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第四話 レベリング

<ガーファイナス公爵家の屋敷・早朝>



「すぅすぅ」


「そろーり、そろーり……えい!!」


「な、なに?! きゃはははは〜〜っ!」


 私のネグリジェの中に誰かの腕が入ってきたかと思うとお腹の辺りをくすぐりはじめた!!


「きゃはっ、きゃは。ちょっとやめなさい!!」と言うとくすぐり攻撃はすぐに止む。


「指が動かない……奴隷って不便〜」私をくすぐった不届き者――レティは私とお揃いのネグリジェを身にまといながら、ベットで寝ている私の上でマウントポジションをとったままぶーたれていた。


「……いい度胸ね。やるからにはやられる覚悟は出来てるのでしょうね?」


「いやー」と言って頭をかきながら逃げようとするレティを「動くな」と言うことでその場に拘束する。


「ず、ずるい〜。きゃああああ!!」



 一刻ほどアホの子の悶絶声が屋敷に響いた。レティを奴隷として買ってからのここ数日はこんなことばかりだ。合魔の指輪用の魔物の確保も済み。というわけで今日はいわゆるレベル上げをレティとするつもりだ。


 











「ねぇ? 本当に二人だけで魔物退治するの? ここの森はこの帝国の中でも危険なんだよー。帰ろうよー」とうるさく頭をいやいやふるレティと公爵の屋敷のある街から数刻離れた『暴食の森』に私たちは来ていた。


 馬車で来たのだが――馬車は安全と思わしき村に待機してもらっている。村から森までは徒歩で半刻ほどの距離である。


「さて」と動きやすい男性用のフォーマルな貴族服に短剣を差した私は合魔の指輪から昨日合魔化したある魔物を選ぶ。



「来なさい。デススコーピオン」と私が言うと指輪が紫色の光を放ち輝く。


「あ、レティ。少し離れてなさい」と今更ながらレティに忠告をする。



「え……きゃああ?!」と私の下半身から何か甲殻のようなものが広がっているのを間の当たりにして慌てて離れるレティ。



――私の下半身を飲み込み、上半身の下からは赤黒い甲殻をまとった3mほどのサソリが生えていた――


 これはゲーム上ではレベル40台だったデススコーピオンだ。


「なななななな、なんなのよ〜!!」と私に指を差しながら大声をあげるレティ――あなたの嫌いな魔物が寄って来るかもしれないけど、いいのかしら?


「実は私……魔族だったのよ」と私の虚言が発生する。うん? これは誤魔化すの面倒だなぁと思ったが――


「だ、だだだ大丈夫。魔族だったとしてもわたしは気にしない。えーと、人間を食べたりしないよね? ね?」と単純なアホの子は不安そうに聞いてくる。


「……敵でなければね」と淡々(たんたん)に答える私。


「ふぇぇ」と涙目になるレティ。


 もしかしたらこの先人間をこの魔物に食べさせないといけないかもしれないのだから。魔物だって生き物だ。意思疎通ができなく無理やり従わせているのだとしても生存権くらいは保障してあげたい。




「さあ、私の身体に乗りなさい。楽しい楽しいレべリングの時間よ」


「いやいや、むりむりむり」と動きやすいショートパンツに半そでといったどこかで運動でもするの? といった感じの服装にリュックを背負ったレティは青ざめた顔で首がもげそうと心配するくらいに振る。腰に巻いてある短剣だけがこれからのことを示唆している。


「問答無用」とサソリのハサミの部分を器用に使ってレティ持ち上げ、「わたしおいしくない〜」と言うレティを私の上半身の近くにのっける。


 下半身となったサソリの部分は特に問題なく動く。慣れ親しんだ腕や足と同じ感覚だ。


「さて、レティのおかげで魔物が集まりつつあるけど、分散しているのは面倒ね」


 デススコーピオン特有の知覚が獲物の存在を感知する。


 熱感知とでもいえばいいのだろうか……5つの群れに分かれている。


「……いいこと思いついた。舌を噛むから口は閉じてなさいよ」と言ったわたしは増えた足を使って疾走する。


 速い


  疾い


   はやい!!


