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第五話 悪役の重み


 私は半泣きのレティが魔物の死体から魔石を抜き取るのを待ってから昼食をとるため、レティと村に向かった。森から少し離れたところには道幅みちはば4mの整地された村へと続く街道があり、10mほどの等間隔で魔石を組み込んだ石碑が左右ワンセットある。この石碑のおかげでよほど高位な魔物や魔族以外はこの道に近づくことができない。もちろん、町や村などの人の営みがある大抵の場所には設置されている。だから魔石の買取は常に需要がある安定した商品に成り得る。


 魔石自体にそういう効果があるのではなく、聖職者の手によって魔石を魔よけの石に加工するのだ。よって、聖職者の魔よけの石への加工はこの世界唯一のセーリア教会の一大資金源になっている。まあ、加工といっても第二次転職で就ける職業の魔法をかけるだけなので結構お手軽ではある。


 この石碑――魔よけの石碑いわゆるセーフティエリアのおかげでゲーム上でもこの道を歩けば魔物とエンカウントしないので重宝したものだ。ぎりぎりまで粘っての回復アイテムを使わないレベル上げとかね。



 半泣き状態から困惑状態にシフトしたレティが魔よけの石碑と私を見比べて、「ミレィはこの中を歩けるなら高位魔族? でも、下半身サソリなんて種族聞いたことないし。う〜ん、悩んでも全ての魔族を知っているわけでないし……」と悩んでいるレティ……頭で思っていることが自然と声に出てしまうタイプのようだ。そういえば、ゲーム上でもそんなイベントあったっけ。本人に聞けばとせんなきことを思ったが……嘘なのでさらに私が嘘をつくだけだった。聞かなかったことにしよう。嘘に嘘を重ねるのは結構大変なのだ。よくいう真実を含んだ嘘の方がばれにくい――なぜなら自然とリアリティが出るそうだ。


(「というわけで沈黙は金ね」


 そうこうしている内に村がみえて……き……た。


「……レティ、そこで指示があるまで動かず立ってなさい。自分の身に危険が迫ったときだけ動いて構わないわ」


「う〜ん……へ?」といきなりのことに面をくらった様子のレティを置いて街道を少し離れて早足はやあしで村に向かい、村の入り口のすぐ近くの木に身を隠す。



(「やっぱりおかしい。昼時なのに村人が一人もいない」


 普通昼時になれば、この村であれば農地での仕事を終えた農夫たちが村に戻っているはずなのに人っ子一人いない。いくら人口数十人だからといってこれはおかしい。


(「これは可能性として一番高いのは盗賊団などが村を占拠したとかだろうか……」


 気になる……、知的好奇心に触発され、私は一番状況がわかるだろう村長の家に上手く茂みに隠れながら向かうことにした。






 村への侵入は意外と上手くいって私が見たものは――木造の村長宅の木の窓の隙間から見える村長家族の死体だった。どの死体も首を切られて死んでいてまだ血は乾いていないようだ。そして、それを囲むように談笑する8人のいかにも盗賊っぽい格好をした男たち。その男の内一人は見覚えがあった。


(「サーチェス……」


 右目に黒い眼帯をして身長は190cmはあろう大男――背中には得物の円月刀を鞘に収めて背負っていている。この人物を菫は知らない。知っているのはミレットの方だ。ミレットを暴行し、陵辱した人さらいの親玉――そっか、まだ生きていたのか。


 不思議と恨む気持ちはなかった。相手は盗賊という生き物……なら、その役を全うしただけに過ぎない。私は――私はなんなのだろう? 勇者に滅ぼされる悪。ただ、滅ぼされるだけの悪――そこに至るまでは積み重ねが必要だろう。そう思った私は、村長宅の木のドアを開け、盗賊たちがいる部屋の中に入った。


「うん? こりゃあいい。何も知らずに来たか。久しぶりだな。ミレット嬢ちゃん」と手を広げて私を歓迎するようにサーチェスが近づいてくる。他の盗賊たちもにやにや笑いながら近づいてくる。


「ええ、お久しぶりですわ。サーチェスさん。今日も盗賊稼業、精が出ますことね」


 サーチェスさんは怪訝そうな顔で「……見ない間に十分肝が据わったみてーだな。まあ、それもどこまで続くか。ここには誰もこないぞ? 拘束だけしようとした村人たちもやけに暴れてしまったんでついつい女も含めて全員殺してしまったからな……嬢ちゃんだけで俺たちを満足させられるかな?」ともはや勝利宣言をしている。まあ、女のやわ足では屈強な男達から逃げられないだろう。その判断は間違っていない。


 私の腕を掴もうとサーチェスの部下の一人が腕を伸ばしてくる。


 それをスローモーションのように感じる。



 これからどう動くか――


 デススコーピオンと合魔化してこの盗賊たちを蹂躙じゅうりんする?




 ――答えは否だ――




 私は後ろに下がり、サーチェスの部下の腕をかわす。虚勢を張って震えて動けないと思ったのか……楽にかわすことができた。



 ただ圧倒的な力を振り回し、なんの修羅場もくぐったことのない悪役など三流にすぎない。


 されど、なんの勝算もないのは馬鹿の所業――デススコーピオンは過剰戦力に過ぎず、私自身の今のスペックではこいつら全員とやりあうには足りない。ならば――



「ふふふ、わたくしをまたむさぼり尽くしてお金を得たいのでしょう」と前回そして今回の事件の黒幕がわかっていることを暗に示す。盗賊の幾人かはそれに反応したがそれはどうでもいい。


 私は前ボタンを三つはずし、胸元がみえるようにし、まるで売女ばいたの様に彼らを挑発する。数年前とは違い、成長した私は彼らに需要があるようで、「ごくり」と生唾を飲む音が聞こえる。



「いささか……労をせずにご褒美にありつこうなんて虫がよすぎますわ」


「はん……安い挑発だ。それで逃げだせるとでも?」


 阿呆あほうが……なら、最初から姿を現したりはしない。


「ゲームをしましょう……生き残れたら私の意志であなたたちのなぐさみ者となりましょう」


「何を?」とさすがに不審に思ったのか外の様子を気にしだすサーチェス。残念……脅威はこれから具現化する。 



「合魔化解除……」と言って唯一の合魔化した魔物を指輪から開放する!!



 第三勢力としてこの盤面に呼んだのは――先程森で地獄絵図を作った死を運ぶサソリ――扉を破壊して満をしての登場だ。


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