置いて村に向かったミレィは盗賊団に襲われたそうだ。その盗賊はどうやら公爵家に雇われていたらしい。盗賊団は村の人たちを腹いせに殺したそうだ……ひどい。せめて、きちんと埋葬してあげないと――。


「で、でも、公爵家に追われるなんて……帝国から脱出する気なの?」


「いえ、さすがに関所だと何から露見するかわからないし、いろいろと当てはあるから帝国で潜伏するつもりよ」


 ミレィは「そうね……、レティ」と私を指差し、そして自分を指差す。「私はこの村で死ぬことになるわ」


「えええええぇぇえ?!」





 いろいろと驚かされたけど、背格好が似ている村の女の子遺体に私とミレィの服を着せて顔とか判別できないようにして村に放置することにした。さすがにどうかと思ったけど――ミレィの安全には代えられない。回復薬や回復魔法は生者じゃなければ効果がないのでおそらくはばれないだろうということ。よくそういうことをミレィは思いつくものだと変な感心をしてしまった。


 今のミレィは井戸の水で髪をとかし、綺麗な銀髪を頭巾に隠し村人の娘のような格好にミレィの身長の八割ほどの大きさの円月刀という――ミレィに教えてもらった――刀を背中に背負っている。どう考えてもミレィには大きすぎるのだが、暴食の森で魔物を倒したことによって問題なく背負えるようだ。使いこなせるかはまだまだらしいとはミレィの言だ。


 わたしは半そで半ズボンから長袖にスカートといったミレィとほぼお揃いの格好に村でみつけたリュックを背負っている。そして、腰には短刀といったくらいだ。



「さて、行くわよ」と当然のようにわたしがついてくる前提で物事を決め、ミレィは村を出ようとする。


(「それにしても嬉しい」


 ついてくるか? などと聞かず当たり前のようにわたしがついてくるとミレィが思ったことが――ミレィの心の支えとなろうと思ったわたしは、「うん」と元気よく答えてミレィの右手を両手で握り、はしゃぎながら次の目的地に徒歩で向かうのだった。




 ミレィに殴られたのは言うまでもないことだ――ひどい。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