「うきゃああああああ!!」


「きゃははははははは!!」



 サソリの身体を前傾姿勢にしながらハサミで木々を薙ぎ倒しつつ、疾走する。それはまるでジェットコースターの下りがずっと続くような速さだ!!



 しばらくそうやっていると、第一獲物の集団がみつかった――胴体よりも大きな口を持つ暴食犬だ。


 八匹いる犬の魔物は一斉に私に襲い掛かる!!


 私は左右のハサミを三回。


 尻尾を二回素早く動かす。



「「「きゃうーん」」」という鳴き声と共にハサミで腹を割かれ、尻尾で穴を開けられた魔物の群れの完成だ。


 ぽいぽいとサソリの尻尾を使ってサソリの口の中に八匹の瀕死の魔物を詰め込む。所詮はレベル30台の魔物だ。デススコーピオンの敵ではない。レベル10差はこのファンタジー・レクイエムの世界では絶望的な差だ。よほどの装備などを整えるか……自由に動けるのだから戦略もものを言うのかもしれない。



 私の考えはこうだ。


 魔物の集団を強襲→サソリの口に入れて出発地点に運ぶ→また魔物の集団を強襲しに行くのループ作業をするつもりだ。それでまとめて止めを刺す作業をレティとするといった寸法だ。


「さて、いくわよ」と私の下半身になったサソリの甲殻を一撫でしてから次の獲物を狙いにいくのだった。






 計五つの群れを掃討したわたしは出発地点に戻ってきていた。私とレティの前には瀕死の魔物たちがぴくぴくとかろうじて生きている地獄絵図がなされている


「そういえば、レティが静かね……」気になって後ろを振り向くとわたしの腰に抱きついて余分な脂肪を押し付けていたレティは気絶していた。髪も乱れてひどい。いや、これは私もか……と手ぐしで私とレティの髪を申し訳分くらい整える。


「う、う〜ん」とゆっくり目を開けるレティ。


「おはよう、レティ。これからが本番よ」と魔物の50体近い瀕死の魔物に目をやる。


「ゆ、夢じゃなかったんだー」というレティをさそりのハサミで降ろして合魔化を解く。


「かなり弱っているけど油断しないでね」と言って瀕死の魔物にとどめを差す作業をする。


 まあ、料理をするのと一緒だ。大きな魚をさばいた経験があれば――いけるかも。



 ざしゅっ!


  ざしゅっ!


    ざしゅっ!


 と暴食犬、暴食ウサギ、暴食猫のとどめをさしていく。


 レティも覚悟を決めたように息を呑んで私に続く。合魔化を解く前に生体反応は確認したので危険はないだろう。


 さて、作業的に止めを刺しながら、今後のことを考える。魔物の毛皮はそれなりに高く売れるけど剥ぎ取る技術は私たちにはない。なら、心臓部分にある魔石だけでも回収しよう。


「レティ。これが終わったら魔石の回収よろしくね」と魔物にトドメをさすときにはねて血がついた頬をハンカチで拭きながら笑顔でレティにお願いする。


「げっ。ミレィは手伝ってくれないんだ……わかりましたよ。奴隷みたく馬車馬ばしゃうまの如く働きますよーだ」と文句を言いながら作業をはじめる。いや、あなた奴隷だから。この世界の奴隷はこんなのものなのかしら? いえ、このノーテンキ娘だけよね。



 涙目を浮かべながらナイフで魔物の死体の心臓部から魔石を抜く作業をするレティを眺めながら、お腹がすいていることに気づいた。合魔化時の消費カロリーは高いのかもしれない。ダイエットに最適かも……と的はずれなことを考えてしまった。


「……そろそろお昼時ね。一度村で昼食でも取りますか」


 私はそんなことを考えつつ、午後からのレべリングの仕方を思案していた。



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