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第六話 自作自演


 紫色の光が狭い室内を照らす――その光が発生した場所から現れたのはデススコーピオン、身体が室内に収まりきらず木造のドア付近はその身体で見るも無残に破壊してしまった。ミレットは死のサソリの開放と同時にある予感を感じ、盗賊の集団の中を、姿勢を低くしてかいくぐった。



 その刹那――ぶんっ!という音共にデススコーピオンの尾がミレット目掛けて襲い掛かる。



「くっ!」



 状況を理解できなかった盗賊の一人を盾にしながら共々身体を壁に衝突したミレットは床に落ちる。



「うぅぅ……」とうめくサソリの尾の一撃で腹が割かれ臓物が飛び出している自分の上に重なっている盗賊の一人を、ミレットは右手でどかして立ち上がる。


 ミレットの左腕は骨が外れたのかだらんとしているが、ミレットの表情は不思議と痛みに耐性があったのか平気な顔をしている。


「予想どおり、私を最初に狙うか……そうよね。自由を奪って尊厳を簒奪さんだつせし憎い相手ですものね」


「な、なんだ。どうしてデススコーピオンがこんなところに……」サーチェスはいつの間にか抜いた円月刀を横一文字に構えた姿勢でうめいていた。その咄嗟とっさの行動が他のものとの運命を分けた。先程のサソリの尾の一撃はミレットとその近くにいた盗賊だけではなくこの場の生きている全ての者を巻き込んでいた。8人もいた盗賊団は団長の彼を除いて全滅してしまっていた。


 村長家族の死体――その近くに、今しがたサソリの尾によって生まれた盗賊たちの死体または半死体は諸行無常を体現する。首を吹き飛ばされた者は沈黙し、腹を割かれた者たちは苦しみながら自ら漏れだ臓物を内に戻そうとするが徒労に終わる。



「くそがっ!!」自分以外の生き残りがいないことを確認したサーチェスの行動は早かった。その巨体を利用して先程ミレットが覗いていた窓をぶち抜いて外に躍り出る!!


 ミレットもまたサーチェスを追いかける。





「……はぁはぁ。あら、よろしかったの。部下をおいて逃げてしまって」ミレットはサーチェスの横に平行しながら走りつつ、息を切らせながらも余裕を感じさせる笑顔でサーチェスに話しかける。


 巨体のサーチェスの足はそれほどはやくはなかった。鍛えすぎた筋肉が彼から瞬発力を奪ってしまったのだ。


「て、てめえ。あの魔物はお前の差し金か?! 何を考えてやがる」サーチェスは怒りで隣を走る少女を手に持つ円月刀で血祭りにあげたいと思いながらも背後に迫っているであろうデススコーピオンのことを思うとそんな動作すら惜しく行動に移せずにいた。


「ただ、私たちの戦い(ゲーム)をデススコーピオンに演出したもらっただけですよっと!」と素人剣術よろしくミレットは腰の短剣を不恰好に引き抜き、サーチェスの首目掛けて下から刺突しとつする。


「くっ」サーチェスは足を止め、後ろに下がることでなんなく回避するが、土煙をあげて轟音ごうおんを待ち散らすデススコーピオンを背後に感じ、迫り来る死の使者と対峙することを決める。このまま振り切ることは不可能と判断したからだ。


「ここは……せめて一時でも共同戦線ということにしねぇか?」と迫り来るデススコーピオンとミレットを警戒しつつサーチェスはそんな提案をする。


「お断りしますわ」と言うミレットの短剣の刺突とデススコーピオンのハサミによる攻撃は同時だった。いや、デススコーピオンはミレットを狙ったのだろうが対角線上にいるサーチェスが邪魔でまるごとその凶悪なハサミでちょんぎろうとしたのだろう。



「ちぃ」とサーチェスは円月刀でサソリによるハサミの一撃をいなす。



 だが――「ぐっ」デススコーピオンの猛攻を防ぐということは素人でもわかる隙を作るということ、ミレットの短刀が浅くだがサーチェスの毛皮の防具の隙間をぬって腹の肉の部分を穿うがつ。ミレットは首はわずかな動作で避けられると思い、腹近くを狙うことにしたのだ。


「て、てめぇ!!」サーチェスは血管が浮き出そうなほどの切れ気味の表情をミレットに向けるが「あらあら余所見をしていいのかしら」というミレットのげんに慌ててデススコーピオンのほうを向き、ハサミによる第二撃を防ぐと同時に先程と同じ部分を再度ミレットの短剣が襲う。


「ごふっ」と血を吐くサーチェス――ミレットの短剣は先程よりも深く刺さり、おそらくは内臓のどこかでも破壊されたのだろう。


「や、やめてくれ……そうだ。依頼主を明かそう。だから――「結構です」……なっ?!」とあっさりとミレットに断られたサーチェスは絶望の表情を浮かべる。


 サーチェスはデススコーピオンのハサミによる三撃目とミレットの短刀の攻撃が自分に迫っている状況でどちらを防ぐべき悩む。デススコーピオンの攻撃を防ごうと次のミレットの攻撃で自分が死ぬのはいままで奪ってきた数多の命から予想がついたことだった。



――悩むサーチェスにデススコーピオンのハサミのよる三撃目が迫る――



「ち、ちくしょう!!」魔物の攻撃を直接身に受ける恐怖に負け、デススコーピオンの攻撃を相棒の円月刀で受けるサーチェス。


 そして――サーチェスの肉に深々と沈む短刀。それが致命傷となりサーチェスは倒れる。




 残るは死を運ぶサソリとミレットのみ。


 サソリは今度こそとハサミをミレットの身体目掛けて突き出す。


「残念だったわね」

 その言葉と共に合魔の指輪は紫色の光を放ち、デススコーピオンを包みこむ。



『キシャアアアア!!』という嘆きの声と共にミレットを害することなく、デススコーピオンはまた指輪の中に仕舞われる。


「いささか自作自演でしたが、上出来でしょう」


 本格的な実戦は初めてだったミレットの心臓は高鳴っていた。一歩間違えば、簡単に命を失う状況だった。もし、サーチェスが最後に相打ちを狙えばそれにあらがうすべはなかっただろうし、デススコーピオンがハサミではなく、身体そのものを使った突撃ならサーチェス共々吹き飛ばされて死んだ可能性もあった。



 だが、ここに今生きているのはミレットのみ。それだけが純然たる事実だった。




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